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第649話 二つの巨大魔石

俺達は最初に接触した異世界人3人と共に、都市の中央に向かって地下道を進み、地下礼拝堂の入り口に到着した。


《正体不明の魔法使いたちが、こちらに向かって進んでいるというナタからの情報は聞いたな?》


《《は!》》


《早急にこれを片付ける必要がありそうだ》


《かしこまりました》

《自分らも突入しますか?》


《そうだなスラガは突入して最下層に向かえ。シャーミリア達は、礼拝堂跡地付近にて待機し俺達と同時に突入だ》


《《は!》》


《こちらに被害が出ていない以上は殺すなよ》


《心得ております》

《はい》


異世界人3人から聞いたところ、この先の地下礼拝堂に仲間が何人かいるらしかった。扉の前で全員が配置につくのを待つ。異世界の3人と中の人間は意志疎通が出来ていないため、勘違いされて攻撃されても困る。


「先生、魔法攻撃をされるかもしれません」


「すでに結界は張っておる」


「わかりました。カーライル!そっちの3人を連れて来てくれ!」


最後尾からカーライルが3人の少年少女を連れて来た。


「この中にいる人たちとの面識はあるのかい?」


「この地に来てからの知り合いです」

「僕もです」

「俺もです」


「魔法の危険性については知っているのかな?」


「知らないと思います」


「人数はどのくらい?」


「分かれる前はここに五人いました」


「なんで皆が一緒にいないんだ?」


「なんか話が合わなくて」

「生意気そうな子がいたのでちょっと…」

「あいつらはきっと中学生ですよ」


見知らぬ土地で何があるかも分からないのに、話が合わないってだけで離れ離れになるのか。バラバラにやられたらどうするつもりなんだろう?


「その君らは何歳なんだ?」


「15です」

「15です」

「16です」


高校生だ。


「という事は君たちより、年下の人らがここにいる感じかな?」


「そうです」


ということはこの三人。ラウルとしての、俺の実際の年齢より上って事になるな。精神年齢的には息子や娘くらいになるかもしれないけど。


「扉の向こうの魔力が、一人こちらに近づいてくるようじゃ」


「人ですか?」


「間違いないのう」


「君らは一旦離れていろ。カーライル!ルフラ!三人をたのむぞ」


「承りました」

「はい」


「では先生」


「うむ」


《シャーミリア!5秒後に突入しろ》


《かしこまりました》


「5、4、3、2、1」


俺が扉を開けて中に突入すると、目の前に一人の少年が驚いた顔で立っていた。どうやら物音を聞きつけて見に来たらしかった。


パシィィ


先生が魔法の杖から魔力を放出し、少年が意識を失ったので俺がそっと抱きとめた。さらに部屋の中央ではシャーミリアとマキーナ、アナミス、ルピアが4人の少年少女を眠らせていた。


「よし!」


シャーミリア達が俺達の所に気を失った4人を連れて来る。


「ふむ。やはり制服を着ている者が多いようじゃな」


「学校から転移して来た者が多いのかもしれません」


「そりゃ難儀じゃな。普通に暮らしとってこんなところに呼ばれたのなら、気持ちがおかしくなるのも分かるのじゃ」


「彼らを何とかしてあげなくてはなりません」


「そうじゃな」


「でも向こうの世界に出口が作れなければ無理なんですよね?」


「まあそうとも限らんかもしれん。向こうに入り口が無いのにこちらに来たという事は、出口や入り口が無くても転移は可能じゃという事じゃ。盗賊の集落を襲った転移魔法使いを見たら、より一層そう思えるようになったのじゃ」


