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第655話 出会い頭に…

夜空はからりと晴れあがり、月も星も零れ落ちそうなほどに輝いている。どうやら放射冷却で冷え込みが更に厳しくなってきたようだ。ファートリア神聖国内でも南の端と北の端では、こうも気温が違うものかと思う。警護に立つ魔人達の息が白く吐き出された。


未だ各拠点から敵の襲撃情報はない。


《ルピア、何か見えるか?》


一番高い建物の屋根にいる、ルピアに念話で話しかける。


《いえ。動く者はおりません》


《そこ寒く無いか?》


《いえ。私は平気です》


《上は寒そうだからさ》


《ありがとうございます。でも全然大丈夫ですよ!》


《敵の気配がするまで、武器を下ろしてまってていいぞ》


《わかりました》


シャーミリアからの念話連絡もまだなく、スラガからもナタからも特に連絡は無かった。


「もう北にはいないのかね…」


独り言をぼやいたとき、後ろからマリアが歩いて来た。


「ラウル様。救出した村人が目覚めたようです」


「わかったすぐ行く」


俺はマリアについて、村の中に作ったテントに向かった。


「こちらです」


村人を休ませていたテントの入り口をマリアがめくった。中には救出した村人と、モーリス先生とカトリーヌとルフラがいた。ルフラはカトリーヌから離れ、子供二人を包み込むように座っている。その隣には子供を亡くした女が寝ており、その隣に一人の老人が座ってこちらを見ていた。


「これは、お久しぶりです」


「こりゃどうも」


老人は俺を知っているようだが、俺は老人を覚えていなかった。この村を助けた時に大勢の村人の中にいた老人なのだろう。火葬などを手伝った事で俺を覚えているのかもしれない。


