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第622話 謎の襲撃

光柱が消えた場所から、更に東へ進むとその村があった。そこには俺達がファートリアから南方に送り出した人間達がいるはずだ。送り出したのは750人、それを150人ずつ5つの廃村に分けて送りだしている。そのうちの一つの村だった。村から少し離れたところにヘリを下ろすと、オーク数名が急いで俺の下にやってきた。人間達を監視している魔人達だ。


「ご苦労」


「は!ラウル様!ようこそおいでくださいました」


見た目は俺より遥かにデカいしゴツイ、おっかない見た目をしているが低姿勢だ。


「順調か?」


「ラウル様のおかげで、人間達は素直に復旧作業に明け暮れています」


「そうか。お前たちも、よくやってくれているようだな」


「ありがとうございます!」


オーク達がゴツイ顔でニコニコと笑っている。とてもうれしそうだ。


「それで、最近なにか変わったことがないか聞きに来たんだ。何かなかったか?」


「ございました!」


お!早速情報ゲットか?


「何があった?」


俺は少々食い気味に聞く。


「は!人間の女魔法使いが、騎士の子を宿しました!」


ガクッ!それはいま俺が聞きたい情報ではなかった。確かにそれはそれで大変興味深い話ではある。魂核を書き換えた人間でも恋心を抱くという事だ。やはり本能は本能として機能しているという事なのだろうか?いずれにせよ、俺が心配していた懸念がひとつ減った事になる。だが今はそれじゃない。やはり隊長格の進化魔人達のように、俺の意図を先回りして解釈するような器量はないようだ。


「おまえ、ご主人様が聞きたいのはそういう事じゃないのよ」


シャーミリアが幼児を諭すように優しく言う。まあシャーミリアから見れば、年齢的にも能力的にも幼児どころか、ミジンコ程度なのだからそうなるだろう。彼女は相手が人間ならもっとキツくあたるし、魔人に対しては優しく接する事ができるという事だ。


「失礼しました!シャーミリア様!」


シャーミリアの指摘に、焦るゴツイオーク達。


「周囲の人の動き、不審人物、旅人、冒険者はいた?魔獣や環境に異変はあった?この周辺はどのくらいの範囲で調査しているのかしら?」


「不審な者は見かけておりません。人間の出入りはなく、魔獣は食べる分だけ捕獲出来ています。魔人と魔法使いで班を作り、二カルスの森の中で狩りをしていますが、周辺には異常は無いように思われます。ですが私達の能力では、感知できていない可能性もございます」


シャーミリアの的確な質問に、そのまま的確に答えるオーク。


「あなた達の能力ではしかたないわ。だけどきちんとやっているようね」


「ありがとうございます」


「先生。だとすれば光柱が消えたのは、外部の人の影響ではないという事ですかね?」


「じゃが、ドラグの部下達は足跡を追っていたのじゃろ?」


「は!恩師様そのとおりです」


ドラグと、一緒について来た進化オークが頷いている。


「ここまでは、おかしな気配はございませんでした」


「ミリア。それは既に遠方に行ってしまったという事かね?」


「そうも考えられます」


「そうか。足跡は魔獣の物とかじゃないんだよな?」


「ちがいます」


進化オークが言う。


「人間の可能性という事でいいんだな?」


「人間の物だと思われます。魔人ではもっと大きくなりますし、ダークエルフでは歩幅が合いません。ゴブリンの可能性もありますが、それよりも歩幅は広いようでした」


「あとは、デモンの類かね?」


今度はシャーミリアに聞く。


「しかしご主人様、デモンの残滓はどこにもございませんでした」


「だったな…」


消えた足跡を追って村まで来たつもりだったが、どうやらここには何も来ていないようだった。


「とりあえず村の様子を見て行かんか?」


「そうですね」


村は木の塀で囲われた村だった。あちこちが破損しており、木を通して括り付けた状態になっている。村は全体的に修理中と言う感じだ。やはり大型魔人をある程度の数そろえないと、あの驚異的な復旧は無理らしい。


「ボロボロだ」


「補修作業は南の塀と居住区を重点的にやってます!」


ゴツイオークが元気に言う。


「なるほど。魔獣対策かな」


「最近は減ってきましたが、その通りです」


「ここに襲ってきた魔獣はどうしたんだ?」


「食いました」


「魔人達で獲ったってことか?」


「そうですが、魔法使いと騎士も手伝いました」


「連携して?」


「そうです」


どうやら魂核を書き換えた人間と魔人の相性はいいらしい。ルタン町では洗脳した人間だったが、あそこでも魔人と一緒に行動するのに不足はないとの事だった。となれば普通の人間と比べても、遜色なくやっていると思っていいだろう。


