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第632話 ゲーム脳の脅威

今後の少年の扱いについて、俺達が話し合った結果を拠点の魔人達を集めて説明した。皆は素直に俺の言葉に従い、亡くなった魔人達は報復など考えていないそうだ。想像していた感じとは全然違うが、ひとまずこれで落ち着くだろう。


「ドラグ、悪いが少年は俺が預かるよ」


「もちろんですラウル様。そのような重要人物に万が一があってはいけません」


「本来は処刑するのが筋だが、これは出合頭の事故みたいなもんだから…とにかくすまない」


「何をおっしゃいますか。ましてや、あの者の強大な力を我々が御せるとは思えません」


「それはシャーミリア達、直属がやるから気にするな」


「は!」


「今回、死んだ者に家族は?」


「おりますが、なにか?」


「悲しむだろうな?」


「ラウル様のお役に立ったのにですか?」


ドラグがキョトンとした顔で言う。


死んだ魔人の遺体は、魔人達の希望もあり既にファントムが吸収している。そのおかげかファントムのオーラが、さらにおっかない感じになってきてる気がするし、俺の魔力も以前にもまして強大になった感覚だ。進化魔人を吸収するというのは別格なようだった。


《なーんか…過去にこれと似たような感覚を、体験したことがある気がするんだよな》


あまり記憶にないが、恐らく俺は過去に似たような感覚を味わっている。


《ご主人様》


《ん?》


《恐らくその記憶は、私奴との出会いの時ではございませんか?ご主人様の記憶には残ってないのかもしれませんが、私奴の汚らわしい眷属を数千と吸い取っていたたいだ事がございます》


吸い取ったって感じじゃなかったと思うけど…


《ああ…あの時の》


《はい》


俺がシャーミリアと初めて会って戦った時。たしか彼女の眷属、数千体をギレザムとガザムがM134ミニガンで大量に消滅させたんだっけ。そして俺は気を失って、気づけばいつの間にか体中から武器が大量に生えて浮いてた。シャーミリアはそれから、俺に心底忠誠を尽くすようになったんだ。


ってことは、魔人を1番殺してんの俺じゃん…


《あのときは、半分意識がなかったからな》


《あのとき恐れ多くも、魔神様のお姿を拝見させていただけることになるとは、思いもよりませんでした。さらに未だにこうして、お側に居る事を許されている。これ以上光栄な事がございましょうか?》


えーっと、武器だらけの俺がシャーミリアにとっては魔神なのね。たぶんあれが魔神本来の姿とかではないように思うけど。


《ミリアがそう言うなら、俺は何も言う事はない》


《ありがとうございます》


とりあえずシャーミリアとのこそこそ話を追えて、ドラグとの話に戻す。


「遺族に報告とかは?」


「死んだ魔人はラウル様の中に息づいているのです。そのような必要もございません」


なるほど。今回の事で初めて部下を失ったが、魔人は人間とはまた違うようだ。というか俺が元始の魔人だからか。とにかく対応の仕方が人間とは違う、むしろ決まった形なんかないのかもしれない。


「確かに彼らの魂は俺の中で息づいているようだ。無駄にするわけにはいかないな」


「は!ありがとうございます!」


ドラグはむしろ喜ばしい事のように言う。魔人はお国の為に身を捧げたような感じだが、俺はそんな事は望んでない。


「俺は今回の事でいろいろ学んだよ。大陸中に魔人を配置したからね、事故が起きる事もある。グラドラム研究所でもいろいろな規定を定めているけど、軍にも準則や規範が必要だと思う。一巡して問題点を洗い出し列挙して、基準を決めようと思うんだ」


「難しい事は分かりませんが、ラウル様のお決めになった事に従う迄です」


「いままで完全に任せきりになってすまなかった」


「なにをおっしゃいます!ラウル様の為に最善を尽くすのが我々です」


「ありがとう」


「光栄にございます」


これだけ広範囲に魔人を振り分けて、今まで大きな事故が起きなかったのは、ひとえに隊長格の魔人達の裁量が的確だったからだ。元始魔人の系譜に繋がっているとはいえ、すべてが俺の想像通りに動くわけではない事を知った。魔人国にはっきりとした法律は無いが、まずは軍規から整えて行こうと思う。


「まずは西部前線基地にすでに増援を依頼してある。この大陸中央線の軍備を更に強化するつもりだ。ドラグには引き続きここの責任者をお願いしたい。各拠点の警備体制を見直して、この拠点に兵が到着次第、放棄した南の拠点に兵を向かわせてくれ」