「お嬢様は一緒ではないのですか?」


お嬢様とは恐らくシャーミリアの事だ。


「朝には来るでしょう。おじいさんは大丈夫ですか?」


「ええ。助けていただいてありがとうございます」


「何があったか聞いてもいいですか?」


「それがよくわからないのです。畑仕事をしていた時に、いきなり火の玉や氷の塊がおちてきて村人たちがどんどん倒れていったのです」


「不審な人を見ましたか?」


「あちこちで叫び声を聞いて、驚いて逃げたところに石が落ちて来て頭にあたったようです」


「そうでしたか」


老人は瀕死の重傷を負っていたのだが、エリクサーによって助けられたのだった。すっかり回復して話ができるようになっている。


「助けてくださって、本当にありがとうございました」


「この人たちを知っていますか?」


寝ている女と子供達を指さす。


「知っているも何も、村の子達です。あの災害から逃げれたという事でしょうか?」


「あの…すみません。これから説明をしますので落ち着いて聞いてくれますか?」


老人はコクリと頷いた。


「言いにくいのですが…私たちが助けに来た時には、村は壊滅していました」


「か、壊滅!みなは?うちの孫は!」


「残念ですが…」


「そんな…まさか…」


おじいさんはがくがくと震えて、自分の肩を抱くように身をすくめる。


「生き残ったのは、あなたを含めこの4人です」


「なぜ…なぜこのような事に。あれは何の災いなのか…」


「災いではありません。どうやら敵に攻められたようです。その敵は徹底的に村人を殺害していきました」


「そんな!そんな事なら私が死ねばよかったんだ!こんな年老いたじいさんが生き残るくらいなら、若い子らを!孫を生かしてほしかった…」


言葉もない。この老人の気持ちは痛いほどわかる。だが、既に死んだ命を呼び戻す事は出来ない。老人は震え嗚咽を漏らし始めた。


「大丈夫ですか」


カトリーヌがそっと肩に手を添える。


「う、ううううう…」


自分達に何が起きたのかもよくわかっていないようだ。老人から何か情報が取れるかと思ったが、これではどうしようもない。


「アナがいればよかったんだが」


アナミスがいれば速やかに眠らせて、安心するような夢を見せる事も出来た。だが俺達にはどうする事も出来なかった。


「うう…あなた方は…なぜここに?」


「その敵を追ってきました。ですが既にもぬけの殻で、どこに行ったのか推測もついていません」


「…そうなんですか…」


「お辛い所すみませんが、何か変わった事はありませんでしたか?」


「変わった事?」


「火の玉や氷の玉が落ちて来る前に」


「…あ!」


「なんでしょう」


「そう言えば、しばらく前に出て行った村人達が帰って来たんですよ。彼らは物資を求めてファートリア国内を旅してたはずなんです」


「それが戻って来たと?」


「ええ…ですが、物資も何も持たずに帰ってきました。どうやら何も見つけられなかったようなのです」


「それで?」


「それだけです。あとはこの有様です」


「わかりました」


どうやら敵はファートリアの村人と合流し、ここに連れて来させたらしかった。どこから集まった異世界人なのかは分からないが、村人に道案内をさせたらしい。


「おじいさん。お辛いでしょうけど、気を確かに」


カトリーヌが言う。


「う、ううううう」


また嗚咽を漏らし泣いてしまうが仕方のない事だ、自分の村の村人が全て殺されたなんて受け入れられるわけがない。


「お休みください。カティとマリアとルフラは彼らの世話を」


「「はい」」


「私が見ているから、カトリーヌとマリアはそばで休んでいて」


ルフラが二人に言う。


「交代でしましょう」


「私は眠らないわ」


「カトリーヌ様。ルフラの言う通りです、私たちはいざという時のために体を休めましょう」


「わかったわ」


「じゃあ俺と先生は隣のテントに」


「ふむ」


生存者の世話を3人に任せて、俺とモーリス先生が隣のテントに移った。


「村の者に誘導させたのじゃな」


「そのようですね」


「敵の正体は何じゃと思う?」


「わかりません。デモンでも異世界人でもあり得ます。もしくは両方と言う事も」


「そうじゃな。転移魔法使いか、もしくはラウル達が遭遇した空間系能力のデモンか…いずれにせよ、村人の証言だけではわからぬな」


「はい。せめて誘導してきた村人が生きていれば、分かると思うのですが」


「死んだのか、どうなのかすら分からんからのう」


「はい」


誘導した村人は既に死んでしまったのかもしれないし、消えた敵と一緒に行動しているのかもしれない。利用価値があれば生かしておくだろうが、この村に来ることが目的だったとしたら既に処分されている可能性もある。


「マコ嬢の力を覚えておるかな」


モーリス先生が言う。


「ええ。村人を騎士にしてしまう、精神誘導系の力を使っていました」


「同じ異世界人じゃ、あんな魔法を使う者が他にもおるとは考えられんかのう」


「…ありえますね。人を操りたい、と思っているやつらは異世界の少年少女にはいそうです」


「イジメられたり虐げられているうちに、相手を思うままに支配したいなどと思う輩はいそうじゃな」


「はい。もしくはその逆で、イジメてた側がイジメる側を支配したいと思う事もあるでしょう」


「うむ。もしくはデモンの魅了かもじゃな」


「確かにその可能性もありますね。それならば、あのような残虐な事をさせる事もあるでしょう」


「まあ可能性の話じゃがの」


「そうですね…」


でも、先生の可能性の話はいつも凄く当たる。というか膨大な情報量から叩きだしているので、確立が高まるのかもしれない。


「そしてのう、その推測にもう一つ付け加えようと思うのじゃ」


「何をですか?」


「まず転移魔法じゃが、今まで行った事のある場所や目視できる範囲に転移できると思うのじゃな。それは、だいぶ答えに近いと思うのじゃ」


「私もそうじゃないかと思いました」


「それにもう一つの可能性じゃ」


「それは?」


「指定した場所に誘導する者がおれば、その場所に行ける可能性じゃ」


「術者本人が知らなくてもですか?」


「うむ。誰かに聞いた場所か、もしくは他人の意識を読み取るなどじゃな」


「なるほどです。それならここに現れた事も頷けます」


「うむ」


そうだとしたら、かなり転移できる範囲が広がってしまう。異世界人だけならこの世界で転移する場所は限られる。だがこの国の地理を知っている者がいれば、そいつが行った場所には転移できる可能性がある。


