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第602話 親昵の食卓

「カティ!」


「ティファ!」


開いた扉からティファラ女王が勢いよく飛び込んできた。二人が手を取り合って跳ね回っている。するとその後ろから二人の男が入って来た。


「これはお久しぶりですモーリス様」


「息才のようじゃのルブレスト」


「モーリス様こそお元気のようで」


「わしゃこのとおりじゃ、クルス殿はどうじゃな?」


「ラウル様より託された仕事を必死に取り組む為、健康には十分気を付けていますよ」


「そうじゃな。健康管理も仕事のうちじゃて」


「はい」


ティファラ女王とルブレスト・キスク、そしてグラドラムで知り合ったクルス神父がいた。ルブレストは宮内大臣兼防衛大臣、クルス神父は国の管理を行う宰相をやっているはずだ。


「ラウル様もお元気そうで」


「いやいや!ルブレストさん!様はやめてください、様はっ!私の父の師匠なのですから!」


「いや、そう言うわけにもいきますまい?」


「貴族や王族などがいる場ならまだしも、こんなところで止めてくださいよ!ラウルでいいんです!ラウルで!」


「ならば我の事もさん付けなどいりません」


「いえ、呼び捨てなんかできません!そして敬語も止めてください!」


「うーむ。そう言われましても、隣国の王子にそのような失礼は出来ませぬ」


「やめてください!お願いします!」


俺はルブレストにペコペコした。お父さんの師匠から様付けなど気持ちが悪い。


「ならやめよう、よろしくなラウル」


いきなり言葉遣いが変わった。


「ええ!お願いしますルブレストさん」


「じゃあ俺にも、さん付けをやめろ」


「わかりましたルブレストで良いですか?」


「いい」


よかった。どうやらお互いフランクな関係でいられそうだ。


「そうじゃなラウルよ。そう言う関係性がよかろうて」


「ではそうさせていただきます」


「ふむ」


そしてルブレストは周りを一瞥する。


「しかし…相変わらず、とんでもない配下を連れているんだな」


「はい。いざという時にとても心強いのです」


「いやいや、心強いなんて度合いじゃない。ラウルやモーリス様のお仲間だというから、平気な顔をしてここに立っていられるが、人間がどうこうできる相手じゃない」


「彼女らが味方で、どれだけ助けられたか分かりません」


「敵にとっては絶望だろう」


「まあそうかもしれません」


仲間を褒められるのは嫌じゃない。特に直属の配下の事を褒められるとつい嬉しくてにやけそうになる。


「わしも最初に出会った時は、絶望を感じたのじゃよ」


「あ、あの時はすみませんでした。どうやって挨拶をしたらいいのか分からずに」


「いやいや。カーライルがシャーミリア嬢から殺されんで済んだのは僥倖じゃったわ。ラウルが保険をかけて止めなんだら、わしらもこの世にないのじゃろう」


モーリス先生が飄々と言う。


「モーリス様の言う通りですな!その者達が人間の味方をしてくださるのですから、我々はラウルに救われたのですな」


「いえいえルブレスト!私は世界を取り戻そうと必死になっていただけです。それでどうにかここまで来ただけの話です」


「おんなじことじゃ」

「ですな」


二人から、からかうような優しそうな表情で言われる。


「失礼します」


マリアがドアを開けて入って来た。


「マリア!」


ティファラがマリアに走り寄ってハグをする。


「陛下。ご機嫌麗しゅう存じます」


「堅苦しいわマリア。公の場じゃないのだから」


「わかりました。元気でしたか?」


「元気よ。マリアも元気そう」


「私は病気一つしないのが取り柄かもしれません」


「ふふ」

「ふふ」


二人も仲が良さそうだ。


「ティファラ様、お料理は直ぐご用意できますが?」


「え!食べたい!もしかして、マリアのパイが食べれるの?」


「もちろんです」


「うれしい」


ティファラが喜ぶ。


「じゃあティファ、食事にしましょうか」


カトリーヌが誘った。


「ぜひ!」


「それでは皆様、食卓へとご案内差し上げます。ティファラ様ルブレスト様クルス様お先に」


マリアが丁寧に礼をして言う。


「ありがとう」

「我々までかたじけない」


部下の魔人を抜いた全員が食卓に向かうのだった。


皆が席につき次第、順次料理が運ばれて来た。マリアが魔人に指示をして、そつなく料理が並べられていく。ラシュタルの3人が座り、その対面にカトリーヌ、モーリス先生、俺、エミル、ケイナ、ハイラの順に座った。


「では私の方から」


俺が立ち上がり話す。皆がシンとして俺の方を向いた。


「この席には信じられない顔ぶれがそろっております。まずはハイラさんがラシュタルの御三方を知らないので紹介します。ティファラ・マルティカ・ラスト陛下、ルブレスト・キスク宮内大臣、カリスト・クルス宰相です」


