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第561話 首脳会談

シン国でカゲヨシ将軍が宴の席を設けてくれた。その席で俺は魔人を連れてきて前線に武器を配備したこと、残ってくれた武将達には現代兵器のレクチャーをすること、拠点防衛の仕上がりを確認したら北の大陸の視察に回る事を伝える。


「ラウル殿の勤勉な姿勢には頭が下がりますな」


「いや、将軍。私は好きでやっているのです。仕事だとも思ってません」


《そう、まさにゲーム感覚でやっているのだから、全く大変じゃないのだ》


「将軍様、ラウル殿はまさに戦人(いくさにん)なのでしょうね」


マキタカが将軍に耳打ちする。


「戦人か。そうじゃな」


「なんですかそれは?」


「我国の伝承で、子供のころから戦が好きで好きで仕方ない男がいたのです。そのものは老兵になっても戦い続け、最後には闘神となりこの国では武の神として奉られています。言わば御伽噺ですかね」


《うーん。俺が老人まで戦い続けるかはわかんないけど、確かに子供の頃からミリタリーが好きで、転生しても戦い続けているから確かに似てるっちゃ似てるけど》


「マキタカさん。その武神が奉られているのはどこです?」


「首都の西に位置する場所にある神社です」


「なるほど…明日にでもお参りさせていただいていいですか?」


「それは是非とも。というかラウル殿にもそういう信心深いお気持ちがあるのですな」


「まあシン国だからこそというか、戦人という言葉に惹かれた感じですかね」


「そう言えば北の国々ではアトム神の信仰があったと思いますが?」


「まあそうです。この戦いは、その信仰の弱さゆえに神が弱体化し敵がそこにつけこんできた感じですね」


「なんと…まるで神話のような話ですな」


「本物の神ですので、神話そのものではありますね」


「はは…たしかにそうですな。ラウル殿はアトム神への信仰心は無いのですか?」


「アトム神?ないない!ないです。私はアトム神など信仰しません」


「アトム神など?ラウル殿は信仰はしていないのですか?」


「何というかアトム神とはあわないなって、アトム神と会ってみて思いました」


「アトム神とはあわない?」


「ええ、なんていうか偉そうで」


俺が言うとカゲヨシ将軍が笑いながら話す。


「それは神様ですからな!偉そうで当たり前のような気もしますがな」


「カゲヨシ将軍。それがね…なんて言うかアトム神って、鼻につくって言うかなんて言うか…」


「あーはーはっはっはっはっ、アトム神もラウル様にかかれば口やかましい姑のようですな」


「あー!なんかそんな感じです」


「ぷっははははは」

「ふぉっふぉっふぉっふぉっ」

「フフフ」


カゲヨシ将軍とモーリス先生とマキタカが声をそろえて笑う。


「いや、だって本当に憎たらしいんですよ。もちろん本人の前では言いませんが」


「まあ、ラウルの言いたいことも分かるがのう。神さんをつかまえて言う事ではないように思うのう」


「なんか言い過ぎたかもしれません。すみません…」


「大丈夫じゃ。わしも同感じゃからのう」


「なんと!この弟子にこの師匠ありという感じなのじゃな!面白い!もっと飲んで下され!」


カゲヨシ将軍が笑いながらモーリス先生と俺の升に酒を注いだ。モーリス先生がその酒瓶をとって返杯する。


「ところで、ラウル殿はもう成人されておるのですかな?」


「あれ?ここに居る神3人とも、まだ未成年ですよ」


「なんと!このような偉丈夫たちが未成年とな!まあ虹蛇様は未成年に見えると言えばみえるかのう」


「この国では未成年は酒を飲んではいけないのですか?」


「そのような決まりはないがの、まあ小さいうちは飲まんというのが普通ではあるよ」


「そうなのですね。実は我々は今まで飲まずに来たのですが、実はシン国の酒はぜひ飲もうと話あっていたのです」


「そうなのですな?」


「そして我々が想像する通りの酒でした。これは美味いです」


「もっと持ってこさせましょう!」


パンパン!


