第64話 魔人族の船
敵の大将、グルイスを殺害した後で俺達は街にもどった。
街に戻ると戦闘は終わっていたが、兵士は街に潜伏しているという。
俺とマリアがグラドラムの入り口でストライカー装甲車で待機している。マリアが天井から半身をだし12.7㎜M2機関銃のそばに、俺が車内で眠っていた。
その車の周りには屈強な農夫たちが5人一緒に見張ってくれている。
すでに日は上り朝の太陽があたりをさんさんと照らしていた。
「お嬢さん、それは凄いものだね。」
農夫がマリアに話しかけてくる。
「はい、ラウル様の神の力で出された最強の”兵器”と呼ばれるものです。」
「兵士がひとたまりもなく粉々になっちまった。そんな魔法は見た事がないよ。」
「魔法ではありません。」
「違うのかい!?」
「ただ・・私は魔法の発動を利用し精度をあげる事ができます。」
「凄いねえ・・」
農夫たちは・・ほぅ・・と感心したようにマリアを見ていた。
「俺達には恐ろしくて近寄りたくないものだな。」
「だな。」
「そうですか、私にはラウル様が出してくれた最高の贈り物に感じます。」
マリアは本心からそう思っていた。これまでラウル様が出してくれた兵器に命を救われ続けてきた。自分の2丁拳銃にも名前を付けたいくらいに愛おしい。ただ・・30日で消えるので名前を付けても仕方ない・・つど新しい物をラウル様がくれる。あの方はいつも最善の方法で生きる道を探している。
すると・・門のほうから誰かが来た。
「止まれ!」
農夫が声をかけるが、すぐに緊張を解いた。
「ギレザムさん!」
街の人とギレザムは顔見知りだった。ギレザムは街の用心棒なのでみんな知っている。
「ああ、ラウル様は?」
「この中に」
「わかった。マリアいいか?」
「寝ているわ。大丈夫よ。」
ギレザムは後部ハッチを開けて車の中を見る。
「ラウル様・・不甲斐ない我々を救ってくださりありがとうございます・・」
寝ているラウルにつぶやいた・・そしてギレザムはスッっと後部ハッチを閉める。
「してマリア。状況はどうなっている?」
「ええ、誰も通らないわ。」
「そうか・・」
「ガザムとゴーグは?」
「イオナ様の元で護衛をしているが、あいつらはボロボロでそう身動きがとれないだろう。」
「そう・・」
この戦闘の激しさを二人は痛感していた。
「ラウル様は・・ラウル様は凄いものだな・・」
「ええ」
「ああ、我はあの方の計画が常に最善の方法だったと後から分かる。」
「ええ」
「あの方は・・特別な方だ。」
「そうね、私はあの人を守って死ねるのならば本望だわ」
「そうだな。」
二人はそう話して・・沈黙した。マリアは無線を入れて街の奥にいるミーシャに連絡をする。
「ミーシャ、そちらに変化はある?」
「いえ、こちらは特に、洞窟の奥から連れてきた魔人さん達を街の人が介抱しています。」
「そう・・。ガザムやゴーグはどう?」
「眠っています。」
「わかった。もう少しの辛抱、見張りを続けてね。」
「はい。」
ミーシャはそれほど丈夫じゃない。自分は体が強い方だがそれでもかなりの疲労で、眠気が襲って来る。
「あの、ギレザム。」
「なんだ?」
「あなたは大丈夫なの?」
「我は丈夫さが取り柄だ。」
「凄いわね。ではお願いがあるの。」
「なんだ?」
「奥のみんなのところに行って、ミーシャを休ませてくれないかしら。」
「ふふっ」
「どうしたの?」
「いや・・ミーシャにマリアを休めてくれと言われてこちらに来たのだがな・・」
「そう・・、でも私は大丈夫。あの子は少し体が弱いの、見て上げて。」
「わかった。」
ギレザムはそう言って門をくぐっていった。
それから半刻(1時間半)が過ぎ、俺は起きた。目の上にスカートの裾がみえた・・このスカートはマリアだな、上半身を天井のハッチから出している。俺は後部ハッチから外に出て天井の上のマリアに声をかけた。
