第63話 死なばもろとも
2メートル20は超えている大男が大剣をもって見下ろしている。
その大男はグルイス・ペイントス 辺境方面軍バルギウス帝国の4番大隊の大隊長だった。
「おまえが・・アルガルドかぁ・・探したぞ。そっちから来てくれるとはなぁ!」
口の端から血をたらして、大男が俺のほうに近寄ってくる。
《ああ・・さっきのサブマシンガンの掃射が痛かったんだな・・怒ってる。》
「アル!にげろ」
ガルドジンが俺に逃げるように言う。
「アルガルド様!ここは何とか食い止めます!」
「命に代えて時間を稼ぎますゆえ。」
「なんとしてもお逃げください!」
「あなたが生きてさえくれれば!」
牛の頭のやつが、トカゲのような人が、鳥の体をした女が、羽と角が生えた妖艶な女が、口をそろえて俺に逃げろという。
「逃がすわけ、ねえだろうがぁ!」
大男がものすごい覇気をぶつけてきた。それだけで並の者なら萎縮して動けなくなってしまうだろう。野太い顔で俺をにらむ。
「アルガルド・・逃げるのだ。お前だけでも・・」
ガルドジンが俺を逃がそうとしてくれている。魔人たちがよろよろと立ち上がり動き出したが・・どうも・・役に立ちそうもない。
「俺もかなりの怪我で動けないよ・・」
俺はガルドジンにそう伝える。
大男の後ろを見ると、ギレザムとガザムが這いつくばりながらもズズズと前に前に進んでいた。動けないほど痛めつけられたらしい・・殺さないのは・・部下にしたいからなのか・・?
「ゴァァァ」
ゴーグの体が膨らんで来た、狼に変身するつもりなのだろう。が体のあちこちから血が噴き出して思うように変身できないようだった。
「おうおう、そんな体で変身したら死ぬぞてめえ。」
大男がゴーグに対して蔑むように言う。ゴーグは膝をついて倒れてしまった。
「うわっはっはっはっは、言わんこっちゃねえ。じゃあ一人ひとり殺していくかな。」
剣を振り上げて、俺達のほうを睨んでいる。
「毒にやられてさえいなければ・・」
捕らえられている魔人の誰かがつぶやいた。
大男が俺に剣を振り下ろす。
《だめか!!》
俺の体を後ろから誰かが引っ張って剣を避けさせた。目の前には羊のような角がこめかみから生えているやつの背が見える。
「ぐあぁぁぁぁ」
俺を後ろから引いたのは鳥の体をした女だった。剣で斬られるすんでのところで俺を引き戻したらしい。俺の前で叫び声をあげている羊のような角が生えているやつは、左腕を切り落とされていたようだった。
「ダ、ダーマ!」
目が見えず悲鳴を聞いたガルドジンが叫ぶ。
「おいおい、殺す邪魔すんなよ」
シュッ
スパッ!
目の前のダーマと呼ばれた羊男の首がなくなった。シャアアアアと噴水のように俺と鳥女に血が降りかかる。すると横から覆いかぶさるように毛むくじゃらの小男が、俺にかぶさってくるが縦に割れてしまった。
「邪魔だ」
大男が斬捨てたようだった。
俺達はただ蹂躙されるのを待っているだけなのか・・そのときだった。
ズズズズ・・・
ズリ・ズリズリ・・
ザサササ・
ザザザ・・
「ん?どうしたお前ら・・いや・・」
大男が何かに気が付いたようだった。
「キュリウス・・だが気が・・気が違うな・・屍人になったか?」
キュリウスが青白い顔で、グルイス大隊長に向かって剣を構え進んでいく。他の10名の騎士たちもグルイスに剣を向けているようだった、ギレザムとガザムの倒れている後ろからも数10名やってくる気配がする。騎士たちがゾンビになって大男に向かっていく。魔法使いだけが立ち上がらない・・それは俺の狙撃で頭を割られているからだ。
「しかたねえなあ・・お前ら・・ここまでついてきてくれて、ありがとうな。」
前に立ちはだかるゾンビから順番に首を跳ねていた。弔いのつもりか?とにかくスキができた・・大男は俺達にもうできることはなにも無いと思っている。これは・・シャーミリアが俺にくれたチャンスなんとかしないと・・体・・動いてくれよ。俺は唯一、無線を使わないでも話せるシャーミリアに伝える。
《シャーミリア、お前死なないんだよな?》
《はい、光魔法か銀の剣で心臓を刺されない限りは消滅しません》
《わかった。俺がまた光らせる武器を使うから、あいつの動きを止めてくれ。》
《かしこまりました。》
《剣だけは避けろ》
《やってみます。》
あいつは大男に似つかわしくない、ものすごいスピードで動く。さらに勘がするどくこの暗闇でも一直線に俺に向かって来る・・チャンスは一瞬だった。これを避けられて俺が殺されればおそらく全滅するだろう。もしここが全滅すれば街に残してきたイオナやマリア、ミーシャやミゼッタも絶望的だった・・おそらくマキーナではこいつを止められない。
俺は再びM84スタングレネードを3つ召喚した。大男の方に投げ込むと、大男はそれを斬った。しかし次の瞬間・・
バシュゥ!