カゲヨシ将軍が手を叩くと、女中が酒を運んできた。この酒の原料はよくわからないが日本酒にとても似ていて、フルーティーな味わいが何とも言えなかった。モーリス先生もたいそう気に入ったようでかなりの量を呑んでいる。


「それでアトム神はどちらにいらっしゃったのですかな?」


「はい将軍、アトム神はアグラニ迷宮の奥底に居ました」


「おお、北で有名な神の作りたもうたと言われる迷宮ですかの」


「あれは龍族が作ったダンジョンでした」


「その奥底に居たということは、ラウル殿たちはその奥底まで到達したという事じゃろうか?」


「そうです」


「最下層はどんなところでしたかな?」


「あ、それは内緒です。攻略した時のお楽しみという事にしたいと思っております」


「なるほどなるほど」


「ただ、生半可な人間では20層が限界かもしれません」


「階層があるのですな」


「はい。最下層は100層です。下層に行くほどそれは恐ろしい魔物が住んでいました」


「それは興味がありますな」


「そうですか!ならばこの戦争が終わりましたら、ヘリで現地へ直通便をだしましょう」


「なんと!それは楽しみですな!」


「カゲヨシ将軍!私は北と南の交流をもっと行いたいと思っているのですよ!シン国には豊富な野菜や果樹がある、これは北では貴重なものです。むしろ北は魔獣の素材の宝庫ですから、貿易を拡大させていけば両国に恩恵があると思います」


そして俺はカトリーヌに目配せをする。するとカトリーヌがラーズとミノスに耳打ちをした。ラーズとミノスは部屋を出ていき、グレースがあらかじめ出していた魔物の素材やエリクサーなどの回復薬を持ってくる。


「これはなんですかな?」


「ええ将軍。私たちが手土産に持ってきた見本です。これをお納めください!」


「何と!魔獣の素材ですかな?」


「はい、これで防具や武器も作れます。家具などにも利用できますので是非シン国の職人にお渡しください!そしてこちらは魔人国の研究所で作られたエリクサーという治療薬です」


「エリクサーは知っております!ユークリットの王都復興の際に何度か使用しておるところを、お目にかかった事がありますのでな!これを二箱も!」


「効力を知っておいででしたら話は早い。私達魔人国ではこういったものを提供できます」


「それらとシン国の果樹や野菜ではつり合いが取れないというか…それらを量で補おうとすれば我が国が破産してしまうかと思われますがな」


「北では手に入らないものであればよいのですよ。そして我々にはヘリや車両がある、今まで鮮度の問題で貿易の品として出せなかった物資も出荷可能になります」


「その輸送費ですらかなり高額なのでは?」


「当面は魔人国もちでしょうね。ですが私たちはどうしても欲しいものがあるのです。この酒の原料は何です?」


「米、になりますな」


「それです」


「米ですかな?酒の原料に位しかなりませんが」


「それがおしい!実はこの米には他の調理方法があるのです」


「他の調理方法?」


「明日にでもお見せしたいと思います」


「わかりもうした」


そう。実はシン国は米で酒の製造はしているようなのだが、米をご飯にして食べる風習がない。シン国の主食は米でもおにぎりでもなく芋なのだ、なので今回の酒の席には芋焼酎のようなものが出てくると思っていた。ところが出てきたのは米で作られたと思われる日本酒だったのだ。


「この酒を味わってピンと来たのですよ」


「ほう…この酒をですかな?」


「ぜひ、この原料を作っている畑も見せてもらいたい」


「わかりもうした」


俺が話しているのを、オージェもエミルもグレースもニコニコして聞いている。そう彼らも渇望しているのだ…白くて艶々してほっこりしているあれを。


白飯。


俺の戦闘糧食では缶詰になっていて、ふっくら炊き立てというわけにはいかない。やはり日本人たるもの白い炊き立てご飯が食いたいのだ。そして日本酒が作れるという事は醤油や味噌も作れるという事だ。俺達異世界組の脳内では夢が広がっているのだった。


