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第654話 何のために…

魔人達が村の中心に遺体を運んで並べていく。村のあちこちに岩が転がり建物も斬り裂かれているようだ。建物の火は恐らく火魔法による損害だろう。俺は他の拠点に異世界人たちが行く事を警戒して、ナタやスラガとも念話で通話しているが、未だ襲撃はないようだ。


「魔人も死んだか…」


「そうじゃな、村を守っておったのじゃろうな」


基地からは定期的に村を守るため魔人が来ていたらしいが、その魔人もやられてしまっていた。


「仕事をしたんですね」


「ラウルの言いつけを守れんで、さぞ無念じゃったろう」


「彼らはよくやってくれました」


「ふむ」


俺達が見る先には、一次進化したオーガやオークやゴブリンの死体があった。


「彼らは村の護衛をしていたのでしょう。基地から魔人達が送り出した者たちのようです」


「魔人達をもってしても守れなんだか…」


「そうですね」


「生き残った者は、4人しかおらんかったのじゃな」


「そうですね。生きている者は…さっき助けた母親と、どこかの家の瓶の中に隠れていた子供二人、一人の老人は村の外の草むらに瀕死の状態でいたそうです」


「ずいぶんと徹底的にやりおったな」


先生の言うとおりだ。恨みでもないと、こんなに徹底する理由が分からない。


「恨みでもあるのでしょうか?」


「どうじゃろうな、まるでデモンにでも操られておるようじゃ」


「確かに、その可能性はあるかと思います」


「ルタンでラウル達が、接触したデモンかの?」


「そうかもしれませんし、もしくは全く別なやつかもしれません」


「いずれにせよ、少年少女だけの仕業ではなさそうに思うのじゃ」


「ですよね…とにかく突き止めなければなりません」


これほど徹底的に殺害したとなると、生き残りを探し回ってとどめを刺したのだろう。無抵抗の村人に対し、これほど残虐な事をしたのが日本人の学生だとは思えない。そもそも相手は、モンスターに見える魔人でもなく盗賊でもない普通の村人だ。日本から来た少年少女が、いきなり人間を殺しまくる事はあり得ないと思えた。


「ご主人様。この者で最後です」


「ご苦労様」


シャーミリアが運んできた男の遺体で全部らしい。百人以上の死体が並べられる。


「どうするのです?」


「ああ、カティ。この人たちの無念を晴らすために、俺達は犯人を見つけてどうにかしなくちゃならない」


「それはもちろんですが、この者たちは埋葬するのでしょうか?」


どうやら死体の処理方法を聞いていたらしかった。


「すまんがカティ人間の倫理感じゃ考えられないかもしれないが、ファントムに吸収させて俺の動力にする」


「…そうなのですね」


「村人の遺体は殆ど力にはならないが、それでも俺の力として宿そうと思ってるんだ」


俺は村長の奥さんだったペルデレの死体をみながらつぶやく。


「その事に意味はあるのですか?」


「そこに寝てるペルデレさんは、貧しくても俺に最大限の食事を振舞ってくれた。その恩はとにかく大きいんだ。俺がその恩を一つも返す事なく殺されてしまった。こんなことをしたやつらには、それ相応の償いをさせようと思っている。そしてペルデレさん達にはそれを見届ける権利があると思う」


「一緒に連れて行くということでしょうか」


「そういう事だ。ペルデレさん達は俺と共に行く」


「わかりました」


カトリーヌも渋々了解してくれた。


「ふむ。というかそこに並ぶ者たちは何じゃろうな?」


モーリス先生が指さす先に、学生服を着た遺体が数体転がっていた。詰襟の学生服を着た中学生くらいの少年とセーラー服の少女だった。


「異世界人ですね」


「異世界人がなぜ死んでおるのじゃろ」


「魔人にやられたのでしょうか?」


「こんな全体的につぶれた遺体など?攻撃の方法は何じゃ?」


「…わかりません」


異世界人の遺体は三体あった。そいつらは体を叩きつけられたように潰れており、魔人の攻撃ではこうはならないだろう。何か大型のダンプにでもひかれたような遺体だ。異世界人たちが、何故ぺしゃんこになっているのかが気がかりだった。


「魔法かデモンの力ではありませんか?」


マリアが言う。


「そうかもしれない。もしくは巨人にでも踏まれたのか?だがスプリガンは数が少ない、俺はスラガ、ニスラ、マズルしか知らないしな」


「ご主人様。スプリガンは他に数えるくらいしかおりません、もとより個体数が少ないのです」


「なるほど。だとすれば、あとは龍かな…」


「恐れながら申し上げますが、どこにも足跡は無いようです」


「なるほどね。とにかく何かに潰されたのだけは確かだと思うんだがな」


「巨大な岩も見当たらんのじゃ」


「はい」


全部の遺体が集まったので俺はファントムを呼んだ。


「ルピア!モーリス先生たちを向こうへ」


「はい」


ルピアに連れられて、モーリス先生たちは魔人と助かった村人達が待っている方へと歩いて行った。


「ファントム死体を吸収しろ」


「……」


ファントムは黙って遺体を吸収し始める。やはり村人はそれほどエネルギーにはならないようだった。魔人を吸い込んだ時には強く、異世界人はさらに強いエネルギーが入ってくる。


「なぜ異世界人はこんな死に方をしたんだろうな」


「……」


もちろんファントムが答える事は無い。ただ淡々と遺体を吸収し続けていた。


「ペルデレさん。無念だったよな…アデルフィアとジョーイは、リュート王国で立派に生きているよ。ペルデレさん達の無念は必ず晴らすからさ、あの時ごちそうしてくれた料理のお返しが、できなくなっちゃってごめんね」


