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第651話 光柱発動の対応

難しい顔をしているサイナス枢機卿を前に、俺達も仕方なく難しい顔をしていた。サイナス枢機卿がこんな顔をしているのは、アトム神の件だ。俺達がアトム神を連れて帰らなかったからこんな顔をしているのだ。


「アトム神様がか…」


「そうなんです…」


「本当にアトム神様が?」


サイナス枢機卿だけじゃなく、聖女リシェルも疑問に思っているようだ。


「私と先生はそう結論付けました、ですが本当の所はどうでしょう」


「確かに。ケイシー神父やキリヤさん達を守るためにやったのでしょう。アトム神様は自分の身を挺して助けてくださったのでしょうね」


聖女リシェルが言った。


いやリシェルそれは違うと思う。アトム神がただ自分を守ろうとして、たまたま皆を巻き込んでしまったパターンだと思う。


「ええ。やはり、さすがだと言わざるを得ませんね」

「そうじゃのう、あっぱれというほかなかろうな」


俺とモーリス先生が口車を合わせる。


「確かに自己犠牲はアトム神様の唱えるところじゃが、アトム神様自らが?そういう事はあるだろうか」


「有言実行という事じゃないですかね」


知らんけど。


「日々アトム神様を見ていると、そういう行動をするものかと疑問に思うのじゃよ」


「なんじゃサイナス。アトム神様は自らの自由を無くしてでも、皆を救おうとしたのじゃ。それでええじゃろ!」


「なんじゃ!それでええとは!」


「そんな事言われてもじゃな、そもそもあの状態から解き放つ方法が分かっておらん。しかたないじゃろうよ」


「…まあそうじゃな。それはじじいの言う通りじゃ」


「ならしばらくは、そっとしておくしかあるまい」


「じゃが…」


「枢機卿。モーリス指令のおっしゃる通りではないでしょうか?解決策が見つからないとなれば、待つしかないかもしれません」


リシェルが枢機卿を説得するように言ってくれた。


「リシェルが言うなら仕方ないかのう…」


「そう思います。聖女リシェルのおっしゃるとおりです」


俺がダメ押しをする。


俺達は全員会議室に集まって、地下の巨大魔石をどうするか話し合っていた。俺達はアトム神が自ら望んだことなのだから、放っておくしかないだろうという意見を出す。それに対し枢機卿がアトム神を優先的に救出すべきではないかという。そんな意見の対立があったのだった。


「そん…」


やべ!いま、「そんな事より」とか言うところだった。だって本当にそんな事だから。それよりもいまは光柱の対策と、西から向かっている異世界人と思われる集団の話を早急にしなければならない。


「そん?どうしたのじゃ?」


サイナス枢機卿が敏感に反応した。


「そ…れでは次の議題に移ってもよろしいでしょうか?」


「…うむ。しかたなかろう」


「では」


まずファートリア国内中にある光柱が、一気に発動してしまう可能性がある事を話した。


「最初は西の端にある光柱からでした」


「なるほど。そんな辺境から始まったのか?」


「はい枢機卿。ファートリアに巣食っていたデモンが送って来た調査兵が、死んで出来た光柱からです」


「比較的、初期の頃に出来た物じゃな」


「そういう事です」


「他の光柱は全部掌握しておるのか?」


「いえ。ここから西の都市と、野にある光柱、そしてリュート王国に繋がる北線の光柱は未確認です。恐らくかなりの数が発動しているかもしれません。こちらに異世界人が向かっているという情報も入っています」


「なるほどのう、そしてこの聖都かな」


「はい」


「…かなり深刻じゃな…」


でしょ!アトム神が巨大魔石に包まれた事なんて、二の次でしょ!先にそれを片付けないと、あなたの国は大変な事になっちゃうんですよ!まあそんな失礼な言い方はしないけど。


「はい枢機卿、幸いにも全ては発動していないようです」


「その発動条件はわかっとるのか?」


「いえ」


「そうじゃサイナス。わしもいろいろと知識をかき集めて考えてみたが、それに似た事例も無く情報がない」


「まったく!おぬしは何の役に立っておるの言うのじゃ!」


「馬鹿を言え。このような事例の、すべてを掌握しておる者がおるとすれば…それは全知全能の神じゃろ!」


神?

神?

神?


