第56話 蹂躙される騎士団
門の兵士10人が手榴弾で木っ端みじんになった時。
遠くにいた俺の耳にもM67破片手榴弾の音が響いて来た。おそらく街の中にいる兵隊も今の音には気が付いただろう。俺はグリフォン1匹と一緒に崖上の最初の拠点にいた。他の4匹のグリフォンは仲間と共に一旦街の外へ逃がし今の作戦に至っている。
爆発音の後で装甲車のミーシャから連絡が入った。
「ラウル様、門番を全てかたづけました。」
「わかった。そのまま待機。」
「はい」
門の外にM1126 ストライカー装甲車を待機させて、次はヴァンパイアの二人に指示を出す。ヴァンパイアにもすでに無線機を持たせている。
「シャーミリア、マキーナ。いまどこだ?」
「指示通り門の上の崖におります。」
「なら、門の内側に人がいるか確認してくれ。」
「いえ、人間も獣人も何もおりません。」
そうか・・手榴弾の爆発音を聞いても出てこないか・・なら、そのまま侵入させるか。
「二人で門を開けられるか?」
「全く問題ございません。」
「開けてくれ」
「はい」
俺は次にM1126 ストライカー装甲車のミーシャに無線を繋いで指示をだす。
「ミーシャ。」
「はい。」
「これから、ヴァンパイアの二人に正門を開けさせる。ロケットランチャーをすぐ使えるように準備しててくれ。」
「わかりました。」
「マリア。」
「はい」
「シャーミリア達が門を開けたら、車をすすめてくれ。」
「わかりました。」
門がヴァンパイアの二人に開けられ、M1126 ストライカー装甲車がグラドラムの街中に入ってくる。車を門の内側の広場に停めさせる。
「シャーミリア。街に動きはあるか?」
「いえ、全く動きはございません。私の使役する屍人が一人の伝令を捕らえました。いかがなさいましょう?」
「始末させろ」
「はい」
やはり伝令が回ったか。しかし・・何も動きがないか。もしかしたらあまり爆発音は聞こえなかったのかもしれないな。それだと作戦が進まない。俺はマリアに次の指示を出す。
「マリア聞こえるか?」
「はい。」
「こちらからも見えているが街に動きはない。間違いなく建物内には兵士が潜んでいるはず。潜んだ虫をいぶり出す必要がある、大通りに面した一番手前の南側に位置した家の2階に、ロケットランチャーをぶち込め。」
「わかりました。」
ガパン!
屋根からマリアが出てきて手にロケットランチャーを構えてた。
バシュゥー!
バガーン!
家の二階にロケットランチャーがつっこみ激しく爆発した。
「シャーミリア。どうだ?変化はあるか?」
「いえございません。」
「わかった。」
うーん・・町民の印象が悪くなるからあんまり家をぶっ壊したくないんだけどなあ。どうしようかな・・1軒くらいいいか・・
「マリア、次は1階部分に撃ちこめ。」
「はい」
バシュゥー!
ズッガーン!
家の窓という窓が飛び散り大破してしまった。俺がいる拠点からも派手に破壊された家が確認できる。
「シャーミリア、変化はあるか?」
「ございました。破壊された家から数名ふらふらと出てまいりました。・・あ、倒れました。」
さすがに死んだか・・
「他には?」
「はい、周辺の家から兵士が数名出てきました。」
「わかった。そのまま待機してろ」
「かしこまりました。」
さすがに出てくるよな。で・・
俺の場所からも見える!見えるぞ!私にも敵が見える!なんて言っている場合じゃない・・やっと敵兵に動きが出てきたぞ。そうじゃなきゃ家をもっと壊さなきゃいけなくなる、街の被害は最小限に食い止めたい。
「マリア運転席に移れ。」
「はい」
「そこからはどう見えている?」
「こちらからも人が出てくるのが見えます。」
よし、あとは全体に気が付かせるように目立つのみだな。
「マリア、車を街の中に進ませろ」
「はい」
そろそろと出てきた兵士たちの中、M1126 ストライカー装甲車はどんどん街の中心に向かって進んでいく。俺からみて街の中心あたりに停めさせる。その時だった
ピィィーーー
敵の陣地のほうから笛の音がなって、町中の家という家から松明を持った兵士がわさわさと出てきた。敵はやっと囲みの罠を発動させたみたいだ。どんどん中心に向かって人が集まってくる。相手もきっと罠にかかった!と思っているだろう。
「シャーミリア、屍人を解き放ち後ろから襲わせる準備をしてくれ。そして俺のところに武器を取りに来い」
「はいかしこまりました。」
ガシャーン、バリーンという音が暗がりの中から聞こえる。俺の暗視スコープでも捕らえていた、家の中からゾンビがぞろぞろとでてくる。しかし・・動きがとろいな。まあ仕方がない。
「もどりました。」
「早!」
こいつらの移動手段は飛ぶ・・でいいんだよな。それにしても動きが早くてびっくりするわ。
「じゃあこれを持て、操作方法はさっき話した通りだ。」
「仰せのままに」
俺はヴァンパイアの二人にM240中機関銃1丁と、弾倉バックパックを背負わせた。バックパックには500発の弾丸が入っている。ベルト給弾式で背負ったバックパックから弾丸が供給される仕組みだ。毎分950の射撃が可能となる。
「それを背負ったら羽の邪魔にならないか?」
「問題ございません、邪魔にならないように形も変わりますゆえ。」
