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第613話 神たちの企み

ラシュタル基地の武器補給を終えた俺達は、オスプレイでルタン町に飛んだ。数度目の来訪となるルタン町はさらに発展したようで、既にどこかの首都並みの大きさになっていた。空から見た夕方の街並みは、かなり広範囲に広がっている。


「お待ちしておりましたラウル様」


ダークエルフの副長だったダラムバが郊外で俺達を迎える。ウルドとは違いどこかワイルドな香りのするダークエルフで、イケメンなのだが目つきがなかなかに鋭い。濃いめのグレーの長い髪を後ろで一本に結っていた。


「今回の滞在は短い、依頼していた件はどうかな?」


「準備は出来ております」


「ならすぐにそちらに向かう、パトス町長には伝えなくていい」


「はい。内密にと言う事でしたので」


「おっけ」


ルタン町はグラドラムに近いのもあり、東には大きな魔人軍基地もある。そのため視察をする必要はないと判断したのだった。


「では」


ダラムバについて歩く町の中は、かなりの人でごった返しており、人間だけではなく獣人や魔人などもたくさんいた。まるで前世のSF映画で見た、違う惑星の風景のようにも見える。普通の人間もいればお金持ちそうな人間もいる。何の獣人かはわからないが犬系か猫系、たぬきのような獣人がそこいらじゅうにいた。


「ラウルよ、モフ耳がそこら中にいるぞ」


「だな。あれ、触っていいのかな?」


「馬鹿。そりゃ痴漢ってもんだろう」


「やっぱそうなるか、ペットの犬を撫でるのとは違うんだな」


「そうだろうよ」


もっふもふの耳や尻尾を見ていると、つい撫でて見たくなるってのが人情ってもんだ。たぶん。


「それはそうだがラウル、なんか普通にいるぞ」


「ああ、未進化の魔人がわんさかいるな」


「人間は何事も無かったようにすれ違っているし、魔人も獣人も特に気にしたところは無さそうだ」


「いつの間にかこんなことになってたんだな」


ここには未進化の竜人、オークやオーガ、ダークエルフやゴブリンがいたのだった。さすがにユニーク魔人のミノタウロスやスプリガン、ライカンなどはいないように見える。そいつらは元々数が少ないので、どこかにはいるのかもしれないが目立たないようだ。


「竜人がいるとはな」


「ああ、あんな獣人はいないと思うんだが、人間達は魔人として理解しているのかな」


俺が言うと、ダラムバが答えた。


「はい。人間も獣人も魔人は魔人として認識しております。特に差別される事も無く、皆が対等に接しており身分に上下がありません」


「なるほどね」


ここには俺の理想形が出来ていたらしい。懸念しているような差別なども無いように見えるし、いろんな種族が共存出来ているのなら、これに越したことは無い。どこの飲食店も既に客が入って、にぎわっているようだ。あちこちで大きな話し声や笑い声が聞こえ、とても活気づいているのが分かる。


「ラ、ラウル…」


エミルが俺にこっそりと声をかけてきた。


「なんだ?」


「あれ…」


俺が路地の奥を見た時だった…、肌を露出した色っぽいお姉さんたちが何人も立っている。一瞬ではあるが、めっちゃ脳裏に焼き付いた。


「あ…」


「そういう店もあるのか」


「そういうことらしい」


俺達がこそこそしていると、少しの殺気が感じられた。振り向くと、カトリーヌがジト目で見ており、ケイナがおっかない顔でこっちを見ている。


「うむ。盛況で何よりだな、ああいう店があるという事は街は健全って事だよな」


「そうだな!やっぱりお金が周るってのは健全だ」


「だよな。まあ俺達には全く縁のない店だろうけどな」


「ああ、全く縁がないし、そもそも興味がない」


「うんうん」


まるで話を聞かせるかのように大きな声で話す。するとカトリーヌもケイナも、何事も無かったよに正面を見て歩くのだった。


《だがな…健全な男はそういうのに興味があって当然なのだよ。男の子なのだから!》


俺は心の中で正当化するのだった。


ダラムバに連れられた先は、シュラーデンから連れて来た洗脳兵がいる宿舎だ。


「では」


ダラムバが宿舎に入り、俺達がぞろぞろとついて行く。すると建物の奥から、グラドラムからついて来ていた若いダークエルフのマリスがやって来た。ショートカットで他のダークエルフと同じように綺麗な顔立ちだ。だが以前のような幼さが影を潜めて、キリリとした表情になっている。


