表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

623/951

第621話 消えた光柱調査

ファートリア西部ライン、南の拠点。


《ティラ》


《はい》


《念話を前線に送ってくれ》


《はい》


《北の大陸にてデモン2体に遭遇。ラウル、シャーミリア、ファントムの3名で応戦するも、転移魔法によって対象は消失。なお敵の目的はラウル本人の抹消と推測される。だがシン国周辺にも転移魔法陣設置の可能性は否定できず、前線でも警戒されたし。オージェ、グレース両名も敵の標的になっている可能性がある。もう一つ、こちらで確認されていた光柱が消える事案が発生。目下調査中にて状況が分かり次第報告する。ティラ、以上を伝えてくれるか?》


《はい、伝えます》


ファートリアの一番南の拠点にて、二カルス基地のティラを通じ前線に念話を送った。中継して先までつなげてくれるだろう。内容が変わらぬように端的にまとめて伝えた。


「さてドラグ」


「は!」


「光の柱が消えたのはどのあたりだ?」


「ここより東に10キロほど進んだ草原です」


「ゴーグが仕留めた兵から上がった光柱か?」


「はい。基地の者からはそのように聞いております」


「なるほど。すぐにその地点に行って確認する必要があるな、調査の魔人はどれくらい出した?」


「10名が周辺を探索中です」


「わかった。特に被害は無いな?」


「今の所報告は来ていません」


「了解だ」


ここの拠点にも300人くらいの魔人がいる。進化魔人が50に対し250の未進化魔人だ。他は二カルス大森林基地へと向かっており、兵の準備が出来次第オージェ達がいる前線に送り出す手筈になっている。二カルス大森林基地にいたシャーミリアに選定された魔人達は、すでに前線に配備されていた。


「じゃあカティとマリアは残ってくれるか?」


「なぜです?」


「未知の問題だからだよ。シャーミリアや俺でも対処しきれるかどうか分からない。そして逃げなくてはならない状況になった場合に、少人数なら撤退も容易いからさ」


「それでは仕方がないですね」


「ケイナもそれでいいか?」


「エミルが行くのでしょう?」


「行くのは、俺と先生とエミルだ。シャーミリアとファントムに護衛についてもらう。マキーナとアナミスはこの拠点の防衛にあたる予定だ」


「では私はついて行くべきでは?」


「いや、ケイナ。さすがにこの状況では、ここに残ってもらった方がいいだろう」


「エミルの補佐がいるわ」


ケイナが食い下がる。


「大丈夫だよ。エミルの操縦するヘリはシャーミリアが護衛するから」


「…わかりました」


ケイナは心配そうにエミルを見ている。エミルは安心させるように微笑んで、ケイナの肩をポンッと叩いた。やはり未知の事案と言う事で、かなり心配しているらしい。


「ハイラさんはこの建物から動かないように」


「はい」


「じゃあ先生、まいりましょうか?」


「そうじゃな。なら本部の建屋に結界魔法を施すとするのじゃ、何かあればそこに籠城するがよい」


「わかりました」


「武器は大丈夫か?」


「携帯しております」


マリアが言う。マリアはずっとベレッタ92とP320ハンドガンをホルスターにさし、TAC50スナイパーライフルを携帯していた。マキーナはM240とバックパックとハンドガンを持っている。


「アナはこれにしてくれ」


「はい」


アナミスには、HK UMPサブマシンガンを召喚して渡した。.45ACP弾を使用し重い衝撃を与える為、殺傷力が高いのが特徴だ。貫通力は低いが敵を足止めするのに向いている。


「敵が出たら、これで足止めをして。マリアが狙撃で仕留めるように」


「はい」

「わかりました」


「マキーナは敵を攻撃しやすいところに上空から誘導するんだ」


「は!」


「カティ、みんなに何かあったら治療を頼む。マキーナだけには治癒魔法をかけるなよ」


「もちろん分かっています」


「ハイラさんは、とにかくマリアの側から離れないように」


「は、はい」


ハイラは俺達から離れるので、少し不安になっているようだ。


「ドラグ、本部の建屋の周りに、進化魔人を配備してくれるか」


「既に控えさせております」


さすが。何が最優先かわかっている。俺が教育をしてきたわけじゃなく、魔人軍時代のルゼミアの教えが色濃く残っているようだ。


「じゃあ、行って来る。ドラグ、当該地域に連れて行ってくれ」


「は!」


「じゃ、いってくるよ」


「ご無事で」


「こちらはお任せください」


カトリーヌとマリアが答える。


「エミル。いざという時は上位精霊を召喚したほうがいいわ」


「わかってるよケイナ。行って来る」


「ええ」


「では行こうかのう」


俺達が本部建屋を出て、草を刈った広場に来る。皆ここで訓練をしているらしい。


「ラウル、魔力は大丈夫か?」


「ヘリを召喚しても、おつりがくるくらいは戻ったよ」


「わかった。じゃあブラックホークを」


「了解」


エミルに指示された通り、ブラックホークヘリを召喚した。俺達が乗り込むまで彼女たちが見送りをしてくれている。ブラックホークに乗り込んだのは、エミル、俺、モーリス先生、ファントム、ドラグだった。


