第06話:無限弾丸だと思った
縮地みたいな技をみた。
俺のオヤジは凄かった。
オリンピック選手の10倍はありそうな身体能力をみて俺は衝撃をうけ、その後のピクニックは上の空だった。
俺も訓練をつめば、垂直に2メートルくらい飛び上がれるようになるのだろうか?大木に穴を穿つようになれるのだろうか?
《いや、まったくやれそうな気がしない。》
ピクニックが終わり、家に帰ってきたその日の夜。
ピクニックでは武器やこの世界の雰囲気など、いろいろと知ることが出来たのだが、俺にあるらしい魔力については聞いていない。聞かないと気になって寝るに寝れない。
《だってあんなグラムより、もっと強い奴がいる世界で生きていかねばならんのだから。なにかあったらすぐ死にそうだよな・・》
寝る前に俺は魔法のことをイオナに聞いてみることにした。
「母さん魔法のこと聞いてもいい?」
「いいわよ母さんのわかる範囲で教えてあげるわ」
「今日、父さんの技を見てからそのあと聞いたんだ。どうしたらそんなに強くなれるの?って、そしたら修練が必要なんだって」
「ええそうね。お父さんの剣技が強いのは訓練の賜物ね」
「剣は訓練で強くなるけど、魔法は訓練で強くなるの?」
「確かに訓練できちんと正確に使えるようにはなるわね。でも強くなるのは剣と魔法はまたちょっと違うかな。まず魔法は魔力がないと使えないの、そして魔力は生まれつきのものよ。全く魔力の無い人は使えないわ。魔力が多いほど強くて大きな魔法が使えるようになるの。」
と、いうことは…俺の魔法は弾1発しか呼び出せないんだけど、訓練では魔力は増えないということか?訓練できちんと使えると言うのはおそらく精度があがるということだろう。
「魔力は後からは増えないの?」
「うーん。人によっては生まれて備わった分だけの人もいるし、成長と共に増える人もいるわ。でも訓練で増えると言うのは聞いたことがないわね。」
やはりそうか、訓練して魔力が増えることはないと…
「母さんは子供の頃より増えた?」
「そうね。子供の頃は両手いっぱいくらいだったけど、今では水瓶何杯分も出せるようになったり、飛ばせるようにもなったわ。」
《ふむふむ。じゃあ魔力は成長や学びと共に増えることもあるのか?俺もまだ未知数って感じだとすれば、がっかりするほどじゃないな。どうか魔力がいっぱい増えますように。》
「母さんは水魔法以外に使えるの?」
「いいえ使えないわ魔法には適性があるのよ。マリアは火魔法しか使えないようだし。」
適性か…それは何で決まるものなのだろう…
「父さんに聞いたんだけど、水、火、土、風、光、闇、神聖、治療。以外に種類はあるの?」
「あら、ラウルもよく覚えられたわね。」
やばい。そういえば俺はまだ3才だった。こんなに根掘り葉掘り聞いたらおかしいと思われそうだ。
「僕の魔法がなんなのか知りたくて。」
と、適当にごまかした。
「そうね。ラウルの魔法は何かしらね?魔法の種類に関してはそれ以外には無いと思うわ。と言うか母さんも聞いたことがないだけかもしれないけど。学校でも習わなかったわ」
学校があるのか?
「魔法学校?」
「そう、そこで理や適性などを教わるの。魔法を使える人には何種類もの適性がある人もいるのよ。そういう人は天才とか大魔導師と呼ばれたりするわ。」
「学校では何を学ぶの?」
「理かしら。」
「ことわり?」
ここにきて、ちょっとややこしい話がでてきたな。
「私は魔法で、どうしたら水が出せるようになるのが知りたかったのよ。」
「水?」
「そう。水は水の元になる物と、私たちのまわりにあるものを合わせる。それを心の中に深くイメージするのよ。」
「目に見えないのにイメージ出来るの?」
「そうね。子供の頃から分かってた気がするの。それをわかりやすくしてくれるのが学校なの。」
《水を出せるイメージってなんだよ。俺が子供の頃想像してたのはホウキを持ってライフルのマネして、戦うイメージしてたくらいだ。》
「難しそうです。」
「子供の頃に心に刻まれていればそれほど難しくないわよ」
「心に刻まれる…」
今の話で気がついたことがある。おそらく理とは前世で言うところの科学じゃないかな?水の元が水素で私たちのまわりにあるものが酸素だ、学校で習った元素記号だな。それを結合させてみずを生み出す。
だが、それをイメージする?と言うのがよくわからない。水素は目に見えないし酸素も目に見えない。どうやってイメージするというのだろう。
理を学ぶというのは、前世の学校で習う理科のような事なのか?元素記号をイメージしたところで、魔法が使えなさそうなのだけはわかる。
ここまで聞いて俺は、自分の弾を出した魔法がなんなのか無性に気になってきた。科学でもなんでも無さそうだからだ。水やら火と違って、化学式で人間が作った創作物が出るわけがない。
とにかくもう一度やってみなければ、見えてこない気がした。
「母さんありがとう。僕そろそろ眠くなってきちゃった。」
「そうね。お出かけもしたし疲れたでしょう。でもびっくりしちゃった。ラウルったら急におしゃべりがお上手になったみたいで・・どうしちゃったのかしらね。」
え?3才ってこんなんじゃなかったっけ?やばい。実年齢がバレるとはおもえないが、なんか怪しまれてるかもしれない。
「もしかしたらマリアがいろいろ教えてくれてたのかな?」
イオナが言う。
「う、うん。マリアはたくさんおしゃべりしてくれるんだ。」
