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第639話 転移魔法戦術

3人の異世界人たちが再び出現した場所は、人間を潰すため自らが魔法で放り投げた数メートルもある岩の上だった。こうして最初に自分たちで足場を作り、安全圏から人間達を殺害する方法を取っているようだ。ゲーム感覚の発想だが、謎の移動方法があるため成り立つ戦法だ。これに対して瞬時に対応できる『人間』は一部を除いていないだろう。


《出来るとすれば…あの頭のおかしい修行馬鹿の聖騎士か、北国の姫の懐刀おじさんか、俺達が全滅させてしまったバルギウス帝国の大隊長上位クラスか、あとは俺の隣にいる大魔法使いくらいかな?それでもかなり苦戦させられそうだ…人間だからね》


「ご主人様」


「慌てるなミリア。あの程度の敵ならミリアが動けば秒で終わってしまう。マキーナ達の活躍の場を作るんだ」


「は!」


出現したのは2回目の攻撃で落とした岩の上、集落の中心あたりに位置する場所だ。もちろん自分たちのど真ん中に敵が出現している事など、気付いている者はいない。東西の入り口付近を最も警戒しているようだ。


「動くぞ」


エミルが言う。


異世界人の二人が手をあげると、負傷して寝かせられている盗賊たちの上に、サッカーボール大の岩や火の玉が降り注いできた。


「ぎゃぁぁぁぁ」

「くそ!まただ!」

「逃げろ!」


負傷者を見捨てて逃げる盗賊たちの上にも容赦なく、土魔法と火魔法が降り注いでいく。


「酷いもんだ」


「まあ俺達も、これまで似たような戦いをしてきたがな」


「客観的に見ると酷いな」


「俺達の場合は戦争だからな。あいつらとは違う」


「それもそうか…。ラウル、あいつら光りはじめたぞ…」


「本当だ」

「そのようじゃな」


攻撃を繰り広げてすぐに、異世界人3人は光って消えた。


「東です」


シャーミリアの言う方向を見ると、最初に落とした岩の上に3人が出現した。発見される前に移動したのだろう。


「なるほど。だからわざわざ入り口をふさいだわけか…よく考えられてるなあ」


「ラウルよ」


「はい」


「わしの見立てでは、あれは神業などではないのじゃ…。あれは信じられんが転移魔法じゃなかろうかと思う」


なんと。


これまでは魔法陣でしか使用したのを見たことがない、転移魔法を使うやつが現れてしまった。やはり異世界の人間の意識や知識は、こちらの世界の人間より膨大なのかもしれない。もしかすると漫画やアニメの影響などもあるのかもしれないが、あっちの人間がこの世界に来るのは危険すぎる。


「転移魔法ですか?転移魔法陣も用いずに?」


「ふむ。似たようなものじゃろう。恐らくは魔法式が転移のそれそのものじゃと思う、あくまでも推測じゃがな」


さすが大賢者。こんな距離から双眼鏡で見て、構築された魔法式を見破るとは。


「解除可能ですか?」


「至近距離ならばあるいは、初見でこの距離では無理じゃろうな」


「ならば、危ないので先生はここから動かないで下さい」


「ん?シャーミリア嬢が、わしをあそこに連れて行けば良いのではないかの?」


「だめです」


「相変わらず、わしに仕事をさせてはくれんのう」


「とにかく居てください」


「わかったのじゃ」


モーリス先生がちょっと寂しそうに言う。確かに魔法使いの相手は、モーリス先生の右に出る者はいないが、少しでも危険の及びそうな事をさせるわけにはいかない。


「とりあえずラウル、あれを放っておいていいのか?」


「エミル。これは仕方がない事なんだ。プラグマティックな事象でしか魔人の成長はない」


「まあ…杓子定規にやっていても発見はないってか?実際の事象に基づいて物事を判断させたい、お前の系譜とやらの外で考えさせるのが狙いってこと?」


「そう。あとは回数だろうけど」


「自分で判断したという気づきがないと成長しない…。それで見殺しにされる盗賊たちに俺は憐れみを覚えるよ」


エミルがやれやれだぜっていうポーズをとる。


だがエミルよ…俺は多少の危機感を持ってやっているんだ。俺が魂核を変えた人間達は、自分で考え判断していると思いこんで生きている。だが成長は期待できない。そこで俺は気が付いた…俺の系譜の傘下にある魔人達の中で、自分で判断して動いている者は、直属か族長クラスの進化魔人しかいない。今回シャーミリアが提案してくれた、シャーミリアの眷属であるマキーナの成長は俺にとって一番の課題なのだ。


