第656話 神風アタック
いきなり現れた二人の日本人学生に対して、条件反射的にみぞおちを殴って眠らせた。咄嗟の事だったので、力の加減がわからず胸骨が折れたかもしれない。
「いきなりか!」
更に俺に思考をまとめさせる時間を与えることなく、ズズゥゥゥン!という音と共に、村の反対側に煙が上がった。
パラララララララ
パラララララララ
20式5.56mm小銃を掃射する音が聞こえて来る。俺がそちらの方に走り出そうとすると、右斜め前方に突然また二人の学生が現れた。
「くっ!」
そこまでの距離は50メートル。周りに魔人が三人立っているが、咄嗟の事で動けていない。俺はダッシュで異世界人に向かい突撃する。
「そいつらを撃て!」
魔人たちがふりむくが、異世界人の魔法の発動まで間に合いそうになかった。魔人が20式5.56mm小銃を異世界人に向けて撃つのと、異世界人の学生が魔法を発動するのがほぼ同時だった。
パラララララララ
シュバババババッ
至近距離からの掃射を受けて血しぶきをあげながら倒れる異世界人に対し、進化ゴブリンは相撃ちで八つ裂きになってしまった。さらにもう一人の進化ゴブリンが、慌ててもう一人に銃身を向けて撃った。
パラララララララ
ドゴン!
土魔法で地面から突き出された棘のような岩を、魔人は奇跡的に避ける事ができた。しかしそれにより体制を崩した魔人の小銃は異世界人と共に、味方をまきこんで撃ってしまったのだった。異世界人と仲間のダークエルフが同時に倒れる。
「接近戦で小銃はダメだ!SFP9ハンドガンをつかうんだ!」
魔法でバラバラになった進化ゴブリン、腹を撃たれた一人のダークエルフ、銃で倒れた二人の異世界人と、それを見て棒立ちになっている進化ゴブリンがいた。進化ゴブリンは俺に叱り飛ばされビクッと体を委縮させてしまう。
「大丈夫だ!落ち着け。いいか、ハンドガンを使うんだ。そして相手をよく見て狙って撃て」
「は、はい」
俺は急いで腹から血を流して倒れている、ダークエルフにハイポーションを振りかける。パアッと光ってダークエルフの傷が塞がっていく。息を吹き返して、ふらふらになりながら起きあがった。
「大丈夫か?」
「大丈夫です!やれます!」
「いいか、ハンドガンを使うんだ!相手をよく見て撃て!」
「はい!」
そんな処置をしているうちに、村のあちこちで銃声と魔法の炸裂音が増えて来たようだ。
《ルピア!上空から狙えるか?》
《味方にあたってしまいます!》
《わかった。とにかく上空から状況を教えてくれ》
《はい!》
俺は猛ダッシュして、モーリス先生たちの元へと走った。
「まずい、まずいぞ!」
まさか、こんな神風戦術を取ってくるとは思わなかった。俺はすぐさまコルトガバメントを召喚し、目に入った異世界人を撃ち抜きながら駆け抜けていく。
「先生…」
村の角を曲がるとテントがある場所が見えた。二人の異世界人がテントに向かって何かをしようとしているが、テントの中からバリバリバリ!っと電気が走った。先生の風魔法と水魔法を合わせた、雷魔法が炸裂したのだった。二人は煙をあげながら倒れる。
「モーリス先生!」
「どうしたことじゃ!」
ぐちゃ、びちゃっ。俺がテントの側に着くと、既に三人くらいの潰されたバラバラの異世界人の死体があり、その傍らにファントムが立っていた。恐らく一瞬で八つ裂きにされたのだろう。ファントムの手が血で濡れていた。
「大丈夫ですか!」
「あちこちで戦闘音がしたかと思うたら、ファントムが暴れる音が聞こえたのじゃ!それでテントを開けてみれば、異世界の者がおるではないか。思わず雷で焼いてしもうた」
「良いんです!そうしてください!」
「まだ子供じゃのに…」
「仕方がありません!」
どうやらファントムがこっちの異世界人を殺している間に、異世界人が後ろのテントに出現したらしかった。テントの中からカトリーヌとマリアも出て来る。
「カティはルフラを纏っているな?」
「はい」
「モーリス先生!このまま村の外へ逃げましょう!」
「魔人達はどうするのじゃ?」
「モーリス先生が最優先です!!」
「わしなら!」
「却下です!」
「とにかく!落ち着けラウルよ!あ奴らは魔法で攻撃してくるのじゃ、昨日今日魔法を覚えた人間にひけはとらん。わしの結界を破れるものなら破ってみるがよい!しかし魔人達は今も死んでおるのじゃ、急いで指示を出して体制を立て直す必要があるじゃろが!」
モーリス先生にきつめに叱られる。
「わ、分かりました…」
「ラウル様。ここは私もおりますので」