「あの時、転移魔法使いを捕らえれば良かったですね」


「あの時はどう考えても無理じゃろ。シャーミリア嬢がどうなっておったか分からん」


「まあ正直シャーミリアを失うくらいなら、異世界人を帰す謎なんか解決する気はないです」


あ。


「ああ…ハァハァ…ふぅ」


シャーミリアが桃色吐息を吐いて、ペタンと座り込みR18の顔をしている。これはまずい。


「とにかくだ!ミリアは俺の大切な戦力だからな!居てもらわねば困るという事だ」


「は!ありがとうございます!」


シャーミリアがシャキッと立って、モーリス先生やアナミス達をチラリと見る。すると4人は何も見てませんよ!といった感じで目をそらした。彼らなりにシャーミリアに気を使っているらしい。


「さてと、こいつらをどうするかですね」


「魔法を使われたら厄介かと思われます」


シャーミリアが言った。


「だな。まあ仕方ないか…アナ!向こうで助けて来た3人も一緒にまとめて眠らせよう」


「分かりました」


「カーライル!3人を連れて来てくれ!」


カーライルとマリアとカトリーヌに連れられて、3人がやってきた。


「あの!彼らはどうなったんです?」


少女が心配そうに聞いてくる。


「気を失っているだけだよ」


「よかった」


話が合わない相手でも心配はしているようだ。まあ俺達としては、分断して離れていてくれたおかげで怪我をさせずに済んだ。


「じゃあ君たちもここに座って」


とりあえず3人を、眠っているやつらの側に座らせた。


「あとはどこにいるのかな?」


「座敷童の子と偉そうな奴が地下に逃げたので、それを追っかけて行きました」


「えっと、他に四人ぐらい日本人来なかった?」


「来ました。その後に現れて、ここにいた子と一緒に地下に向かいました」


「わかった」


どうやらキリヤたちは少年らと戦ったりしていないようだが、何故に上がってこないのだろう?アトム神とケイシーを助けに来たのじゃなかろうか?彼らは魂核を書き換えているので、俺に絶対に逆らうわけはないのだが…。何か理由があるのかもしれない。


「アナ」


「はい」


「頼む」


「はい」


アナミスから赤紫のモヤがあらわれて、少年少女たちを包み込んだ。あっという間に気を失ってみんなが床に横たわった。こうなってしまうとアナミスが起こさなければずっと眠り続ける。


「これで危険はないな。こいつらはここに置いて行くとしよう、マキーナとルピアとカーライルがここで見張っててくれるかい?」


「え、この者とでしょうか?」

「私もですか?」


マキーナとルピアがカーライルを見て嫌な顔をする。どうやら気のせいでは無い、俺のイケメンアレルギーがどんどん感染している。これはヤバイぞ…


「マキーナ!ご主人様が見張れと言ったのよ」


シャーミリアが叱る。


「申し訳ございません」


「ルピア、俺からも頼むよ」


「わかりました」


「じゃあカーライル、彼女らと一緒に見張っていてくれ」


「ええ。お役に立てて光栄です。ではマキーナさんルピアさんお願いします」


「はい…」

「はーい」


カーライルがとても爽やかな顔でニッコリ笑った。


良かった…カーライルが鈍感なやつで、俺ならメンタルがズタズタにやられて、しばらく身動きが取れなくなりそうだ。なんかカーライル一人が可哀想になって来たのでもう一人残す事にする。


「マリア。念のためマリアもここに残ってくれ」


「わかりました」


「何かあったら念話を繋ぐ」


「「は!」」


マリアは魔人のように失礼なふるまいはしない。そもそもが、俺のイケメンアレルギーなど人間には感染しない。マキーナやルピアも俺がイケメンに苦手意識が無ければ、こんなことにはならないのだ。


「ここからはシャーミリアとアナミスが一緒に来てくれ」


俺が気持ちを切り替えて二人に言う。


「かしこまりました」

「はい」


俺とモーリス先生、シャーミリア、アナミス、ファントム、カトリーヌが更に深部に潜る事になった。ここにマキーナ達を置いておけば、地上で光柱が発動し新たな異世界人が現れても対応できるだろう。