「お見知りおきを」

「よろしく」

「お初にお目にかかります」


3人は上品に挨拶をする。ハイラは黒髪黒目の珍しい外見だが、それを気にしている様子は無かった。


「こちらはエドハイラさんです。なんと違う世界から来た異世界人です」


「エドハイラです」


エドハイラは少しビクビクしながら挨拶をした。無理もない、目の前にいるのは正真正銘この国の王様なのだから。王様を目の前にしたら日本人は大抵こうなりそうだ。


「凄い!」

「異世界と?」

「どういう意味でしょう?」


3人は異世界人という言葉を聞くと流石に驚いたようだった。


「ファートリア神聖国の地下にあった魔法陣で、召喚されてしまったらしいのです」


「召喚ですって?」


ティファラが言うが、さすがにそれ以上の言葉が出ない。


「はい。強制的に連れて来られたようなのです」


「そんな、お気の毒に。誰がそんな事を?」


「それは食事でもしながら説明してまいりましょう」


「わかりました」


ティファラも浮かれていた感じから引き締まった表情に変わる。


「そしてご紹介するまでも無いですね。モーリス先生とカトリーヌです」


「わしらの紹介はええじゃろ」


「ですね。それとこちらのエルフが精霊神となったエミル、そしてその隣にいるのが未来の奥様のケイナさん」


「ちょっ!ラウル!こんなところでお前」


「あれ、違った?」


「違ってはいないような違うような…」


ケイナがジト目でエミルを見ている。


「コホン!エミル、ケイナさんがご不満なようだぞ」


「あ、とにかく進めてくれ!」


「わかった。とにかくここに集まったのは、この世界でもまれな人達です。そして…」


俺がこれまでの縁や、これからの未来の話をしようとした時だった。


「ラウル、その話…長くなる?料理が冷めるぞ」


エミルに止められる。


「あ…えっと皆さん話やめてもいいですか?なんか偉い人集まったから何か話さないとと思って」


「いらんわい」

「ええ、ラウル様。私達もお忍びですのでそんな堅苦しい挨拶は」


なんか真面目に挨拶をしようとしたのだが、俺が馬鹿らしい。


「じゃ、盃をもってください!」


全員が立ち上がった。


「乾杯!」


「「「「「乾杯!」」」」」


「ではいただきましょう!」


皆が座り料理に手を付け始めた。よほどマリアが作り監修した料理が食べたかったようだ。


「おいしいですわ!」


「マリアのお得意です」


「ああ…このパイ…しあわせ」


「ティファラ女王も気に入ったようですな!これはフォレスト家にいたセルマ直伝のパイですじゃ」


「セルマさん、クマになっちゃいましたよね?」


「そうそう。今はイオナ様の護衛をしておりますのじゃ。いや…飼われていると言った方がいいのでしょうな」


「なんとも言えない運命ですわ」


「じゃがラウルの側に居たら、そんな事は普通だと思えるような奇想天外な事ばかりおきますわい!」


「本当に羨ましいです。私も旅のお供をしたいくらいです」


ティファラが本気でついて来たそうな顔をしている。


「ティファラ様が旅にでてしまわれたら、我々ラシュタル国民は路頭に迷うでしょうな」


「いいえルブレスト、あなたが王でもいいくらいよ」


「わがままは困ります」


「と言うわけです先生。私はかごの中の鳥だわ」


「こら!ティファ。ルブレストさんが困っているじゃない」


「カティは良いわよ。いろんなところを飛び回れて」


「ティファラ様、彼らは命がけで世界を飛び回っておられるのです。旅行ではないのですから」


ルブレストが少し真面目な顔で言う。


「わかってるわルブレスト。もちろん王となった私は、そんな我儘が通るなどと思ってませんよ。ただ心の片隅にあるささやかな願望を話してみただけ」


「分かっております」


どうやらティファラとルブレストのこんな会話も、日常の一コマのようだった。自然に冗談を言い合えるまでの状態に戻ったのを見て安心する。


「ティファラ様。世界が平和になったら、俺の空を飛ぶ機械で世界中の行きたい所どこにでもお連れしますよ」


「え!ラウル様!本当ですか?」


「もちろんです。そうですね、ティファラ女王にカトリーヌと聖女リシェル、マリアとケイナとハイラさんの女子6人旅なんてどうです?もちろんアテンドは俺とエミルがします。付き合うよな?エミル?」


「もちろん、ぜひ世界の楽しい地域を回って見聞を広げましょう」


「嬉しいですわ」

「ありがとうございます」

「私までよろしいので?」

「私も?」

「混ざってもいいのであれば」


「もちろんハイラさんも一緒に!」


「カティの言う通り!一緒に行きましょ!」


「ありがとうございます」


エドハイラも嬉しそうに答えた。この世界に来ていきなり同郷の仲間達に裏切られ、殺伐としたこの戦いに巻き込まれた挙句、俺達について周って来た。そんな中での女子旅の提案に少しは心浮かれてくれたらしい。


「して、ハイラさんが異世界人と言う話だが」


ルブレストが言う。


「ああ、そうでしたね。実は古くからファートリア神聖国の聖都の地下に、巨大な召喚魔法陣があったらしいのです。そこに強大な魔力を流した結果、この世界ではない異世界から6人の人間が召喚されたのです」