「じゃあとりあえず、次の位置は勘でいくか」


「まったく…勘かよ」


「3択だし、たぶん意外と単純だろ?」


「じゃのう」


「まあそうだな」


恐らく相手はゲーム感覚でやっている。それで考えれば、おのずと次に出現する場所は割り出される。


「ミリア。射撃音が合図だ」


「かしこまりました」


「先生。じゃあ、私はマリアの所に行って指示をします」


「ふむ」


俺はその場を離れて、狙撃の準備をしているマリアの所に移った。


「ラウル様。大変なことになっているようですね」


「ああマリア。だが問題はない、そしていよいよ出番だぞ」


「わかりました」


「あの西にでかでかと置いてある岩があるだろう?あそこの上に照準を合わせていてくれ」


「はい」


マリアはTAC50スナイパーライフルの銃身を西に向け、寝そべって照準を合わせる。


「あの異世界人は、先生の見立てでは転移魔法を使っているらしい。今は西側で盗賊たちを殺しまくっているが、あいつらは発見される危険性を想定してすぐに転移する。次に出るのは間違いなく盗賊たちが逃げまどう東だ」


「はい」


「異世界人三人のなかで、火魔法と土魔法を使う二人がいるんだが狙うのはそいつらじゃない。もう一人を狙ってくれ」


「ラウル様は足とおっしゃいましたが、殺しますか?」


「…いやマリア、足でいい。俺は転移魔法を使うやつに興味がある」


「かしこまりました」


《光りました》


《わかった》


シャーミリアから念話が来る。


どうやら西に現れた異世界人が光りはじめたらしい。盗賊たちは西から攻撃を受けたことで、東の出口へと殺到していた。そして、そいつらを殲滅するべく異世界人は東の岩の上に出現した。


《ビンゴ》


集まって来た盗賊たちに対して、すぐさま岩と火球の攻撃をし始めた。まさに入れ食いという感じでドカドカと魔法をぶち込んでいる。きっと楽しんでやっているのだろう。


「あの後ろの奴だ」


「はい」


ズドン!マリアがTAC50スナイパーライフルの引き金を引くと同時に、一番後ろに立っていたやつの足から血しぶきが噴きあがった。そいつはたまらずがくんと膝をつく。


《よし!》


すると瞬時にその場所にシャーミリアが現れて、膝をついた男の腕をつかんで捻り上げる。


《うわ!痛そう!あれ折れたぞ》


すると次の瞬間だった。少年とシャーミリア二人の場所が突然輝き始める。


《ダメだ!シャーミリア全力で離れろ!》


《は!》


シュッ。シャーミリアが瞬時にその男の側からいなくなる。すると男は間髪入れず光に包まれて消えたのだった。


「あっぶな!」


「今何があったのです?」


スコープをのぞきながらマリアが聞いてくる。あまりに早すぎて何が起きたのか分からなかったのだろう。


「シャーミリアが連れて行かれるところだった」


「どうなったのです?」


「私奴は大丈夫よマリア」


俺達の後ろにシャーミリアが立っていた。


「ミリア、あいつはどうだった?」


腕をつかんだヤツの能力を聞く。


「はい。恐らくはデモンの力とは違います。恩師様のおっしゃる通りではないでしょうか?」


「転移魔法か…本当にミリアがいて良かったよ。他の奴なら絶対に連れて行かれてた」


「発動が遅かったので、それほどでもございませんでした」


「そうか?俺にはかなり危なかったように見えたぞ」


「恩師様の魔法の発動に比べれば、あくびが出るほど遅いかと思われます」


「いや、大賢者と比べてどうする」


「左様ですね」


シャーミリアがスッと頭を下げた。


「よし、皆のもとに戻ろう」


「はい」

「わかりました」

「かしこまりました」


ルフラを纏うカトリーヌとマリアとシャーミリアが俺について、モーリス先生たちの場所に戻った。


「ふむ。どうやら上手くいったようじゃな」


「一瞬、シャーミリアが持って行かれると思いましたよ」


「シャーミリア嬢が?それはないじゃろ。ラウルは心配性じゃな」


「大切な配下ですので」


「ふむ」


先生がシャーミリアを見てニコっと笑った。


「それであの残された二人をどうするのじゃ?」


転移魔法を使うやつがいなくなってしまって、二人は岩の中心部分に座り込んでいる。どうやら見つからないように隠れているようだった。こちらからは丸見えだが、下の盗賊からは隠れられているようだ。まあ騒ぎが収まれば発見されるのも時間の問題だろう。