「行くぞ」


そして俺達は最深部に向かって進んでいくのだった。ハイラたちを助けて以来の潜入となる。


「先生。ここまでの状況を考えれば、この人員で対応ができそうですね」


「そのようじゃな」


「恐らく地上で光柱が発動したとしても、エミル達のヘリを見つけた日本人は、ヘリに救援を要請すると思うんですよ」


「なんじゃ?あちらの世界ではそういう決まりでもあるのかのう?」


「うーん。少年少女に限って言えば、知らない世界に飛ばされて、空にヘリが飛んでいれば自然に救いを求めるかもしれません」


「なるほどのう」


さらに地下に潜る道中にも、モーリス先生が魔力を感知する事は一度も無かった。


「全然人に会いませんね」


「油断しとるのじゃろうか?」


「まあ前世の学生なんてそんなものですよ」


「ずいぶん、危機感のない国なのかの?」


「まあ、全くと言っていいほど…」


「良く生きていられるものじゃな」


「危険が少ないのです」


「そういう文化という事か」


「というのとも違う気はしますが、まあそんなところです」


「ふむ」


結局何事もなく最深部に到達した俺達は、驚愕の事実を目にすることになった。深部の吹き抜け状になっている石畳の部屋には、またあの巨大な魔石が浮いていたのだった…なんと二つも。しかもハイラを包んでいた石より大きな感じがする。


「ラウル様!」


魔石の下からスラガとマカとクレが近づいて来た。先に到達して調査していたらしい。


「なにこれ?」


「わかりません。気がついたら二つに増えていました」


マカが言う。


「なんで?」


「見当もつきません」


「ふむ。アトム神やケイシーはおろか、キリヤたちや異世界人もおらんようじゃが」


「先生…もしかして…」


「うむラウルよ。恐らくはその、もしかしてじゃ」


「うっそ。これってどうやって解除するんでしょうね?」


「わからんのじゃ」


俺達は巨大な浮かぶ魔石を見上げて、どうすべきか考え込む。恐らくは全員がこの魔石の中に閉じ込められているのだろう。


「おーい!ケイシー!」


シーン…


魔石に話しかければ解除されるかと思ったが、うんともすんとも言わない。なぜこんな状況になっているのか、おおよその検討はつく。異世界の魔法使いたちに追われたと思ったアトム神が、現れた異世界人とキリヤたちともども、魔石に閉じ込めて固まってしまったのだろう。


カツーン


ああ…やはり。


「先生」


「うむ。どうやら魔石粒がうまれてしまったようじゃの」


「あれは封印しなければだめです」


「じゃな。絶対に人に飲ませてはならん」


「今度はどんな奴が呼ばれるかわかりませんから」


「まったくじゃ」


「とにかくアトム神たちは魔石から出てきませんね…」


「恐らくそれも条件があると思うのじゃ」


「うわっ面倒。それをまた解読しなければならないのですか!自分で出て来いちゅーの!って思います」


「じゃろうなあ…」


俺と先生はうんざりしていた。アトム神が勝手に暴走して、異世界人ともども魔石に閉じこもってしまった。


「あの…」


「なんじゃ?」


「放っておいていいんじゃないですかね?」


「このままかの?」


「このまま」


「…まあ、そうじゃな。何か問題があるとも思えん」


「じゃあ上に上がりましょう」


「そうしようかの」


アトム神にはここでじっとしてもらうのが一番だし、キリヤやマコたちも都市の運営や魔人軍に対して何ら意味をなしていない。彼らの犠牲だけで、厄介な異世界の少年少女たちを閉じ込めておけるなら安いもんだ。まあ可哀想なのはケイシー神父だが、あいつもきっと役に立てて喜んでいる事だと思う。


カツーン


なんかもう一個の巨大魔石から、魔石粒が落ちて来た。まるでケイシー神父が泣いているかのように。


俺達は二つの巨大魔石をそのままにして、地上への道を戻る事にしたのだった。

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