イオナが勝手に助け舟をだしてくれた。というか、マリアは遊び相手になってくれたりはしていたと思うが、そんなに話しをしたことは無かったような気がする。
「やっぱりそうなのね。マリアはラウルのお世話が好きみたいだし、仲良しでいいわね。」
イオナは微笑んだ。
よかった。怪しまれてはいないようだ。というか3才の我が子を疑う母親はいないか。ちょっと心配しすぎだったかもしれない。
「今日は父さんも帰ってきているので、自分の部屋で寝ます。おやすみなさい。」
「あら?今日は怖いから私と一緒に寝るって言わないのね。お父さんの技を見て勇気がでたのかしらね。」
俺は一人で寝れますとも。31才だもの。そして人妻の隣で寝る趣味はないよ。
イオナは優しく抱きしめておでこにキスをしてくれた。美人の若い女性からのキスなのだが、やはり母親だからだろう…まったくときめかない。
「おやすみなさい。」
両親の寝室をでてリビングでまだ起きていたグラムに挨拶をした。
「父さんおやすみなさい」
「ラウル、今日は1人で寝るのか。偉いぞ!」
「父さんまた今度お話聞かせて下さい。」
「わかった。今度は冒険の話してでもしてやろう。おやすみ。」
グラムは俺の頭を撫でてくれた。
「おやすみなさい。」
冒険の話か…魔物討伐とかダンジョン攻略とかかな?聞きたいな…今はそれよりも…召喚だ。
挨拶をして2階の自分の部屋に上った。俺の部屋はマリアの部屋の隣だ。マリアはまだ起きているようでドアの下の隙間から光がもれている。
17才の少女の隣とか…姉弟ならいざ知らず、ちょっと罪悪感というか申し訳ない。31才の俺からすれば犯罪だ。背徳感でいっぱいになる。
俺はそっと自分の部屋のドアを開けて中に入った。ベッドと小さなテーブルと椅子2脚が置いてあるだけのシンプルな部屋だ。壁に小さい棚が備え付けてあるが、そんなに広くはない。
月が明るく部屋の中を照らしていた。こちらの世界も月はひとつしか浮かんでいないようだ。ロウソクがなくても明るさは十分だ。
俺はすぐにベッドに潜り込んだ。
さあ、どうしよう。まず1回で魔力切れをおこすだろうから慎重にためしてみよう。いきなり大きな物を呼び出そうとして死んだりするといけない。まあ死ぬ事はないだろうけど、魔力切れで死ぬならたぶん、そこらへん人死にだらけだ。
えっと、とりあえず魔力切れをおこすといけないから、枕をセットしてと。毛布が掛かるようにスタンバイOK。弾が転がってマリアが来るかもしれない。きちんと受け止めるようにしてと。
さーてと、やるぞー!
俺は意気込んだ。魔法のなんたるかを少しでも知れますように。寝てしまったら何も知る事は出来ないだろうけど。
この前のようにイメージしてと…。
やっぱ目を開けたままだとイメージしづらいな。
目を閉じてパラベラム弾を思い浮かべてみた。昨日と同じように目に浮かぶ。本当にリアルだ…質感がはっきりとわかる。どうしてこうなるんだ・・弾丸に手を伸ばして触れてみた。
きっとまた眠るのだろう。でも何かをつかみとる事ができたなら。
ポトリ
毛布の上に弾丸が落ちた。
「・・・・」
出た出た!けど…
《あれ?眠くならない。なんで?あれ?魔力増えた?なにかしたっけ?》
とりあえず弾を手に取ってみた。弾丸のなんとも言えない感触。重み。ああ…本物だ。うっとりしながら弾丸をながめた。この光輝く見た目と重たさがいい。
《うっとりしてる場合じゃない。考えるんだ。1発で眠くならないと言う事は…やっぱ訓練で伸びるとか?グラムとの騎士ごっこ?でも訓練で魔力は増えないはずだよな。》
とにかく、まだ眠くならない。もう一発やってみようかな?同じように思い浮かべて触れてみる。
ポトリ
《お!また出た。昨日出したのと並べてみる。昨日出した弾と今日の弾、まったく同じのが3発。やっぱ並べてみるとカッコいいな。てか…眠くならない!やはりそうだ!グラムとの騎士ごっこが効いてるんだ。いやまて….そう結論付けるのはまだ早計だ。身体を鍛えたから魔力が増えるのなら、魔力のある人間はみな身体を鍛えるだろうしな。》
イオナは訓練では魔力は増えないと言っていた。
しかし・・・間違いなく魔力が増えてる。何があった?記憶が思い起こされてから何をした?ピクニックをした。家族から話しを聞いた。あとはなんだ・・
わからない。
あともうひとつの疑問がある。なんか前世で武器とかいろいろあったはずなんだが、あんまりハッキリ思い出せない。弾丸はハッキリイメージできるし質感もリアルに見える。他の武器は思い出せそうだが、起きたばかりで寝ぼけた感じがする。
すっごい武器が好きだった事は記憶あるんだが。俺を撃った拳銃も、もう少しで思い出せそうなんだが。
わからない。
しかし昨日よりだいぶハッキリしたのは確かだ。急速に前世の記憶が読み込まれているのだろう。一昔前のパソコンの再起動みたいな感じと言うのが、近い表現かもしれない。
とりあえず出てきた弾をベッドの下の隙間に隠す。マリアに見つかったら絶対びっくりするもんな。
《しかしこれさあ、無限に出せちゃうんじゃね?朝になったら弾丸に埋もれてたりして。うわー隠すとこ無くなったらどうしよう!》
《特別魔力が多く生まれついたとか?気がついたらチートでしたみたいな!?》
《えっ!そういう設定??》
《あーやっぱ・・俺TUEEEEってやつかぁまいったな。》
にやけながら
もう一回!目を閉じて弾丸を思い浮かべてみる。
ポトリ
俺は気を失った。
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