第59話 強騎士の追撃
疑似的な内乱状態を引き起こした俺たちは一度、その場を離れ街の外へ出た。
「マキーナ、グリフォンから武器を降ろして車に積んでくれ」
「はい。」
洞窟に囚われている、ガルドジンや仲間を助けに行ったオーガの元へ援護に行く準備をする。内乱作戦がうまくいったため、オーガと合流する時間が稼げたのだ。
「この内乱状態がいつまで続くか分からない、時間との勝負だ。おそらく敵兵は中心部の内乱にほとんどが加わっているとみていいだろう、俺達はその隙に最北のルートを通って奥の洞窟まで走る。」
全ての武器を積み終わったので、グリフォンを仲間の元へ行けと言って飛びたたせた。俺の頭を甘噛みしてべろべろと舐めてから飛んで行った。
「これ・・なんとかならないかな・・」
俺達は全員で車に乗り込み街に侵入する。一番北側の路地をM1126 ストライカーが洞窟方面へ向かって走っていく。
「それで?どうするの?」
「街の人を解放する。」
上から見ていた限りでは、街の人間を見張っている兵隊は50人程度だったが、街の騒ぎで20名程度を残していなくなっているはずだ。北の通路には敵兵もおらず遮蔽物もない為スムーズに進んだ。すべての兵隊が内乱に参加しているのだろう。
「このまま走らせますか?」
マリアが質問してきた。
「街の角にさしかかる前に車を停めよう。」
「はい」
フルスピードで走っていたため、あっというまに街の最北東の角にさしかかる。
「よし、停めろ」
「はい」
一番角に立っている建物の数十メートル手前に車を停めさせる。
「シャーミリア、俺を北東角の家の屋根に連れて行ってくれ。」
「かしこまりました。」
俺はバレットM82 対物ライフルを持って、シャーミリアと後部ドアからでる。そこから北東の角の事務所のような建物の屋根に飛んで降り立つ。その建物は3階建てのため他の建物より少し高い。そこから双眼鏡で南をみると松明が灯された広場に、たくさんの人が集められて座らせられている。そのまわりに20名ほどの騎士と、ローブと杖を持った魔法使いも3名ほどいるようだ。
「風がふいているな。潮の臭いがする・・」
「北東の崖がきれている部分は入江になっております。あちらは北海となります。」
「港があるのか?」
「魔人の国への船がでます。」
「魔人の国?」
「はい、私共が仕えていたザウラス王が治める国です。しかし私の今の主はあなた様です」
「ああ、わかってるよ。」
「は・・はい・・」
シャーミリアがやたらと照れた感じになっている。こういうキャラなんだっけ?この人。
「で・・だ。グラドラム民が捕らえられている周りのやつらを排除したい。」
「いかがなさいましょう。」
「20名・・手練れの剣士がいるかもしれん・・ここから狙撃する。」
「はい。」
俺はバレットM82対物ライフルをセッティングして敵を狙う。FWS-S越しに見ると、全員が内乱状態の街からの騒乱騒ぎに気を取られているようだった。
「まずは魔法使いから撃つか。」
「では連続で撃つことをおすすめします。」
「わかった。」
ズドン!ズドン!ズドン!
