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第617話 もう一人のデモン

木陰から出てきたのは少年だった。特徴は一目瞭然、目の前で捕らえられている少女風のデモン、バティンに似ている事だ。だが体つきや雰囲気は男で、濃い紫色の髪の両側からは巻きツノが上に向けて生えていた。


《双子かね?》


《かなり似ておるようですが、あれもデモンです》


《この状況だと動くに動けないな》


《私奴があやつを仕留めましょう》


《まて、どんな攻撃をしてくるか分からんうちは近寄るな》


《かしこまりました》


「なに黙りこくってんの?せっかくあたしが来てやったんよ?」


誰に言っているんだろう?俺達?バティン?


「ボクはお前に助けてもらおうなんて思ってない」


なるほどバティンに話しかけていたようだ。だが、俺達を前にしてずいぶん余裕がある。


「ふーん。じゃあ、あたしは帰るね」


「まって!」


「なんだ、困ってんじゃん」


「早く助けろ!」


俺達を無視して会話が続いている。


ピキッ


シャーミリアから音がした。理由は分かってる。俺を無視して話し合っている事が気に入らないのだろう。


「どうしよっかなあ?」


「おいゴミクズども。ご主人様の御前で何をごちゃごちゃとやっている?」


ピキピキ


「はあ?いまあたしに言ったの?」


「そうだ。お前はその蛆虫のような姿を、ご主人様の御目に晒している。そして、それ以上反吐を吐くのをやめろ」


「魔人風情がデモンにモノを申すなんて、時代が変わったのかね?」


《ミリア、煽られてるだけだ》


俺はシャーミリアが無茶をしないように促す。


《しかし》


《ファントムはバティンを離すなよ》


《……》


《俺と二人で攻撃を仕掛けてみるか?》


《かしこまりました》


しかし、あたしとか言ってるけど女なのだろうか?どこをどう見ても少年に見えるし、バティンはボクって言ってるけど、どう見ても少女だ。


とりあえずミリアと俺で、少年風デモンに攻撃を仕掛けようとした時だった。


グモォォォォォ

ガアァァァァァ

グアァァァァン


いきなり周辺から、今にも狂いそうな魔獣たちの叫び声が聞こえてきた。どうやら四方からこっちに迫ってきているらしい。


《なんだ?》


《魔獣のようですが、気配が変です》


バキバキと木々を倒して現れたのは…レッドベアーやシルバーウルフ、ビッグホーンディアやグレートボアだった。だが…おかしいのはその姿。骨が見えるものがいる、脳が露わになったものがいる、腹に大穴を開けたものがいる。


「なんだ?」


「気配はグールのそれです」


ズドドド


《速い!》


レッドベアーが突進してくるが、その速度は普通のレッドベアーの比では無かった。とてつもなく速い、他の魔獣たちの動きも早かった。ファントムほどではないが、それでもかなり運動能力向上をさせているらしい。


「あぶなっ」


俺がグレートボアグールの突進を避け、シャーミリアがレッドベアーグールの首を斬り飛ばしていた。俺が避けた先にはシルバーウルフグールが群れをなしている。俺は後ろ向きにウージ―を乱射するが、グールなのでびくともしないようだ。シャーミリアは俺から離れ、大量の魔獣グールを始末せざるを得なくなった。


「よっ」


俺はAT4ロケットランチャーを召喚し、シルバーウルフグールの群れに打ち込んだ。すると数匹のシルバーウルフグールが木っ端みじんになる。使い捨てなので、俺は次々に召喚してランチャーを打ち込み始めた。


「ご主人様!」


「こっちは気にするな!とにかく1体でも多く始末しろ!」


「は!」


俺とシャーミリアが魔獣グール達に囲まれて乱戦になる。ただでさえ強い魔獣だが、グールになる事で能力が大幅にアップしているようだ。


「多いな」


魔獣グールは次々に森の奥から現れて増えて来た。


「あれ?なんで全然死なない?なんだその魔法は?」


少年風デモンが言った。だがそれにこたえる義理立ては無い。


《ミリア。これの元凶はあのデモンだ》


《そのようです》


《一回、俺を抱いて飛べ》


《は!》


ドシュッ!シャーミリアが瞬間で俺の下に現れ、俺を抱いて上空に舞う。俺はすぐさまMk.81爆弾を召喚し、グールの群れに投下した。


ズドゥンッ


森に響く轟音に魔獣グールが飛び散る。俺は再び爆弾を10個召喚して落下させた。


ズドゥンッ!バグゥゥン!ドゴーン!


