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第606話 王城へのご招待

次の日、ラシュタル軍は王都に戻るために行軍していた。既にルブレストやラシュタル兵達は近代兵器を見ているので、俺は普通に74式特大型トラックを召喚し部隊の後ろをノロノロと進んでいる。


「これは、どうやって動くのか不思議だ」


ルブレストがトラックの事を言う。


マリアが運転をし助手席にティファラ女王とカトリーヌが乗っていた。他の面子は全員荷台に乗って、ルブレストが走るトラックの後ろを見ながら首を傾げている。


「魔人国の機密ですよ」


「だろうな。まあ知ったところでどうなるものでもないのだろう?」


「ドワーフの技術が無ければ無理でしょうね。私からしても精密な機械を真似て、手作りで再現するドワーフの技術は神業だと思っています」


「ドワーフね…」


《さらにバルムスが作った魔導エンジン…あれは最高にマズイ気がする。あれが世に出たらこの世界は、前世の常識を超えてしまうかもしれない》


「まあドワーフの技術は真似できないでしょうね」


「人間の鍛冶師には無理なのだろうな。あの基地だって普通じゃない」


「ドワーフは基地の設計にも大きくかかわっていますから」


「基地の地面は一枚の岩を強いているのか?」


「うーん。何というか堅くなる地面を上に塗っている感じですね」


「やはり聞いても分からん」 


「ラシュタルは友好国です。いずれ平和な世になったらぜひ情報の共有をしましょう」


「それは助かる」


「はい」


ガタガタと揺れる荷台で俺とルブレストの会話をみんなが聞いていた。俺もルブレストも国家の中枢の人間なのだが、雑談レベルで将来の重要機密共有の約束をしている。もちろん機密保持契約を締結せねばならないが、彼らは信用できる人間だから問題は無い。もちろんすべての情報を公開するつもりなどさらさらないが。


「それにしても昨日の訓練は面白かったなあ、ラウルよ」


「ちょっと奇抜すぎましたかね?」


「確かに、いつもの訓練とは違ったな。まあ俺もザラムも真っ赤になったがな」


「それはすみません」


「冗談だよ」


昨日はあの後、再び真面目な部隊訓練を行った。俺とエミルが部隊におかしな戦術を教えたのだが、むしろ兵士たちには刺激になったようで、さらに戦術の幅が広がったらしい。


結果オーライだ。


「わしは良いと思うのじゃ」


モーリス先生が肯定する。偵察用ドローンのブラックホーネットで部隊訓練の一部始終を見ていたらしい。


「モーリス様がそう言うのであれば良いのでしょうな」


「ルブレストよ。想定内の事ばかりやっていては気づきが無いのじゃ。それが証拠に兵達はかなり試行錯誤をするようになっていたぞ」


「たしかにそうですね」


「命のかかっておらん訓練だからこそできることなのじゃ、しかもラウル達の戦術はいろんなところに生きておる。ここまで生き延びてこられたのは彼らの飛びぬけた発想のおかげじゃし、ふざけたようで真剣なのじゃよ」


「わかりました」


ルブレストも本気で怒った訳ではない。自分とザラムの頭が真っ赤になったので、面白がって俺達を責めてみただけなのだ。そしてモーリス先生は俺のことをよくわかってくれている。