バスッ、バスッ、バスッ
距離的に2秒もかからず着弾し、魔法使いは3人パタパタと倒れた。その時だったシャーミリアが俺を抱いて後方の空に飛んだ。かろうじて銃を落とす事はなかったが、びびった。
「ど、どうした?」
「1人の騎士に気づかれました!車を後退させてください!」
「マリア、後ろに車をすすませろ!ペダルを最大に踏み込め!」
「はい!」
ギャギャギャギャ
シャーミリアに抱かれて飛びながらも、肩越しにスナイパーライフルを構えFWS-Sを覗いていた。するとさっきまでいた屋根の上に、一人の騎士が降りたってこちらを見ていた。
「速いな、人間離れしてるぞ!」
「かなりの手練れです。」
「追いつかれたらどうなる?」
「私奴で守りきれるかどうか、そうなった場合あなた様だけでもお逃げください!」
「それほどか・・」
グリフォンを戻らせたのは失策だったな・・
屋根の上の騎士は屋根から飛び降り、地上に降りると猛スピードで一直線にこっちに走ってきた。車に気が付いてそちらを追っているようだ。
「しかし・・速いな。人造人間かなにかか?そのまま飛べ。」
「はい。」
俺は飛んでいるシャーミリアの肩口からの射撃を試みてみる。
「ズドン!」
ボッ
追ってくるヤツの前の土をはじけさせただけだ。
「外した」
やはり後方に動きながら、スナイパーライフルを当てるなどの芸当は俺には無理だった。
「くっ!ご主人様このままでは追いつかれます!」
どうする・・。
「シャーミリア、車の上に俺を落としてくれるか?」
「は・・はい。」
車の上に降りた俺は、ストライカー装甲車の上に換装されているLRADロングレンジ・アコースティック・デバイスを正面に向けた。ボリュームを最大にして音を照射してみる。
キュイキュイキュイキュイキュイ
LRADの発する爆音にすこしよろけたか・・しかし何事もなく走ってくるな。車のスピードに追い付いてくるなんて、グラム以上の身体能力だな・・
「よし・・じゃあこれはどうか。」
俺は揺れる車体の上で、XM84閃光手榴弾を呼び出した。
「全員!前方の敵を見るな!」
閃光手榴弾を呼び出してはピンを抜いて放り出す。丁度敵が差し掛かる直前で何発もの170-180デシベルの爆発音と100万カンデラの光が照らし出される。さすがにこれにはよろけたようで、速力も落ちたようだ。俺は間髪入れず、M1126ストライカーに換装していた12.7㎜M2重機関銃を打ち込んでみる。
ガンガンガンガンガンガン
ギィン!ギィン!ボッ!ボシュ!
倒れた。しかし・・ギィンって!今2発くらい剣で・・斬ったよな!!嘘だろ!12.7㎜弾を斬った??
「全員止まれ!うお!」
マリアが急ブレーキをかけたため、俺は後方にすっ飛んで転げ落ちてしまった。地面に激突する寸前でシャーミリアが抱きとめてくれた。
「あいつは?」
「倒れましたが生きています。」
俺は再度、装甲車の上に飛び乗りスナイパーライフルのFWS-Sナイトビジョンで前方を見る。
「なんと・・左腕がちぎれてなくなってるのに・・剣を支えに起きたぞ!あれはヴァンパイアか?」
「いえ・・・同族ではありません。あやつは正真正銘の人間でございます。」
フラフラになりながら、建物の陰に隠れようとしたので、俺はスナイパーライフルでそいつの足を撃った。
ズドン!
さすがにボロボロだったので命中して転んだ。剣を持たれているのは厄介なので右腕も撃つことにする。
ズドン!
剣を手放したようだった。
「シャーミリア、マキーナ二人がかりであいつを抑え込めるか?」
「あの状態なら、おそらく私奴ひとりでも・・」
「いや・・念には念のためだ、二人で行ってくれ。」
「はい。」
俺はLRADロングレンジ・アコースティック・デバイスの電源を切った。マキーナも車の中から出てきて、シャーミリアと二人で倒れた騎士の元へ飛んでいく。
「捕らえました。」
俺は車を降りて近づいて行く。ふたりのヴァンパイアに抑え込まれてこちらをにらんでいる。きりりとした精悍な顔つきの男だった。
「お前はいったい誰だ。」
「・・・・」
口を割らない。
「おい!ご主人様が聞いておられるのだ!答えよ!」
シャーミリアが恫喝する。
「・・・・」
なんか不敵な笑みをたたえてこちらをにらみつけている。うーん埒があかないな・・こいつが隊長かなと思ったんだけど違うのかな?
