第62話 殺戮の騎士団長
洞窟内をみるとオーガ3人は肩で息をし膝をついていた。
苦戦を強いられているようだった。
空洞は広く200メートルはあるだろう、その最奥で戦いは繰り広げられていたようだった。
ナイトスコープで見ると、洞窟の奥にいたのは膝をついたオーガ3人、敵騎士10人魔法使い3人、結界に囚われている10人ほどの人だった。騎士のうち9人が結界を維持している魔法使いを守っていた。敵の騎士にデカイ奴がいるがそれが仁王立ちになって見下ろしている。という事はコイツ一人で・・ギレザム、ガザム、ゴーグの3人と戦って優位にいるという事か・・
数名の騎士がそこらに転がっているが、10人は死んでいるようだった。
「よくも俺の部下を殺してくれたなぁ」
悲しみも何もない、むしろ笑っているような表情でそう言っているのは大隊長のグルイス・ペイントスだった。野太い眉毛と丸太のような腕と足、胸筋が鎧を押し出している。筋肉の塊の大男がそこにいた。絶対、世紀末じゃ御輿に座ってるタイプだ。
「まったくです。お前たちのせいでいらぬ損害を被りました。」
結界のそばに立っている、グルイスよりは細身だが、そこそこ鍛えられた体をしている女のような顔をした男がそういった。2番隊隊長のキュリウス・ライアーだった。
「ぐぬぅ・・汚い真似を・・」
「いいえ戦いというものは非情なものです。当たり前の行動をしているだけですよ。」
《うん、敵の細面の騎士がそう言っている。それは俺も同感だ・・戦争にルールもくそもあるかい!やったもん勝ちだ。勝てば官軍ということだ。ギレザムよ・・非情に聞こえるかもしれないが・・そうなんだよ。》
「しっかし頑丈だなお前ら、俺の部下になる気はないか?」
グルイス大隊長がオーガ3人に語り掛ける。
「誰がお前の部下などに、いま縊り殺してやるからまっていろ!」
ギレザムが肩で息をしながら答えるが、どうやっても勝ち目がなさそうだ。
「どうやって勝つつもりだ?」
「そうです、お前たちは魔人だけに効く毒を吸い込んでしまっているのですよ。屍人でもない限りはかなり苦しいはず・・よくも耐えてますね。褒めて差し上げます。」
キュリウスが見下したように言っている。なるほどね、だからシャーミリアには効かないのか。俺には魔人の血が入っているからな・・危険だということか。
「殺してやる・・」
ゴーグがつぶやくがほとんど生気がない。
さて・・どうするか・・?
仲間を人質に取られているような状況だな。さらにオーガ3人は先の洞窟内で毒を吸い込んでいるとみていいだろう、弱体化している。本来の強さが発揮できていないようだった。オーガでこんなに効いちゃうとはな・・シャーミリアの言う事を聞いて、罠の場所で85式防護マスク4型ガスマスクつけといてよかったわ。
俺は早急に作戦を考えシャーミリアに小さい声で伝える。
「シャーミリアこれ耳に入れろ。」
「かしこまりました。」
「そしてこれを装備しろ。」
「はい。」
シャーミリアに渡したのは、召喚した米軍が使うTCAPSスマート耳栓だ爆破音や銃声から耳を守り、上官や仲間の声だけをひろうという優れものだ。自分も同じものを耳に入れる。そして装備させたのは市街戦で兵士を蹂躙した時に使用した、M240機関銃と弾倉500発のバックパックだ。7.62x51mmを毎分700発発射できる。少しでも使い慣れた物がいい。
「あれは、光属性の結界だよな。」
「はい。」
「だとお前、破邪の魔法とか使われたら動けなくなる?」
「不甲斐ないのですがそのようになります。最悪は消滅します。」
「わかった。」
消滅されたら困るがな・・。
まずは、こちらの戦力を有効に使うにしても魔法使いは邪魔だ。B&TのAPC9サブマシンガンを背中に背負い、バレット M82対物ライフルを静かに召喚して、FWS-Sナイトビジョンをつけ位置につく。
洞窟の中に入ったのでやっと無線がつながるはず。
「ギレザム、ガザム、ゴーグ聞こえるか?返事はしなくていい。」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
3人とも気が付いたようだな。イヤホン越しに聞こえているから相手は気が付いていないようだ。
「今から魔法使いを殺す。結界がとけたらすぐに仲間を救出しろ。」
おそらく、あの大男はこっちに気が付くだろうなあ・・
「シャーミリア、この洞窟の天井は高いか?」
「100メードはあるかと。」
「なら広場の中に入り空中で待機しろ。」
「気づかれますが・・」
「囮だ」
「俺が魔法使いを殺したら魔人たちに合流して、騎士たちを殺せ。」
「かしこまりました。」
「くれぐれも斬られるなよ。」
「善処いたします。」
俺の方が危険かもしれないが・・どうかな・・
スッっとシャーミリアは消えていった。
「ん?なんだぁ?ネズミが入り込んだなあ・・」
すぐにシャーミリアが侵入したのを気が付かれてしまった。やはりあの男はただモノではないな・・
大男がシャーミリアに意識を向けてそらしたため、照準を合わせていたバレッタM82 の引き金を引く。
ズドン!ズドン!ズドン!