《…悪ふざけじゃない。本気でやった結果だ》


「俺もエリックに悪い事をした」


エミルが言う。


「ぷはは、エリックは相当走らされたようだな。だがあれも一つの経験だろう」


「よくついて来れたなと思いました。森はエルフの独壇場だと思っていましたが、必死に追いすがって来てくれたんです」


「そう言う作戦もあるのだと、しきりに納得していたし、エリックも戦いの幅が広がりそうだよ」


「ならよかったです」


ルブレストの言葉にエミルも納得している。


「ラウル様、森を抜けました」


「了解」


運転しているマリアが伝えて来た。


「ルブレスト、どうやら森を抜けたようです。ここからは兵士たちにも危険はないでしょうし、先に王都に向かいますか?」


俺が聞く。


「そうだな。まあこのあたりの森はうちの兵達には障害にならんのだが、安全に越したことは無いからな。気遣い痛み入る」


「いえ、では進みます。マリア」


「はい」


プップー


マリアがクラクションを鳴らすと、前の兵士たちが後ろを振り向いた、俺は荷台から立ち上がって道のわきに寄るようにゼスチャーをし、兵士たちが道の端に寄ってくれる。


「これは馬車より速いのだな?」


「まあそうですね」


200人の兵士たちをあっという間に追い越した。先頭を歩いていたエリックに手を振って先に進んでいく。エリックが俺達を見て手を振った。


「何という速さだろうな」


「ルブレスト、これは疲れを知りませんから、王都まですぐにつくと思います」


「それはいい」


「ですが問題は都市の住人です。この乗り物を見て驚きませんかね?」


「説明するさ。我がラシュタルの友好国の技術力だと」


「わかりました」


街道はそれほど荒れておらず、74式特大型トラックは問題なく進んでいく。


「門が見えてきました」


マリアに言われ、久しぶりにラシュタルの市壁を見た。もうすっかり元に戻っているようだ。


「都市はかなり復旧したようですね」


「それも魔人たちのおかげだ」


「そうですか。役に立っているようで何よりです」


「こちらが感謝するばかりだよ」


トラックはそのまま都市に向かって進んでいく、すると門の脇から門番たちがぞろぞろと出て来た。各人剣や槍を構えている。得体のしれない大型のトラックが近づいて来たので警戒しているようだ。


門番たちの前でトラックが止まる。


「わたしが」


ティファラが助手席から降りて行った。車高が高いので降りる時にドレスがひっかからないか心配だ。ティファラが地に降りてトラックの前に行ったとたんに、門番たちが全員跪く。


「友好国の使者です」


「「「「「は!」」」」」


「王城まで、この乗り物を誘導しなさい」


「かしこまりました」


隊長のおじさんがお辞儀をすると、トラックの前に3人の兵が駆けつけてきた。彼らが王城まで連れて行ってくれるらしい。兵士が歩きその後ろを74式特大型トラックがそろそろと付いて行く。


「なんだあれ!」

「うわ!」

「馬車のようだけど」

「馬がいない」


町の人たちが74式特大型トラックを見てざわついている。しかし兵士が率いているので、特にそれ以上の騒ぎが起こる事は無さそうだった。ざわつく街をそのまま進み、王城の門番に兵士が取り次いだ。門が開かれて、そのままトラックは王城の敷地に入るのだった。門が閉じられて都市の人々の視界から遮断される。


「ではどうぞ私のお城へ」


ティファラが言う。


「ずいぶんキレイになったみたい」


「ええカティ。職人さん達には凄く頑張っていただいたから」


「綺麗」


エドハイラもその城を見て感動しているらしかった。ラシュタルの城はユークリット城と似て美しい建造物だった。むしろユークリット城は一度半壊して美しい建築技術と、魔人の建築技術が混ざった不思議な建物になってしまった。そういう意味ではラシュタル城が、現存する美しい城の代表格になるだろう。


「ハイラさんもぜひおくつろぎになってくださいね」


「あ、ありがとうございます!」


トラックを降りて徒歩で王城の入り口玄関へとむかう。するとティファラが近づいただけで、中からドアが開かれた。もちろんどこかで見張っていた人間が、王の帰還を伝えて開いたのだろう。


