第61話 魔人救出作戦
人外の強さを見せたバルギウスの騎士を殺してゾンビに変えた。
いや…強さを見せる前に殺したが…
そいつをボトリと敵兵の中に空から落っことしたら、びっくりしてみんな逃げて行った。
そして、やっと街の人々を解放することに成功した。
今は岩壁の前に民を集結させて、その前にM93フォックス装甲兵員輸送車とM113装甲兵員輸送車をバリケード代わりに並べて停めた。
「私が話します。」
イオナがグラドラムの民にバルギウス帝国とファートリア神聖国、西からの謎の軍団が他の国を侵略し始めた事、その軍隊が魔獣を使役している事、血も涙もなく、抵抗するものを斬り捨てている事を説明した。
「そのようなことが!?」
ポール王は絶句していた。
「しかし王よ、この国でも奴らは同じような真似をしました。」
デイブ宰相がポール王に進言する。
「そうであるな、兵や民を殺し不当に都市を占拠した。到底許せるものではない。」
ポール王は拳を握り怒りで染まった顔で言った。
「それで、ガルドジンは今どこに?」
イオナが訪ねると、デイブ宰相が答える。
「バルギウス部隊の大将であるグルイス・ペイントスなるものと、キュリウスという卑劣極まりない男に、罠をかけられて捕らえられてしまわれました。」
ガルドジンは罠にかけられて捕まってしまったようだった。何らかの罠にはまって今は洞窟の中というわけだ。やはりゴーグの言うとおり洞窟の中に仲間が捕らえられているのだろう。急いでオーガの助太刀にいかねばならず早急に動く必要がある。
俺は皆に指示を出す。
「母さんとミゼッタはそのままフォックス装甲車に乗ってて。」
「わかったわ」
「うん」
「ドアを開けなければ敵の攻撃が届くことは無いはず。ちょっと俺はここを離れることになると思うから、母さんの状況判断で動いてもらう事になるかもしれない。」
「ええ、心得ています。」
「ただ、極力は車の中にいるように。」
「はい。」
イオナは隠しようのない大きなお腹を抱えている、すでに走り回る事などできなかった。ミゼッタが寄り添うようについていてくれる。ミゼッタもまだ8才なのにずいぶん覚悟の決まった顔をしている。俺が前世で8歳の時は銀玉鉄砲で遊んでいたというのに・・
そして他の者にも指示を出していく。
「シャーミリア、今すぐ戦場を駆け回り死んだものを屍人にして使役しろ。」
「仰せのままに」
「まちがっても地上に降りるな、敵にどんな手練れがいるかもわからん。」
「お気遣いのなきように。」
「いや、不必要な危険は避けろ、見える範囲でいい。終わったらすぐに戻ってこい。」
「は!」
シャーミリアはすぐに、剣と剣の戦闘の音が鳴り響く暗闇に溶け込んでいなくなった。
そしてマリアに指示をだす。
「マリアには複数の武器を使い分けて、敵兵を駆逐してもらいたい。」
「わかりました。」
俺はバレットM82対物ライフルを渡す。
「魔法使いを見つけたらこれで撃て、近づいてきたらLRAD音響兵器を敵に向けて発射し、12.7㎜M2機関銃を掃射しろ。さらに近接してきたら迷わず車の中に避難しろ、まちがっても2丁拳銃で戦おうとはするなよ。」
「はい。」
マリアは冷静だ、きりりとした顔でバレットM82を大きな胸の前で受け取った。俺ににこりと笑顔を返してくる・・子供のころからこの笑顔に安心させられてきた。まあ今も子供だけど・・そして次はミーシャだ。
「ミーシャはM113装甲兵員輸送車の天井に乗れ。敵が近づいたらこれで掃射するんだ。」
ミーシャの前に備え付けたのは重量100キロを超える、M134ミニガンだ。毎分3000発の7.62x51mm弾をはきだすバケモノ機関銃である。M113にもLRAD音響兵器を置き、敵の動きを抑制させるように指示を出す。
