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第576話 ユークリット正常化の為の議案

 ハリスが寝ている隣の部屋が寝室だったのでそこにマーカスを寝かせ、二人仲良くアナミスの術によって深い眠りについてもらった。廊下にはライカンとオーガの進化魔人を護衛をたたせている。


 夕方になってウルドたちが仕事から戻り、エミルと俺がウルドを交えて話をしているところだった。マリアとケイナそしてハイラとアナミスが周りに座り、ファントムが壁際に立っていた。


「まだ眠っております」


ケイナが心配そうに言う。


「ああケイナ。よほど疲れていたらしいから。精霊たちも見守ってくれている」


「エミルすまないな、親父さんに無理をさせてしまった」


「ラウルが謝る事は無い。俺も実の父親だと思って甘えてしまったからな」


「あの時は、状況的に断れないようにしてしまったからな」


俺もエミルも二人に甘えてしまった事を反省する。しかし反省したところで状況は改善されないので、すぐに何をすべきかを話し合うのだった。


「それでラウルよ、目途はついたのか?」


「ああ、未進化の魔人を都市に入れるつもりだ」


「マジか?進化していない魔人を?見た目が魔人のままだと差別とか起きないだろうか」


「冒険者は大丈夫だろうが、魔人を知らない他の国の人や村人などからの迫害はあり得るだろうな」


「それはまずいんじゃないか?」


「もちろん無策ならダメだ。もちろん何も考えていない訳じゃない」


「何か考えてると?」


「もちろんだ」


俺はマーカスの労働問題について解決策を考えたのだった。幸い都市に集まって来ている人間達は、ファートリア西部の農村から連れて来た貴族もどきを、完全に貴族だと思っているらしい。朝一で王城に働きに入って夕方には出ていくのだから、間違いなく貴族だと思っているはずだ。自分の領土も持たない、なんちゃって貴族ばっかりだけど。


「どうするんだ?」


「獣人と偽り貴族の使用人として入れることにする。それを周知徹底させるために、魔人には貴族と一緒に行動を共にしてもらうつもりだ。さらに先生と一緒に法律的な案を作って、それを簡単に要約したものをばらまく」


「なるほどな」


「ああ。幸いあの貴族達なら俺とアナミスでどうとでもなる。魔人は以前から使ってきた使用人だという事にすれば問題ない。村人や町人が、貴族の使用人に手を出すような馬鹿な真似はすまい。だが中にはバカが必ず存在するだろうから、衛兵として市中にいる進化魔人がそれらを守る」


「万が一バカが使用人に手を出す事があったらどうなる?」


「逮捕だ」


「罰則は?」


「きちんと進化サキュバスが指導を徹底し、行動に問題が無い事を確認したら釈放だ」


「…そうか…」


「問題ない」


「…ああ…」


エミルは俺をジト目で見る。どちらかと言うとエミルはオージェ寄りの考えを持っており、非人道的な事は好まない。グレースはどちらかと言うと俺寄りで、必要なら魂核の調整も辞さない構えだ。そしてもちろん俺も必要なら、市民の意識を強制しようと思っている。完璧な魂核の書き換えは出来ないまでも洗脳が出来る進化サキュバスを置いて、完全洗脳して釈放する方向で行くつもりだ。


「そういうわけだから、ウルドが司法長官をやれ」


「司法長官とは?」


「まあ法務大臣というか、法律を解釈してお前がその罰則や人間の調整を決めればいい」


「かしこまりました」


「魔人は俺の系譜に入っている以上、悪事を働く者などはいないだろう。そこを踏まえてモーリス先生に聞きながら法の整備を行っていくつもりだ」


「ラウル。それだと魔人優先の法が執行されたりするんじゃないか?」


「なんかまずいのか?」


「…いや…まあいずれにせよ魔人の力なくして、復興はあり得ないからな仕方ないだろうな」


「ああ、それで都市内の物流に関しては、貴族もどきと魔人達が取り仕切る事になるだろう。マーカスは貴族もどきに指示を出すだけにしておかなければならない。そこまできっちり決めて行かないと、マーカスはまた力仕事をし始めるだろうから」