「そのような召喚魔法陣がなぜ?」


「それは我々にも分かりませんでした。ただそれを目撃した者がいるというか、それも人間では無いのですが」


「何者です?」


「アトム神です」


「なんですって?」

「アトム神だと?」

「まさかアトム神様ですと?」


「そうなんです。今は人の姿をしてファートリア神聖国の聖都におります。サイナス枢機卿の下で保護?いえ指導していると思います」


「まさか…神様がそこに」


クルス神父がつぶやく。確かに龍神や精霊神、虹蛇と言ってもあまり北の大陸の人はピンとこないだろうが、アトム神と言えば正真正銘の神だと思っているのだろう。アトム神の名前を聞いて驚いている。


「ふむ。まあクルス宰相には悪いのじゃが、わしの思うておったアトム神とは違うように感じたのじゃ」


いきなりモーリス先生が水を差す。


「違う?」


「まあ、人の信仰が失せてしまったのも、もしかしたらそこに原因があるのかもしれんと」


「どういう?」


「まあ、それは人ぞれぞれじゃからの。これ以上は一度会ってみて判断してもらえば良いじゃろうな」


「えっ!アトム神様に?お会いできるのですか?」


「戦争が落ち着けば会いにいけるじゃろ」


「わ、私など恐れ多い」


「まあ、聖職者にとってはそうじゃろう。じゃが信仰の対象に一度は会ってみたいと思うじゃろ?」


「はい」


「なら機会が来たら一緒に」


「わかりました」


クルス宰相は興奮冷めやらぬと言った表情をしている。信心深かった神父だっただけに仕方のないことだ。だが俺もモーリス先生と同様にアトム神は苦手…好きじゃない。


「我らも、ラウルのおかげでかなり恩恵があったんだ」


「そうなのですか?ザラムの話では、ルブレストさん…ルブレストの力でラシュタルはかなりの復興を遂げたと聞いております。そして人間の軍隊も形成されたと」


「その通りなのだが、それも魔人達のおかげさ。まああの化物ザラムのおかげで、俺にも伸びしろがあったという事に気づかされたのもある」


「ザラムのおかげですか?」


「まあ、明日になれば我が軍もこの基地に訓練をしに来る。その時にわかるよ」


ルブレストが言う、魔人のおかげ…。確かに魔人達との合同訓練をしているとは聞いたが、どういう事だろう?ラシュタルは一番最初に魔人と人間の混合組で作戦を行った地だ。どれだけの変化があるのかは、とても興味深いところだった。


「ただ…」


「ただ、なんです?」


「あの色白美人の彼女…」


「えっと、シャーミリア?」


「それと、顔色の悪い男」


「ファントムですね」


「あれは話にならない。一番最初に出会ったギレザムにも感じたが、あの二人も見えないんだ」


「見えない?何がですか?」


「何と言ったらいいのだろう?もちろんザラムも、とても高い山がそびえたっているように感じる。それは到底人間には越えられない壁であり、人知を超えた高みだ。だが無限とも思えるその差に想像がつくのだ。だが彼女らにはそれが見えない、本当の意味での無限を感じる」


ルブレストはそう言うが、俺は系譜で繋がれている為かそうは思わない。皆の意識が共有されている時もあり、とても身近なまるで自分の一部のように感じる。


「シャーミリアと手合わせして見たらわかりますよ」


「フッ…ラウルはあれと手合わせしたことがあるのか?」


「私の戦闘訓練はもっぱらシャーミリアです」


「まったく…ラウルは父親譲りだな。その勇気は素直に尊敬するぞ」


「毎回、死ぬ一歩手前まで行きますけどね。デイジーさんの薬のおかげで首の皮一枚繋がってます」


「…馬鹿だな」


「自分でもそう思います」


「まるでアイツみたいだ」


「父さんですか?」


「ああ、あいつはそういう熱い男だった」


「そうなのですね」


俺もルブレストもグラム父さんの事を思ってしみじみとなってしまう。


「そういえば、カーライル。あいつのあの気の冴えは尋常じゃなかった」


ルブレストが話題を変える。


「ふふっ。カーライルですか?あいつには負けます。あれは異常すぎます」


「狂気という言葉が一番当てはまりそうだよな」


「ルブレストもそう思います?」


「ラウルも思うか?」


「はい」


きっと今ごろ狂気の剣士はくしゃみをしているかもしれない。だが俺もルブレストも彼には尊敬の念すら抱いているのだった。突き詰めるという事に命を懸けている剣士、イケメンでシャーミリアにいつも殺されそうになっているが、凄い奴だと再認識する。


「手合わせしてみたいな」


「ぜひ。カーライルも喜ぶと思いますよ」


「楽しみだ」


ルブレストが一口酒を飲みながら思いを馳せていた。食卓はとりとめのない、それでいて未来の平和を感じさせる話で埋め尽くされる。皆の幸せな顔を俺は心に刻むのだった。

次話:第603話 ラシュタル総合武力演習


お読みいただきありがとうございます。

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