「どうやら魔法攻撃はやめたようですね」


「逃げるすべを失い、おとなしくしておるのじゃろうな」


「逃げる隙を見計らっているか、転移していった奴を待っているかですね」


「ご主人様。転移した者の腕は、皮と肉でつながってはおりますが使う事は出来ません」

「私の狙撃で足も使い物にならないと思います」


「…先生。怪我で魔法を使えなくなったりはしますか?」


「どうじゃろうな。精神の鍛練を積んでおるようには見えなんだ、普通の学生であれば精神の集中など出来ないのじゃなかろうか?」


「確かに」


「という事はしばらくは戻っては来ないって事ですかね?」


エミルが聞いて来る。


「どうじゃろ」


「エミル。俺の予想じゃ絶対に戻ってこないと思う」


「まあ日本の学生ならそんな勇気はないよな」


「ああ」


さて、これからどうやってあれを料理するかをマキーナ達に託すとするか。


《マキーナ。どうやら盗賊集落は異世界人に襲われたようだ》


《そのようです》


《お前の判断で盗賊たちを救ってくれ。一番西の岩の上に異世界人の魔法使いがいる》


《かしこまりました》


そしてマキーナ達は再び盗賊の集落へと姿を現した。だが壊滅的な状態で、誰もマキーナ達が来た事に気が付いていないようだ。


「お!マキーナ達が何事もなかったように入って行きましたね」


「ふむ。どうするのじゃろ」


「盗賊を助けろとは言っていますが」


「上手くいくといいのう」


「はい」


そして俺はシャーミリアの方を見る。


「まずは彼女らに任せるわ」


「は!」


「ところであの魔法はどんな感じだった?」


「ご主人様が消えた、フラスリア領の地下牢で発動したものに酷似しておりました」


「覚えているのか?」


「あれ以上、鮮明に覚えている魔法はございません。あのご主人様を連れ去った、憎き魔法を忘れようがございません」


なるほど。そういえば、俺の転移事件のせいでシャーミリアはブチギレしたんだっけ。オージェにも迷惑かけたし、俺と再会した時の喜びようといったら凄かった。それだけにイメージに深く刻み込まれたらしい。


「やはり転移魔法という事かの…」


「そのようです。しかも無自覚に使っている可能性があります」


「無自覚?そのような事があるものなのかのう…」


「異世界から来た人間であれば、あるいは」


「世界の作り…文明の違いということじゃろうか?」


「私も明確には言えませんが」


「じゃが確かに、ラウルの周りを見ていると深く関係しているようにも思うのじゃ」


「私の周り…確かにそうかもしれません」


転移魔法はこの世界では御法度になっているが、異世界人にそんなことは全く関係ない。そしてこの世界の人間と違って、アニメや漫画、インターネット、ゲーム、映画などにより、魂の深層にはいろんなものが刻まれている。恐らくそのイメージ力の豊富さが、この力の要因になっているのかもしれなかった。俺も転生し前世での兵器のイメージを持って生まれた。そして魔人達がその影響を受けて進化していく。さらに俺や魔人達の周りにいる人間たちが変わっていったのもその影響だと考えている。


「確かにマリアの狙撃、ミーシャのマッドサイエンティスト、ミゼッタの光ガトリング、イオナの魔獣使役、最近ではカーライルの人間離れした体術など、私や魔人達と接触があった者達は人間離れした進化をしておりますしね」


「ふぉっふぉっふぉっ!それを言うならわしもじゃよ」


「えっ!先生も進化するんですか?」


「じじい扱いするでない!わしとてまだまだ発展途上の人間じゃ」


俺達がモーリス先生を尊敬のまなざしで見る。ここまで魔法や世界の道理を突き詰めておいて、まだまだ発展途上何て言われると頭が上がらない。


「子供の頃から思っておりますが、やはり先生はすばらしいです」

「本当に、これからも私達をお導き下さい」

「言葉もありません」

「見習わねばなりません。私が精霊神などおこがましいです」

「さすがはご主人様の恩師様であらせられます」


それぞれに尊敬の言葉を述べた。


「なんじゃ?てっきり、わしのことをただただ面白い事に首を突っ込む、面白おじいちゃんじゃと思っとったのかと勘違いしとったわ」


「だれもそんな事、言ってないと思いますが」


「いや、本当に面白い事大好きなだけなんじゃがの」


「それは素晴らしいです」


「趣味に生きとるだけじゃ」


ドドン!盗賊の集落から音がして振り向くと、再び岩や火球が集落内に落ちていた。雑談をしていたので何が起きたのか見ていなかった。


「あの、作戦中なんじゃないですか?」


ハイラにポツリと言われてしまった。俺達は慌てて双眼鏡を覗き込む。


「大丈夫です。マキーナ達に被害はありませんわ」

「どうやら、マキーナ達は盗賊と接触しましたね」


シャーミリアとスラガは俺達が雑談している最中も、きちんと状況掌握の為現場を監視し続けていてくれたらしい。というよりも俺が彼女らに意識をやると、指示を出してしまいそうだったので意識をそらしていたのだった。それを分かって二人は代わりに見ていてくれたのだ。


岩の上にいる異世界人は既に盗賊たちに見つかっていた。盗賊たちは、警戒しながら遠巻きに隠れて異世界人を監視しているようだ。そして異世界人は最後の抵抗を始めようとしているのだった。

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