「貴族もどきが仕切れるのか?」


「ああそれも少し心当たりがある。アナミス、村長などをやっていた人間がいたよな」


「はい、おりました」


「ハリスとマーカスが伯爵だろ。あとのなんちゃって貴族に階級とか特に設けていなかったし、村長3人いるから子爵の階級を与えて各エリアを統括させるんだよ。あとの貴族に適当に男爵位などを与えればいいよな」


「そして、その子爵に管理をさせると?」


「そう言うわけだ。元々村長をやっていたんだから、改良次第では男爵たちの上に立てるはずさ」


「改良っておまえ…」


「他に良い言葉が見つからなかっただけだ。改善って言ったらいいか?」


「同じだ」


「まあどっちでもいい。子爵がまとめれば、ハリスさんとマーカスは指示を出す人間が3人だけになる。かなり改善されていくと思うぞ」


「なるほどな」


しかし魔人達と違って人間は本当に面倒だ。まあ俺が魂核をいじったのが悪いのかもしれないが、自分で考えて行動しなくなってしまったのは痛い。とにかくこちらから縦割りの行政の仕組みを作って、動きやすくしてやるしかないだろう。


「それで現場作業する人間をどうするかだ」


「本来、貴族は村人だったんだろ?農作業をやっていたくらいだから、力仕事は問題ないんじゃないか?」


「いやいやいや。貴族に力仕事なんてさせられないよ。モーリス先生の調査結果を待たなきゃいけないけど、貴族は行政に専念してもらわなければならない」


「なら、街の人間にさせるって事か?」


「仕事の募集をかける。それともう一つ考えがあるんだ」


「なんだ?」


「ウルド、。王都には貧民が集まってしまった区画があるんだよな?」


「貧しい村から来た者なのか、盗賊崩れなのか分かりませんが王都の一角を占めているようです」


「そいつらに仕事をさせて給金を出そう。きっと読み書きも出来ないんだろうから、喜んで引き受けるはずだ」


「モラル的な問題はどうかね?」


「働かなきゃ給金を出さなきゃいい、もちろん不正や悪さを働いたら即逮捕だ」


「ブラックだな」


「いまのこの世界に労働基準法なんかないからな。もちろん搾取するつもりはさらさらないぞ、まじめに仕事をすれば給金は普通に出すさ」


「そのあたりは誰が管理するんだ?」


「もちろんマーカスが仕切る事になるよ。元は商人だし普通に出来ると思う。そのかわりマーカスの部下には強面の進化魔人をそろえる」


「たしか当初はそんな形にする予定だった気がするな」


「ああ。ハリスさんとマーカスが魔人に気を使って言えなかったんだろ」


「だな」


もっと話さなければならない事があるが、おおむねこんな感じだろうか。


「ラウル様」


「どうしたマリア」


「市場で素材買取の目利きをしたり、売り上げの集計をしている時に気が付いたのですが、恐らくはそれらの仕事を出来る者がいると思います」


「なるほど」


「それらの者から面接して採用し、商業ギルドの基礎を作ってはいかがでしょう」


「商業ギルドか」


「今日のモーリス様とカトリーヌ様の調査状況にも左右されますが、文字の読み書きや目利きや計算が出来るものを集めて問屋を作る事から始めればよいかと」


「なるほどね。国が管轄する総合市場みたいなものかな?」


「ああ!そういう感じです。さすがはラウル様です!」


「マリアの発想が凄いよ」


「ありがとうございます」


なるほど。外から入って来た素材を全て国で一括管理し、総合の問屋から卸せばマーカスもやりやすいって訳か。まずはその形からやって行くのが良いかもしれない。


「おおむねそんなところだろうけど、まずはハリスさんとマーカスが目覚める明日以降を待つしかないかな?現状をもう少し把握する必要もありそうだし」


「そうだな」


エミルも納得したようだ。


「モーリス先生はまだ来ないのかな?」


「そうですね、そろそろ灯をともさねばなりませんね」


「そうだな」


気がつけば室内は薄暗くなってきていた。話に夢中になりそれにも気が付かなかったらしい。マリアは壁のランプやシャンデリアに火魔法で灯りを灯し始めた。少し薄暗くなってきていた室内がぱっと明るくなる。