バスッ、バスッ、バスッ
魔法使い3人は頭から血を吹きだして倒れた。魔法使いがいなくなったことで結界の光が消え闇が洞窟内を支配する。すると猛然とものすごい気がこちらに迫ってきた!敵の大将が大男らしからぬ速力で近づいてくる。
「やっぱ気づかれるよな。知ってたよ」
俺は逆にそいつに向けて突進し、M84スタングレネードを一瞬で4個ばらまいた。
ガスン!ガスン!ガスン!ガスン!
キィイイイィイイイイイイィィィ!!!
170-180デシベルの爆発音100万カンデラが一気に周囲を照らした、これで街にいた強い騎士はぐらついたんだ!間違いなくこいつも・・・
突進してきているそいつは一瞬スピードを遅らせたが、そのままの勢いで俺の目と鼻の先まで来て剣を水平に薙ぎ払ってきた!すれ違いざまにバレッタM82で受け横に飛ぶが、対物ライフルは一刀のもとに両断され横っ腹を深く斬られて吹き飛んでしまった。
くそ!止まらないのか!!!
ゴボッ
俺は大量に血を吹きだして飛ばされた。
《いってぇぇっぇぇ!し・・死ぬ死ぬ!!》
しかし幸いなことに意識は途切れなかった。!?次の瞬間に大男は既に目の前にいた!この暗闇で見えてんのか!?俺はすでに、背負っていたB&TのAPC9サブマシンガンを寝っ転がりながらも大男に向けていた。
ガガガガガガガガガガガガ
暗闇の中にサブマシンガンの光が散る
「ぐぉぉぉぉぉぉ」
近距離から9mmのXM1153ホローポイント弾を喰らった大男は、唸り声をあげて動きを止めた。
「ガハッ!」
吐血しながらも、次の瞬間すぐに動き出して俺を斬りにきた!振り下ろされる大剣!
《終わったぁぁぁ》
ギィィィィィィン!
俺の目の十センチで剣がとまった。
「ラウル様大丈夫ですか!!」
ギレザムの剣だった。間一髪で俺のところまで来てくれたらしい。
捕らえられている仲間たち周辺では、シャーミリアのM240機関銃の掃射音が聞こえた。
ガガガガガガガガガガガガガガガ
どうやら騎士たちを掃討しているらしかった。集中していたのでその音が聞こえなかったが、ギレザムが来たことで意識を数か所に巡らせることができた。
「だ・・大丈夫じゃないかも・・」
「よくも!ラウル様を!」
ギレザムが大男を剣で薙ぎ払うが、すんでのところで後ろに跳躍し剣を逃れる。
「痛ってえな・・小僧。体がちぎれそうだったぞ・・なにをした?」
大男が俺に叫んでいる。
APC9サブマシンガンでのXM1153ホローポイント弾の乱射を、至近距離で受けたのが効いたらしい。
《しかし・・至近距離で受けても倒れないとは・・普通の人間は即死だろう。この男モンスターにもほどがある。 レッドベアー顔負けのタフさだな・・。それに動きは巨体とは思えないほど俊敏だ。身長は2メートル20センチはある・・至近距離の9ミリ弾で損害を与えられないほどの筋肉とか・・反則だ。グラムが話していた気が関係してるのか?》
そして・・剣がデカすぎないか?ものすごい大剣だった。
「コホー、コホー」
「なんだその変なお面は・・」
85式防護マスク4型をかぶっているため息苦しい・・斬られた腹からも出血しているようで、力が抜ける・・
シュパっ!