「シャーミリア。じゃあ引き続きヘリの援護を」


「かしこまりました」


ブラックホークがローターを回すと、砂ぼこりが舞って残った女性たちの髪が乱れた。皆髪をおさえながら俺達を見送ってくれている。


「エミル。やってくれ」


「了解」


俺達を乗せたヘリは空高く舞い上がり東へと飛んだ。目的地に行く途中で、監獄から光の柱が天に伸びているのが見える。


「ドラグ!あそこの光柱は消えてないんだな」


「は!消えたのは草原にあった光柱です」


「わかった、エミル。あの光柱を避けて更に東へ!」


「了解」


ヘリはさらに東へ飛ぶ。前には広大な草原が広がり、右手にはどこまでも続く二カルス大森林が広がっていた。見渡す限りの緑に、この世界の壮大さを感じる。少し飛んでいるとドラグが言った。


「ラウル様。このあたりです」


「エミル、このあたりだ!降ろしてくれ」


俺が言うとヘリは高度を落としていく。そして草むらに着陸をした。


「先生、足元に気を付けてください」


「ふむ」


先生の手を取っておろし、他の奴らは自分で飛び降りた。


「エミル!いつでも飛び立てるようにしておいてくれ!」


「了解だ」


「シャーミリアは周囲を警戒しつつ、ヘリを守れ。攻撃してくるものがあったら、殺していいぞ」


「よろしいのですか?」


「わからんが、想定外の事が起きる可能性がある。最悪ヘリを捨ててエミルを連れて飛べ」


「かしこまりました」


エミルをチラリと見ると俺に親指を立てている。俺も返すように親指を立てて返事をした。


「ドラグとファントムはモーリス先生を死守だ」


「は!」

「……」


「ドラグどのあたりだ?」


「こちらです」


俺達はドラグに連れられるままに、草原を進んでいく。草の背丈が俺の腰辺りまであり、だいぶ歩きづらかった。ドラグが槍を振り回して、あたりの草を飛ばして歩きやすくしてくれる。一振りでバッサリと草が飛ぶのが、まるで草刈り機のようだった。


「先生。森に近いから、何か森から来たとか考えられますかね?」


「どうじゃろうのう。実は皆目見当がついておらん」


「そうですか」


草刈り機のように進むドラグだったが、あるところに来ると大きく草が刈られ円形になっていた。


「これは魔人が整備したのか?」


「そのとおりです」


その円の中心には、人の骨らしきものがあった。だがそれは人間の形を留めていなかった。いろいろと足りないものがあるように見える。もしくは既に風化して無くなってしまったのかもしれない。


「ふむ」


モーリス先生が、じっと黙ったまま考え込んでいる。一体何が起きたのか見当もつかないようだ。


「…どうでしょうか?」


「なるほどのう。魔力の残滓がある」


少しの糸口が見えたようだ。


「残りかすのようなものですか?」


「もしかすると、強力な魔力が発生したのやもしれん」


「強力な魔力が?自然発生的にでしょうか?」


「わからぬ。じゃが、敵の大神官とやらが使う、魔法陣の力にも似ておるように感じるのじゃ」


「あの転移魔法陣ですか!ならばデモンでしょうか?」


「いや、それは分からぬ。転移魔法陣の類ではないのじゃ」


転移魔法陣ではないが、何か似たような魔力の動きがあるのだと先生は説明した。俺にはそれがどういう事が分からないが、何か通常の理ではない事が起きたという事だろう。


「これは…、シャーミリアに見てもらうしかないですね」


「ふむ」


《シャーミリア!どうやらここには、危険なものは確認できなかった。エミルを連れてここに来てくれ》


《かしこまりました》


ドン!