キィィィイィィン
「ぐう!!さっきから、なんなんだよこれは!!」
M84スタングレネードが炸裂し一瞬大男の動きを止めた。その瞬間、大男が俺が何かをすると思ってこちらに一直線に飛んだ!そこにM240機関銃とバックパックを捨てたシャーミリアがおもいっきり空中でしがみついた。
「ん?」
チャンスはここしかなかった。
ガガガガガガガガガ
12.7㎜M2機関銃から発射された弾は徹甲弾だ。スタングレネードを放った後すぐにM2機関銃を召喚して構えていたのだった。シャーミリアにしがみつかれた大男は動きを鈍らせ12.7㎜M2機関銃の直撃をうけた。
「ぐああああ」
12.7㎜貫通弾は何発も大男の体を貫通し後ろにしがみついたシャーミリアごと、撃ちぬいて10メートルも吹きとばし地面にたたきつけた。大男の腹の部分にはいくつもの大穴が空いていた。
「ゴボァ」
大量の血を吐きだして動かなくなった。
シャーミリアごめん。死なばもろとも作戦のおかげで何とかなったよ。暗闇の洞窟に静寂が訪れた。ENVG-B夜間暗視ゴーグル越しに見ると大男はピクリとも動かなくなっていた。もう・・大丈夫なんだろうか?
ズ・・ズズズ・ズ
うそ!!!ゴーグル越しに大男が動いた!?だめなのか!?死なないのか?
しかし動いたのは・・大男の下敷きになっていたシャーミリアだった。
「お見事です!」
シャーミリアは穴の開いた体で俺をほめてくれた。シュウシュウいいながら穴がふさがっていってるようだった。
「そいつは・・?」
「死にました。」
「そうか・・・・・」
ドサッ!
俺はそれを聞いて倒れ込んでしまった。
「ご主人様!」
シャーミリアが俺を抱きかかえた。とにかく腹からの出血がひどい・・腹をみると小腸がはみ出ているのがわかった・・。俺は気を失いそうになりながらも小腸を腹に押し戻して、手で抑え込むが体が震えてくるのが分かる。
ガタガタガタガタ
死ぬんだろう・・な・・こんな状態で生きれるわけがない。
そう思った時だった。スッと俺の前に、鳥のくちばしをした魔人がやってきて腹の傷にくちばしを近づけた。腹からくちばしへとスゥっと白い光が流れると俺の腹の傷が疼きだす。
「これは・・」
血が止まり傷口が少し塞がる。しかし、くちばしの女はドサっと倒れてしまった。
ん?どうしちゃったんだろう。
「あの・・」
「死んでいます。」
シャーミリアが教えてくれる。
「死んだ?」
すると、ガルドジンが俺に答えた・・
「ガラドだな・・お前を救ったんだ。」
「なんで・・」
「俺達を救ったからだ。」
「・・・・」
「毒で弱っていたからな、力を使えば生きてはいられない。最後の力でお前を生かしたのだ。」
俺は思わず力のなくなったガラドと呼ばれたくちばしの女の手を握りしめた。
「ありがとう・・」
俺はシャーミリアにおぶさりながら洞窟を出た。空が少し薄暗くなってきている・・夜明けが近い。となればシャーミリアとマキーナの行動できる時間もわずかだ。俺は急ぎ皆の場所までもどってきた。
街は・・静かになっていた。
「マリア・・」
「ラウル様!」
ボロボロの俺に駆け寄ってきた。
「怪我を怪我をなさっているのですね!」
「ああ・・治してもらったから問題ない。ただ・・血が抜けて身動きが取れない。」
「そんな・・とにかく車のなかに!」
遅れてミーシャが近づいて来た。
