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第568話 帝国に生まれた新ギルド

ジークレスト・ヘイモンや事務官たちとの会談で、今後はバルギウス政府と魔人軍基地との交流をもっと積極的に行っていく事が決まった。さらにバルギウス兵達へ俺から声がけをしてほしいとジークレストからの依頼があり、次の日に俺とアナミスがグループごとに話す話し合いの場を設けてもらった。その時にこっそり調査した結果、デモンに魅了されている者は一人もいないようだった。


「ジークレストが陰でやった、貴族の人命救助に関しては異論を唱えそうなやつもいたけどな。あの話は内密にしておいた方が良さそうだ。貴族の処分は皇帝の命令だったと思い込んでるらしい」


 そう遠くない未来に問題が起きそうだったので、そういう人間は別途呼び出してまとめて魂核の書き換えをしてやった。5000人ずつ呼び出して40回も話をし選別作業をし、引っかかったやつの魂核を書き換えたので、丸一日かかってしまったのだった。


「しかしラウル様。あの人数でもだいぶ楽に出来るようになりましたね」


アナミスが答える。


「ああアナミス。あんなに苦労していたのが嘘のようだ。さすがに長時間のぶっ続け作業は疲れたよ」


「お疲れ様です。でも今のラウル様は魔力も精神もいっぱいのように見えますが」


「ファートリア西部の村をやった時から考えるとかなり余裕だな」


「あの時は魂が削られてましたからね」


「ああ。慣れてしまったからなのか、魔力が増えたからなのか分からんがね。とにかく今回アナミスに来てもらった目的の一つは達成したよ」


「はい。お役に立てて何よりでございます」


 俺とアナミス、カトリーヌ、マリア、エドハイラが町から離れた一角で話をしていた。モーリス先生がある場所に行くというので、それにエミルとケイナがついていった。俺達も一緒に行こうと思ったのだがあまりに目立つので待つことにしたのだ。とりあえずシャーミリアとマキーナを護衛につけてやった。


「ここでも遠目でみられてるな」


「やはり…目立つのでしょう」


「ああカティ。この集団はどうやったって目立つみたいだ」


「はい」


町の人たちからは距離をとって話しているので、話している内容までは分からないだろう。


騎士をやめた人たちが何をしているかをジークレストに聞いた。どうやらほとんどが冒険者になってしまったようで、冒険者で生計を立てた方がお金まわりも良いらしい。ときおり買い付けに来るユークリット王都の商人が、高く買い付けてくれるそうなのだ。それをギルドのような組織が運営しているという事を聞き、モーリス先生たちは新設ギルドへ顔を出しに行ったのだ。


「先生が戻って来た」


俺が先生に手を振ると俺を見つけたようだった。


「先生。どうでした?」


「まさか本当にギルドのようなものが復活しているとはのう」


「やはりそうなんですね。バルギウスでもギルドが復活ですか…」


「ふむ。そしてかなりの数の冒険者がおるらしいぞ」


「なるほど。この都市がこんなに栄えているのはそのせいですか」


「どうやらそうらしいのう」


「どこに狩りに行くんでしょうかね?」


「それが何と、二カルス大森林のようなのじゃ」


「えっ!人間が二カルスへ!?」


「わしもそう思ったのじゃが、基地の魔人達が魔獣を間引いてくれているおかげで活動しやすくなっておるらしいのじゃ」


「なるほど。納得です」


俺が考えていたアグラニダンジョンの難易度調整と似たような事が、このバルギウス付近の二カルス森林でも起きているらしい。あっちは意図的でこっちは自然にそうなっているという違いはあるが。


「ラウル様」


「なんだいカティ」


「と言う事はですね。二カルス大森林に接している、ファートリア南部でも同じ現象が起きるのではないでしょうか?」


「なるね…うん」


「今後、冒険者の活動は二カルス大森林にも広がりそうですね」


「まあ魔人ありきだけどな」


「私はありだと思います。素材はいくらあっても復興には役立ちますから、二カルス大森林とアグラニ迷宮以外にも可能性のある場所は開拓していくべきかなと思いますわ」


「西の山脈とかか…」


「もちろんそこも。ただし可能な範囲でと言う事になりますが。魔人でも危険な場所には近寄らない方がいいでしょうし」


「そうだな。有効な土地を見つけたら魔人の派遣も検討していこう」


「それがよろしいかと」


まあ今は南方でいつ有事が起きるが分からない。すぐには動けないが北の大陸の各地を調査して、冒険者の活動地域を広げていく事は市民の生活を支える上でも重要かもしれない。