「獲ってるうちに来なくなったんだろうな」


「その通りです。今では二カルス大森林に入らねば魔獣は獲れませんし、人間が入れるのは本当に浅い場所までです」


「そうか」


俺達が話をしていると、人間達がなにか物珍しそうにこっちを見ていた。もしかしたら以前戦った時の記憶でもあるのだろうか?本能的に警戒しているのかもしれない。


「エミル、なんていうか表現はあれだけど、あれミーアキャットみたいだ」


「ああ、言いたいことはなんとなく分かる」


「あいつらに、光柱を消せるとは思えない」


「だよなあ」


ひとまず、この村は光柱とは関係ない事が分かった。探偵ラウルは直ぐに行き詰ってしまったのだった。


「村で問題は?」


「今の所ございません」


ゴツイオークが言うと、ドラグが目を合わせてウンウンと頷いている。その後ろでは騎士や魔法使いたちが、既に俺達から興味を無くしたのか、あちこちで建屋をトントンカンカンやっていた。


「ん?」

「ご主人様!」

「あれ?」


俺とシャーミリアとエミルが反応した。


「どうしたのじゃ?」


「大工の音に混ざって、いま微かに音がしたように思います」


「俺にも聞こえました」


「わしには聞こえなんだ」


別にモーリス先生の耳が遠いわけで無い。俺とエミルは人間では無いので、感覚が人間よりかなり研ぎ澄まされているだけだ。


「失礼ながら恩師様。間違いなく爆発音。もしくは魔力放出の音かと思われます」


シャーミリアには、はっきりと聞こえていたらしい。


「どこからだ?」


「西です」


「なに!」


もしかしたら拠点で何かが起きたのかもしれない。と言う事はカトリーヌやケイナ達の身に危険が迫っている可能性がある。慌てて念話を繋ぐ。


《アナミス!》


《はい!》


《そちらで何かあったか?》


《いいえ、特に何も起きてはおりません。ですが東から爆発音のような物が聞こえてきました》


《東から?》


《はい》


《いったい、どこから…》


《あ!ラウル様!》


《どうした?》


《東で煙が上がっております!方角的には牢獄の方かと》


《分かった!警戒を怠るな!敵が来るかもしれん。俺達が戻るまで守りを固めて、結界の張ってある建屋にカティ達をかくまっていてくれ》


《はい》


アナミスとの念話を切る。どうやら拠点で何かが起きたわけではなさそうだ。


「先生、エミル。どうやら牢獄で何かがあったようです」


「牢獄でじゃと?」

「牢獄で?」


「ドラグ、牢獄はどういう状態になっている?」


「人間達には時おり食料を供給し、生かし続けております。いまは未進化の魔人が10人ずつ交代で、見張りにつくようにしておりました」


「わかった。とにかく急ごう」


「ヘリで行くのか?」

「撃墜の恐れはないじゃろうか?」


エミルと先生に同時に聞かれる。


「先生はエミルのヘリでそのまま拠点に戻ってください。私とシャーミリアとファントムが途中で降下し調査いたします」


俺が切羽詰まった感じで伝える。


「分かったのじゃ!気を付けるのじゃぞ」


「はい」


俺達はヘリまで走り乗り込んだ。ブラックホークは直ぐに西へと飛び立つのだった。


「ドラグと君(進化オーク)は、先生とエミルを護衛してくれ」


「「は!」」


ドラグとついて来た進化オークに伝え、俺は降下準備をし始めた。恐らく降下地点までは直ぐに到着するだろう。


「じゃあ、エミル。先生を頼むぞ」


「わかった」


「先生は拠点の彼女らをお願いします」


「わかったのじゃ」


そう言い残すと、俺は直ぐに空へと飛び出した。


バッ


空に踊り出ると、シャーミリアがすぐに俺を抱きとめて降していく。ファントムはそのまま飛び降りて垂直に落下していった。俺はブラックホークが、西へと飛び去っていくのを確認し、牢獄の方を見る。確かに煙がもうもうと上がっているようだった。


《光柱はそのままだな》


《そのようです。牢獄は破壊されているようです》


風で話が聞こえないので、念話でシャーミリアに牢獄の確認をする。そのまま俺とシャーミリアが着地すると、すぐにファントムが俺達の側にやってきた。あの高度から垂直落下して、どこも破損していないのを見ると、その強度の凄さが分かる。


