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第610話 鑑定スキル

ティファラ女王は、戦地に向かう俺達のために、ダンスパーティーを催してくれた。その後の会食が終わって、俺達は市街地の視察をする予定だと伝える。


「視察ですか?凱旋パレードを考えていたのですが」


ティファラが言う。


「それはありがたいが、普通の暮らしぶりを確認したいんだよ。魔人達が馴染んでいるか、とかもね」


「そうですか、わかりました!それではお忍びと言う事で」


「え?ティファラ女王も行くのかい?」


「もちろんです」


「騒ぎにならないかな?」


「変装いたします」


「なるほど、とにかく全員着替えないと目立ちまくるから、元の服装に戻った方が良いな」


「そういたしましょう」


全員が控室に戻る。再び元の姿に戻った俺とモーリス先生とエミルが一息ついた。ファントムも一緒に戻り元のフードコートを着て、深くフードをかぶらせ顔を隠させた。


「結局舞踏会中、ファントムにはずっと外を見させてたな」


「ラウル。それで良いと思う」


エミルが当たり前だろとでも言いたいようだ。


「まあそうだよな」


「やっぱ無理があるだろ」


「ああ」


もしかしてファントムも踊りたいという感情があっただろうか?俺としては100%無いと思っているが。俺達はそんなことを駄弁りながら、別室にて女子陣が着替え終わるのを待っているのだった。


「お待たせいたしました」


マリアとカトリーヌとハイラが着替えて部屋に戻って来た。その後ろから魔人達が入ってくる。


「カトリーヌ、元に戻っちゃったな」


「あら?残念ですか?」


「いつものカトリーヌも良いと思うよ」


「ふふっ嬉しいです」


「カトリーヌ様のドレス姿、素敵でした」


「あら、マリアも可愛かったわ」


「ありがとうございます」


「そしてハイラさんもなかなか様になっていましたよ」


「えっ!本当ですか!」


「はい」


ハイラは完全な日本人ではあるが、ドレスを着た姿はなかなか可愛かった。やはり衣装や髪形でだいぶ変わるらしい。


「本当によかったよ」


「ラウルさん…ありがとうございます」


「あと歌が素晴らしかった。あれでオーディションを落ちるなんて信じられない」


「うれしいです。拙い歌ですみません」


「拙くないですよね?先生」


「ふぉふぉふぉ!拙いなどと、あんなに美しい声を聞いたのは初めてじゃよ」


「先生…ありがとうございます」


頬を染めて喜んでいる。やはり特技を褒められるのは嬉しいようだ。


「そうだハイラさん」


「なんです?」


エミルがハイラを見て言う。


「今度、ラウルに歌を教えてあげてくださいよ」


「えっ!」


逆に俺が声を上げてしまった。


「ラウルさんに歌をですか?」


「いや、俺は別に教えてもらわなくても…」


《なんで俺は歌を教わらなきゃならないんだ。普通にイケてるはずなんだが…》


「ここではあれなので、今度機会があればラウルの歌を聞いてあげてほしい」


「わかりました」


エミルの言っている事がよくわからんが、俺は別にこれ以上歌が上手くなっても仕方ないと思う。


「じゃあ、今度…」


そんな話をしているところに、ティファラとルブレストがやって来た。ティファラはどこからどう見ても町娘のいで立ちで、一番目立たない格好をしていた。さっきまでのドレス姿から考えると全くの別人のように見える。


「それではこれから議会に行きましょう」


ティファラが言う。


「議会?」


「はい。都市の代表者や商人を含めて、役人達との話し合いを設けているのです」


「それは見たい!」


「かしこまりました。ですが、これだけ大人数で動けば目立ちます。お忍びですよね?」


「それもそうだな…」


「人選はラウルが決めていいじゃろ」


「わかりました。それでは私と先生、カティ、シャーミリア、ファントムで行きましょう。マリアとハイラさんはラシュタル観光でも楽しんできてくれ。マキーナとアナミスは二人の護衛だ。エミルはどうする?」


「観光の方で」


「わかった。じゃあマキーナ、アナミス。エミルとケイナの護衛も頼むぞ」


「かしこまりました」

「はい」


「装備だ」


俺はマリアにP320とベレッタ92を、エミルにFN HiPerハンドガン、マキーナとアナミスにそれぞれワルサーP99ハンドガンを召喚して渡した。それぞれのマガジンも2本ずつ太もものホルスターにさしてもらう。


