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第578話 急ごしらえの文官学校

ガヤガヤガヤガヤ


ユークリット王城の大講堂には幼児から少年少女まで、200人ほどの貴族もどきの子らや市民の子や冒険者の子までが集まっていた。


「先生。凄くたくさん集まりましたね」


「ちょっと目立ちすぎたかのう、集まりすぎちゃった感は否めんのじゃ」


「まあ集まらないよりはいいと思います」


「ふぉっふぉっふぉっ!そうじゃな」


カトリーヌに聞いたところモーリス先生が、貴族街の空き地で魔法のデモンストレーションをやって人を集めたらしい。その空き地に集まった子らがいま王城に集められているのだった。


「本当にここから魔法使いが出ますかね?」


「まあかなり難しいじゃろう。冒険者の子供にちらほら淡い魔力を持った者がおったようじゃが、彼ら次第じゃろうな。まあ魔法使いにするための学校ではなく、文官を育てる学校じゃから問題ないわい。ふぉっふぉっふぉっ!」


昨日、俺達はモーリス先生とカトリーヌの帰りを夜まで待っていた。どうやら今集まっている子供たちに魔法の大道芸をした後、冒険者達が帰るのを待って合流したらしい。ある説明をして希望者を募った結果こんなに集まったのだ。結局、王城に戻るのは夜になってしまった。そして次の朝となる。


「でも先生は魔法使いになりたければ、学びが必要だと言ってこれだけ集めていらっしゃったんですよね?」


「ふぉっ。それはラウルを見習って…というか、方便と言うやつじゃな」


いつの間にか先生は俺に毒されて悪の道に染まってしまったらしい。


「曲芸のような魔法を披露なさったとか?」


「ラウルの武器や他の神たちの御業に比べればどうという事はないのじゃ」


「いえ。先生の魔法はそれこそ神業だと思いました」


カトリーヌが強く割って入る。


「多少魔法を極めているだけじゃ、昨日も言うたが実用性のかけらもない代物じゃて」


「先生。私も今度見てみたいですよ」


「ラウルに見せるものでもないわ、本当に子供だましじゃからの」


「あれを子供だましとおっしゃるのであれば、私の魔法はなんというのでしょう?先生は自分の凄さを少しは自慢なさっても良いと思うのですわ」


「カトリーヌが勝手にそう思うとるだけじゃろ」


「そんなことありません」


目の前に大勢いる子供達はマリアやシャーミリア、マキーナ、アナミス、ウルド、エドハイラが整列させていた。やはり子供達はまともに学校に通ってもおらず、整列させるにも四苦八苦しているようだ。特にシャーミリアが子供に四苦八苦している様は見ものだ。


「うむ、苦戦しとるようじゃの。ならばラウルに披露がてら、魅せる火魔法を披露してやるか」


モーリス先生はいつもの杖を使わず、カバンから小さい枝のような杖をとりだした。その杖をひょいっと突きあげると、先端から火の玉が飛び出して講堂の上に向かって行く。


パ―ン!