俺とモーリス先生とサイナス枢機卿の頭の中に浮かんだ神。そして三人の視線はエミルに向く。


「え?私ですか?もちろんわかりませんよ」


「だよなあ」

「じゃろうな」

「うむ」


「え?なんですか?私が分かってないといけない的な話ですか?」


「いやエミルちがうよ。もしかしたら精霊神の記憶の片鱗とか、都合のいいものが呼び起こされたりしないかなって…思っただけ」


「やめろって、俺が悪いみたいじゃないか」


「エミルが悪いとは言ってないって」


「てか、お前も魔神の予備軍だろ。何か無いのかよ」


「ない」


「無いんかい!」


「あるわけないだろ」


俺達はなんとなく、堂々巡りになりそうな会話を切り上げて考え始める。とにかく発動条件を見つけるよりも、重要な事がありそうだからだ。


「やはり、発動するのを前提に考えないといけないですね」


俺が言う。


「そうじゃな」

「じゃろうな」

「だな」


「聖都内だけなら何とか管理できるんじゃないですかね?」


「どうするのじゃろう?」


「はい枢機卿。やはり見張るしかないかと」


「見張る?」


「光柱を一本一本見張るんです」


「復興作業をやめてかの?」


「もちろんです。そもそもそんな不安定な状況で復興作業は続けられません」


「まあそうじゃのう」


「光柱の見張りは、ファートリア出身の騎士と魔法使いが良いと思うのです」


「彼らか…」


「はい」


だって、俺の魔人を失ったりしたら嫌だし、彼らは魂核を書き換えしているから、文句も言わず見張っててくれるだろうし。


「あのラウル様」


「はい聖女リシェル」


「見張るのは良いとして、食事や生活に必要なものはどうしましょう」


「当然、全て私の基地でやります」


「全てをお願いしてしまって良いのですか?」


「聖女リシェル。今はそんなことを言ってられません。そして光柱は交代制で昼夜見張る必要があります。異世界人が現れたらすぐに保護をし、優しく扱わねば事故が起きるでしょう」


「事故が…」


こちらに呼ばれて来た少年少女は、驚いて魔法をぶっ放して来たらしい。幸いにも被害にあった者はいなかったが、集まった少年少女が話し合った結果の行動だったのだ。一人ならばすぐに行動に移る事は無いだろうし、出現した直後が大事だ。


「サイナスよ。彼らは向こうの世界では普通の学生じゃった。恐らくデモンが面白半分でやったことに巻き込まれたのじゃ」


「そうじゃな…それは本当に悲しい事じゃ…」


本当に悲しそうだ。サイナス枢機卿が慈悲深い聖職者の顔をのぞかせる。


「だから無下に罪人として処分するなどもってのほかなのじゃ」


「もちろんそうじゃが、モーリスはどう考えておる?」


「導くよりほかなかろうて」


「導く…か。そうじゃな、それしかないじゃろう」


「そこでどうするか?という事じゃ」


「あの…」


今まで黙っていたカーライルが口を開いた。


「なんじゃカール」


「枢機卿。彼らと接して分かった事が御座います」


「分かった事?」


「彼らにはこころざしがないようです」


こころざしじゃと?」


「何のために生きるのか、誰のために生きるのか、人のために何ができるかなどの志しが無いように思えるのですよ」


「それは何と可哀想なことでしょう」


聖女リシェルが嘆くように言う。


「ふむ。それは彼ら全員じゃろうか?」


「はい枢機卿、私が見る限りでは全員がそうだったように思います」


「ハイラと一緒に来た、キリヤ、ハルト、マコ、カナデはある程度心が定まっておるようにみえたのがのう」


それは…俺とアナミスがガッツリ魂核を変えたからだよ!以前の彼らにこそ志しなんかない。今彼らに志しのようなものが見えるのは、彼らが最終的に俺に絶対服従するようになっているからだ。鉄則のある武装ゲリラの構成員みたいなものだ。すべては俺の為に、という最終的な目標があるのだ。


「それは…彼らが大人だからじゃないでしょうか!」


俺が言う。


「大人…まあ確かに大人に見えるが」


「はい。このたび向こうから渡って来た子らは、あちらの世界では成人していない年なんです。こちらは15歳で成人ですが、20歳が成人の歳ですから」


「なるほどの。そんな年頃まで庇護のもとに生きておるという事か?」


「はい」


「で、どうするかじゃ。サイナスよ」


「うむ」


彼らは向こうの世界では、まだやりたいことも見つかっていない、イジメたりイジメられたりという心に影を持った子らだ。その子らにどうやって目標を持たせればいいのだろうか?