ルフラがカトリーヌの口を借りて言う。
「わかった、ちょっとまってくれ…」
俺は状況を整理して、何をすべきかを考える。とにかく今もあちこちで銃声や魔法の炸裂音が鳴り響いていた。
「先生。どうやらいきなり現れる異世界人に、銃で戦っている魔人達が同士撃ちになっているようなのです」
「作戦も何もあったものじゃないのう」
「はい、恐らくゲーム感覚でやっているのでしょう」
「送られる異世界人もたまったものではないのじゃ…」
「何かが狂っているようです」
「そうじゃな、予測がつかん」
「はい。それの対策の為、ファントムとマリアを連れて行きます。先生とルフラとカトリーヌでこの助けた4人を守っていただけますか?」
「わかったのじゃ」
「ルフラ!先生とカトリーヌを頼んだぞ!」
「お任せください!」
「マリア!来てくれ!」
「はい」
「ファントムも来い!」
そして俺とファントムとマリアが教会方面に向かって走り出した。その間もあちこちで戦闘が行われているようだが、滅茶苦茶な状態になっているのは間違いない。俺は冷静に目に入った異世界人を、コルトガバメントで撃ち抜いて動きを止めていく。ようやく教会の真下に到着し、一旦立ち止まってファントムに指示を出す。
「ファントム!俺とマリアを連れてあのてっぺんに飛べ!」
バシュッ!俺とマリアを抱いたファントムがジャンプすると、一気に教会の鐘のある塔の屋根に到達した。屋根の上から村の様子を見ると、あちこちで煙が上がり銃火器の火花が散っている。市街戦の様相を呈しているが、神風アタックを仕掛けてきているためまともな戦いにはなっていないだろう。
《ルピア!来い!》
《はい》
ルピアが上空から降りて来る。
「敵の位置を把握してマリアに伝えてくれ!」
「かしこまりました」
「魔人が同士討ちになっている。そうなる前に狙撃で敵を行動不能にしろ。マリアは出現してくる異世界人をここから狙撃で始末するんだ」
「はい」
「ヘッドショットだ」
「かしこまりました」
下手に動きだけ止めても、魔法を使用されては魔人が殺される。それでなくても既にかなりの魔人が殺された可能性がある。急いでTAC50スナイパーライフルと専用弾丸を200発召喚して置いた。あたりは既に明るくなってきており、視界も通ってきている。あとはマリアの能力任せだった。
「ファントムはここで二人を守れ!」
「……」
「頼んだ!」
「はい」
「はい」
そして俺は教会の鐘のある塔の屋根から飛び降りた。村の中を回って魔人達に指示を出さなければならない。同士討ちして死んでしまっては意味がない。
走りながらようやくシャーミリアに念話を繋げる事が出来た。とにかく今やらなければならない事を最優先で行うため、シャーミリアに対する連絡が遅れてしまったのだった。
《ミリア!》
《は!》
《襲撃を受けた!至急俺の元へもどれ!》
《は!》
念話で指示を出して、すぐに村の中で戦闘している魔人達を探す。すぐ視界に入るだけでも、2カ所の戦闘しているやつらが見えた。上手く建物に隠れて、20式5.56mm小銃で魔法使いたちに応戦しているようだ。
「くそ!被害が広がってる」
あちこちに魔人と異世界人が転がっている。生きているのか死んでいるのかすらも確認する事が出来ない。無防備にも体をさらして魔法で攻撃してくる異世界人が見えたので、コルトガバメントで両膝を撃ち抜いてやった。
「お前達!」
一番近い魔人に声をかける。
「は!」
「小銃だと味方を巻き込む可能性がある。ひとまず逃げろ!周りの奴らにも応戦しながら逃げるように伝えろ!逃げる間はハンドガンを使うように言うんだ!」
「「わかりました!」」
パン!パン!パン!マリアの狙撃の音が聞こえ始めた。動体スナイプを見事に決めているのだろう。俺が走り抜けている間も、異世界人の中高生たちは頭を撃ち抜かれて死んでいく。俺は次の魔人達の元に飛び込んで、同じことを伝えていくのだった。
《ミリア!はやく来てくれ》
《申し訳ございません。もうすぐ到着します!》
こうなってくるとシャーミリアにすがるしかない。とにかく一人でも多くの魔人と、無駄な異世界人の死を防ぐにはそれしかない。異世界人は魅了されているだけかもしれないのだ。だが見過ごして同胞を殺させるわけにはいかなかった。
俺が走り出そうとした時だった。
ゴオオオオオオオオオオ!上から火の玉が大量に降りて来た。
「撃つ事もできんのかよ!」
ボッボッ!ゴオオオオオ!地面に着弾する火の玉を避けながら、俺が村の中を疾走しているときだった。
ドサッ!
