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第641話 悪因悪果

マキーナから念話で連絡が入り、襲撃者の引き渡しが滞りなく終わった事を伝えられる。話し合いの結果、盗賊にはこちらを攻撃する意志は無いらしい。それを聞き俺達は崖を迂回して、集落に向かうことにする。数十分かけて降りて行くと、木や肉の焼けたような臭いに血の臭いが混ざってきた。


「死体がゴロゴロだ」


「そのようじゃな」


「集落から出て、逃げおおせたと思ったのでしょうね」


「森も広範囲に焼けてしまったようじゃしな」


そこらには、まだ火魔法によって燃えた木々がくすぶっていた。既に集落の入り口には見張りなどはおらず、魔法で落とされた巨大な岩がそびえたっている。その凄惨な光景に慣れないハイラと礼一郎が、真っ青な顔をしていた。


「岩、デカいですね」


「相当の魔力量が無いと操れんのじゃ。まあ、こんな巨大なものを使わんでも人は殺せるんじゃがな。無駄に魔力を消費するだけじゃ」


「ハイラさんと一緒に来たキリヤも、一気にこんな質量は扱えてませんでした」


「そうじゃな」


そのまま岩を避けて集落の中に入って行くと、更に酷い惨状が目の前に広がる。原型をとどめている遺体など、ほとんど無いようだった。


「お、おえええ」


たまらず礼一郎が吐いてしまい、それを見たハイラも嘔吐いている。こんなものに慣れたくはないが、俺達一行は眉をしかめるだけだった。


「カティ」


「わかりました!ヒーリング!」


礼一郎とハイラに回復魔法がかけられ光に包まれた。すると気分が落ち着いたのか礼一郎は吐くのを止めて口元を拭い、ハイラも回復したようだ。カトリーヌがハイラのもとに行き背中をさすってあげている。


「辛いのなら、集落の外で待っているか?」


「いえ、私は行きます」

「お、俺も…」


「わかった」


びちゃびちゃと血だまりの中を歩いていくと、中央付近でマキーナ達と盗賊達が話し合いをしているのが見えた。


「まあ…仕方ないか…」


マキーナ達と盗賊達の間には、日本の学生服を着た人間が二人寝ていた。手足はぐちゃぐちゃに曲がっており、どちらも首が胴体と離れ離れになっている。散々いたぶられた後で首を刎ねられてしまったのだろう。まああんなことをしてしまっては、仕方ないとしか言いようがない。悪因悪果というやつだ。


「ラウル様。お手数をおかけいたします」


そう言ってマキーナとアナミスとルピアが振り向き、左右に分かれ俺に頭を下げた。わかれた先に騎士崩れが立っている。髭も髪の毛も生やし放題でぼさぼさだった。もちろんこんな状況で手入れする事もなかったのだろう。


「お前たちは?」


騎士崩れがモーリス先生を見て言う。この中で一番の年長者に見えるので、俺達の一団の長だとでも思ったのだろう。


「ふぉ、わしは責任者ではないのじゃが」


「では誰が?」


「俺だ」


俺が前に出て騎士の目を見る。


「少年?ずいぶん若いようだが子供が…」


あっ!俺が止めるまもなく、シャーミリアが中機関銃を持っていない方の左腕一本で、騎士崩れの首を掴んで釣り上げた。


「うぐぐぐ」


騎士崩れは真っ赤な顔で、シャーミリアの腕を振り払おうとするがびくともしない。巨大重機に吊り上げられたようなものだから仕方ない。


「ご主人様にそのような口のききかたをするな。虫けら」


だんだんと騎士の顔が赤紫になっていく様をみて、周りの盗賊たちが動揺している。どう考えても騎士の重量を女の細腕一本で支えているのはおかしい。


「ミリア。放してやれ」


「は!」


ドサッ。騎士崩れが地面に落ちて激しくせき込んだ。騎士崩れの首を折らなかっただけ成長したってもんだ。


「すまないな。俺の配下はあまりぶしつけな態度は好まない」


「わ、分かった、はぁはぁ」


「盗賊がこんなところに集落を作って何をしているんだ、かなりの人数がいるようだが」


「このあたりを荒らしまわっていた複数の盗賊団をまとめた。殺しや強奪が横行していたので、何とかやめさせるためだ」


「なぜあんたがそんなことをしている?」


「冒険者ギルドが崩壊して、腕っぷしの強い奴がいなくなったんだ。盗賊にはそれなりに力のある者がいるから、冒険者の真似事をして、近隣の村に食料を届けさせていたんだ」


「そうか。ならなぜ堂々と平地に集落を作らない?」


「それは逃げて来たからだ。俺はおめおめと逃げて来たんだよ」


「どこから逃げた?」


「聖都だ」


「あれを見たか?」


「ああ、バケモノの事だろ。骸骨の猿や魔獣を使役する奴がわんさかいた」


「そうか」


《こやつ嘘は言っておりません》


《デモンの干渉は?》


《ございません》


《わかった》


シャーミリアが読み取る。俺が聞いた話の内容にも、確かにおかしなところはなかった。


「あんたは騎士か?」


「私は聖騎士だった」


「ファートリア神聖国のか?」


「そうだ」


なるほど。聖都がああなってしまう前に、命からがら逃げだして国内をさまよっていたのだろう。もしかしたら他にも村や都市へ逃げずに、山林などに隠れているやつがいるのかもしれない。せっかく地獄から逃げ出してきて、正義の為に盗賊をまとめているやつを殺さなくてよかった。


