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第601話 ラシュタル王国へ

シュラーデン王国はマーグに任せるのが一番という結論に至った。そこで俺達はシュラーデン基地の武器の補充を終え、次の目的地であるラシュタル王国へと向かう。シュラーデンとラシュタルは比較的近い場所にあるので、オスプレイで2時間かけずに到着した。


「ラウル基地が見えたぞ」


「今回は早かった」


「やはり空を飛ぶのは面白いのう」


「それは良かったです。やはり景色とかが違いますからね」


「そうじゃ、北の山々は真っ白じゃし、とても美しいのう」


「少し寒いですけど先生は大丈夫ですか?」


「わしは魔力でどうとでもなる」


「カトリーヌとマリアはどう?」


「私達も問題ないですね」


どうやら魔法使いたちは、多少の寒さであれば何とか調節も利くようだ。もちろん魔人達は全く問題があるようには見えない。俺も魔力が巡っているので寒くは無かった。


「わ、私は少し寒いですね」


エドハイラが自分の体を抱いて寒そうにしているが、魔力も無いので無理はない。ちょっと薄着なので風邪でもひかれると気の毒だ。


「あ、ごめんね!よっと!」


俺は直ぐに、陸上自衛隊防寒戦闘服2型外衣を召喚した。


「これを来てくれ」


「ありがとう」


エドハイラはそれを手に取り服の上から着こんだ。ちょっとダボついた防寒迷彩服を着た女子大生がホッとした表情になっている。


「あったかいです」


「よかった。今度からは寒かったりしたら遠慮なく言ってくれ。そろそろ到着するからそれを着てると良いよ」


「はい」


ハイラがニッコリと笑う。


《日本だったら可愛い部類なんだろうけどなあ…》


《ご主人様、側室に向かえるのもよろしいかと》


《いやいやいやいや!そういうつもりで行ったんじゃないよ!》


《差し出がましい真似を、申し訳ございません》


おそらくまた…シャーミリアは世継ぎの事を考えているのだろう。


そしてオスプレイは、森の中にあるラシュタル基地のヘリポートへと着陸した。後部ハッチを開けて皆が外に出る。外はもう冬の気温となっており全員の息が白かった。


《シャーミリアとマキーナとファントムからは息が出ていないけど》


「お待ちしておりました」


「ザラム。ご苦労様」


「ありがとうございます」


俺達が外に降りるのを見計らって、元魔人軍のオーガ部隊の隊長だったザラム以下の魔人が跪いている。綺麗に整列しており、ここでもまるで軍隊のような行動が徹底されている。


「休め!」


俺が言うと皆が立ち上がって、肩幅に足を開いて手を後ろに組む。


「みんな!日々の訓練を怠ってはいないようだね!基地の様子を見れば皆がどれだけ頑張っているのかが分かるよ」


「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」


怒号のような雄たけびが返ってくる。今までのどの基地よりも勇壮で雄々しい感じがした。


「北は環境も厳しいと思うけどラシュタルは魔人国の友好国だ。民たちの平和のためにも日々鍛錬を欠かさず頑張ってくれ」


「「「「「「は!!」」」」」」


「では!日常の業務に戻っていいぞ!わざわざ俺達のために出迎えてくれてありがとう!解散!」


ザッ


魔人達は一斉に持ち場へと向かって行った。


「ラウルよ、あんな手短な言葉でよかったのかの?」


「ここで立ったまま話せば、ハイラさんが凍えますよ」


「む、そうじゃな。すまなんだ」


ハイラを見ると少し震えている。


「いえ…大丈夫です」


といいつつもハイラは手に息を吹きかけて揉んでいた。


「ザラム、暖かい部屋に連れてってくれ」


「は!」


俺達はザラムについて基地内を歩いて行く。ザラムはオーガの進化魔人だが、見た目がギレザムやガザムよりだいぶ厳つい。とてもワイルドだが髪を刈り上げていて、頭のてっぺんはグレーの髪がツンツンと立っている。顔に傷があり更にその怖さに拍車がかかっている。まさに歴戦の勇士、軍人の中の軍人と言った雰囲気だ。


