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第636話 襲撃者の行方

俺達は敵と交戦したらしいスラガと合流した。


彼にはファートリア地内に敵が潜んでいる可能性を考え、調査に周ってもらっていた。スプリガンであるスラガの巨人形態時のジャンプ力は、ファントムに引けを取らない。山一つを軽々と数歩で飛び越えていく。スラガは人目のない山間部などは、巨人の姿で移動しているそうだ。その方がはるかに速く次の目的地にたどり着けるらしい。


「巨人の時に襲われたんだな?」


「そうです。着地したところを攻撃されました」


「まあよく、巨大なスプリガンを攻撃したもんだな」


「なかなかにすばしこい奴でした。普通に捕らえられそうでしたので、何とかしようと思ったのですが力及ばずです」


「どんな奴だった?」


「恐らく三人の若い人間の男です」


やはり間違いなさそうだった。俺はオスプレイの方を振り向いて手をあげる。


「ミリア!少年を連れて来い!」


シャーミリアが少年を連行してきた。少年は相変わらずうつむいたままだ。


「ああ!丁度こんな感じの男ですね!でもこの人じゃないですが」


「やっぱりそうか」


「はい」


「その男たちはどの方角から来たと思う?」


「私は北東から移動してまいりましたので、恐らくは南西か西から来て自分に接触したのだと思います」


「なるほどな。実はこの少し先で村が一つ壊滅していたんだ。恐らくはそこを破壊した奴らと接触したんじゃないかと考えているんだ」


「なるほど」


「スラガはどこへ行こうとしてたんだ?」


「自分はこの山の北東にある村で調査をしておりました。そこに森で薬草採取をしていた村人達が戻ってきて、山の向こうで物凄い音を聞いたと耳にしたのです」


「それでそこに調査に向かっていたという事か…」


「そうです」


「で、ここで襲われたと」


「はい」


どうやらスラガは異変を聞きつけて急遽駆けつけてくれようとしたのだ。


「これまで、村に隠れている敵や怪しい奴はいたか?」


「今の所はまだ見つかっておりません。北東方面の村々は問題ないかと思われます」


「光の柱が消えたような場所はなかったか?」


「今のところは見たり聞いたりしておりません」


「ファートリア南東収容所の光の柱が消えてな、光の柱はハイラたちのような異世界人を呼び寄せている可能性が高い」


「異世界人をですか…」


「そうだこの少年もそうだ」


「そうですか」


「その襲撃者はどちらへ逃げた?」


「恐らくは南東に逃げたかと」


「南東か…どのくらい前だ?」


「もう一日以上たつかと」


ならばかなり遠くまで行っている可能性もある。だがこちらの世界に不慣れな者達が、それほど上手く立ち回れるかも疑問だった。


もう一つ気になる事は、森のここだけが不自然に木がなくなっている事だ。ヘリが着陸しやすいようになっているが、どう考えても自然にこんな場所が出来るとは思えなかった。周りを見ると適当な感じに木々が伐採されているようにも見える。


「この場所って一体なんだ?」


「すみません。その者達との戦闘の結果です。木々をなぎ倒してしまったのは自分です」


「巨人形態でか」


「申し訳ありません」


「問題ない。それよりもかなりの力の持ち主だったようだな」


「はい」


恐らくはスラガだけの力でこうなったのではなさそうだ。まさにあの虐殺の村と同じように、石ころや焦げた木などがある。間違いなく同一犯の犯行のように思える。


「どんな能力だったか分かるか?」


「はい。一人は恐らく石を飛ばしたり槍のように突き出します」


やはりキリヤのような奴か…あれはなかなかに危ない魔法だ。


「それと、もう一人は恐らく火の魔法使いかと。火柱が上がりました」


「先生。やはり推理通りのようですね」


「そうじゃな。もう一人はどんな感じじゃった?」


「それが何の能力を使っているのか分からずです。そいつの能力のおかげで捕えられなかったように思えます」


「移動系の能力じゃろうか…」


「わかりません」


「先生。移動系の魔法ってあるんですか?」


「風を使って進むとか水の流れを利用して進むかならある。もちろん膨大な魔力を消費するから、やれる奴はそうおらんと思うがのう」


モーリス先生が言う。


「そういう能力を発動させているようには見えませんでした」


「なるほどのう…」


スラガの答えに、モーリス先生も考え込んでしまった。情報が少なければ、それを解明する事など困難だ。まずは動いて情報を収集する方が先かもしれない。


「スラガは潜伏捜査を中止しよう。その被疑者を目撃したのはスラガだけだ。村や都市などに潜伏している場合、スラガがいないと見つける事が困難になる」


「わかりました」


俺達のパーティーにスラガが加わった。スラガは武器を持っていなかったので、召喚したShAK-12アサルトライフルを渡す。これに使われる12.7mm×55mm弾は射程300mで16mmの鋼を貫通する。威力重視のアサルトライフルだった。


「よく銃火器無しで、魔法使いに対応出来たな」


「はい。何というかファートリア神聖国で進化してから、物凄く体が軽いんですよね。油断をすれば浮いてしまそうな錯覚にすらおちいります」


「そうか。それでも敵を捕まえられなかったという事か」


「面目ありません」


「いや、それだけ敵の能力が未知数だという事さ」


「はい」


「よし!みんな!敵は何らかの能力を使って逃げおおせている可能性が高い、だがまだこちらの世界に慣れているとも思えない。それほど遠くへ逃げていない可能性もある。急いで追うぞ」


皆が返事をした。


スラガが本気を出して捕まえられなかったという事は、普通の人間ではない事は確かだった。この世界の魔法使いであれば、進化したスラガの敵ではないはずだ。間違いなく異世界の奴らに違いない。