シャーミリアが瞬間的に俺の側に出て来た。その腕にはエミルを抱えており、エミルが泡を吹いて気絶している。


「おい!俺じゃないんだぞ!手加減をして飛ばないと、とんでもない事になるだろ!」


「も、申し訳ございません!どうしましょう!」


俺はファントムからハイポーションを受け取り、エミルにかけてやった。


「あ、はっ!」


息を吹き返した。


「すまん」


「俺はどこ、ここは誰?」


神だから死ぬことは無いと思うが、何かしらの障害がでたらしい。エミルがバグっている。


「こっちこっち」


「あれ?俺いま、ヘリに座ってたのに?」


「ちょっと来てもらった」


「そうか…」


狐につままれたような顔で、あたりを見回している。


「ミリア。ここにデモンの気配を感じるか?」


「まったく感じ取れません」


「何か気配は?」


「申し訳ございません。私奴には感じ取れぬようです」


「そうか」


どうやらデモンの類ではないようだ。そもそもアブドゥルの魔法で確認できているのは3種類、転移魔法、インフェルノ、デモン召喚だ。そのどれでも無い可能性が出て来た。


「ラウルよ。光の柱はハイラ嬢ちゃんに関係があったものでは無かったかの?」


「そうです。彼女を守る巨大魔石が生み出した魔石粒が原因です。それを飲んだ人間が死んだ場合にこうなるのです」


「この状況から推測すれば、デモンや敵の魔法の関連ではないと思えるのじゃが」


「そうですね。繋がりが無さすぎますし」


「じゃな」


そして俺達はまた考え込んでしまった。この人間の骨は間違いなく、ファートリアから送られて来た敵の騎士の物だろう。しかしその骨はほとんど残っておらず、鎧や服なども見当たらない。何が起きたというのだろう?全くの見当がつかなかった。


サササササササ


風が吹いて草原の草を撫でて行った。少し風がでてきたようだった。


「魔人です」


その風に乗ってかシャーミリアが何かを感じ取って言う。どうやらシャーミリアは調査隊の気配を感じ取ったらしい。


「ラウル様。部下達です」


ドラグもそれを肯定するように言う。南東の方から10名ほどの魔人がこちらにやってくるのが見えた。


「ご苦労!」


「「「「「これは!ラウル様!」」」」」


進化魔人達は俺を見るなり、あわてて跪いて挨拶をした。いきなりここにいるとは思わなかったらしい。


「報告が欲しい」


「は!我々がここを調査した結果ですが、何も見つける事は出来ませんでした」


「ゴーグからは光の柱の事は聞いてなかったんだけどな」


「そうですか。兵達からはそう聞いていたのですが」


「光の柱を見つけたとゴーグとタロスの班が、ファートリア聖都に来た時言ってたから、それかもしれん」


ゴーグは人間を仕留めてはいない。ここにいる全員がそれを知らなかった。ゴーグは主人の言いつけを守り人間を傷つけなかったのだ。その時死んだのは、ハルピュイアが空を飛ぶ翼竜を落とした際に落下して死んだ3人だけ。さらに、ここにあった光柱はそれとは全くの別物であった。


_____________________


最前線基地では…


「くしゅっ」


最前線の砂漠近くで、ゴーグがくしゃみをしていた。


「なんだ?ゴーグよ。風邪か?こんなに暑いのに。ライカンが風邪なんておかしいぞ」


「いや、違うよギル。なんか鼻がムズムズして」


「なんか臭うのか?」


「いや、まったく」


「なるほど。逆に体がなまっているのかもな、戦闘訓練でもするか?」


「いいね!やろうやろう!」


前線で二人がそんなやり取りをしている事を、ラウル達は知る由も無かった。


《ギレザム!》


そんな時いきなり念話が入るのだった。


《どうしたルフラ!》


《ラウル様からの通達だよ!》


《なに!》


「戦闘訓練はお預けだね」


「ああ、またな」


「うん」

_____________________


二カルス北の草原にもどる


「それでこの先には、何も無かったんだな」


「おっしゃるとおりです。ラウル様」


草むらで膝をつきながら、進化ダークエルフが俺に報告を続けていた。


「ならどこに行っていた?」


「足跡です」


「足跡?」


「はい。正体不明の足跡が続いておりましたので、それを追いました。ですが川を境にその足音は消えておりまして、川下に向かって捜索しましたが何も見つかりませんでした」


「ファートリア聖都から来た誰かかもしれん」


「こちらに人を?」


「ここから東に行けば一度滅びた村があるらしい。そこを復興させるために人を仕向けた」


「そこから来た人間でしょうか?」


「わからん」


「それじゃあ、そこまで足を伸ばしてみるかの?」


「そうしてみますか」


俺達はさらに東にある、復興途中の村へと飛ぶ事した。そこの人間がこちらに来て何かしたかもしれない。だが、完全に魂核を書き換えた人間に、自分の判断でなにかをやれるかは疑問だった。まずは話を聞いてみるしかないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