「お言葉ですが、我はラウル様の大切な部下を11名も失いました。我にそのような名誉ある地位を頂くわけにはまいりません」


「それは違うぞドラグ」


「どういうことでしょう?」


「あの恐ろしい魔法使いを前に11名の損失だけで切り抜けたんだ。むしろお前は優秀だよ」


「そのような…」


「いいか…あの少年は、シャーミリアに不意打ちを食らわせたんだ。シャーミリア(・・・・・・)だぞ!もちろん当たる事は無かったが、何か感覚的な冴えがあるのかもしれない」


「シャーミリアに?」


「そうだなミリア?」


「は!少年は何の殺気も出さずに、風魔法での攻撃をしてきたと思われます」


「というわけだ。シャーミリア相手にそんなことをする奴だぞ。11名の損害でくい止めてくれてありがとうを言いたいよ」


「……かしこまりました。それではその大任を拝命いたしましょう」


「頼む」


少年がゲームのように魔人達を殺した。きっと彼はレベルアップでもするかのような感覚だったのだろう。シャーミリアの言うように、殺気を込めずに攻撃したのだと思う。


「じゃ、行こうかミリア」


「皆!ご主人様のお話は終わりです。解散!」


シャーミリアが言うと、ドラグと魔人達は一斉に自分たちがやるべき事の為に散っていった。俺達はそのまま、人間達が宿泊している施設へと向かう。彼らを連れてファートリア聖都へと向かわなければならないからだ。急がねば光柱がどうなってしまうか分からない。


建屋に入ると既にモーリス先生たちの旅支度は終わっていたようだった。カトリーヌとマリア、ハイラも既に出かけられる体制になっている。


「どうじゃ?魔人達は納得したかの?」


「納得も何も、初めから問題など無かったような感じです」


「そうか。魔人とは不思議な種族よの」


「なんと言いますか、全体が一つになっているような感じですね。言ってみれば部下たちの死は、体の一部が削れたといった感覚のように思いました」


「人間なら遺恨が残る所じゃが」


「それは本当に全くないようです。本能的に私の力になれたことを喜んでいるようでした」


「…絶対の王といった感じじゃなラウルは」


「そんな大したもんじゃなと思いますけどね」


「まったく、人間だけじゃよ。同じ種族同士で戦争して殺し合って、取った取られたと愚かなものよ」


「それも性なのでしょう」


「まあ、そうじゃな」


「残念なのはあの少年が、殺意や恨みがあるわけじゃないのに魔人を無差別に殺した事です」


「一体どうしてなのかの?」


モーリス先生に向こうの世界のゲームの感覚は通じない。ゲームで魔物は狩られるキャラクターだと決められているだけで、子供達には悪者として刷り込まれているだけだ。あの少年以外にもリアルに魔物を見たら、無条件で殺してしまおうと思う子供は大勢いるだろう。


「向こうの物語では、魔人が悪者という作品が多いんですよ。子供の頃から、そういう物語に慣れ親しんでいるのが原因でしょうかね?」


「刷り込みか。こちらの世界にも魔王を悪者とする本はあるがのう。それほど皆が思いこむような物でもないのじゃ」


「そうですよね。それが、あちらの世界にはそういった情報を共有する物があるのです」


「なんとも、恐ろしいものじゃ」


いつもは何にでも興味を示す先生が、恐ろしいものとして認識した。あの少年の事件を目の当たりにしてしまうと、そう思うのは当然だろう。


「ある意味そうですね。便利な部分もありますが…」


「なにも考えずに、間違った思想に染まってしまう事もあるのではないかの?」


流石は先生、1言ったら10を理解している。この世界の歩くデータベースを、向こうの世界に連れて行ったらどうなるか、とても興味がある。


「はい。人の思考を操作できる部分がありますね」


「むしろラウルと魔人の関係が、それ近い部分があるように思うのじゃが」


「そのとおりです」


先生にはすっかりお見通しらしい。


確かに俺は念話で魔人と繋がれるし、系譜で俺に逆らう者もいない。俺が世界征服と人間の皆殺しを命じたら、明日の世界は人間の物では無くなってしまうだろう。それこそゲームの魔王になってしまう。だが、この世界の魔王は自由人の一途な女の子だ。ルゼミア母さんは俺に魔人達を任せたが、世界を変えてしまうとは思わなかったのだろうか?もちろん俺にその気はさらさらない、だがそれは俺に圧倒的な力があるからだ。


俺が非力だったら…人間に対して憎悪を持っていたら…いまの敵と手を握っていたら…


ふと目の前にいるモーリス先生とカトリーヌ、マリア、ハイラを見る。俺はこの人たちを絶対に失いたくない、とても愛おしくかけがえのない存在だ。どうあっても守り通すと決めている。万が一なんてことはあり得ない。