「それで、先生の見立てでギルドはどんな感じでした?」


「ふむ。まだ以前のような形ではないな、課題はたくさんありそうじゃ」


「そうなのですね」


「絶対的な力がなさそうじゃ。腕っぷしの強い冒険者が来ると交渉は苦労してそうじゃな」


なるほど。ギルドで冒険者が暴れても押さえつける者がいないか。ギルドに逆らったとしても仕事が出来なくなるという感じでもなさそうだし、つけあがる冒険者がいそうだ。世界的なギルドの組織化が出来るまでは暫定的に力でねじ伏せる必要がありそうだ。


「ギルドの権力が無い状態でしょうからね、それも早いうちにテコ入れしてもよさそうです」


「じゃと思ったのでな、ラウルとの話し合いの約束を取り付けてきたぞ」


流石モーリス先生。仕事が早い。


「すばらしい!ありがとうございます。それならば一度、魔人軍基地に戻ってもいいですかね?」


「ふむ、その方が良さそうじゃな」


俺達は早速、乗合馬車の停留所に向かった。すると停留所にはあの時の御者がいた。


「おんや!皆さまお戻りでやんすか?」


「ああ。一度魔人基地に戻ろうと思うんだが、乗合馬車は出るのかい?」


「あと半刻もしないうちに、子供達を迎えに行くでやんす」


1時間半後か…


「半刻か…じゃあいいや」


「旦那達はどうするので?」


「自分たちで先に行ってる」


「わかりやんした」


俺達は乗合馬車の停留所を離れた。


「ふむ。子供たちの足を奪ってはダメじゃな」


「ええ。少し離れた場所に歩いたら車両を召喚します」


「そうじゃな」


 俺達が門に向かうと既に顔パスで通れるようになっていた。ジークレストが手を回していたらしい。昨日から1日ほど滞在したが、ジークレスト邸での宿泊も快適だったし町は活気づいているし、バルギウス帝都は大きな問題がなさそうだった。それから30分後、俺達は魔人基地へ到着しタロスと会議室で話をしていた。


「精鋭を10名ですね」


「ああ。出来れば2次進化も経て、人間の見た目と全く同じ者で10名」


「かしこまりました」


 俺は早速ギルドにテコ入れするつもりだった。もちろんジークレストの権限も使って、ギルドの上層部に魔人達の精鋭を入れ込むつもりだ。ギルドはただでさえ困っているので、邪魔をするギルド職員もいないだろう。もし邪魔をする様な奴がいたら魂核を書き換えよう。