「すげえな」


俺の隣にいるエミルが、ラシュタル基地を見渡しながら言う。


「ここは初期のうちから開発の手が入っているからな、だいぶ完成形に近いんじゃないか?」


「なるほど。まるで前世にでもいるような錯覚に陥るよ」


エミルが言うとハイラもうんうん頷いている。


「ハイラさんも、やはり懐かしいかい?」


「そうですね。こちらの風景も悪くはないですが、やはり帰りたいという気持ちが強いです」


「なんとか方法を探るよ」


「…あればいいのですが」


「ふむ、向こうからこちらに呼ぶ魔法式があるのであれば、こちらから向こうに送るのも無いとは言えんじゃろうな。じゃが向こうに出口の魔法陣が無ければ成立しないかもしれんのう…」


「先生…であれば、かなり難しいかもしれません」


モーリス先生の言葉を聞いて俺が言う。そりゃそうだ、日本に限らず前の世界に召喚の魔法陣を書く人間がいるとは思えない。


「ラウル達のいたところは、魔法が無い世界じゃったか…」


「でも、入り口があったとも思えないですがね」


「確かにな…」


エミルも同じ意見のようだ。


「ならば一方通行も可能と言う事になるのじゃ」


「はい」


「ハイラ嬢よ、まあそんなに悲観的に考えんでもええじゃろ。こちらの世界を観光して周っていると思えばいいのじゃ」


「わかりました」


先生に慰められ、少しは気を持ち直したようでハイラは顔を上げて歩き出す。


「こちらです」


ザラムが建物の門の前に立って言う。司令部の建物は、既に前世で言うところのビルのような作りになっていた。ところどころの作りはこちらの様式に沿った形になっているが、全体の見た目は前世の建物に似ている。


「ご苦労」


「は!」


入り口に立っていた門番の魔人達に声をかけると、姿勢を正して入り口の玄関を開けてくれた。玄関を入り、エントランスの奥にある部屋へ行って扉を開けたとたんに熱気が感じられた。


「あったかいな」


「ラシュタルの職人により、ペチカを作ってもらいました」


壁にはペチカがあり、薪がくべられてメラメラと燃え上がっている。


「おお!こんなに広い部屋なのにあったまるね」


「人間の職人らしい技術です」


「てか魔人の建物にしてはペチカなんて珍しいけど、どうして作ってくれたんだろう」


「それは、陛下がいらっしゃる時のためにです」


「えっ!ティファラがこんな殺伐としたむさくるしいとこに来るのかい?」


「時おり」


「ふふっ、ティファラらしいわ。昔は、おてんばだったから」


カトリーヌが言う。


「今はだいぶ上品でおとなしい感じだけどね」


「中身は変わっていないのでしょう」


「見かけによらない」


「昔を知らないからですよ、私からしたらティファラらしいと感じます」


どうやらティファラはおてんばだったらしい。と言うか奴隷商に売られそうになっていた時でも、割と落ち着いていたような気がする。もしかしたら荒事に対しても耐性があったりするのかも。


「てか、ザラム。今日この部屋を暖めていたのは俺達のためだけじゃないだろう?」


「は!カトリーヌ様がいらっしゃるという伝令を城に送ったところ、ティファラ様がここへいらっしゃるとの返答が来ております」


「え!ティファラが来るの!今日?」


カトリーヌが嬉しそうにキャピキャピモードになっている。やはり幼少からの友達に会うのは嬉しいらしい。


「はい」


「いつ来るのかしら?」


「一刻以上はかかるかと」


「わかったわ」


ラシュタル王城に行く前に向こうからこちらへ来てくれるらしい。こんな魔人だらけの基地に足を運ぶ女王なんて他にはいないだろう。


「じゃあザラム。その前に近況報告を」


「は!」


ザラムが今のラシュタルの現状を話し始める。


「ラシュタルには既に政府があり行政が行われております。人間の兵もそろってきており、我々は周辺警備だけで、都市内部の治安は問題なく維持されております。ラシュタル基地は現在戦闘訓練と大型魔獣の駆除のためにあるような状態です。都市の住人たちも十分に仕事がいきわたっているようで、ラウル様が懸念されておりました貧民街は無くされました。そこにいた住民は、全て人のすまなくなった空き家が与えられており仕事もあるようです」