「口を割らないならいいや。」
俺はファイティングダガーナイフ FX-592を召喚し、シャーミリアとマキーナに押さえつけられている騎士の背中から心臓に向けて、スッとナイフを差し入れた。騎士から、眼の光が失われた。通常より強い力が自分に流れ込むのが分かった。
「これだけの手練れだ、何かに使えるかもしれん。シャーミリア屍人に変えろ。」
「かしこまりました。」
実は、この死んでしまった凄まじい男。その者は北東方面軍の1番小隊・隊長ヴァリウス・ラングだった。大隊長のグルイス・ペイントスと同等の力を持つ猛者だ。このレベルの猛者が無傷で殺害できたことは、ラウルにとって不幸中の幸いだったことに気づく由もなかった。
「連れて行こう」
「はい」
屍人になったヴァリウスをマキーナに運ばせて飛ぶことにする。なにせ・・敵兵の血で車が汚れるのが嫌だったからだ。俺とシャーミリアはストライカー装甲車の天井に乗った。
「よし、マリアまた先ほどの地点に向かおう。」
先ほど降り立った北東の街角の建物上方の空に、シャーミリアに抱かれながら飛びあがる。
「周辺の屋根の上には・・だれもいないな。」
「はい、人間の気配はしません。」
「さっきのやつだけが凄かったのか・・」
「おそらくは。」
そうか・・しかし、さっきのような事態は避けたいな。めっちゃ怖かったもんな。
「シャーミリア、東側の崖の上に飛んでくれ。」
「かしこまりました。」
「マキーナ!みんなの護衛を頼む。」
「はい」
もう一人のヴァンパイアであるマキーナは天井におりる。さっきの屍人にした騎士も一緒に・・車が血で汚れてしまったが・・
「よしシャーミリア飛べ」
「かしこまりました。」
シャーミリアに連れられて東の崖の上に降りる。バレットM82対物ライフルを構えFWS-Sナイトビジョン越しに、真下に見えるグラドラムの人々を見張る騎士たちを確認する。
「どうやら、さっきの凄腕の騎士がいなくなってうろたえているようだな。」
騎士たちは右往左往していた。おそらくさっきの凄腕が隊長か何かだったのだろうな。街の内乱を見張るものと、騎士が消えた方角の暗闇を見つめる騎士がばらついている。
「減らすか。」
ズドン
バシュゥ
ひとりが急に倒れたため、驚いた周りの騎士たちが慌てて寄ってきた。真上から見ているから、衛星の映像を見るように全員の動きがはっきりわかる。
ズドン、ズドン、ズドン、ズドン
バシュゥ、バシュゥバシュゥバシュゥ
パタンパタンパタンパタン
倒れた者を助けるため駆けつけた騎士4人が、急に血しぶきを上げて倒れた。
「う、うわあ!」
「なんだ!急に血を吹きだして倒れたぞ」
「し・・死んでる。」
「ひ、ひいぃぃぃ」
驚いた騎士たちが、4人から遠ざかるように輪になって後ずさる。
「これは・・チャンスだな。マキーナ聞こえるか?」
「はい、聞こえております。」
「さっきの屍人を飛んで連れて行って、街人を囲んでいる騎士たちの真ん中に落とせ」
「はい。」
マキーナがさっきの屍人を掴んで飛んだ。街人を囲んでいる兵士の上空に差し掛かり手をはなす。
ドサッ!
「な・・なんだ!」
「これは・・」
「嘘だろ」
「まさか、ラング隊長が・・」
転がっている死体にひどく動揺する騎士たちだった。
「シャーミリア、あいつを動かせ。」
「かしこまりました。」
ズ、ズズズ
剣を杖にして騎士の屍人が立ち上がる。しかし高高度から落ちているため、ぐちゃぐちゃだ。
「う、うわああ」
「隊長、隊長がぁぁ!」
「に、にげろぉぉ!」
蜘蛛の子を散らすように騎士たちが逃げる。
「マリア、街の人たちの元へ車を進められるか?」
「はい大丈夫です。」
ストライカー装甲車は街の人のほうに向かって走り始めるのだった。
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