大男のいた場所をかぎ爪が通り過ぎた、大男は横跳びでそれを回避したのだ。
「おお、死にぞこないのライカンじゃねえか、まだ動けんのかてめえ。」
シュ
二本の短剣が後ろから差し込まれるが、大男はそれも躱した。ガザムが後ろから忍び寄り剣を差し込んだようだったがそれも読まれた。ガザムの気配を捕らえるとは相当の達人とみていいだろう。おそらくは・・こいつが大ボスだ。
「まったく、お前らの攻撃は読めてるんだってーの。そらっ!」
ブン!
大男が持つ大剣がシュンと消えた!
ガキィィィイィ
ガザムが2本の短剣で受け止め、自ら後ろに飛んで躱すが大男の剣の威力が上回るらしく、血を吐きながら派手に吹き飛んでいく。
「コフー!」
いきなり!ゴーグが俺の首根っこを掴んで走っていた。
「ま、まてまてまて!」
少し距離を置いてゴーグが止まる。
「ラウル様逃げましょう!」
「いや・・俺を、ガルドジンたちのところに連れて行ってくれ。」
「はい」
一気に倒れている魔人たちの元へ連れていかれる。
魔法使いがいなくなったことで結界が解かれていた。かなりの時間毒を吸いこんでいたため魔人たちは身動きが取れないらしい。10人ほどの魔人が力なく座り込んでいた。ひとりは目をつぶって動かない・・死んでいるのか?
「大丈夫ですか?」
牛の顔をした男に聞いてみる。
「身動きがとれない・・」
「父さんは?ガルドジンは?」
俺が聞くと魔人たちがざわついた。
「あ・・あなたがアルガルド様!」
「やっと来てくださったんですね!」
「あなたの・・父上が・・」
「不甲斐ない我々をお許しください。」
牛の顔のやつが、羊のようなつのがこめかみから生えているやつが、トカゲみたいな顔をしたやつが、体が鳥のような女が、羽と角が生えた妖艶な女が、口々に俺に声をかけてきた。そしてその中心に横たわって目をつぶっているのが・・俺の父親であるガルドジンらしい。
すると・・ガルドジンが目を開いた。
だがその目は曇り・・俺を捉えてはいないようだった。
「これは・・?」
「毒を直接飲まされました。」
体が鳥のような女がおれに教えてくれる。すると寝ていた男は手を誰もいない空虚にかざして言う。
「アルか?アルガルドなのか?」
俺はその手を掴んで声をかける。
「ああ、父さん。俺がアルガルドだ。」
「そうか・・そうか・・たどり着いたのか。」
「グラムの妻だった俺の今の母さんも一緒につれてきたよ。」
「イオナさんも無事なのか・・よかった・・」
ガルドジンは光の無い目から涙を流している。
「こんな・・無様な姿をさらしてしまって・・すまないな・・ゴフゥ!」
いきなり大量の血を吐いた。
「いいよ・・父さん、あと・・話さないで。」
「ぜぇぜぇ、いいんだ・・、お・・お前も怪我をしているのか?」
「ああ、俺もやられてしまった。」
「くっ!!くそ!ゴボッ」
また・・血を吐きだした。かなり重傷だ・・早くなんとかしてやりたい。もうグラムの時のように無力な俺ではないはずだ。どうにかできないのか!?
「ようよう、俺をほったらかしにして感動の親子の再会というわけかい?」
大男が近寄ってきた。暗闇もまるで関係無いように歩を進めてくる。
「がぁ!」
ゴーグが力を振り絞って大男に向かって飛びつくが、目にも見えない速さで剣をふられ直前で止まる。
「まぁったくライカンってな勘が良いよな。」
「くっ!」
「しかしオーガのやつら・・本当にしぶてぇ。」
大男の後ろにはギレザムとガザムが倒れていた・・・殺された?
大男は俺達全員を仁王立ちで睥睨するのであった。