「マリア・・動きはあるか? 」
「ラウル様、まだ寝ていてください!」
「大丈夫だ。それで?」
「いえ、動きはありません。ギレザムが来ましたがミーシャの元へもどしました。」
「わかった。それじゃ俺が見張るから、マリアは中で寝てくれ。」
「いえ・・大丈夫です。」
「命令だよ。休んでおいてくれ。」
とにかく休んでもらわなければいざというときに動けなくなる。今は休んでもらおう。
「はい・・あの・・ 」
「なんだ?」
「また、ラウル様が大きくなったような、体つきが全く違います。顔も・・人相が・・怖くなったというか・・」
「そうなのか・・。」
「男らしく見えます。」
「そりゃよかった・・」
俺は天井に乗って、天井ハッチから召喚した戦闘糧食Ⅱのマグロの缶詰を差し入れた。携帯用の水も一緒に入れる。
「これを食っておけ。」
「はい。」
そして俺も自分用に戦闘糧食をだす。
腹が減っている・・飢餓状態になっている。飢えがひどくとにかく食いたい・・肉が一番食いたいが・・今は仕方がなかった。魔力が少し戻っているようで戦闘糧食を呼び出すことができた。というよりも・・魔力・・あるような気がするんだが・・枯渇した感じがする。おそらく賢者側・・データベースを動かす側の魔力がない状態だ。
・・しかし魔人側の魔力は大男の騎士を倒した時に、ズギュゥゥゥゥゥン!とまるでジ〇ジ〇立ちのように香ばしい立ち方をしたくなるほど、魂の力が流れ込んだ。あの力は今も体の中でうねっている感じがする。
カン、コン、カン、ザササ
ソーセージ缶とハンバーグ缶を数個ずつ、乾パンを一袋と携帯水を召喚し、一気に腹の中に詰め込んでいく。全部食べるが・・まったく腹のたしにならない・・肉が食いたい。ゾロリと舌なめずりをした・・
「あのー」
脇から声をかけられる。
「今食べていた物はなんですか?」
「戦闘糧食だ。」
農夫が興味があるようで聞いて来た。
「すまない、あとないんだ。」
「いやいや、ちょっと興味があったもんで・・」
そりゃそうだよな、てか農夫のおっちゃんらも腹減ってるよな・・ただ今は魔力が足りないんだ。
「グラドラムの兵士はもう一人もいないのかい?」
俺は農夫たちに聞いてみる。
「ああ・・一人残らず殺されちまったよ。」
「教会に神父や尼さんはいないのか?」
「本当にひどい事をする。兵士より先に全部殺されちまったよ・・回復されるのが厄介だという理由で。」
「そうか許せないな。じゃあ余った敵の騎士も全部やっちゃっていいかな?」
「仇をうってほしいよ。」
いや〜そこはその答えじゃないって!「いいとも!」でしょう。なんて前世の小中学生にはわからないツッコミを心の中で入れる。
「わかった。」
今は皆が弱体化しているため身動きが取れない。相手はいつまで籠城するつもりだろうか・・精神的にもだいぶ追い詰められていると思うのだが・・そして・・夜が来れば俺たちの勝ちだった。こっちにはシャーミリアとマキーナがいる。すでに勝っているようなものなのだが、けが人を出したくない・・万全を期すために夜を待つのが得策だった。
無線でイオナを呼び出した。
「母さん、起きてるかな?」
「ええ、大丈夫よ。」
「夜をまってまた攻撃を仕掛けるつもりだ。」
「ラウルは・・戦わないで。」
「大丈夫だ。」
「あなたは戦闘に参加しないのね?」
「しないよ。」
「よかった。」
回復しなければ俺はなんの役にも立たないだろう。おそらく戦闘に参加する事はない。
「ミーシャは寝ているかな?」
「ギレザムが来たからここで横になっているわ。」
「そうか、きちんと休むように言ってね。」
「わかったわ。」
さてと・・じゃあ、やるかな。
俺はM1126 ストライカー兵員輸送車の運転席に行く。どうかな?