「私奴のような者が口を挟むことをお許し下さい」


「ん?いいよいいよ!シャーミリア!どんどん言ってくれよ!」


「は!それでは」


「うん」


「彼らがあの忌まわしき光柱に勝手に引かれたのではなく、このファートリア神聖国の要請で、あえて召喚されたことにすればよろしいのではないかと愚考します」


「故意にという事か?ミリア」


「はい。故意にでございますご主人様」


「それで?」


「何かの目的のために、わざわざ彼らを呼んだことにすれば良いのではないでしょうか?自分たちで見つけられないのであれば、こちらから与えるという事でいかがでしょう」


・・・・・・・・


全員がシーンとする。


「申し訳ございません。私奴の意見などで場を止めてしまいました」


空気を察してシャーミリアが謝った。


「ふむ、良さそうじゃな…」


モーリス先生が言う。


「ミリアそれいいよ。理想的な解だな!凄いぞ!」


ペタン!俺が言うと、シャーミリアがスルスルとしゃがみ込んでしまった。


「は、はあはあ。ご主人様…そのような事は…はあはあ」


「だ、大丈夫ですか!」


聖女リシェルが心配そうにシャーミリアに駆け寄る。


「具合が悪くなってしまったのかの!」


サイナス枢機卿が心配そうにかがみこんだ。


「シャーミリア!仕方ない!お前のその不思議な回答を参考に、話し合いをしてやろうじゃないか!」


「は!」


シャーミリアがシャキッと立ち上がってキリリとした表情を浮かべる。言い方を気をつけなきゃいけない。


「え?」

「なん?」


枢機卿と聖女がビックリしている。


「ああ、大丈夫です。シャーミリアは時おり体に変調をきたす事があるんです。でも大丈夫なんです」


「わかりました」

「確か、わしら聖職者の回復魔法は彼女には毒じゃったしな」


「とにかくです!さっきの意見を加味して考えると、こちらから何かの目的を与えると良いと思います」


「じゃが目的と言うても」

「ですよね」


サイナス枢機卿と聖女リシェルが困った顔をする。


「いいですか?」


エミルが言う。


「うむ」

「はい」


「ファートリア神聖国が彼らを召喚したことにいたしますよね?そして彼らに目的を与える。そうすれば彼らもむやみに暴れる事はないでしょう。全員が向かえる目的を設定してしまえばいいんです」


「なるほどのう。目的を与える…か、してどんな?」


「サイナスよ。簡単な事じゃ、アヴドゥル大神官がやった事と同じことをするのじゃよ」


「騙してか?」


「騙してなぞおらんわい。召喚は偶然じゃが、少年少女に目的を持たさねば死んだりするのじゃぞ」


「それはかわいそうじゃ」

「ですね」


「ならばサイナスもリシェルも、少しは柔軟に考えた方がええのじゃ」


「なんじゃと?」


サイナス枢機卿がむっとする。


「まあまあ。枢機卿、ちょっといいですか?目的はたったいま私が考えました」


俺が話に割って入る。こんなところでまた言い争いをされたら話が進まない。


「どんな目的じゃな」


「デモンや大神官アヴドゥルという、魔王と戦う戦士を異世界から召喚した事にするのです」


「魔王?ぬしと義理の母親の事ではないか?」


「向こうの世界では魔王と言えば、悪者と決まっているのですよ。それを退治するためにファートリア神聖国の偉い人たちが呼び寄せた。そういう事にするのです」


「ふむ。わしらが呼んだことにし、悪者と戦わせると言い聞かせた後はどうするかの?」


「サイナス。彼らに魔法の訓練をさせるのじゃ、もちろん勉強もな」


「なるほど…」


「そうすれば魔力の暴発なども抑えられるじゃろうし、少年少女たちの命も助ける事が出来るのじゃ」


「そうかそうか!実際に戦わせる事は無いということじゃな!」


「そういう事じゃ。そんな危険な真似はさせられぬのじゃ」


「そういう事なら賛成じゃ」


「そうですね。枢機卿、それならば人が傷つかなくて済みそうです」


聖女リシェルも納得してくれたようだった。その対策はファートリア聖都の光柱から出現した人だけに限るが、嘘も方便というかたちで目的を持たせ暴発を防ぐ。これが一番いい形だと思う。


「ファートリア神聖国は元より、魔導士たちの国ですから導ける人も多いと思います」


「たしかにのう、あの奇妙に勤勉すぎる騎士や魔導士たちならいいかもしれんのう」


ヤベエ…やっぱ勤勉すぎるんだ。というかアンドロイドのように、文句も言わずに働き続けているんだろうな。魂核の書き換えというのは、いろいろと課題がありそうだ。もちろん生産性は良いだろうが、今後の課題にする必要がある。


「光柱についての方向性はそれで行きましょう」


「わかったのじゃ」

「ふむ」

「わかりました」


モーリス先生、枢機卿、聖女リシェルが答えた。それから俺達は光柱から出て来た異世界人に対しての、対応の詳細を話し合うのだった。


「それでこちらに来ている謎の集団というのは?」


「ええ…それがまた厄介そうなんです」


ナタからの念話により伝えられた、おそらくは異世界人の集団についての対策を考えるのだった。

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