「ラウルさんの言ってる事ってゲームやインターネットですよね」


「そうだね。ハイラさんの言うとおりだ。あの少年は既にそれらがインプットされている。恐らくそれで軽率に魔人を襲ったんだ」


「そうですか」


「魔人からしたらたまったもんじゃないよ」


「そうですよね。別に敵対しているわけでもない、恨みを買っているわけでもないのにいきなり殺されたんですから」


「それがあっちの世界とこっちの世界の違いかな。急にこっちの世界に来たらそうなっちゃうのかもね」


「でもダメです。それは許しちゃいけません」


「とにかく今回は、俺が少年を預る事で糸口を探そうと思う」


ゲームがリアルになったら普通は躊躇すると思うのだが、あの少年じゃなくても迷わず殺してくる可能性が高い。どんな能力を身に付けているかにもよるが、急いでそれを防がねばならない。


ただ改めて思う。この世界にゲーム的なレベルアップみたいな物はないが、殺したり吸収した相手によって、なんらかの恩恵がある気がする。あの少年は魔人を殺すごとに、能力を高めていったんじゃないかと思えるふしがあるのだ。


それを俺に例えると。


俺の武器で敵を倒すと、その魔力や魂は全て俺に集まり系譜の魔人達に分杯される。


そして敵や魂の種類でも効果が違ってくる。


盗賊や奴隷商を殺した時はそれほど力は上がらなかった。安い栄養ドリンクを飲んだ感じ。


騎士を大量に殺した時は、そこそこ魔力も流れ込み力を補充する事が出来た。


魔法使いを殺した時は強めの魔力が流れ込んで来た。


進化魔人を回収した時は、さらに強いどっと魔力が流れ込んできた。


デモンと戦うと魔力は増えず、眠る事で何かが進化して変わる。魔人も俺も姿かたちが微妙に変わって来たし、俺に至ってはデータベースのイメージがバージョンアップしていく。とにかく強くなっていくのだ。


特に大量に殺害した時は、おもいきり器が広がり、より多くの魔力が蓄積できるようになる。


そういった事が少年ににも起きた可能性があるのだった。それをレベルアップと勘違いして、増長していったのではないかと思える。それはハイラと一緒に来た若者たちも同じで、戦うごとに力をつけていった感じがした。異世界から来た人間達は、その伸び率が著しく大きいんじゃないかという感じがするのだ。


そう考えれば、今が非常に危険な状態である事が分かる。


「ではすぐに発ちます。急がねば第二、第三の少年が生まれてしまうかもしれない」


「そうじゃな」


「いそぎましょう」


ハイラが殊更慌てているようだ。自分の責任だと思っているのだろう。彼女だって完全な被害者だというのに、少年や一緒に来た他の連中のようにはならなかった。本当に純粋で良い魂を持った人間なのだと思う。


建屋を出て広場に行くと、エミルが既にスタンバイしていた。


「ラウル。ファートリアだな」


「ああ急ごう」


《ラウル様!》


またいきなりの念話。


ティラだった。どことなく慌てているようだ。


《どうした?》


《ファートリアの南の村から、魔人と数人の人間が避難してきました!》


《なに!》


とうとう何かが始まってしまったようだった。


《怪我人を収容して、情報を聞き出しました》


《どうなっている?》


《村に強力な魔法使いが攻め入って来たようです。かろうじて森に逃げ込んだ者達が、森を横断して二カルス基地にたどり着いたようです》


《村はどうなったんだろう?》


《恐らく全滅した可能性があります》


《分かった…連絡を待て》


《はい》


とうとう恐れていたことが起きてしまった。やはりあの少年一人だけでは無かったのだ。ひとまず南のあの区画に立っていた光の柱は4本、少年の襲撃から考えてもあの光柱の可能性が高かった。


「先生。どうやら南の復興中の村が魔法使いに襲われたようです」


「なんじゃと!」


「どうするラウル?」


皆がざわつく。懸念したことが早速起きてしまったからだ。


「すまないが、行き先変更だ。ファートリア神聖国内に潜伏させているスラガからはまだ連絡がない。恐らく他の光柱は、まだ発動していないはずだ」


「了解だ」


俺は満タンになった魔力で、オスプレイを召喚し少年を乗せて南へと飛び立つのだった。一難去ってまた一難、ルタン付近でのデモンとの接触からケチがつき始めた。


「嫌な空気だ」


俺はぽつりとつぶやく。


飛ぶオスプレイの中でティラに連絡をし、襲撃に備えるよう伝えるのだった。

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[気になる点] 配下のデモンが忘れ去られている…… アイツ使えばいろいろ便利だと思うの
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