「俺はラウル・フォレストという者だ」


「申し遅れた、私はエフォドス・ビクトールという者だ」


「何と呼べば?」


「ビクトールとでも。私はなんと?」


「貴様。虫けらの分際でご主人様の名を口にするつもりか?」


シャーミリアがびりびりと殺気を放って言う。


「い、いや!そんなことはございません!」


ただならぬ殺気を感じ取ったのか、めっちゃビビりたおしている。


「まてミリア。そんなに詰めるな」


「は!」


「周りの対応を見るところによりますと、あなたは貴族様ではございませんか?」


あからさまに態度が変わった。


「そうだ」


「爵位などをお伺いしても?」


「こちらの御方は、とある国の皇太子である。先ほどから無礼が過ぎるのでは?身分をわきまえよ!」


今度、怒ったのはカトリーヌだった。やっぱ盗賊に対してとっても嫌悪感があるらしい。髪も髭もぼさぼさだけど、どうやら盗賊じゃないらしいんだが。


「も、申し訳ございませぬ。では殿下とお呼びいたします」


「ミリアもカティもちょっと落ち着け」


「は、はい」

「出過ぎた真似をお許しください」


「殿下は呼ばれ慣れてないから、ラウルで良いけどな」


「で、では僭越ながら、ラウル様でよろしいでしょうか?」


「まあそれで」


シャーミリアとカトリーヌは納得していないようだが、他の名前で呼ばれてもピンとこないので、ラウルで良い事にしよう。


「それで、どうしてこのような場所に?」


「そこに転がっている、襲撃者を追ってきたんだ。俺の配下達も殺されたからな」


俺が言うと、ビクトールと盗賊たちがざわつく。


「この者たちは一体何者ですか?」


「魔法使いだ」


「魔法使い!あのような強大な力を使い続ける事が出来るのですか!しかもこのような少年が?」


「そうだ。凄い魔力の持ち主だった」


「ファートリア聖都の宮廷魔導士にもそのようなものはおりません。あのような大規模魔法は、時間をかけて魔力を練り上げるものです。さらにあのように連発で発動させるなどありえません。かの有名なユークリットの大魔導士でもない限り考えられないかと」