そこいらじゅうを絨毯爆撃していると、シャーミリアがの飛行が乱れた。


「どうした?」


「飛翔するグールのようです」


どうやら俺達に、タラム鳥グールが体当たりを仕掛けて来たらしい。シャーミリアが爪でタラム鳥グールの首を狩ると、そのまま落下していった。


「あちこちから来たぞ」


「降下します」


「シャーミリア!俺を抱いたままでは邪魔で迎撃が出来ないだろ!手を離せ!」


「出来かねます!」


そのままシャーミリアと森に降りると、爆弾で穴だらけになっていた。魔獣グールはあちこちに四散しているものの、まだ数は残っていた。


「やっかいだ。何で死なない?」


そう言ったのは少年風デモンだ。


「なにやってるんだ!それよりもボクを早く助けろダンタリオン!」


「うるさいよ。お前がつかまってんのが悪いんだろ!あたしは悪くない」


「来るのが遅いのが悪いんだろ!」


「お前があたしの召喚を待たなかったんじゃないか!」


「使えないグール増やしたってむだなんだよ!」


「お前の巣はどうしたんだよ!」


「うるさい!」


うん。完全に俺達を無視しているようだ。もしかしたら本当に幼いのだろうか?いや、相手はデモンだ。絶対に油断はできない。


《シャーミリア、俺を抱いたまま。あの少年デモンの後ろに!最大スピードだ》


《は!》


ドシュ!


くうっ!とにかく意識を保て!


少年デモンの後ろに出た瞬間、俺は12.7㎜重機関銃を召喚しフルで掃射した。


ガガガガガガガガガガ


「いでぁ!なんだこれぇ!」


足や腕を四散させて吹き飛んでいくダンタリオンだったが、空中で既に腕と足が生えてきていた。この再生能力は厄介だ。


《頭を飛ばせなかった!》


《もう一度試しましょう》


《よし》


俺は12.7㎜重機関銃をいったん捨てる。シャーミリアの瞬間移動にも匹敵する飛翔に、12.7㎜重機関銃を持ちながらでは耐えられない。


ドシュッ、また一瞬でダンタリオンの背後に現れた。瞬間で12.7㎜重機関銃を召喚して撃ち込む。


ガガガガガガガガガガガ


「いっでぇ!ぐっそぉ!」


間一髪で頭への直撃を避けたダンタリオンだったが、手足を四散させて吹き飛んでいく。だがやはり空中で手足が生えてきているのだった。地表へ落下する寸前にシルバーウルフグールが、ダンタリオンの首根っこを噛んで走っていく。


《この攻撃は有効みたいだが》


《続けましょう》


確かに今はこの攻撃しか有効打になる物は無さそうだ。だが新しい攻撃パターンを考えなければ、そのうち相手に読まれてしまう。


「あははははは!ダンタリオンもダメじゃん!」


「うるさい!助けに来てやったのになんだ!」


「お前馬鹿だから、そうなるんだ!」


「お前に言われたくない!」


また喧嘩を始めた。


《こいつらは連携という物を知らんのだろうか?》


とにかくここでなんとか仕留めないと、面倒な相手だという事だけはハッキリしている。

俺が重機関銃を捨てると、再びシャーミリアが俺を抱いてダンタリオンの下へ飛ぶ。だが俺達に向けて凄い速度で落下してくるものがあった。シャーミリアはそれがぶつかる直前に止まり、それをやり過ごす。落ちて来たのはタラム鳥だったが、全部地表に落下してぐちゃぐちゃに四散してしまった。


《ミサイルみたいだ》


《あのような使い方をするとは》


さらに俺達が近づこうとすると、ダンタリオンは魔獣グールで自分の周りに壁を作り出したのだった。どうやら魔獣グールはゴーレムのように、ダンタリオンの指示通り動くらしい。


《じゃあいい、徹甲弾を使う》


《は!》


俺はまた手ぶらになり、ダンタリオンを囲む魔獣グールの塊を目で追う。


ドシュッ


ドン!


シャーミリアが飛翔した直後、俺が徹甲弾を放ったのはAW50対物ライフルだ。12.7x99mmの徹甲弾の至近距離からの攻撃は、魔獣グールの壁を突き破り、中のダンタリオンを捉えたようだった。


「ぐあっ!」


手ごたえはあった。だがその魔獣の塊は猛然と走り始める。死んではいないらしい。


「あそこに、もう一つ塊があるな」


「あれはバティンを捉えたファントムです。魔獣グールに群がられているようです」


《ファントム!バティンを離すなよ!それを突破してこっちに走れ!》


ボグゥゥ


魔獣グールを吹き飛ばして、ファントムが姿を現しこちらに向かってきた。きちんとバティンを離さずに抱えているようだ。デモンを固定しつつ動き回れるなんて、恐らく魔人軍ではファントムぐらいの物だろう。