「ミリア!デモンの気配は?」


「ありません」


「デモンじゃないか…内部からか?」


「そこまではわかりかねます」


「よし。武器を渡す」


「ご主人様、魔力はお戻りに?」


「だいぶ戻ってきたよ。まあ休み無しだったから満タンと言うわけにはいかないけどな」


「では私奴は格闘で」


シャーミリアがいらん心配をしてきた。


「ダメだ、距離をとって対処しよう」


「かしこまりました」


そして俺はシャーミリアにM240機関銃とバックパック、手榴弾を2つ渡す。


「ファントム!お前は自分で出せるか?」


俺が指示するとファントムから、M134ミニガンが生えて来た。バックパックを小脇に抱えて、セカンドバックを抱えたナイスガイになる。M61バルカンだと大きさで機動性に欠けるため、俺の系譜から最適解を読み取ったらしい。


「身をかがめていくぞ」


「は!」


「……」


背の高い雑草のおかげで、ある程度は俺とシャーミリアは隠れる事が出来た。だがファントムはデカいので、かがんでも隠れる事は無い。がさがさと草をかき分けながら進むのだった。


「ま、しかたない」


そして俺達は草をかき分けて煙の上がる牢獄の方へと向かう。牢獄の周りはきちんと整地されていて、草むらが途切れていた。草むらがきれる前に足を止めて建屋の方を見ると、どうやら壁に穴が空いているようだった。あたりには煙が立ち上り、戦闘があったかのような状態になっている。


「気配は?」


「魔人の気配だけ…ですが…」


「なんだ?」


「すみません。魔人達がやられているようです」


「なに!いくぞ!」


俺達は脱兎のごとく、牢獄の方に走り寄る。ファントムもバッチリ後ろからついて来ていた。


「う、ううう…」


「おい!しっかりしろ!」


未進化のゴブリンが倒れて血を流していた。しかもあちこちにゴブリンとオークが倒れているようだ。


「…、すみ、ま…せん」


「しゃべるな」


俺は直ぐにファントムからエリクサーを受け取り、ゴブリンにかけてやる。すると、パァとゴブリンが輝いて傷が引いていく。


「はぁはぁ」


ゴブリンの傷が治りスッと起きあがる。


「ファントム!もっとだ!」


するとファントムの前にエリクサーが並んだ。


「お前、動けるか?」


「だ、大丈夫です」


「これを仲間に!」


「はい!」


そしてゴブリンは仲間の下にエリクサーを持って走っていく。


「私奴も」


「ミリアは回復薬に触るな!」


「しかし!」


「俺がやる!動けるものからやればいい!」


シャーミリアに回復薬は毒だ、万が一かかってしまうとシャーミリアが損害を受けてしまう。緊急事態ではあるが、今は俺とシャーミリアとファントム、3人のうち一人たりとも欠けるわけにはいかない。


「いま助けてやるぞ」


俺が駆けつけたゴブリンは足と両腕がちぎれて吹き飛ばされていた。すぐにエリクサーをかけると手と足が生え、あっという間に回復を遂げる。さすがにデイジー製のエリクサーは効きが良い。


「どうだ?」


「う、助かりました」


「動けるか?」


「なんとか」


「これを仲間にかけろ!」


「はい」


そしてゴブリンにエリクサーを数本持たせると走り去っていく。俺は急いで次の損壊したオークに走り寄る。


「お前!大丈夫か…」


ダメだった。オークの首から上が無い…さすがにこれでは復活は出来なかった。治ったゴブリンたちが仲間達にエリクサーを振りまいて、結果助かったのは6人だった。


「死んだ…」


「ご主人様…」


呆然とする俺にシャーミリアが声をかける。


死んだのはオークが1人とゴブリンが3人。今までは圧倒的に敵を葬って来たが、初めて目の前で魔人を失ってしまった。俺の記憶に仲間だったサナリア領兵の死の記憶が、フラッシュバックする。


「すみませんでした」


俺の周りに、未進化のオークとゴブリンが近寄って来た。彼らは今しがた死にそうになっていたというのに、わざわざ俺に謝罪をしてくれたのだ。そもそもここの魔人達は武器を携帯していなかった。俺の拠点への武器補給が早ければ死ぬことは無かったかもしれない。魔力補給が遅れたことが悔やまれる。


「よく生き残ってくれた」


「すみません」


「何があった?」


「はい」


そして助かったゴブリン達が、ここで起きた出来事を話し始めるのだった。

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