「まるで神業ですわね」


ティファラがため息交じりに言う。俺の仲間は既に慣れっこの光景なので、特に驚いてはいない。


「なんの予備動作も無く出て来るのが不思議だな」


「はい…そう言えば!ルブレストとティファラ女王に贈り物を持ってきたんです!」


俺は武器を召喚してある事を思い出した。


「贈り物ですか?」

「それはいったい?」


俺は直ぐにファントムに指示をだす。


「ファントム!」


声をかけるとファントムのパーカーマントが盛り上がり、俺はそこに手を突っ込んで、シュラーデンの宝物庫にあった業物の剣と弓矢を取り出した。


「む?ずいぶんたいそうなものが出てきたようだが」


ルブレストが敏感に反応した。


「ええ、私達では使いこなせませんからね。ルブレストならどうかと思いまして」


俺が業物の剣をルブレストに渡す。ルブレストが剣を手に持ってじっくりと眺めて唸った。


「これは。鞘から出しても?」


「ええどうぞ!差し上げますので」


ルブレストが剣を抜いて、じっと刃の部分を見ている。


「かなり素晴らしいものだが」


「名前は知らないのですが」


その俺の答えにティファラが反応した。


「ルブレスト、その剣をかざしていただけますか」


「はい」


ルブレストが剣をかざすと、ティファラが手をかざして何かを見ている。しばらくその姿勢でじっとしていたがスッと手を下ろした。


「これはグラムという名前の剣です。かなりの業物であると思います」


「ほう!グラムと言う名なら聞いた事があるのじゃ」


「そうなんですか?」


「ラウルは知らんのか?おぬしの父親の名の由来はそこから来ておる!」


「え!」


「龍の皮をも貫くと言われておる伝説の剣じゃ」


「そうなんですね!」


「あの、アグラニダンジョンの龍でも斬れるじゃろうて」


「凄い!てかなんでティファラは知ってたの?」


「知っていたのではありませんよ。鑑定で見たのです」


そうだった…そう言えば、ティファラは鑑定もちだった。こんな使い方が出来るとは驚きだった。


「凄い」


「いえ、私の力などラウル様のお力にくらべれば」


「そんなことは無いです。とても有益な力だと思います」


「ありがとうございます」


「しかし、どこでこの剣を手に入れたんだ」


ルブレストが聞く。


ギッックウッ!


「いや、それは今までの冒険で入手したのです。えっと…どこだったかなあ…えっと…たしか」


「ルブレストよ。そんなことは気にするでない!それよりも使い手に使ってもらわねば、その剣を打った鍛冶師も浮かばれんわい。ありがたく貰ってくれるとありがたいのじゃ」


「わかりました。ありがたく収めたいと思います。ありがとうございます」


「ふむ」


そしてもう一つの弓矢の方をティファラに渡す。


「じゃあこちらはティファラ王女に進呈します」


「美しい銀の弓ですわね」


「これは名はあるのかな」


「ちょっと待ってください」


ティファラが鑑定を行う。


「これに名は無いようですが、かなり精度が高そうです。軽い素材でかなり強度もあります。普通の筋力では弾けなさそう。とても美しいものですので家宝にいたしますわ!ありがとうございます」


「あ、はい。まあそうですね」


家宝にするとか大袈裟な事を言われるとちょっと気がひける。シュラーデンから盗んで来た盗品だけに、微妙な気持ちになってしまった。ニッコリ笑って見ているカトリーヌの目の底が笑っていない。


