第645話 穴掘りが得意な俺
二カルス大森林に面した南の中央付近にある村に到着した。襲われている形跡もなく人々は復興作業をつづけていた。
「先生。武器庫を作らないといけないです」
「そのようじゃな」
村の建物には堅牢なものは見当たらず、俺の武器を置いて行くにしても管理する格納場所を作る必要があった。
「大型の魔人はスラガだけか…」
「自分だけでも作れますが」
「設計とかどうするんだ」
「それは…ドワーフがいないとですね」
このパーティーにはドワーフがいない。設計図が無いと堅牢な建物は作れそうにもなかった。
「いるのはオーガとオーク、ゴブリン達か」
「いやラウル。この村に一つだけそんな建物があったら、逆に狙われるんじゃないか?」
「…確かに、ファートリア西部ラインの収容所も、礼一郎に狙われたからな。もし異世界人が現れたら、そこから先に攻撃されるかも」
どうするか…転移してくる異世界人たちが必ず破壊行動をしてくるとも限らないが、避難場所を準備する必要もありそうだ。あんなゲーム感覚でバンバン殺されちゃたまらないし…何か方法はないか…村にはいまにも崩れそうな建物もある。一生懸命直しているようだが、盗賊の集落を襲ったような異世界人が来ればひとたまりもない。
「ラウルよ。思い出すがよい、ユークリットの秘密の書庫を」
モーリス先生が言う。
「あっ…あの地下のですね!」
「急いで建造物を建てるのは難しかろうが、地面を掘るのであれば魔人達でなんとかなるじゃろ?」
「そのとおりです」
先生の言うとおりだった。むしろ人間を地下に避難させたたほうが守りやすいだろう。
「よ!」
俺はスッと手をかざし、陸自仕様のつるはしとシャベルと斧を大量に召喚する。
「みんな集まってくれ!」
俺の周りには直属の魔人と、もとよりいたオークとオーガとゴブリンが集まった。
「この村の真ん中あたりに地下壕を掘るぞ!全員でやればあっという間に終わるはずだ」
「「「「「「「は!」」」」」」」
「ミリアはファントムと代わってくれ」
「かしこまりました」
シャーミリアがファントムから、寝ている礼一郎を受け取って抱いた。礼一郎もファントムに抱かれているより心地いいんじゃないかと思う。魔力の暴発なんてされたら、地下壕を掘っているどころじゃない。シャーミリアを張り付けておくのが一番安全だろう。ただあまり食べ物を食べていないのが気になる。
「ファントムは土砂を運べ」
「……」
ファントムはズンズンと村の中央に向かって歩き去って行った。
「あの、ラウル様!我々もお手伝いさせていただきたく思います!」
ビクトールが言う。盗賊たちもうんうんと首を振っていた。
「いや、人間には無理な作業をやるからな。もし出来る事ならこの村の人たちの助けになるような事をしてほしい」
「わかりました。それでは村人に聞き仕事をもらう事にしましょう」
「そうしてくれると助かる」
「じゃあみんな行くぞ!」
盗賊たちは村人達が作業をしている方に向かって散っていった。もちろん俺が目を光らせているので悪さはしないと思う。したら殺すけど。
「私もカトリーヌから離れて手伝いましょうか?」
カトリーヌの口でルフラが言う。カトリーヌの口で言っていても口調でルフラだと分かる。
「いや、カトリーヌと一緒に居てくれ」
「大丈夫ですか?」
「もう、いつどこから異世界人が来るか分からない状態だ。ルフラはカトリーヌを守る事に専念してほしい。あと何もしないと思うが盗賊たちも見張っていて欲しいしな」
「わかりました」
カトリーヌが盗賊たちの方を見て言う。
「じゃ、俺も行って来る」
俺が言うとシャーミリアがハッとする。
「ご主人様が御自らでございましょうか?」
「そうだ」
「お言葉ですが、魔人達に任せておけば良いかと」
「いや、ミリア。俺は意外に土堀が得意なんだよ」
「しかし…」
いや本当に。前に虹蛇から散散ぱら岩塩堀をやらされた経験があるから、穴掘りはめっちゃくちゃ得意なんだ。嘘じゃないんだ。
「とにかく急ぎたい。とにかくミリアは礼一郎を頼む」
「か、かしこまりました」
「シャーミリア嬢よ、主が自らやる姿勢を見せるのも大事じゃて」
「はい」
モーリス先生が言うが、シャーミリアは納得していないようだ。だがそれをスルーして作業場所に向かおうとする。
「ラウル。俺にも手伝わせてくれ」
「いいよ」
スコップを召喚してエミルに渡してやる。
「あの、私も」
マリアが言う。
「マリアとハイラとケイナはだめ。機械も使わずやったら腰やっちゃう」
「わかりました。では私たちはここで待ちます」
「よろしく頼む」