「そして立派な素材ですなあ」


「これは北の山脈や森で獲れた魔獣の素材なのですが、毛皮などはかなり重宝すると思います。そして骨や角は武器や防具にも使えますしね。また魔石も置いて行きますが、この国には魔法使いは居ますか?」


「シン国では魔法使いとは言いませんがな、祈祷師や占星術師という者がおりまして…そういえばラウル殿は大ババ様におも会ったのでしたな。そういった者達が魔導士や魔法使いと似た職業じゃの」


「ぜひその職業の方達に研究をしていただきたいと思います。北の魔導士とは違う利用方法が見つかるかもしれません。また治療薬には魔獣の素材を使う物もありますので、薬師の方に見てもらえば良いかと思います」


「そうさせよう。ラウル殿は誠にいろいろと頭をめぐらしておられるようで面白いのう」


「すみません。私は私がより暮らしやすくなる世界を望んでいるんです。貿易によってより国と国の繋がりが強くなれば絶対に発展します。私が呼び出すような兵器はその先の延長線上にあるのですよ」


「なんと!我が国でもあの武器が作れるようになるかもしれぬという事ですかな?」


「まあすぐにとは言いませんが、いつかは発展していく事でしょう。私がこの国に来てしまった事で既に技術的な情報が流出しているのです」


「あのような複雑なものを我が国で作れるとは思わなんだが、南の脅威を考えれば必要なのかもしれませんな」


「まあ、おいおい話し合っていければと思っています」


「ははは…いささか大きすぎる話になってまいりましたな」


「将軍。私は本気です」


「ラウル殿がそういうのであればそうなのでしょう。我が国も出来る限り魔人国の利益になるように尽力させていただこう」


「ありがとうございます」


「よろしかったですわねラウル様」


「ああカトリーヌ」


カトリーヌが俺の横に座って、カゲヨシ将軍にお酌をした。


「な、なんと!ラウル殿の未来の奥方にお酌など!もったいない」


「いえ。おひとつどうぞ」


カトリーヌがそそとした手つきでカゲヨシ将軍に酒を注ぐ。カトリーヌは最近イオナに似てとても美しくなってきた。そのカトリーヌから酒を注がれて将軍はとてもうれしそうだ。


「かたじけない!」


カゲヨシ将軍がクピクピとつがれた酒を飲む。


「それにしても魔人の方達は酒が強いですな」


マキタカが言う。


「そう言えば彼らがどれだけ飲むのか私もしりません」


この酒の席には俺の直属の配下がいた。今回は護衛などをさせることなく、全員が酒の席でシン国のおもてなしを受けていたのだった。シャーミリアとマキーナとファントムだけは食べ物に手を付けていないが、他の者達は皆美味そうに料理を食い酒を飲んでいる。しかし誰一人として酔っぱらっている者がいないのだった。


《ギル。酒飲んでなんともないのか?》


《これは…言っていれば水のようなものですな》


《水…ね。ティラはどうなんだ?お前は小さい女の子なんだから酔ったんじゃないのか?》


《えっと…水ですね。酔いません》


《お前もか》


それ以外の魔人達も誰一人として顔色は変えていない。そしてかくいう俺も…全く酔わないのだ。ネクターの時はほのかに酔いのようなものがきたのだが、この酒はいくら飲んでも酔わなかった。進化して酔わなくなったのか、元々魔人は酒で酔わないのか知らないがなんかもったいない。


《もしかすると…俺達はいくら飲んでも酔わない?》


《ドワーフの酒であれば酔いもするかもしれません》


《ん?ギル。ドワーフの酒って強いのか》


《かなり強いかと思われます》


《なるほど…今度試してみるか》


《最初はほどほどがよろしいかと》


《了解》


酒は美味いのだが酔わないのは少しつまらなかった。アルコールを分解する能力が高いのか、身体能力が高いのか何なのか分からないが改善する必要がありそうだ。じゃないと面白くない。


今はこの美味い水を大量に飲めることを今は喜ぶとしよう。

次話:第562話 補給と中継基地

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― 新着の感想 ―
[一言] 分解酵素も身体能力にあわせて跳ね上がってるのかも?
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