「ルブレストよ、剣を振るうて見てくれぬか?」


「はい」


ルブレストが少し離れた場所に離れ、鞘に剣を収めた。


「しゅっ」


軽い息を吐いて剣を抜き、ひゅんひゅんと音をたてながら剣を振るう。


ヤベエ…見えねえ。


チンッ


いつの間にか剣が鞘に収まっていた。


「惚れ惚れするのう」


「それほどではありませんよ」


「謙遜するでない」


「これもザラム達、魔人のおかげなのです」


「伸びしろがあったと言っておったが?」


「はい。まさかこの年齢で、ここまで伸びしろがあるとは思いませんでした。自分がまだまだ小さな世界にいたことを悟りましたよ」


「良い事じゃの」


「はい」


ルブレストは魔人のおかげで自分の可能性を見出したようだった。どのくらいの力量なんだろう?剣の事はよくわからないので、ルブレストの戦闘力がどれほどか知りたいが…


《シャーミリア、ルブレストをどう思った?》


《人間にしては…と言ったところでしょうか?ですが、あのバカ以上ではあると》


《カーライル以上か、でもアイツはアイツでかなり魔人から磨きをかけられているからな》


《はい。しかしこのルブレストと言う男、恐らく1次進化魔人を超えております》


《マジか》


《ご主人様の直属ならば造作もないでしょうが、以前の魔人軍でしたらかなりの苦戦を強いられたかもしれません。この男を素材にしてハイグールを作れば…》


《ダメ!ぜーったいダメ!それはダメだぞ!》


《申し訳ございません!》


《とにかく友好国の人はぜーったいやっちゃダメね》


《申し訳ございません!それは承知しております。不謹慎な例えを申しました》


《ああ、例えね。それならわかるけど》


いや、シャーミリアならやっちゃいそうな気がしてちょっとビビった。


《もちろん心得ております》


《分かってるとは思ってるよ》


《は!》


「ん?どうしたラウル?」


いま、あなたの命を救ったばかりです。


「いえ。大丈夫です。あまりの技に声を失ったところです」


「それならいいんだが、今背中に恐ろしい気配と嫌な汗がどっと出たもんでな。ほら見て見ろ俺の腕に鳥肌が立っている」


「なんでしょう?やはりその業物の剣には何かあるのでしょうか?」


誤魔化せ!


「それとは違うような気がしたが…まあそうかもしれんな。これを使いこなせるようになるために精進しよう」


「はい。その剣も光栄だと思います」


「だな」


ルブレストが鞘に納めた剣を眺めながら言った。


「じゃあ議会とやらにいきますか?」


「誰か」


ティファラが言うと、執事がティファラの下にやってくる。


「この弓を宝物庫に」


「かしこまりました」


‥‥結局、シュラーデンの宝物庫からラシュタルの宝物庫に移るだけだった。まあ剣はルブレストが使ってくれそうだからよしとしよう。


武器のプレゼントを終えた俺達は王城を使用人通用口から出る。マリアとハイラ、エミル、ケイナ、マキーナ、アナミスが俺達に手を振って街の方に消えて行った。いちおう市内観光とは言ったが市民の暮らしを見る視察も兼ねている。


「勝手口はこんな感じなんだな」


「はい。普段は使いませんがお忍びの時に」


「お忍びって、たまに町にでるとか?」


「すっごく美味しいケーキのお店があるんです!あとタルトが売りの店もあるんですよ!」


出るんだ。


「じゃあ、今度ラシュタルに来た時にお願いね」


「分かったわカティ」


「楽しみにしてる!」


女子トークをしながら歩いている二人を見ていると、普通の女の子の友達が話しているようだ。特にドレスアップした姿ではなく、町人風の格好をしていると目立たない。


「この辺はあまり人がいないようだけど」


「はい。残念ながらこのあたりは貴族街です。貴族は殺されてしまい、逃げたとされる者もまだ戻ってきてはいないようです。どこかで生きているのなら戻ってほしいのですが」


「他の国でも生存者はいたから、ここでも可能性は有ると思う」


「そうですか!」


「俺達も見つけたら、ラシュタルが平和になった事を伝えるよ」


「その際はお願いいたします」


貴族街を抜けて人の多い繁華街に出た。このあたりに来ると人が多くなっており、だいぶ活気づいていることが分かる。


「町人に見られてますね?でも視線はティファじゃない」


カトリーヌが言った。


「カティもティファも上手く化けていると思う」


俺とカトリーヌが町人たちの視線の先にいる人物を見る。


「ご主人様?何かございましたでしょうか?」


「いや、いいんだよ」

「そうね、特に何もないわ」


町を行きかう町人たちの目線の先にはシャーミリアがいた。こんなに際立って美しい人間を見たことが無いだろうから、見惚れるのも無理はない。だが彼女が目をひきつけてくれているおかげで、ティファラ女王にもルブレストにも気が付かないようだった。


「なんで町人風の衣装にしなかったんです?」


「いやカティ。ミリアは万が一の時は空を飛ぶだろ、その時邪魔になってしまうからな」


「なるほどです」


そう、シャーミリアはドレス姿で歩いていたのだった。もちろん俺が買ってやったドレスだ。俺が与えてからずっとそればかりを着ている。むしろ俺が買ってあげた物以外、着なくなってしまったのだった。


シャーミリアは胸を張って堂々と歩いていた。

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