「よお、マリス」


「よくぞお越しくださいました。ラウル様」


ずいぶんはねっ返りの強い子だったと思うが、だいぶ大人になったようで、きちんとした対応が出来るようになっている。


「頑張っているようだな」


「はい!おかげさまでいろいろと学ばせていただいております」


「立派になった」


「ありがとうございます!」


なんとなく俺を睨むような子だったのに、お兄さんうれしいよ。もしかしたら年上だけど。


「マリス。兵は集めたか?」


「既に講堂におります」


マリスは、ダラムバに聞かれてきびきびと答える。


「そうか、兵士はマリスが管理しているわけだ」


「そうです。オージェ様より仕込んでいただいた兵には、自分も学ぶことがたくさんありました」


どうやらオージェにきっちり仕込まれた人間の兵士から、逆に学んだようだった。そのままマリスとダラムバに連れられて講堂に行くと、100人の兵士が集められていた。


シン…としている。


「さすがはオージェが仕込んだ兵達だ」


「来るまで、人がいないんだと思った。どれだけ厳しく躾けたんだか」


「想像を絶するよ」


俺とエミルがこっそりと話をする。だがあまりにシーンとしているので、ちょっと響いたようだ。


「ではラウル様、こちらの兵士たちはどうでしょうか?」


ダラムバが言う。


「うん。良いんじゃない?ダラムバが見立ててくれたんだよね?」


「はい。3000のうち、この者たちが最も優秀であると思われます」


「じゃ、連れてく」


「は!」


そう。俺はここにリュート王国に連れて行く兵を調達しに来たのだった。今のリュート王都には魔人兵と冒険者しかいない。そこに正規兵を連れて行く予定を遂行しに来た。1度に1000人も連れて行けないので、まずは精鋭の100人を選出させたのだ。


「ミリア。どう思う?」


「妥当かと」


「おっけ」


俺は兵達の前に立ち、これからの事を伝える。


「みんな聞いてくれ!これからお前たちはリュート王国に向かってもらう、リュートの正規兵として彼の地に永住する事になる」


俺が言うと、ざわざわとなる。


「不服か?」


俺が一番前にいる、ひときわ強そうなやつに聞く。


「いえ!我々はルタンの民の為に、未来永劫やっていくのだと思っておりました!」


「そうじゃない。お前たちはお前たちを必要としている者の所で、その力を存分に発揮するためにいるのだよ」


「存じ上げませんでした!これからはリュート王国にて正規兵として精進いたします!」


「よし!その意気だ!」


「ありがとうございます!」


やっぱりオージェの仕込んだ兵は気持ちがいいなあ。アナミスの洗脳もまだ聞いているようだし、それをキープしているダラムバとマリスに感謝だな。そして別の地に行く事を、心なしか喜んでいるようにも思える。


「常に彼らと行動を共にしていたのは?」


「マリスです」


「なるほど」


だとすれば、リュート王国へはマリスも連れて行った方が良さそうだ。彼らの管理はマリスに任せる事にしよう


「マリス」


「はい!」


「お前も一緒に来い」


「えっ!本当ですか?」


「今のお前なら出来るだろ?」


「もちろんです!是非お供させていただきます」


「よし」


マリスの目がキラキラとして輝いていた。今までここでコツコツと我慢して働いて来たのだ、これくらいの褒美はあげてもいいだろう。


「じゃあ、後はマリスが説明を。明日の朝出発するから、宿舎前広場に集まるように」


「はい」


そして幼いダークエルフのマリスが兵士の前に立つ。


「よし!お前達!明日の朝、ラウル様と一緒にルタンを発つ!それまでに準備を終わらせて宿舎前に集まるように。今日はもう休んでいいぞ」


「「「「「「は!」」」」」」


100人の返事がビシっと帰って来た。


「以上解散!」


兵士たちは一斉に部屋から出て行った。


「すごいなマリス」


「いえ、このくらいのことは当然です」


「ラウル様。マリスはあれから、ずいぶん精進したのです。かなり期待していただいてよろしいかと思われます」


ダラムバが言う。


「わかった。期待しているぞマリス」


「は!」


マリスは姿勢を崩さずに、キリリと敬礼をした。オージェの影響を受けた兵士達から影響を受けたっぽい。俺はそのまま敬礼で返す。


「じゃあマリス。今日はゆっくりして良いぞ、適当にうまいもんでも食って来い」


俺がシャーミリアに手を出すと、シャーミリアが俺に金貨を1枚渡してくる。それを俺はそのままマリスに渡した。


「ありがとうございます!」


「よかったなマリス」


「はい」


ダラムバはこれまで、マリスの面倒を見て育ててきたのだろう。親のようなまなざしでマリスを見ていた。


「ではラウル様。今宵の宿泊場所を確保しております。もちろんパトス町長に知られる事の無いように魔人街の建物へ」


「魔人街ってのがあるのか?」


「魔人だけが住み着いた場所です。特に決まりがあった訳ではないのですが、自然にそうなったのです」


「分かった。では連れて行ってくれ」


「は!」


と言うわけで俺達は目立たないように、夜の街を歩き始める。ダラムバがフードのあるマントを用意してくれていたので、目立つカトリーヌやシャーミリア、アナミスはフードを深々とかぶって歩くようにした。にぎわった繁華街は凄く楽しそうだった。だがここで楽しめば町長にバレる。俺達は街の喧騒に紛れながら、ダラムバの後ろをついて行く。