そして俺とエミルがスコップをもって村の中央に行くと、魔人達が地面に丸を書いて入り口を決めている所だった。
「ラウル様、自ら穴掘りでしょうか?」
「スラガ。俺は穴掘りが上手いんだよ」
「そうなのですか?」
「そうなんだよ」
「わかりました」
俺がどこから掘っていくか、どのように掘ったらいいのかを指示していく。魔人達はそれに従いながら土を掘りおこし、俺とエミルも一緒に掘り進んでいくのだった。
「よーし、ファントム。ネコ(一輪車)でどんどん土砂を運んでどけてくれ」
「……」
自衛隊仕様の一輪車に土砂を山盛りにして、ファントムが土砂を運んでいく。ファントムを穴掘り隊に含めないのは、力加減の問題で下手に崩されたりしても困るからだ。
「さーてと、みんなガンガンやるぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
俺とエミルとスラガが、オーガやオーク達に混ざって穴掘りに精を出す。ゴブリンたちが一カ所に土をあつめて、マキーナとアナミスとルピアが飛んでせっせと地上へと押し出していった。
それにしてもスラガのパワーは凄い、見た目は日本の少年のように見えるが恐ろしいほどの力だ。固い地盤にぶち当たってもパンチで岩を砕いてしまうので発破の必要もなかった。オーガやオークがそれに負けないように頑張り、あっという間に地下に30メートルほど掘り進んだ。
「よし、今度は皆で横に掘り進めるんだ」
「「「「「は!」」」」」
魔人達は俺の指示に従って横へ掘り進んでいく。5メートルほど横穴を掘り進んで俺は再び指示を出した。光があまり入り込まず真っ暗に近かったが、魔人達には全く問題がない。
「ここで広げて部屋にして行こう」
「「「「「は!」」」」」
周りに広げるように土を掘っていく。俺達が掘った土砂は、ゴブリンたちがせっせと運び出し縦穴からマキーナ達が運び出してくれた。
「光の精霊よ、この暗闇を照らしなさい」
エミルが言うと低級の光の精霊が現れて、あたりに光をもたらした。皆が顔を泥だらけにしながらも一生懸命、壁を掘り進んでいるのが見える。しばらく掘り進むと40メートル四方ほどの広さになった。
《ファントム太い木を切り倒してもってこい》
《……》
《マキーナ、アナミス、ルピア!砂利をどんどん放り込んでくれ》
《かしこまりました》
《《はい》》
縦穴の上から砂利がどんどん放り込まれてくる。
《よーし止めてくれ》
《《《はい》》》
「じゃああの部屋に砂利を運んで敷き詰めよう」
全員で砂利を運び40メートル四方の部屋に敷き詰めていく。
《よーし、マキーナ、アナミス、ルピア!また頼む》
同じ作業を数回行うと、地下の部屋には大小さまざまの砂利が敷き詰められた。
「スラガ。これを全部同大きさに砕いて欲しい」
「はい」
スラガが両手で大小さまざまの砂利を持ち上げて、押しつぶすように両の手で砕いた。まるで万力のような力だ。
「凄いだろ」
「見た目は少年なのにな」
「ファントムみたいな力あるんだよ」
「スプリガンってのは凄いんだな」
「ルゼミア王軍の中でも上位にいるような種族だからね」
「なるほどねえ…」
スラガはどう見ても黒目黒髪の日本の少年だ。服を脱げはその筋肉はもの凄いが、服を着ている分にはあまり目立たなかった。
「みんな!スラガが潰した砂利を綺麗に敷いて行ってくれ」
「「「「「は!」」」」」
オークとオーガ、ゴブリンたちが砂利をキレイに敷き始めた。一通り砂利を敷き終わったので、俺は次の工程に入る。
《よーし、じゃあファントム!2メートルくらいに木を切りわけて、穴に放り込むんだ》
ズッズーン、ズーン、ズズーンという音と共に穴から木が投げ込まれてきた。丁度この部屋の高さくらいに切り揃えられている。
《十分だ》
《……》
「よし!これを支柱にする。5カ所に分けて柱を立ててくれ」
「「「「「は!」」」」」
魔人達がその怪力で地下に柱を立てた。
「よ!」
俺は数台の自衛隊仕様のプレートコンパクターを召喚する。工事現場でガガガガっと整地していく機械だ。エンジン式でワイヤーを引くと始動し地面を綺麗にならしていくのだった。
《ファントム。40センチくらいのでかめの石を大量に集めて来い》
《……》
ある程度整地が終わったのを見計らって、ファントムに指示を出した。
《岩を投げ入れろ》
ドン!ドサ!ドサドサ!ファントムがどこからか持ってきた、大きな石をどんどん投げ入れて来る。
《よし!止めろ!》
「みんな岩を運んで壁際に積み上げていけ」
「「「「「は!」」」」」
「岩の形を見ながら、隙間を開けずに積み上げていくのがコツだぞ」
「「「「「は!」」」」」