「シャーミリアは、周辺に該当する敵の気配が無いか飛んで確認してくれ」


「かしこまりました」


そして俺達は再びオスプレイに乗り込み、スラガの証言をもとに南東に向かって飛んだ。シャーミリアはオスプレイには乗らず、森を低空飛行して敵の気配を探るようにする。


それほど飛ばないうちにシャーミリアが言う。


《ご主人様。数キロ先に集落があるようです》


《わかった周囲に敵の気配は?》


《今の所ございません》


《了解だ》


すぐにシャーミリアから伝言がある。


「エミル!このあたりに降りたい」


「了解」


エミルは森の中を流れる沢のほとりに、そこそこ広い河川敷のようなところを見つけてオスプレイを降ろした。


「このオスプレイはもう使わない。ファントム!分解しろ」


全員が降りたので、ファントムにオスプレイを破壊するように命じる。あっという間に分解されて、バラバラになった鉄くずがその辺に散らばった。


そこにシャーミリアが合流してくる。


「ミリア!ここから集落までどのくらいだ?」


「人間がいる集落は3キロほど先になるかと思われます」


「よし、魔人達は四方に怪しい気配が無いか警戒してすすめ!」


「「「「は!」」」」


「エミルはまた精霊で周辺の監視を頼む」


「了解だ」


「散開して、沢を下り集落まで向かうぞ。ハイラさんと少年はファントムとマキーナとスラガで保護。マリアはルフラを纏ったカティとアナミスと一緒に動いてくれ。先生にはシャーミリアとルピアがつきます。俺とエミルとケイナが組に」


「かしこまりました」

「わかりました」

「仰せのままに」

「了解」


「森を横に散開して、怪しい気配が無いか警戒しながら進む」


それぞれが自分の武器と持ち物をもって、横に広がり森の中を進み始めるのだった。シャーミリアの気配感知やエミルの精霊術を疑うわけではないが、もしかするとあのルタンで遭遇したデモンのような特殊能力もあり得る。


《全員、何かわかったら念話を繋げろ》


《《《《《は!》》》》》


この森は二カルス大森林と違って、木々の高さが前世の森くらいの高さだ。根本あたりまで陽の光が落ち、見通しも悪くない。万が一、ルタン付近で遭遇したデモンと似たような能力を持っていたとしても、日本の学生ごときが魔人相手に隠れおおせるわけがない。


風が吹くと森の木々が葉をこすり合わせて音をならし、足元に草が多く足を取られる。北のラシュタルの森のように雑草が少なければもっと歩きやすいだろうが、北大陸でもかなり南に位置するこの森は草木が生い茂っていた。


さて、移動系の能力次第じゃもっと先に進んでしまった可能性はある。もしかしたら集落を無視して先に進んだ可能性もあるが…。そこまで能力を使いこなす事が出来るものだろうか?この少年はかなり無茶な使い方をしていたようだし、魔力を使うにしてもモーリス先生のように繊細なコントロールは絶対に不可能だ。


《ご主人様。ルタンでのデモンの動きと能力はある程度掌握しております。恐らくそれと同等の能力であれば、私奴が確実に対処いたします》


《わかった。その時はミリアが行って、すぐに引っこ抜け》


《同じ能力であれば間違いなく》


《まあ、違う能力の可能性もあるからな。いきなり殺す事はだけしないようにしたいもんだ》


《ラウル様、その場合は私が対応いたしましょう》


《そうだな。アナと俺でいきなり書き換えちまうか?人間を大量虐殺するやつなんてろくな奴じゃない》


《では私奴が押さえ、ご主人様とアナミスが対処するという事でよろしいでしょうか?》


《異世界人を見つけたら、それで行こう》


《《は!》》


《追い越して来た可能性もあるから、後方も確認しつつだな》


《《はい》》


横に広がって森を前進し、一時間ほどで森にある集落が見えて来た。だがどう見ても村といった感じの集落じゃない。俺が手をあげると4つのチームが俺のもとに集まった。


「あれ…村じゃないよね?」


森の上斜面から見下ろす場所にあるのはあばら家や、洞窟のようなところに木を立てかけたような住居らしきものだった。そして間違いなく人間がいる。


いるが…


「盗賊の集落のように見えるが、どうじゃろうな?」


「まあ…盗賊でしょうね。森の中に普通の人間は住みません」


「盗賊にしてはずいぶん多いようじゃ」


「まるで村のようですね」


「じゃな」


俺達はそこに近づいていいものかどうか迷ってしまった。別にあそこに異世界人が現れて、全員が殺害されたところで問題は無さそうに思う。だが、盗賊と決めつけるのは良くないかもしれない。見た目は盗賊でも全く違う可能性だってある。


「どうしたものか…」


「それであれば、私が行って探りを入れてはいかがでしょうか?」


マキーナが名乗り出た。


「マキーナか」


「はい、アナミスやルピアでは負傷や死亡の危険性があります。私であればシャーミリア様がいる限り死ぬことはございません。ましてや人間の盗賊ごときに後れを取る事などございません」


「よし、じゃあマキーナにまかせよう」


「ラウル様。それでしたら、私が一気に洗脳してしまえばよいのでは?死んでも良い相手なら利用してしまいましょう」


アナミスも名乗り出る。


「私だって役に立つと思うんです!」


ルピアも言う。


「うーんそうか。スラガも加わってくれたし、シャーミリアとファントムが残れば襲撃されても問題ないだろうしな。3人で行ってきてくれるか?」


「「「はい!」」」


美魔女3人娘は、躊躇することなく盗賊団の集落と思われる場所へと下りて行くのだった。これが普通の人間の女子だったら、酷い結末を迎える事になるだろうが…


恐らく酷い結末を迎えるのは…

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