「あ…」


「エミル…さっきの」


「ああ…」


「いろんな人がいるみたい」


俺達はまた殺気を感じた。


「えっと!ラウル!美味しそうな匂いがするなあ!」


「ほ、本当だ美味そうだ」


俺達が路地裏のお姉さんたちが立っている場所をちらちら見ていると、またカトリーヌとケイナが鬼の形相で俺達をちらちら見ていた。


「まああんなの興味ないけど、美味いもんはまた来たときだな」


「そうだな、ラウル。今度来た時は何か食いたいな」


しかし二人の視線は俺達から逸れる事は無かった。俺たち二人は前を向いて、黙々とダラムバについて行くことにした。


「ダラムバ、このあたりがそうか?」


俺達は、いつしか魔人だけが歩く町についていた。どうやらここが魔人街らしい。


「はい。ここらには魔人しかおりませんよ」


「俺が魔人に見つかっても騒ぎになりそうだからな、早く行こう」


「はい」


そして俺達がダラムバに連れて行かれた先は、大きな一軒家だった。ここなら目立つことなく潜伏できそうだ。


「今宵は念のため私もこちらに滞在します」


ダラムバが言う。


「そうだな、何かあった時にいてもらったほうがいいだろう」


「は!」


建物はそこそこの広さがあり、2階建てで俺達が宿泊できる部屋数はありそうだった。玄関を入ったエントランスのような場所にみんなを集める。


「では部屋割を決めないとね、俺とエミルが同室でいいよな」


「もちろんだ。友達同士、水入らずで語るのもいいだろう」


「あとは、カティとマリアが一緒で良いかな」


「はい」

「わかりました」


「ケイナとハイラさんが一緒で良い?」


「わかった」

「ええ」


「ミリア、マキーナ、アナが大部屋でいいか?」


「問題ございません。ですがご主人様の護衛はいかがなさいましょう?」


「ファントムにやらせる。ファントムは俺とエミルの部屋の前で待機」


「……」


もちろん返事はない。


「モーリス先生は一人部屋でよろしいですよね?」


「そうじゃな、軽く酒でもやりたいところじゃが」


「先生?」


カトリーヌがジト目で見る。もちろんモーリス先生の体を心配してのことだ。


「まあ軽ーくじゃ、軽ーく」


「深酒したら知りませんからね」


カトリーヌから釘を刺されている。


「食事なら台所に用意してございます。既に料理屋で料理されたものがありますので、そちらをどうぞ。また飲み物はございますが、酒は私がこれから買ってきましょう」


「ふむ、申し訳ないのじゃ」


「ダラムバさん。本当に少しで良いですからね」


「かしこまりました」


モーリス先生が「ちぇっ」って顔をしたが、カトリーヌの顔をみてニッコリとした。


「では」


ダラムバが建物を出ていく。


「店の料理だって!ダラムバも気が利く!用意されている料理をみんなで食おう」


皆で台所に移動すると料理がテーブルに並んでいた。そしてゴブリン3人がキッチンから皿を持ってきてくれる。どうやら飯担当の仕事を任されたようだった。


「すまんね」


「光栄です!」


ゴブリンが緊張気味に俺に挨拶をした。


「準備終わったから、もう休んでいいよ。このままにしておくから朝かたずけて欲しい」


「わかりました!」


ゴブリンたちが去ってみんなで飯を食っていると、ダラムバが酒を買って戻ってきた。カトリーヌが言うように、小瓶の酒を買ってきたようだった。


「ちっさいのう!」


「カトリーヌ様のご命令でしたので」


「ま、まあそうじゃな。うむ、これで十分じゃわい」


「は!」


そしてモーリス先生は小さい小瓶から酒をついで、ちびりちびりと飲み始めるのだった。本来は飯の後で風呂に入りたい所だが、この建物に風呂はついていないという事だった。


「それでは私が、たらいと水を運びましょう」


「あ、ならファントムにやらせてくれ。ダラムバがやる必要はない」


「かしこまりました」


そうして俺達は飯を早々に切り上げて、寝るために各部屋へと分かれるのだった。外からは夜の喧騒が聞こえて来る、どこかお祭りのような賑やかな感じが凄く楽しそうだった。エミルと二人で部屋に入ると、そこにはベッドが3つあった。俺達はとりあえずみんなの足音が消えるのを待つ。


「よし…行ったぞ」


「だな…」


「どうする…」


「わざわざ一階の部屋を選んだんだぞ」


「窓か?」


「だな」


そう…俺とエミルは、こっそり夜の繁華街に抜け出そうと画策していたのだった。アイコンタクトでその計画を立て、これから実行する予定だ。


コンコン


びっっくぅぅ


俺とエミルはビビりたおす。もうみんな行ったかと思っていた。俺がそっとドアに近づいて、ドアを開くとそこには意外な人物が立っていたのだった。

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