「腹が減って来たな」


「ああ」


「先生達を待たずに先に食事にしようか?」


「まあラウルがそう言うなら問題ないだろ」


大丈夫だ。先生はそんな細かい事を気にする人じゃない。エミルが気を使っているのに弟子の俺が気を使わないのはあれだが、先生と俺はそう言う信頼関係の下にいる。


「ウルド、食事を用意してもらえるかな」


「申し訳ございません。料理人や使用人を全て家に帰してしまいました」


「あ!そうだった!ウロウロしてたから邪魔になって俺が追い出したんだ!もしかして料理は彼らの誰かが?」


「農夫の妻だった者達は料理をいたします。田舎料理ではございますが、それを準備してもらい皆で食べておりました」


「あらら」


どうやら貴族もどきは全く仕事をしていなかったわけではないらしかった。俺が勘違いをして皆を家に帰してしまったのだ。俺が廊下のドアを開けると、向こうにライカンとオーガの魔人がポツリと立っているだけだった。あとは薄暗くて誰もいないようだ。


「ラウル様。では私が準備いたしましょう。ウルド台所はどちらです?」


「すまんマリア」


「では私もマリアを手伝いますわ」

「じゃあ私も手伝います」

「私もいきます!」


アナミスとケイナとエドハイラが言う。


「なら俺も手伝おう」


エミルも言う。


「いえ。ラウル様とファントムを二人ここに残していく事になります。ぜひエミル様はお話し相手になってあげてくださいますか?」


マリアが優しく微笑んで言った。


「ラウルは本当に人に恵まれてるなあ」


「だろ?」


マリアとアナミスはクスリと笑ってウルドについて出て行った。ケイナとエドハイラもその後ろについて行く。パタパタと足音が遠ざかって行き、室内に少しの静けさが訪れた。


「なんにせよハリスさん達に話を聞かないとダメだよな」


「ああ、現状がどうなっているのか詳細が分からない」


「今しばらくゆっくり寝かせてやろう」


「すまないな」


「こうなったのは俺達のせいだし、彼らはゆっくり休む権利がある。ハリスさんにもマーカスさんにも精霊の加護がついたわけだし、しっかり癒されるだろ」


「そうだな。あの子らが見守ってくれている」


俺はふと窓際に近づいて窓を開ける。上から下までの窓なので、そのままベランダに出れるようになっていた。


「お、エミル。見晴らしがいいぞ」


「どれどれ」


エミルがベランダに出て来て二人で外をみた。王城は少し小高い丘の上にあるので、街を見渡す事が出来る。家々には灯が灯り夜景になりつつあった。まだ陽が沈みきっていないので、薄暗い空にも薄っすらと灯りが射している。


「エミル。俺んち昔はあの辺にあったんだ」


「そうなんだ。都市は完全に壊されていたもんな」


「ああ。家族との思いでもあるし、街にはマリアとよく出かけたんだ。それがなくなったのは何か寂しいな」


「なんか不思議だよな。俺は森での生活の思い出がある、確かにハリスを父さんと認識し死んだ母親の思い出もある。でも前世の思い出もあるんだよな」


「ああ。前世の事は俺もよく覚えているよ、一人暮らしではあったけど実家には親も妹もいたし」


「俺も両親と兄貴がいた」


「前世の家族か…俺達が死んで悲しんだんだろうな」


「そうだな」


俺達は街の光を見ながらも、前世の記憶を辿りはじめた。前世の家族の事は少し記憶が薄れてきている。それだけこの世界での体験が強烈で、こっちの暮らしが濃すぎるのだろう。また自分たちが神、または覚醒前の神と言う事実があり既に人間であった頃の感覚が鈍りつつある。


「この光の下に大勢の家族がいる」


「そうだな」


「守らねばならない。俺達が」


「まさかそんな立場になってしまうとはな」


「それだけに、前世の記憶がよみがえってもあまりセンチメンタルにならないみたいだ」


「俺もだよラウル」


「もしかしたら、覚悟と使命感がそうさせてるのかね?」


「よくわかんねえ」


「オージェやグレースはどう思ってんのかね?」


「きっと同じだろ」


「かな?」


「ああ」


徐々に闇が濃くなっていく街を眺めて、俺達はこれからの事に思いを馳せていた。


「急がねえと」


「だな」


驚異はまだ去ってはいない。恐らく敵は南に逃げた可能性が高い。しかし北の大地にまだ紛れている可能性も否定できなかった。それだけに北の国々の体制を、急いで盤石にする必要性を感じるのだった。

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