「えっ?わしでも、あんな大魔法をポンポン連発する事などできんわい」


「えっ…」


ビクトールが目を白黒させて、モーリス先生を見る。盗賊たちには、なにがなんだか分からないようだった。あまり世間の事を知らないのだろう。


「この人が大賢者だよ」


「なんと!も、申し訳ございません!大変失礼な真似を」


「気にせんよ。とにかくわしがあのような大魔法を撃ち続けたら、あっという間に空っぽじゃわい」


「それではどこの魔導士だというのでしょう?」


「それは説明が難しいんだが、遠い国からやって来たというのが正しいかな」


「そんな国があるのですか?」


「そうだ」


にわかに信じがたいといった顔でポカンとしている。


「私は物の怪の類なのかと思いました」


無理もない。あんな少年二人が滅茶苦茶に虐殺してくるなんて誰も思わない。


「最初うちの配下を疑っただろ?」


「い、いえ!ま、まあ…最初は疑いましたが、私達を救ってくださいました。そこに転がっている者達からも無関係だと裏がとれておりますので、もちろん疑っておりません」


「わかった。この中に俺の配下に手を出そうなどと思った不届き者はいるかな?」


俺が後ろに控えている盗賊たちを睨んで言う。皆がフルフルと首を振っていた。


「申し訳ございません。ここの者どもは、かなり禁欲的な生活を強いられておりまして…」


「まあ、娼館のある町とかも無くなってしまったからな。仕方ないと言えば仕方ないだろうが」


戦争前は金で女を買ったりできたと思うのだが、今の状況ではそれは難しい。この騎士がいなければ、男たちは女を襲ってでも自分の欲を満たすだろう。


「それはさておき、ラウル様はあの化物たちのことを知っているのですか?」


「聖都に出たやつか?」


「はい。逃げる途中の都市にもおりました」


「知っている。あれはこの世の物では無い、あれこそが物の怪だ。そしてこの魔法使いたちが暴れる結果になったのも、あの化物達のせいなんだ」


「そんな事が…」


「まあ立ち話はとりあえず終わらせよう。それよりも死にそうなやつがいるんじゃないか?」


「もう手遅れの者が大勢おります」


「一か所に集めてくれ」


「えっ、もう助かりませんが。とどめを刺すのですか?」


「違う」


「わかりました」


そしてビクトールと盗賊たちは一斉にその場から散っていった。あたりにはただ死体が転がっており、俺達はその中に取り残されてしまった。


「血の臭いが凄いですね」


「さすがに滅入るのう」


「まったくです」


「しかし、こんなに殺しやがって…一体何を考えているんだか」


エミルがポツリという。日本人がやった凶行という事でガッカリ来ているのだろう。


「ラウルさん。やはり日本の学生服ですね」


ハイラが言う。やはりまだ顔は青かったが、何とか気持ちを保っているようだ。


「異世界に来て大量虐殺するなんてな、どんな学生生活を送っていたんだか」


「想像もつきません」


俺はその胴体から離れた首のところに歩き、手を合わせて南無阿弥陀仏と唱えた。自分の実家の宗派なんてよくわからないが、まあ日本人の遺体には南無阿弥陀仏か南無妙法蓮華経だろう。


「とりあえず首と胴体をくっつけてやらんとな」


俺が頭の一つを拾い上げて、一つの胴体の所に持ってきて首のところに置いた。顔が上を向きみんながそれを見る。


「う、うわぁぁぁ」


ビシャ!


いきなり礼一郎が血だまりの中にしりもちをついた。


「ど、どうした?」


「あ、あう、あうっ」


言葉になってない。いきなりパニック状態になってしまった。


「落ち着け」


「う、うわぁぁぁぁぁ!」


頭を抱えて叫び始める。


「なんだなんだ」


礼一郎に歩み寄ろうとすると、何かを追い払うように手を前にあげた。


「いかん!」


モーリス先生が杖を礼一郎に向けて何かを唱える。


「ミリア!」


礼一郎の後ろにシャーミリアが現れ、スッと手を下すと礼一郎が意識を失った。


「先生?どうしたんです?」


「大量の魔力が放出するところじゃった、万が一があるかと結界を張ったのじゃ」


「そうなんですね、とりあえずファントム。コイツを抱いていてやれ」


「……」


ファントムが礼一郎を拾い上げるようにして、腕の中にすっぽりと包み込んだ。青銅の像のような感じに見えるファントムだが、一応握りつぶさないように調節は出来たようだ。


「ラウル。なんかこいつ相当慌ててたぞ」


「そうだったな」


とりあえずもう一人の頭を拾って来て、隣に並んでいる胴体の首にくっつけた。


「もう、時間立ちすぎだよな…」


ファントムからエリクサーを受け取って、二体の遺体にかけて見るがピクリともしない。


「やっぱ無理か」


「転移した奴の情報を聞くつもりだったのか?」


「ああ、どうにかならんかと思ったが無理みたいだ」


「時間が経ちすぎなんだろ」


「だな」


「ラウル様!」


俺達の所にビクトールがやって来た。どうやら怪我人たちを一か所に集めたらしい。


「じゃ行こうか」


俺が言い、ビクトールについて行く。すると俺達は洞窟の中へと連れて行かれた。中に入ると、そこら中に怪我人が寝かされている。


「これで全員か?」


「そうです」


周りを盗賊たちが囲み、ビクトールが俺達の顔を不安そうに見ている。


「ホント、酷いな」


「ほとんど死にそうな者達ですが…大丈夫でしょうか?」


「どうかね?」


そして寝かされている怪我人の中心に、カトリーヌが歩いて行く。


「エリアヒール!」


パアアアアア


カトリーヌを中心に一気に光が広がっていき、怪我人たちの上に降り注いでいく。すると洞窟内に居た怪我人の全てが光り輝いた。


「あ…う」

「あれ…」

「生きてる…」

「なんだ…」


寝ていた怪我人が起きだした。


「おおおおお!すばらしい!」

「神の力だな!」

「こりゃすげえ!初めて見たぜ」

「生き返った」


周りにいる盗賊たちが大声で喜んでいた。


「じゃ、ヤバい奴にだけ」


そして俺はエリクサーをルピアに渡した。


パシャッ!


ルピアがエリクサーを足の無い奴にかけると、あっという間に足が復活した。


「うそだろ」


自分の足が復活した奴がルピアを見て恍惚としていた。


「女神…」

「女神だ!」

「女神だぞ!」


「うおおおおお」


盗賊たちが大声を上げて喜んでいる。とりあえず四分の一くらいになってしまった盗賊たち。


この脅威は市民や魔人や盗賊にまで降りかかるのか…まるでゲームを楽しむかの如く。異世界で殺戮をくりかえす奴らに、俺は頭を抱えるのだった。

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