《あの時、みんなが極力壊さないようにしてくれたおかげだな》


《もちろんでございます。皆でバルギウスとファートリアの兵を、綺麗に殺したのは昨日の事のようです。ご主人様のお守りになりたかったものは守れたのでしょうか?》


《もちろんだ》


城を壊さないように戦ったのが本当に昨日の事のようだ。天守閣にデモンが巣くっていたが、滅茶滅茶に壊される事も無くほとんどが無事だったのは良かった。


「いい絨毯だね」


「古いものですが」


「いやふかふかで気持ちいい」


「ありがとうございます」


玄関を入った先に広いエントランスには執事やメイドが並んでいた。


「「「「「お帰りなさいませ!」」」」」


一斉に礼をして声をそろえた。


「皆さん。こちらが魔人国の皇太子さま、そして殿下とご婚約されているユークリット王国、ナスタリア家のカトリーヌ様です」


「「「「「ようこそ、いらっしゃいました!」」」」」


「ど、どうもよろしく」


「陛下には大変懇意にしていただいておりますわ。本日はお招きいただき大変感謝しております。どうかお気遣いの無いようによろしくおねがいします」


カトリーヌが綺麗なカーテシーを決める。俺も慌てて見よう見まねの貴族の挨拶をした。


《なんか野蛮な王子だとか思われなかっただろうか?なんか王様の城にまぬかれた事なんてなかったので、こういう時の対応が一切分からないぞ!》


《ご主人様は魔人国王子なのです。堂々としていてよろしいかと思います》


《わ、わかった》


内心めっちゃ焦っていたが、シャーミリアが堂々としてろと言うので何食わぬ顔をした。


「うーむ。どうも堅苦しいのは慣れぬのう」


俺の隣でモーリス先生が言った。俺が内心でビビッて言ったのが恥ずかしくなるほど堂々と。


「ふふ。そうですねモーリス様。それではみなさん、お客様をお連れしてください。では女性陣は私と」


「ご主人様?」


シャーミリアが俺にどうすべきか尋ねる。


「一緒に行っていい」


「かしこまりました。ではファントム、ご主人様をお願い」


「……」


「大丈夫だ。この城で何かが起きる事は無いよ」


「申し訳ございません。ご主人様の発汗と筋肉のこわばりを感じたものですから」


いやそれは…こんな王様待遇にビックリして緊張してるだけだ。


「問題ない。俺は、いついかなる時も注意を怠っていないだけだ」


「素晴らしいです。それでは私奴はティファラ王のもとへ」


ティファラはカトリーヌ、ケイナ、ハイラ、マリア、魔人女子3人を連れて行ってしまった。


「じゃあ我もいったん席を外します」


ルブレストもモーリス先生にそう言うと、離れて行った。


するとスルスルと俺達の周りに執事やメイドがやって来て、来賓室へと誘導してくれるのだった。


「ラウル…なんか緊張しねぇ?」


エミルが言う。


「馬鹿、こういう時は堂々としてりゃいいんだよ」


シャーミリアに言われたとおりの事をエミルにも伝える。


「わかった」


だが、どうやら俺もぎくしゃくしているようだ。


《とりえあず油断した。なんとなく今までの国々はここまで王城は復活していない、むしろ俺も王様の雰囲気を味わったのは初めてかもしれないし》


「こちらです」


俺達が通された部屋は来賓室ではないようだった。そのドアを開けると中にはいろんな衣装が飾られている。俺とエミルとモーリス先生、ファントムまでもが中に通される。


「えっとここは?」


「ティファラ陛下より、お召し物をお着換えくださるようにと言われております」


執事が答える。


「えっと、着替え?このままじゃダメなの?」


「ダメではございませんが、お着換えをしていただかなければ私が陛下に叱られます」


俺が少し我儘を言っただけで、この人が叱られるのは忍びないが。


「わしはいいじゃろ」


「いえ。大賢者様もお着換えしていただくように申し付かっております」


「このローブが気に入っているのじゃが」


モーリス先生が旅のローブをひらひらさせて言う。


「もちろん、大切なローブはお預かりさせていただきます。ですがお城の中でのお召し物をどうか着ていただけましたらと」


「ふうっ、わかったのじゃ。ラウル、エミル。おぬしらもじゃぞ」


「わ、わかりました」


「俺もですか」


「そうじゃ」


そして俺達は観念して、執事やメイド達に身をゆだねるのだった。

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