「ミーシャは近接されたら、もっと危ないから必ず車の中に入ってドアを閉めるんだぞ。」
「わかりました。」
ミーシャも大きな目でこちらを見て硬い表情で返事をするが、すでに戦場には慣れたようでガタガタ震えるようなことは無かった。この年の女の子が戦場に慣れるなんて不憫だが・・生き残るためだ。仕方がなかった・・
「そしてマキーナ。お前が守りの要だ。」
「わかりました。」
全体を守るのはヴァンパイアのマキーナしかいない。聖属性魔法を使われたらどうしようもないが、おそらく魔法使いは俺が狙撃で片づけたはずだ。もし居たら俺より射撃がうまいマリアが仕留めるだろう。これだけの強さを持つヤツは人間にはいないはずだ。
しかも飛べるやつが陸地で戦うのはもったいない。
「お前は上から敵を制圧する。」
「はい」
マキーナにはM240中機関銃を渡して、背負わせたバックパックから出た弾倉ベルトを装填した。
「要領は先ほどと変わらない。屋根の上で待機し、こちらに向かって来た敵兵を射殺しろ。」
「かしこまりました。」
「万が一だが、敵兵が車にたどり着きそうになったらすぐに護衛にまわってくれ。イヤホンにイオナから伝達が来ると思う。」
「はい。」
マキーナは切れ長のクールビューティーな顔で、安心してね!という表情を俺に向けてくる。相手に魔法使いさえいなければ夜は無敵だ、実に頼もしい。
俺は全員に指示を出し、自分の準備をし始めた時、後ろから声がかかる。
「アルガルド君、我々に何か手伝えることは無いかな?」
振り向くと声の主はポール王だった。自分たちも何か手伝いたいと言ってきた。金髪金髭の太鼓腹のおっさんは王たる仕事をしたいようだったが俺は断ることにした。
「いいえ、皆様はなるべく1か所に固まって動かないようにしてください。むしろ戦闘に巻き込まれて死ぬ可能性があります。」
そう、流れ弾に当たって街の人が死んでしまっては意味がない。夢見も悪い・・極力動かないで固まっててもらった方が安全だろう。
「わ・・わかった。皆に伝えよう。」
「お願いします。」
話し終えたころにシャーミリアが戻ってきた。
「ご主人様作業を終えました。」
「よし!それじゃあ父を救いにいく。一緒にきてくれるか?」
「かしこまりました。」
確認のため街中で行われている戦闘を見てから出発しようと思う。
「その前に。マリア、ミーシャ!街中をサーチライトを照らしてみてくれ。」
「「はい」」
カチッ
車に設置されたサーチライトで照らされた街の中は、地獄の様相となっていた・・
膝から下を斬られて無くなり腕で這いずっているやつが、ちょうど背中から剣を差し込まれるところだった。斬られた自分の腕を持ってうろうろしてるところで、斧を頭に振り下ろされているやつもいた。、下半身がなくなった仲間を引きずって助けようとしているところを、四方からゾンビになった騎士から貫かれているやつもいた。
ビチャビチャ
グチャ
ドチャ
と音を立てているのは、さっきまで降っていた雨だけじゃない。あたりは血の海だった・・腕や頭、足がそこら中に転がっていた。
「う、うわぁぁっぁ」
「ぎゃああぁあ」
「う、ゲボォごほごほっ」
「あああああぁぁぁ」
戦場の叫び声がさらにハッキリ聞こえる。真っ暗闇からいきなり灯りに照らし出されて、自分たちがどういう状況になっているのかが分かったらしい・・これで正気を保てという方がおかしい。サーチライトで照らされ恐ろしい惨状が浮き出されると、味方の女性陣もドン引きだった。薄ら笑いを浮かべているのはシャーミリアとマキーナだけだった。
「ど、どうしたんだね?」
ポール王が車の陰になって見えない戦場のほうをみようとするので、俺が遮って見せないようにする。