「やはり俺は急激に成長しているんだな・・」
敵の大将を殺したためかなり体が成長している。おかげでストライカー兵員輸送車のペダルに足が届くようになった。門をくぐらせて車を中に進めていく。入口から少し進めたところで止めて天井に上がり、LRAD長距離音響装置をボリューム調節した。マイクを持って話を始める。
「建物内に潜伏している騎士の方々に警告します。すみやかに家から出て投降してください。すでにあなた方の大将だったであろう御方は名誉の戦死をされました。これ以上の戦いは無意味です。もし徹底抗戦を望むのならば我々は容赦する事はありません。陽が落ちる前までに返答を要求します。投降すれば捕虜として殺されることはありません。」
〜そう・・俺はサナリア軍を、ユークリット公国の軍をやったお前たちとは違うんです。1000人を数十人まで減らしてしまった事は作戦上のこと、虐殺を望んでいるわけではないんです〜
《あ、これは心の声ね。》
マイクでそう街の中に話、そして待つことにする。仲間や街の人を早く休ませるためにも、すみやかに降参して出てきてほしいものだ。しかし・・ゾンビになった騎士たちがボーっと街中に大量に突っ立っている・・ちょっと邪魔かも。でもせっかく洞窟で休んでいるシャーミリアをおこすのも忍びないしそのままでいいか。
とりあえずストライカー装甲車の天井に座って街中を見ている。周りには農夫たちがついてきて座り込んで、話しかけてきた。
「出てきますかね?」
「わかりません。」
「出てきたら助けるんですか?」
「そう約束しました。」
「あいつらは生かしてはいけない。」
「悪いのは上の人間です。末端の兵士はただ命令に従っただけ、そうしなければ自分達や残してきた家族が殺されますからね。仕方ないとは言いませんが、選択肢くらいは残してやりましょう。」
「そ・・そうですね。」
本当にそう思っている。それが戦争ではユークリット公国の兵やサナリアの兵を皆殺しにしやがった。相手の親玉と幹部連だけは絶対に許さない。
その後のんびりと、一刻ほど待っているとイオナから無線に連絡が入った。
「ラウル、港に船がついたそうよ」
「えっ!船!」
「どうやら魔人の国から来たみたい」
「わかった!すぐ向かう。」
農夫の人たちに説明し一緒に街の中に戻るように言うと、農夫が言う。
「でも、潜伏した兵が逃げないかな?」
「緊急事態です。逃げられても仕方ないでしょう。それよりこちらの戦力が分散するのはまずい!」
魔人の船が敵か味方かもわからなかった。とにかく分散するわけにはいかないため街の奥に集結する。
「母さん!それで状況は?」
「いま街の方達が、船の出迎えに向かっています。」
「ガルドジンに攻撃を仕掛けに来たのかな・・ちょっとガルドジンの元に行ってくる。みんなは車の中にいるように!」
「わかったわ。」
「マリア!天井に乗ってTAC50スナイパーライフルを構え、港方面を監視していてくれ。」
「はい。」
「敵が迫ったら、車の中に避難するように。」
「はい」
俺は急いでガルドジンの元へ向かった。
「父さんの容体はどうかな?」
「眠っています。」
看病していた女性に聞くとガルドジンは今眠っているようだった。ガルドジン・・確かに人間じゃない。明るいところでマジマジみると顔中に刺青のように痣がある、角が生えているしおでこにも目がある。ただ・・それ以外はひょろっとした優顔のお兄さんと言った風貌だった。もっといかついのを想像していたが刺青と角で迫力があるようにみえるだけだった。
「アルか・・」
「ああ、父さん大丈夫かい?」
といって虚ろな目で空虚を見ているガルドジンの手を握った。どうやら目は全く見えなくなってしまったらしい。
「なにか・・動きがあったのか?」
「ああ、どうやら魔人の国から船がついたみたいなんだ。」
「来たか・・」
「ん?父さんは知っていたのかい?」
「人間の兵がせめて来た時に、書簡を鳩に括り付けて飛ばしたのだ。救援要請を・・」
「えっ!そうなのか?」
「そうだ、ルゼミアに直接送った。」
「わかった。」
そうだったのか・・だと俺達が救出しなくても、魔人の王が救援部隊を送って来てくれていたという事か。
「マリア、聞こえるか?」
「はい」
「銃を降ろせ。援軍だ。」
「わかりました。」
俺達は魔人の援軍を迎え入れることになった。