「さてラウル。それで例の話はどうだったんだ?」


「ああエミル。やはり貴族はいた」


「帝都にか?」


「いや、帝都からは離れているようだ」


「どうやって逃げたんだ?」


「新しい2番隊大隊長が戦争が始まる前から逃がしていたらしい」


「戦時もか?」


「どうやらそうらしいんだ」


「凄いな」


「やった本人も凄いが、それに命がけで協力した家族も凄いよ」


「優しそうな奥さんだったが、芯が強そうに見えたのは間違いないわけだ」


「ああ、子供達もきちんと教育されていたしな。ジークレストの人となりを見た限り、弱々しい男かとも思っていたがそんなことはないようだ」


「ふむ。人は見かけによらんという事じゃのう」


「はい。むしろわざとあんな感じにしてるんじゃないかと思うんです」


「なるほどのう。油断をするし、そんな男がそのような大それたことをするとは思わんじゃろうな」


「ええ」


「ラウル様。ヘイモン家の子供達と話をした印象ですが、真っすぐに育っておりました。でも表と裏をきちんと使い分けながら、内心をうまく隠せている印象もありました」


マリアが言う。さすがナスタリア家のメイドをしていただけあって、人を分析する力が凄い。


「辛い幼少時代をおくってしまったのだろう」


「ええ、この数年で裏表を覚えてしまったのでしょうね」


「父親の後ろ姿を見ておったのじゃろ。あのようなビクビクした姿からは想像がつかんがの」


「先生。それで私は思ったのです」


俺が言う。


「なんじゃろ」


「自分で考え判断し真実に気づいて行動が出来るからこそ、彼は魅了を受けなかったのではないでしょうか」


「ふむ。自分で考える者か…人にやらされるだけでなく自分で判断をして動く者じゃな」


「グレースもオンジもそういう人ですし、皇帝も魅了を受けなかったと聞いてます」


「ラウル様。ヘイモン家の奥様と子供達もその影響を受けて、自分で考えて動いていたという事ですか?」


「ああカティ。芯をもって確信して動く者の家族は、やはりその強い影響を受けるんじゃないかなって思う」


「私もそうありたいと肝に銘じます」


「俺もだな」


「ラウルは間違いなくそうじゃろ。おぬしは芯が強い、強すぎるほどにな。一貫して揺れる事は無くここまで貫いて来れたではないか。そしておぬしの母親も強い意志があるじゃろ」


「母はそうかもしれません。でも私はそうせざるをえなかったというだけのような気もします」


「ラウルは、魔がさすという言葉をしっておるかのう?」


モーリス先生が俺達を見渡す。


「もちろんです」

「私も知っております」

「俺もですね」

「私もです」


俺、エミル、カトリーヌ、エドハイラが言う。


「魔が入り込む余地が無ければどうかのう?」


「えっと、考えたこともありませんでした」


「まず魔人達にはその余地はないじゃろうな。なにせすべてがラウルに繋がっておるのじゃから」


「確かに」


「そしてラウルに強い影響を受けたカトリーヌやマリアはどうかの」


「系譜の繋がりは感じませんが、魂の絆のようなものを感じます」


「私もです」

「私も」


「ふむ。そこに魔が差す余地はないのであろうよ。そしてラウルの心が定まっていれば定まっているほど、その絆はより強く固く結ばれるのかもしれんの」


「ジークレストはその信ずる気持ちが強いという事でしょうか?」


「もちろん正誤を見極めた上でのう」


「人はどうやってその正誤を見極めるのでしょう」


「元に戻るが、常に自分で考え続けることかのう。いつも自分の頭で考え不必要な影響を受けん事が大事じゃろ」


「難しそうです」


「まあ…普通の市民や兵士はそうじゃろうが、ラウルは生きざまが既に決まっておる。言ってみれば覚悟が決まっておると言う事じゃ」


「なんとなく腑に落ちてきました。自分が正しいと思ったら責任をもって最後まで行く覚悟はできてます」


「そう言う事じゃな」


「なるほどです」


 俺がシャーミリアとマキーナ、アナミスを見ると、その通りです!というような自信をもった眼差しで見返される。カトリーヌとマリアを見ても力強い目で肯定してくるのだった。魅了を受けない理由が先生が言う事と関係しているかは分からないが、俺が自分の信念のもとに進んできたことは確かだ。ジークレストもそんな芯があるのかもしれない。


「ラウル様」


「お、タロス」


タロスが戻って来た。


「該当する人員を連れてまいりました」


「分かった。全員を呼んでくれ、話がしたい」


「入れ!」


タロスが選んだ魔人が10名室内に入って来た。間違いなく精鋭と分かるオーラを纏っている。どう考えても人間では太刀打ちする事の出来ない強さをもった10名だ。


「ふぉっ!一騎当千じゃの」


先生が一発で見抜く。


「ですね」


「「「「「ありがとうございます」」」」」


10名が頭を下げた。


「さて!お前たちにはこれからやってもらう事がある!」


「「「「「は!」」」」」」


俺は10名の精鋭に向かってギルドに潜入する事、これからバルギウスギルド員として帝都の中から政治をコントロールしていく事を伝える。これからはこの10名がタロスの指示の下で、バルギウスを陰から支えていく事になるのだった。

次話:第569話 ギルドの改善

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