「仮説が正しければ、かなり危険な状態にあると思います」


「そうじゃな、もしこの国以外に行った事のある者がおれば、包囲網を抜けてよその国へ行ってしまうやもしれん」


「まずいですね」


「しかしじゃ、農民で国を出たことのある者などはおらんじゃろう。そこに冒険者や騎士がおれば話は別じゃ」


「ここにいた騎士たちは殺されていました」


「状況からして、恐らく接触はしておらんじゃろう」


「相手はまだそれに気が付いていない?」


「そう考えるのが妥当じゃじゃろうて」


もし相手が魅了のような力を使うなら、ルタンから連れて来た魂核を書き換えた兵に問題はない。俺とアナミスの魂核の書き換えは、デモンのそれを凌駕するからだ。だが生粋の冒険者などに接触されたら、国外に逃亡されてしまう可能性があるだろう。


「国外逃亡だけは阻止しないと大変な事になります」


「じゃな、あくまでも推測じゃが危険性はあるじゃろう」


「はい」


先生の言うとおりだったとしたら、他の国や拠点に転移されてしまう。他の国に転移されたらもっと多くの人が死ぬ。


「どうやって見つけるべきか、ここで手をこまねいているのは得策ではないような気がします」


「もっと広範囲に調査隊を出した方が有効じゃろうが、危険じゃぞ。お主の魔人がまた死んでしまうやもしれん」


「危険性はありますが、私はそいつらにグラドラムに行かれたくないのです」


「お主らしい答えじゃな、まあわしも同じ思いじゃが。とにかく慌てても仕方がないのじゃ、冷静に考える必要があるじゃろ」


「どうしたらよいでしょう」


「シャーミリア嬢からの連絡はどうじゃ?」


「まだです」


「他の拠点からの念話はどうじゃ?」


「来ていません」


「……ラウルよ」


モーリス先生が神妙な顔をする。


「はい」


「もう一度、現場に戻ってくる可能性があるのじゃなかろうか?」


確かに。犯人は現場に戻ると、前世の推理ものではよく聞いた気がする。もしかしたらこちらでもその法則に当てはまるのだろうか?自分たちのやった結果を見に来る可能性は十分にある。


「監視を徹底させます!」


「ふむ」


俺はすぐにルピアに念話を繋ぐ。


《ルピア》


《はい》


《上空に飛んで監視してくれ》


《わかりました》


すぐにテントを出て、モーリス先生と隣のテントに顔を出した。


「ルフラ!ここの全員を守れ」


「わかりました」


「先生もここで皆をお願いします」


「わかったのじゃ」


「ファントムもここでテントを守っていろ!」


「……」


俺は村で警備をしている魔人達を確認する。全員が銃を携帯して、すぐに対応できるような状態になっているようだ。いつの間にか陽が上がって来ているようで、空が薄く青みがかってきていた。俺は村の魔人に警戒を促すため、周りにいた20人ぐらいを呼び寄せた。


「未だ敵の情報はつかめていない!まもなく夜が空ける!そのタイミングで再び襲撃してくる可能性は否定できない!警戒を緩めないように!」


「「「「「「は!」」」」」」


魔人達が俺に返事をして周囲に散らばっていく。今の所その危険性は無さそうな気もするが、全魔人に通達しておく必要がありそうだ。俺が他の魔人に通達しようと、後ろを向いて走り出そうとした時だった…


「えっ?」

「はっ?」


「なっ…」


目の前に、一人の中学生風の少年とセーラー服姿の少女がいきなり現れた。あまりのいきなりの事に二人は固まってしまったようだ。俺は瞬間的に二人のみぞおちに向けて、拳をのめり込ませた。


モーリス先生の予想が…的中しそうだな。


目の前に倒れる二人の学生を見てひとり呟いた。

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