再びファントムが次々に投げ入れる岩を、地下の部屋の壁に積み上げていく。ある程度周りの壁が埋まったところでスラガを呼ぶ。
「スラガ。岩を思いっきり壁に、めり込ませていってくれ」
「はい」
スラガが、積み上げられている岩の所に行き壁にグッと押し込む。ズン!ズン!ズン!ズン!と、どんどん壁に岩がのめり込み、あっという間に簡易の壁が作られていく。
「エミル、この光の精霊はどうなる?」
「数年はここにいると思うよ」
「ならこのまま灯り続けるのか?」
「そうだね。力は弱いから数年で消えると思うけど」
「それでも、ありがたい」
「ラウル様、終わりました」
スラガが言う。周りを見るとしっかりとした壁が出来上がっていた。これなら崩れてくる事もないだろう。
「よし完成だ。プレートコンパクターをもって地上に出ろ」
「「「「「は!」」」」」
「さてと、召喚すっかね」
俺は出来上がったばかりの地下壕に、村の魔人達の分の銃火器を召喚して並べて行った。拳銃類と機関銃、手榴弾、ロケットランチャーの順番で召喚していく。あとは魔人達の安全を考えて、防弾チョッキとヘルメットを置いて行こうと思う。
「よし」
「おつかれ」
「俺達も出ようかね」
「そうだな」
俺とエミルが地上に出ると、既に辺りは夕陽がさしていた。やはり大型魔人が少ないと時間がかかるようで、気がつけば半日を費やしていたらしい。
「お疲れ様ですラウル様」
「カティ、特に問題はなかった?」
「ございませんでした」
カトリーヌが自分のハンカチを出して、俺の顔に着いた泥を拭きながら言う。
「よし!みんな俺のもとに集まれ!シャーミリアとマキーナとファントムは離れててくれよ」
「「かしこまりました」」
「……」
シャーミリア達が離れ、魔人達が集まるとカトリーヌがみんなにヒールをかけてくれた。
「ふう」
「ありがたい」
「自分達にまでありがとうございます」
スラガが畏まっている。
「一緒に働いた仲間ですから当然ですわ」
カトリーヌがニッコリ笑う。魔人達はそれだけで癒されているようだった。
「それじゃあみんな、この入り口の穴に小屋を建てるんだ。小屋の中で番をすれば目立つことは無いからな」
「「「「は!」」」」
そして魔人達は小屋を作るための木を運んできた。夕方になりファートリア聖都から来た人間達も、村の中に集まってきている。ビクトールと盗賊たちも顔を泥だらけにして戻って来た。
「ビクトールたちは何をしてたんだ?」
「畑仕事ですよ」
「慣れないだろ?」
「まあそれはそうですが…」
「どうした?」
「ここにいるのはファートリアの騎士や魔導士ではないですか?」
ギクッ。どうやら気づきやがった。
「そうか?知っている人でもいたか?」
「いえ。直接知っているというわけではないのですが、顔を見たことのあるやつが畑仕事をしていました。あれは…騎士か…魔導士だったような‥‥」
「実はそうなんだ」
「あ!やはりそうでしたか!デモンとやらのバケモノがいて、どこかに連れ去られたと思っていたのです!生きていたんだ…」
実は彼らは、そのデモンや悪い人間とやらに精神支配されて俺達と戦ったんだけどね。
「ファートリア神聖国の国内が大変なことになっただろ。だから騎士だの魔導士だの言っていられなくなっているんだよ。ビクトールたちもきっと分かると思う」
「やはり国は壊滅的な打撃を受けたのですね」
「そういう事だ」
半分は本当の話だけど。俺とアナミスで魂核を書き換えた事実は伏せておくが、言ったって分かりっこないし、変な恨みでも買ったら大変だ。言わなくてもいい事は黙っておくことにしようっと。
「というわけで、ここでの仕事はもう終わりだ」
「わかりました。おい!みんな聞いたか!」
ビクトールに言われ、盗賊たちがうんうんと首を振っている。今の所、俺達に敵対する意志はないようなので彼らの魂核をいじる事はしない。デモンの干渉も受けていない敵でもない者をわざわざやる必要がないだろう。
「そのまま東の村へと飛ぶが問題はあるか?」
「ございません」
ビクトールが返事をした。
「ラウル様」
するとビクトールの後ろにいた、オーガの魔人に声をかけられる。
「お話し中に申し訳ございません!食事の用意が出来ておりますがいかがなさいましょう?」
「ならいただいて行こう。気を使わせて悪いね」
「ありがとうございます!」
オーガの魔人がめっちゃ喜んでいた。俺を接待できることが嬉しいのか、アナミスやルピアがいるから嬉しいのか分からないが、そんなことはどうでもいい。とりあえず普通の飯にありつけるだけでもありがたいのだから。
土木作業をやった後の飯って美味いんだよなあ…