「すみませんが、戦場はかなり悲惨な状況となっているようです。女性や子供に見せることの無きように配慮を促してくださいませんか?皆さんはとにかく奥に固まっているように」
こんなひどい事をしたのが俺達だと思われたら困る。いや・・実際やったのは俺達なんだけど、どう考えてもこんなこと人間のできる所業じゃない・・。俺は人間じゃないみたいだけど。
「わ、わかった!皆、街を見るな!特に子供には見せてはならない。」
数人の大人は見てしまったらしい、吐いてしまうものや、真っ青な顔で子供の目を覆うものなどがいた。
マリアが俺に聞いてくる。
「先ほど・・イオナ様が味方と戦って勝てば家に帰す。と話した騎士達もいると思うのですがどうしますか?」
「えっ・・いや・・だって・・走ってきたら敵か味方か見分けがつかないじゃん、みんな同じ恰好してるんだし。」
「と、言う事は?」
「バルギウスの屈強な兵士に、戦も終わってないのに帰ってくるようなヤツはいないと思うから、きっとこっちに来る奴はみんな敵だよ。・・・たぶん。」
「えっ?こちらに助けを求める者も来そうですが、いいのですか?」
「いいもなにも敵だったら危険だしさ。しょうがないよ、わかんないから。」
「それを聞いて安心しました。」
マリアは敵が無差別に殺せてよかったと、安心してホッと胸をなでおろしているようだ。いやいやいや何かおかしい・・マリアはいつからか敵に対しての感情を無くしてしまった。・・まあ実は俺もなんだけどね。
「あ、特に戦略的に生かしておこうとかそういうの無いから。ミーシャも敵来たら撃っていいからね。」
「わかりました。」
ミーシャはジト目で俺達を見て、はぁーとため息をついていた。慣れない物は慣れないらしい・・そりゃそうだよな。15歳の少女がそんなもの慣れるわけないよな。ミーシャだけは倫理観が崩れていないので、我々の理性としていてもらわねば困るな。
「ミーシャすまないな・・」
「いえそんな。皆で生き延びるためですから。」
「もう少しの辛抱だ。」
「はい・・」
俺としては、ゾンビの攻撃や騎士の同士討ちで倒しても、魂の力が俺に蓄えられることはないから、出来れば俺の武器で倒してほしいんだよね。・・・というか・・おかしいな俺、最初に人が死ぬのを見た時は、あんなに怖がって嫌悪していたはずなのに・・今は殊更冷静でいられる・・魔人の血か?間違いなく感覚が麻痺している。
「では・・マリア、ミーシャ。行ってくるよ。」
「無事に戻ってきてくださいね」
「ラウル様だけが頼りですが、無理をなさらずに・・」
「大丈夫だ。」
これを放置してみんなを置いて行くのは不安だが・・洞窟にはまだ敵が潜伏している。それが終わらねば民を解放する事さえままならなかった。オーガ達が戻ってこない以上、どうあっても行かねばならなかった。
「シャーミリア行こう。」
「はい」
俺は自衛隊の迷彩戦闘服2型を着てENVG-B暗視スコープをヘルメットにつけた。武器はB&TのAPC9サブマシンガンを携帯し、9mmXM1153ホローポイント弾を装填した。ホローポイント弾は弾頭が潰れ体を抜けず大きな衝撃と、人体に多大な被害をもたらす弾だ。貫通する弾だとこの世界の騎士は止まらないかもしれない。ホローポイント弾を乱射する事で動きを止められればと思ってのチョイスだった。
暗視スコープを付け、俺達が崖に沿って歩いて行くと新しい発見があった。
「こんなふうになっているのか。」
西の崖の上からスコープでのぞいても、角度的にわからなかったのだが、崖は折り重なっており、隙間に入っていけるようになっていた。遠くから見ると1枚の岩壁にしか見えなかった。
「はい、この先に洞窟がございます。」
「なんの洞窟なんだ?」