俺とエミルにはそれは見覚えのあるものだった。恐らくはエドハイラにも。


「花火だ」

「本当だ」


「先生!凄いですよ!こんなことができたんですか!」


「本当です。まさか花火を見れるなんて」


「む?あれを花火と言うのか?なるほどのう、言われてみれば花のように広がっとるな」


「えっ?先生は知らずにやってたんですか?」


「ふむ。ラウルの武器に影響を受けて編み出したのじゃが」


「嬉しいです。まさか私もエミルも花火を見れる事になるとは」


「なるほどのう。して少し子供達が注目しとるようじゃ、その話はまた後でじゃな」


「すみません」


俺はあらかじめ用意していた、LRAD長距離音響発生装置のマイクを先生に渡した。バッテリーは既にオンにしてある。


「皆の者、今日は良く来てくれたのじゃ!みなどうやら魔法が好きなようじゃな?魔法使いになりたくて来たのかな?」


「「「「「「はーい!」」」」」」


子供達が素直に返事をした。


「それじゃあ、爺が話をするでのう。静かに聞いておれるかのう?真っすぐに並ぶ事はできるかのう?」


「「「「「「はーい!」」」」」」


マリアやシャーミリア達が苦戦していた整列は、あっという間に真っすぐになり話を聞く準備ができた。


「良いか。まず魔法が使ええるようになるには、1に勉強2に勉強じゃ!特に文字の読み書きと数の計算が大事なんじゃ」


《え?俺がちっさいころそんなこと言ってなかったけどな》


「「「「「「はーい!」」」」」」


「ふむ。良いお返事じゃな!これから毎日この王城の庭にある、学び舎で勉強をすることになるがやりたいものはおるかの?」


「「「「「「はーい!」」」」」」


返事は良いようだが、本当に皆ついて来れるかどうかが心配だ。そして庭にある学び舎というのは、デモン戦で壊れなかった王城の南東にある騎士の旧兵舎である。


「よいよい!学ぶも自由、学ばぬも自由じゃが、1年ももたずに嫌になって脱落した者は退学となるでのう。それは了承してもらう事になるがどうじゃろ?」


ガヤガヤガヤガヤガヤ


生徒たちがざわつく。


「どうかの?」


「はい!」


一人の子供が挙手をした。


「一番前の君。名はなんというかな?」


「プラトリーナです」


「ふむ。冒険者の娘じゃな」


「はい」


緑がかった髪の毛のショートカットでボーイッシュな顔立ちの子だった。体は小さく華奢で弱弱しく感じる。だが目力があり、やる気に満ち溢れているようだった。先生がすぐに冒険者の娘だと分かったのは、魔力を感じたからだろう。微々たるものだが俺にも魔力を感じる事が出来た。


「質問はなんじゃろ?」


「おうちの事情や、やむを得ない事情があった場合は休めますか?」


きちんと敬語が使える。両親の育て方が良かったのだろう。


「それはもちろんじゃ。やる気のあり無しの問題を問うておるだけじゃからな。1年すぎたものは3年までの間のいつ辞めても良いし、3年間きっちり通っても良い。また、3年をきちんと学んだものはそれ以降もちょくちょく学びに来て良い」


「わかりました、ありがとうございます」


「それだけかの?」


「はい」


そしてまた他の所から手が上がる。ツンツン髪で茶色い髪の男の子で、顔は意外にキリリとしていて悪くない。


「そこの男の子、名は?」


「セレーノ」


「どこの子じゃ?」


「おやじは市場で酒場をやってる」


「ほうほう。して質問は?」


「俺は魔法はあればいいとは思っているが、読み書きを覚えたくて来たんだ。それでもいいか?」


《おいおい、大先生に向かってタメぐちかよ》


「いいぞ!もちろん読み書きを覚えたいだけでも良いのじゃ!逆に君は見所があるのう!」


「い、いや…それならいいんだ」


「きちんと勉強して親の手伝いかのう?」


「まあ、そうだ」


「よいよい!」


モーリス先生はニコニコして言う。それからしばらくいろいろな質問が来たが、先生は嫌な顔一つせずに丁寧に答えていく。しばらく質問が続いたが、どうやら子供達が聞きたいことはだいたい終わったようだ。


「質問するというのは良い事じゃな!質問してくれた子達に皆で拍手をおくるのじゃ」


パチパチパチパチパチ


盛大な拍手が起きる。


「それじゃあ、読み書き計算を教える先生を紹介しようかの」


すると脇から男が一人と女性が2人が前に出て来た。さっき裏で俺が紹介された冒険者の3人だった。3人が前列に並ぶと生徒たちは静かになった。どうやら話を聞く姿勢が出来て来たらしい。


「それじゃあ自己紹介をしておくれ」


先生がLRADのマイクを渡す。


「はい指令」


「コホン!先生じゃ」


「失礼しました!先生!」


男は緊張気味に先生に謝る。デモンやファートリア・バルギウス軍から逃亡していた頃の冒険者のようで、モーリス先生の事を司令官だと思っている。


「えー、ただいま紹介されました、あのー私は、えーっと」


「かたいのじゃ!いつもどおりでええわい」


「あ、すみません。みんな!俺はベンタロンっていうんだ!よろしくな!こう見えて冒険者で魔法使いだ。といっても冒険者だったのは少し前の話で、見ての通り足を悪くしてしまってな。仲間の足を引っ張る前に引退して、読み書きを教える先生になったってわけだ。気軽に話しかけてくれ」


「「「「「「はい!」」」」」」


生徒たちの大きな返事が返ってくる。ベンタロンの体はがっしりしており魔法使いという感じがしない。前衛も出来る魔法使いっていう感じだ。


「なんか照れるな」


そしてベンタロンは次の女性にマイクを渡す。


「どうもありがとう。私の名前はスティーリアよ。私もね冒険者だったのだけど、今はお腹に子供が宿っているの。この機会に冒険者を引退して皆に計算を教えようと思うの。教えるの下手かもしれないけどよろしくね」