「ダンタリオンとか、いうやつをどうするかだな?」


「だんだんとこちらの攻撃を読んできているように思われます」


「そのようだ。何とか一体は殺さないと、ここから動けないぞ」


「ではダンタリオンではなく、ファントムが持っているあれを」


「だな」


俺とシャーミリアは標的を変えて、既に捕らえているバティンを始末する事にした。ファントムと合流して俺が至近距離からM134ミニガンを掃射すればいい。


ドドドドド


「うお!」

「邪魔を!」


次の動作に移る前に、津波のようになって魔獣グールが押し寄せて来た。行く手を阻まれて俺達は迂回を余儀なくされる。


「ん?」


どうやらその隙を狙って、魔獣の塊になったダンタリオンがファントムに接近していたのだった。何を企んでいるのか分からないが、こちらが先回りをしようとすると魔獣グールの壁が出来て阻止されてしまう。


「この馬鹿!」


「うるさい!」


ダンタリオンが魔獣の塊の中から飛び出して、ファントムではなくバティンに手を伸ばして飛びかかった。


なんか嫌な予感がする。


「ファントム!そいつを離せ!出来るだけ離れろ!」


バッ


ファントムがバティンを突き放し、一瞬で遠くに飛びのいた。


バシュゥン

パリパリパリパリパリ


ダンタリオンがバティンに触れたとたんに、凄い光が立ち上り瞬く間に消えてしまった。あたりには電気が走ったかような光がバチバチと音を鳴らしている。あたりが落ち着いて来ると何が起こったのか見えて来た。


「転移だ」


「そのようです」


地面も周りの木も周辺にいた魔獣グールたちもともに消えて、球体のようにその場所がえぐれていた。


「あれは転移罠の応用の…」


「はい。かつてご主人様を連れ去った、あの忌まわしき人間転移罠のようです」


「そのようだ。連れ帰るために敵が仕掛けて送って来たのか、あるいは緊急脱出用だったのか。とにかく逃げられてしまったな」


「もうしわけございません」


「どうしようもないさ、それよりも…」


「残った魔獣グールでございますね」


「そのとおりだ」


どうやら魔獣グールは、デモンが消えた後にも無秩序に暴れまわっていた。ただ求心力を無くして、四方に散り散りになりつつある。魔獣グール同士で噛み合ったりしているものもいる。もしかしたらこのまま自滅してくれるかもしれないが、ほったらかしにして近くの都市にでも紛れ込まれたら困る。ルタンの兵たちが狩りに出た時に殺される可能性も高い。


「シャーミリア。俺を抱いて上空に」


「は!」


「ファントムは出来るだけ離れろ」


そして俺とシャーミリアが上空に飛んだ。すぐにMk.84無誘導爆弾(908キロ)の爆弾を数発召喚し、それを一気に投下した。眼下の森では巨大な爆発が起こり、木々をなぎ倒していく。その後ナパームを投下して森を焼いて行くのだった。


「これくらいでいいだろ」


「あとわずかですが魔獣グールが残っております」


《ファントム!地表の魔獣グールを全て殲滅しろ!》


《……》


地表のあちこちで暴れまわる音が聞こえる。ファントムが、あっという間に始末したようで静かになった。


「離れた場所に降りてくれ」


恐らく下は灼熱地獄なので、離れたところに降りるように指示を出す。


「かしこまりました」


俺達が焼け続ける森の脇に降り立つと、そこにファントムもやって来た。ファントムはあちこち黒焦げになっているようだが、どこも破損している場所はないようだ。


「どう思う?」


「気配は全く感じません。おそらく既にこの周囲にはいないかと」


「だな。今頃どこかの転移魔法陣から出てきているだろうな」


「はい」


「西の山脈は調べてなかったから、あのあたりかもしれん」


「デモンであれば、山脈など造作も無く越えて来るでしょう」


「西側地帯の魔人軍基地をかなり増強して良かったよ。どこから攻められたとしても、あのクラスのデモンなら防ぐことができる。ただその数がどれくらいいるかだな」


「今までのデモンとは質が違うように感じました」


「ああ。真っすぐの攻撃じゃなかったからな、ネビロスかそれ以上の敵だ。俺達の攻撃パターンを少し読まれたな」


「想定して強化をすべきだと思われます」


「だな、敵の能力と強さは覚えたか?」


「完全に」


「上出来だ」


俺とシャーミリア、ファントムは焼け野原になった森を後にして、モーリス先生たちが待機している場所に向かい走り始めるのだった。北の大陸に脅威がある事が確認できたのは大きい。それを踏まえ東の軍備拡充を急がねばならないと思うのだった。

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