「グラドラム民の話では神聖な場所という事らしいです。避難所にも使われているようです。」
「なるほど」
この岩壁の通路はどうなっているんだろう。壁がただの岩肌ではない気がする。しかしスコープ越しに見ても暗闇では何かよくわからなかった。触ってみると湿った感じがする。
「たぶんこれは・・苔か」
しばらく自然にできた狭い岩の通路を歩いて行く。少しずつ通路が広がってきて開けた場所に出た。さらに警戒しながらしばらく進んでいくと洞窟の前についた。
「イメージしてたよりも入り口はかなりデカいな。シャーミリア、洞窟に人の気配は?」
「入り口付近には特に敵はいないようです。」
「よし、急いで進もう。索敵は頼む。」
「かしこまりました。」
洞窟の中は真っ暗だった。視界はゼロに近い。裸眼だとそばにいるシャーミリアも見えない、ただ彼女の眼だけが赤く浮いている。ENVG-B暗視スコープで見るとシャーミリアが確認できる。シャーミリアからは俺はハッキリ見えているのだろう。この闇の中ではとにかく敵より早く気が付くことが大事だった。その点ヴァンパイアが隣にいるのは心強い。しばらく歩くとスッっとシャーミリアの手があげられた。
「ご主人様、おそらく・・毒が焚かれています。」
「毒が・・」
「はい、いかがなさいましょう。私奴には効きませんが・・」
「わかった」
俺は自衛隊の85式防護マスク4型を召喚した。自衛隊化学科で使われているガスマスクだ。
「よし、行こう。」
「はい。」
音をたてないようにさらに進むと、シャーミリアがその美しい指先を洞窟の奥に向ける。
・・・ENVG-B暗視スコープをつけてみると、洞窟の壁に張り付いて敵の侵入を待っているかのような6人の騎士の姿が見えた。間違いない・・これは罠なのだろう。俺はシャーミリアにファイティングダガーナイフ FX-592を渡し身振り手振りで敵を排除する事を伝える。
スッ
シャーミリアの気配が消えた。暗視スコープで見るとシャーミリアはすでに敵のそばにいた、6人の兵士は音もなく倒れていく。暗闇では相手も全く見えてないらしい、仲間が殺されている事にも気が付いていないようだ、敵が来たら松明でもつけるつもりだったんだろうか?
シャーミリアが手を上げて合図をしてくる。俺は急ぎシャーミリアの元へ合流した。
「用意周到に罠をかけているな・・ギレザムたちは仲間のところまでたどりついたのだろうか?」
「奥から何かが動く音が聞こえます、おそらくは戦闘の音かと・・」
「そうか、であればあいつらはここを突破したのか?」
「あえて通したのかもしれません。」
「なるほど・・」
どこまで用意周到に罠をかけるんだろう、グラドラムの首都に来てからは罠だらけじゃないか。さらに奥に進んでいくと薄っすらと灯りが見え始める。
「ん?灯りか?」
「奥が光っています。」
「人はいるか?」
「さきほどまでは中で激しく動き回っていたようですが・・・」
明るいその先は広い空間になっていた。まずは中に入らず入り口の壁に張り付いて様子を見る。
「ふはははは!オーガの力とはその程度のものか!!」
「まったくです。身の程知らずとはこのことです。」
ギレザム、ガザム、ゴーグの3人は満身創痍の状態で膝をついていた。奥には数名の人間が捕らえられているのが見える。魔法使いがその周りにいて結界で囲っているようだった。結界の光が明るく洞窟内を照らしているのだった。
「お前たち!もうやめろ!俺達を置いて逃げろ!」
結界の中を見ると、誰かがオーガ3人に向かって叫んでいるようだった。
「・・・あれがガルドジンか?いや・・似てないよな・・」
叫んでいるのは牛の頭をした大男だった。
結界の中には何人かに囲まれて横たえられているやつがいる・・もしかすると・・?
俺は嫌な予感がしていた。