「ああ、ラウル様。ラウル様・・」
ミーシャはただただ泣いている。
俺をイオナが乗るストライカー装甲車に連れていく。街の人たちも心配そうに俺を見ている。
「アルガルド君!大丈夫か!」
ポール王が近寄ってきて声をかけてきた。
「な・・なんとか・・」
「君のおかげで民がたくさん救われた、なんでも協力する!」
「わかりました・・まずは状況を・・把握させてください。」
「わ・・わかった。」
ストライカーの中に俺が運び込まれ、イオナ、ミゼッタが声をかけてくる。中に入ったのは俺と、イオナ、ミゼッタ、マリア、ミーシャ、シャーミリアだ。ポール王があけ放ったドアの外に立っている。
「ラウル!!また・・あなたは無理をしたのね!」
イオナの目からポロポロと涙が出てくる。
「母さん大丈夫だ。死にはしないよ。」
ミゼッタも泣きながら俺を見ている。
「ラウル・・」
だが今は状況の掌握が先だった。気を失いそうに眠いがとにかく話を進める。
「マリア・・状況は?」
「はい、敵兵は沈黙しました。」
「全滅したのか?」
「それは分かりません。目に見える範囲にはシャーミリアの使役する者しか見えません。」
「そうか、まだ街に戻るのは危険だな。シャーミリア、マキーナをこちらに戻せ。」
「かしこまりました。」
マキーナはすぐに戻ってきた。
「ご主人様!なんというおいたわしい姿に・・」
「大丈夫だ。それで街中の様子はどうなっている?」
「生きている物はあらかた掃討したと思いますが、数十名が家の中に潜伏しています。」
「街から出た者は」
「逃げる前に殺しましたので大丈夫です。」
「わかった。」
本当は、シャーミリアとマキーナに人間を一掃してもらいたいのだが・・まもなく夜が明けるだろう。これ以上彼女らを動かすのは得策ではない。
「そろそろ夜が明ける。シャーミリアとマキーナは洞窟に潜伏しろ。」
「しかし・・ご主人様が・・」
「命令だ。」
「かしこまりました。」
そして俺はポール王にひとつのお願いをする。
「ポール王、洞窟のなかにガルドジンと一派がおります。彼らを皆で救出してくださいませんか?」
「わかった!」
「あの・・よろしかったらこれを使ってください。」
自衛隊使用のL型ライトを10本ほど召喚した。
スッっと意識が飛びそうになった。ヤバイヤバイ!まだ気を失うわけにはいかない!これ以上は魔力の消費はできないな。ライトは電池式なので洞窟内で消えることもないだろう。
「マリア。兵士を逃がすわけにはいかない。バルギウス帝国に戻られたり他の隊に合流されたら、またすぐに敵がやってくるだろう。」
「はい。」
「車を街の入り口まで動かせ。銃を持って待機しよう。」
「わかりました。」
「母さんとミーシャとミゼッタはもう一つの車で待機してくれ。」
「一緒に行かなくて大丈夫なの?」
「ああ、こっちに敵がこないとも限らない。待機してくれると助かる。」
「わかったわ。」
そして・・マリアと気を失いそうな俺二人で街の入り口で待ち伏せるのは危険だった。街の入り口にもっと人員を配置せねばならない。
「ポール王・・人を貸してくださいませんか?」
「わかった。」
「街の入り口で俺達と一緒に見張りをする人間を5人ほど。」
「行かせよう。」
「ではみんな、とりかかろう。」
「「「「はい!」」」」
みんな疲労に鞭打って最後の行動に移るのだった。