俺はペルデレさんの肩に触れて最後の言葉をかける。そしてペルデレさんはファントムに吸収されていくのだった。ファントムが全部の遺体を吸収し終える。


「行くか」


「……」


俺がみんなの所へ歩き始めると、ファントムも黙ってついて来た。


「おまたせしました」


「終わったかの?」


「はい」


「それでどうするかのう?」


「魔力の都合上、夜じゅうに立て続けに襲撃はしないと思うのです。ですが念のためスラガたちと、ナタたちには警戒するように通達します」


「西に行く事は考えられんかの」


「それであれば問題ありません。各拠点は武器の補給をすませており、前線基地にはスプリガンのニスラが、西部線には竜人のドラグの隊がおります」


「敵が現れた場合は?」


「もちろん先制攻撃を許可します」


「わかったのじゃ」


《ニスラ、ドラグ!》


今の話をすぐに、ニスラとドラグに伝える為に念話を繋ぐ。


《《は!》》


《正体不明の敵が村を襲撃し壊滅させた。万が一そちらに向かった場合は先制攻撃を許可する。敵が攻撃の意志を示したら徹底的にやれ》


《《は!》》


《捕獲などの必要はない。そこから西への侵攻を徹底的に防ぐんだ》


《《は!》》


《警戒しろ!》


《かしこまりました。東部に偵察をだします。また引き続き光柱の監視を続けます》

《こちらも》


《頼む》


ニスラとドラグが自分らの判断で戦線を維持してくれるだろう。


《ナタ》


《はい》


《敵が東の基地にも現れる可能性がある》


《はい》


《敵は魔人に手を出した。大量の村人も死んだ、そちらに出現したら徹底的にやっていい。エミルには空対地攻撃を許可する。カーライルにも叩き斬っていいと伝えてくれ》


《伝えます》


これで西と東から抜けられる事は無い。ファートリア聖都に現れれれば大量の魔人と兵器の的になり、魂核をいじったとはいえ数千の魔導師も待ち構えている。南に抜けたとしても二カルス大森林に入らねばならない、二カルス基地にはミノスとティラが精鋭部隊を率いて待ち構えている。さらに先に抜けようと思っても、ドランとラーズが魔人と共に中継地点で立ちふさがるはずだ。


「相手がどうあがいても、ファートリアから抜け出る事は出来ないでしょう。どこに現れても必ず仕留めます」


「ふむ。足止めをしているあいだに、わしらが駆けつける事もできるじゃろうからのう」


「はい」


「袋のネズミ…か」


「ただ一つ懸念があります」


「なんじゃ?」


「ファートリア内にわずかに生き残った村人達が、餌食になる可能性があります。さすがに魔人の数が足りません」


「どうする事もできんじゃろ。目的もはっきりしておらんのじゃ、予測もつかん」


「はい。ひとまずこの周辺域をシャーミリアに探索してもらいます」


「わかったのじゃ」


そう俺が言うと、すぐに隣にシャーミリアが立つ。


「ではご主人様、行ってまいります」


「ああ、気をつけてな。発見したら殲滅しても良い」


「かしこまりました」


ドシュッ!M240中機関銃をかかえたシャーミリアが消えた。俺達はひとまずこの村で待機しつつ、敵が現れるのをじっと待つしかないだろう。


《シャーミリアが何かを見つけてくれればいいのだが…》


「みんな!薪を集めて来てくれ!村の建物を壊しても良いぞ」


俺は人間達のために暖を取る事にした。


「すまんのう」


「いえ。当然のことです」


北の山の麓は寒く、夜も更けて冷えて来た。モーリス先生とマリア、生き残った人たちのためにも暖を取らなければならない。村の中心で大きめの焚火を作るのだった。


「テントを張れ」


俺がテントを二つ召喚し魔人に命じる。あっというまに大型のテントが建てられる。


「生き残った4人をテントに、そしてモーリス先生とカティとマリアはもう一つのテントに」


「ふむ」

「ありがとうございます」

「私は…」


「マリアも、とにかく休んでくれ」


「かしこまりました」


そして三人が同じテントに入って行く。


「魔人達は村の内部と周辺を警護して、敵の襲撃を警戒!」


「「「「「は!」」」」」


「ファントムは、先生達のテントを守れ」


「……」


「ルピアは教会の塔に昇って周囲を警戒」


「はい」


ルピアはバサッ!と羽を広げて、夜の空に舞い教会の方に飛んで行った。


「敵がここに現れてくれればいいのだがな…。探す手間が省ける」


「……」


もちろんファントムは答えない。


「じゃ、俺も周辺の探索に向かう」


そして俺はテントを離れて、村の外へと出るのだった。村の外でも戦闘があったようで、あちこちの草むらにクレーターが出来ている。


「月はこんなに綺麗なのにな」


俺の周りには魔人達が周囲を警戒しつつ歩き回っている。だが俺の問いに自分が聞かれたのか分からず、誰も答えなかった。もちろん俺は誰に言ったわけでもなかった。


俺はこれから、この世界の人間を守るために前世の人間を殺さなくてはならないかもしれない。どちらの記憶も持つ俺としては複雑な心境だった。恐らくそれはエミルとて同じことだろう。


何を信じるべきなのか?


一国の王子としての立場なのか、俺個人の判断でやるべきなのか、前世の記憶からすれば中高生を殺す事には大きな抵抗がある。だがやらねばならない。


まあ決まっているけどね。


俺は俺の守らなきゃいけない仲間達の為だけに戦うのだ。この世界や前世など関係ない、モーリス先生やカトリーヌ、マリア、シャーミリアやギレザムや魔人達。そしてイオナ母さん達を守るために戦う。


それだけだ。

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