いきなり目の前に異世界人の学生が落ちてきて潰れた。飛び降り自殺でもしたように、脳が飛び出ており全身から血を飛び散らせて死んだ。
「な!」
そして次々、土魔法の岩や風切り音が降り注いできた。何とかそれらの攻撃を避けながら上を見ると…
「わあああああああ」
「うあああああああ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」
人が数人墜ちてきた…ドサッドサッドサァ!地面に激突して少年少女が潰れてしまった。
「これは…どこからか、撃ってきてるんじゃない。上空に転移させて人間ごと落としてきてるんだ…」
モーリス先生が指摘した、潰れた異世界人の死体の原因がいま分かった。敵はまるで人間魚雷のように、少年少女を飛ばして攻撃しているのだ。俺は魔人達に指示を出し続け、叫び続けた。あちこちに血だまりが出来、バラバラになった死体や銃で死んだ死体が増えていく。
ドン!
「ご主人様!」
目の前にクレーターが出来てシャーミリアが中心にいた。
「シャーミリア!やっと来てくれたんだな!」
「申し訳ございません。大事な時にお側から離れてしまって」
「俺の指示だ!当たり前だろ!それより、異世界人がそこら中に降って沸いて来るんだ!俺の…俺の魔人達が殺される前に、相手を行動不能にしてくれ!頼む!」
「殺しますか?」
「なるべく殺さない方法で意識を刈りとれるか?」
「御安い御用でございます!」
バシュッ
シャーミリアは俺の前から消えた。それから少しずつ村のあちこちでなっていた戦闘音が消えていく。どうやらシャーミリアが瞬間的に現れて、異世界の魔法使いたちを止めているのだろう。
《ルピア!マリアに狙撃を止めるように伝えてくれ》
《はい!》
今まで連続的に聞こえていた、TAC50スナイパーライフルの射撃音が消えた。シャーミリアが敵の動きを止めている間に、魔人達が遮蔽物のある場所に隠れていく。これで相撃ちは無いだろう。
「一体どこから…」
俺はそう呟きながら、急いでモーリス先生たちの元へと向かうのだった。先生だけじゃなく、せっかく救出した村人4人を何としても救出する必要がある。彼らすら守れなければ、死んだペルデレに何と申し開きをしたらいいのか分からない。
《ルピアは再び上空から、状況を把握して俺に教えてくれ》
《はい》
そして俺の視界にようやく、先生達がいるテントが入って来たのだった。テントは無傷で、どうやらモーリス先生が結界を張っているようだ。
「ふう」
モーリス先生たちの無事を確認して俺は少し安心した。だがその目の前にいきなり高校生くらいの二人が出現した。二人はこちらに背を向けて、テントに魔法を発動しようとしている。パンッ!パンッ!俺のコルトガバメントに後頭部を撃ち抜かれ、糸が切れた操り人形のようにくずれおちた。
「ラウル!」
「ご無事で!」
「殺したのじゃな」
「すみませんどうにもできず」
「しかたないじゃろ」
村は少しずつ静かになってきた。シャーミリアがあちこちで敵を抑えているのだろう。朝を迎え澄渡る青空があたりを包み込んでいく。澄渡った美しい空とは裏腹に、地獄の情景が俺の心をかきむしるのだった。
攻撃を予測できなかった。不用意にシャーミリアを離してしまった。自分の失態に怒りが湧く。自分を責め始めた俺に気が付いたのか、モーリス先生が俺の肩にそっと手を置いてただ頷くのだった。