「理想的だな」


「そうなっているのも、ある男の力によるものです」


「ルブレスト・キスク」


「そのとおりです」


「やはり」


「うむ。あの御仁なら問題ないであろうよ」


「はい、恩師様。ルブレストはとても優秀な方でいらっしゃいます」


凄い。元のオーガ隊長のザラムに、そんなことを言わせる人間なんていると思わなかった。


「ふぉっふぉっふぉっふぉっ、さすがはグラムの師匠じゃの」


「はい先生。父さんのお師匠様は立派な方のようです」


「そうじゃ!手土産があるじゃろ!」


「ああ!シュラーデンで回収した剣と弓ですか!」


「どうせカーライルには魔剣があるしのう、業物はルブレストにくれてやればええ」


「いい案ですね!」


盗んだものをプレゼントしろって言う恩師も恩師だが、それを名案だという生徒も生徒だ。俺も先生もどこか軽くモラルが壊れている気がする。それが証拠に、カトリーヌが若干ジト目で俺達を見ている。


「武器は!使ってナンボですからね!使われない武器なんてかわいそうすぎます!」


「そうじゃ!使われるために作られたのじゃから、それでいいのじゃ!」


カトリーヌの雰囲気に気が付いて、俺達はより大きな声で自分たちを正当化するのだった。


「まあ魔人軍基地が、ラシュタルにもたらす恩恵は大きいですからね。とりあえず今回は黙っておくことにします」


カトリーヌが言う。


カトリーヌは民から税を集める事や、そのあたりにあった財宝に手を付ける事は賛成派だ。しかし王族や貴族の礼儀に関しては染みついているものがあるらしい。若干の抵抗があるようだった。特に親友に送る贈呈品が盗品と言うのが納得いかないのだろう。


「もちろん!ラシュタルは魔人国とも友好関係を結んでいるからね、いろいろと優遇するように代官をしているポール王にも伝えているさ」


「わかっております」


カトリーヌはいつもの笑顔に戻る。なんだかだんだんとお妃様っぽいオーラが出てきており、俺も少し怖くなってきた。さすがはナスタリアの血が流れている女だ。


「ザラム。おもてなしの準備はどうなっているの?」


マリアが聞く。


「台所で準備をしている、ラシュタルからも料理人を雇ったのだ」


「では私をそこに案内してほしいのだけど」


「わかった」


ザラムが手を鳴らすと、部屋の外からハルピュイアの魔人が入って来た。


「はい」


「マリアをキッチンへ」


「はい」


「あの!私も手伝っていいですか?」


エドハイラが手を上げて言う。


「あ、マリア。どうかな?」


「いいですよ」


「じゃあついて行って、その防寒衣は脱いでいくと良いよ」


「あ、そうですね」


エドハイラがいそいそと防寒戦闘服2型外衣を脱いだ。それをハルピュイアの魔人が受け取ってくれる。どうやら気遣いも教え込まれているようだ。


「では」


マリアとハイラはハルピュイアについて部屋を出て行った。


「えっと俺達の方だが、念話で少しはつかめているか?」


「おおよその所は」


「ここの視察を終えたらすぐにルタンに飛ぶ。ティファラにお願いして手短に都市の視察をして、魔人達と人間の関係とかを確認したいんだが」


「大丈夫だと思われます」


「わかった」


そして俺達は現状の基地の問題が無いか、都市の人間との関係性や基地とのやり取りの事などを聞いて行く。どうやら他の所よりだいぶ良好なようで、人間の兵士もここに来て訓練に参加しているらしい。確認事項を一つずつ潰していくといつの間にか時間は経って行った。


コンコン


「入れ」


ザラムが言うと、ハルピュイアの魔人が入って来た。


「ラシュタルより陛下と大臣、宰相様がいらっしゃいました!」


「通してくれ!」


「はい」


どうやら彼らが到着したようだ。時間的には料理も完成している頃だろう、俺達は知己の仲であるラシュタルの要人を迎え入れるのだった。

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