「「「「「「「はい!」」」」」」


スティーリアは決して美人とはいえないが、どちらかというと良いお母さんらしい丸い顔立ちをしている。深い茶色の髪を後ろに結って、その丸い顔立ちと相まって愛嬌がある。


「じゃあ次の先生に」


「みんなこんにちは」


「「「「「「「こんにちは」」」」」」」


「私はカリマ。他の2人と同じで魔法使いよ。私は冒険者を辞める理由とかは無いんだけど、まあ安全に給金がもらえる仕事があると誘われて来たわ。そのぶんきっちり教えてあげるから、どんどん聞いてくれていいわ。まあ魔法にあまり自身が無いけど、座学には自信があるの」


カリマは深い青色のボブカットで、ほんのりつり目と細面の顔がまさに先生という感じがする。


「「「「「「よろしくおねがいします」」」」」」」


「よろしくね」


3人の先生の挨拶が終わった。


「ふむ!先生たちの顔も覚えてくれたかの?そして学校でおいたをした場合は、あの壁際に立っている先生にお仕置きされるかもしれんでな気を付けるのじゃ」


モーリス先生が指をさす方向には、オークの進化魔人である普通のおっさんが立っている。まあ先生というより用務員さんといった表現が一番合っていると思うが、もし前世にいたら世界最強の用務員さんだろう。


「人をケガさせたり、いじめたりなどせん限りお仕置きは無いから安心するのじゃ」


みんなが少し青い顔をしてオークの進化魔人を見ている。


「ふん!」


オークの進化魔人は、みんなに力こぶを見せた。


「「「「「「「よろしくおねがいします!」」」」」」」


どうやら素直に言う事を聞いてくれるようだ。


「とにかく皆の本分は文字の読み書きと数字の計算じゃ。とにかくそれが出来るようになるまで頑張っておくれ、早く読み書きができるようになったものには特別な仕事もあるのじゃ。もちろん給金も出るので安心しておくれ」


わーい

やった!

がんばるぞ!


子供達は現金なもので、給金という言葉に一番盛り上がっている。魔法使いになりたい設定はどこに行ってしまったんだろう?


「まずは組決めじゃ。既に文字の読み書きや計算が出来るという者、文字の読みだけが出来る者、読み書きがどちらも出来る者、計算だけが出来る者、何も出来ない者に別れるのじゃ。この学校には貴族じゃからとか冒険者だからとか町人だからなどという差別は無い。組み分けがされたからと言ってガッカリする必要はない。しっかりと学んでいけば良いのじゃ」


組み分けした結果、文字の読み書きと計算が両方出来る者はいなかった。文字の読みが出来るのが10人程度、読み書きができる子が5人、計算ができる子が3人。あとの182人は何も出来ない子達だ。


「ふむ…やはり貴族もどきの子らは何もできんか」


「そのようですね」


文字の読み10人、読み書き5人、計算3人は冒険者か町人の子供だった。ここまで北の大陸がデモンやファートリア・バルギウスに侵略されていた期間、どうやら学校など学びの場が無かったらしい。恐らくは今もまともに学校など運営されていないのだろう。


「なら多少できる子18人は同じ組じゃな、あとは30人ずつ6組に分ける事にするのじゃ。まあ年齢順に分けていくのがよかろう」


先生が大人に指示をすると、ベンタロン、スティーリア、カリマを筆頭にマリアとシャーミリア達が組み分けをしていく。俺とモーリス先生、カトリーヌ、エミル、ケイナ、も混ざって全員でクラス分けを終えた。


「では説明するかのう」


7組のクラスが出来たので、1日を7コマに分けて授業を行う事になった。その時間割を子供達に説明して、明日からおおよそ指定された時間に学校に通うように伝える。生徒たちはそれを聞いてそれぞれの家に帰って行くのだった。


「では、3人の先生にこれからやってもらう事を説明していくとするかのう。応接室に来てくれるじゃろか」


「はい」

「よろしくおねがいします!」

「光栄です!」


3人の元冒険者は、あこがれのモーリス先生に直接教示されることにワクワクしている。これから3人の冒険者は学校の1日が終われば、文官としてハリスの仕事を代行する事になっている。さすがは元魔法学校の校長先生でとても段取りが良い。あっという間に学校のめどがついたのだった。ハリスに楽をさせてやれるのももうすぐだろう。

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