「便利なものだな。」
「ああ・・またお褒め下さるとは、私奴は幸せにございます。」
「よ・・よし!この弾丸が切れたらまた俺が召喚してやる。まあ必要ならな。」
「はい。」
シャーミリアの目がハートだ。別に恋人へのプレゼントってわけじゃないんだけどなぁ・・
「では、殲滅戦を開始する。」
「はい!」
二人はM240中機関銃とバックパックを背負って夜の闇に飛び去って行った。
「さてと・・俺も準備しておくかな。」
ヴァンパイアを送り出した俺は、次の準備に取り掛かった。
M1126 ストライカー装甲車に連絡が入った。ラウルからの指示だった。
「母さん、またさっきので話してもらうよ。」
さっきの・・とは拡声器の事だった。
「ええ、わかったわ。」
「俺が言うようにそのままいってほしい。」
「もちろんよ。何を話せばいいの?」
得体のしれないM1126 ストライカー装甲車を遠目で見ながらも、暗くてハッキリ見えないため、兵士たちは容易には近づかずその場所で様子をみていた。
その時だった、その変な乗り物から音が出た。
「どこのだれかは知らないが、私をイオナフォレストと知っての狼藉か。ええ~い、控えぃ控えおろう! この紋所が目に入らぬか」
凛とした美しい声で話される内容は、兵士たちには何を言っているのかよく分からなかった。
「紋所?」
「なんかみえるか?」
「お、おい。それよりこいつはなんだ?」
「?イオナフォレストって探してたやつじゃないのか?」
「言ってる意味がよくわからないな。」
あれ?悪ふざけしすぎたな。そうか・・やっぱり意味わかんなかったか?そうだよな・・
兵士たちはきょとんとしてその場から動かなかった。イオナ自身もラウルの言っている事が良く分からなかったので言い直す。
「えーと・・もしかすると分かりづらかったかもしれませんわね。皆様はこの街を不当に占拠しています。すみやかに道をあけ私を通しなさい、さもなくば痛い目を見ることになります。」
イオナは言い直した。ラウルが言っている内容がイオナにもよくわからなかったからだ。
「ああ・・母さん・・もっと挑発しないと寄ってこないよ」
俺はそう思ってイオナに次に言わせるセリフを考えていた。
「痛い目だってよぉ、この人数相手にか?」
「おいおい、飛んで火にいるってやつだなあ。」
「まさかこんな真ん中に飛び込んでくるもんなのかぁ〜」
「貴族のお嬢様って話だもんなあ無理ねえかあ」
「一度その美しいと噂の顔を拝んでみてえもんだな。」
イオナの凛とした美しい声音を聞いた兵士たちは、M1126ストライカーのそばに松明を投げ込んで照らした。さらに今のイオナのちょっと気の抜けた発言を聞いて、ぞろぞろと隊列を組んで大量の兵士が車に近寄ってきた。バルギウスの騎士たちは野蛮なやつらが多いと見えて、粗暴なヤジが飛び交っている。
しかし・・イオナの言葉で兵士が近寄ってきたぞ?俺のセリフの何がいけなかったんだ?
「お前たち!お前たちがそんな口をきいていいお方ではないのだぞ!」
キーキーとハウリングをおこしながら、マリアが兵士たちに拡声器ごしに怒鳴っている。
「お、なんだあ今度は別のおねえちゃんの声がしたぞ。」
「女がもう一人乗っているのか?」
「捕らえろって言われているのは、イオナってやつだけだよなあ。」
女の声を聴いてさらに列になった兵士たちが出てきた。とにかく下品な面構えで話し合っている。バルギウスはとにかく武力、武功など力を重んじる国柄だった。そのため人間の品位よりも強さが求められる国なのである。おのずと兵隊たちも粗暴なものが多くなるのであった。しかし隊列を崩さないところはよく訓練されているようだった。
「シャーミリア、マキーナ聞こえるか?」
「はい、ご主人様。」
「ごしゅ・・まあいい。指示通りの場所にいるか?」
「はい、指示通り屍人の来る方向の逆側にいます。車からみて北側の屋根の上で、恩方からいただいた武器を構えております。よろしかったでしょうか?」
「よろしい!お前たちにはハッキリ見えてるみたいだな。」
俺がシャーミリアに対し意識を集中すると、彼女の視界を共有できた。これはおそらく魔法というよりも”元始の魔人が従えるとしもべの意識に共有をかけられる”という感じかもしれなかった。魔力を消費している感覚が全くないからだ。
「あ・・ああ・・」
「シャーミリア変な声だすな。」
「申し訳ございません。」
シャーミリアの視界に同調させてみると、ヴァンパイアは夜でもハッキリ見えるようだ。これは便利だ・・元始の魔人、系譜の支配下に置くとこんなことができるのか。以前、俺の武器でゾンビやヴァンパイアを大量に倒しても得られなかった能力が、たくさんの人間を殺害したことによって、かなりの能力アップが図られた。ただ集中すると一度にたくさんの事ができなくなってしまうので、使いどころに注意だったが。
「ギレザムの言うとおりだ。人間の魂のほうが魔人が得られる力は大きいようだな・・・」
列をなして兵士たちが近づいて来たが、M1126ストライカーとは一定の距離を保っているようだった。すると数名の騎士が近づいて来た。斧を持ってきたようだった。
「せーの!」
数名の騎士は斧を振りかぶってM1126 ストライカー装甲車にたたきつけてきた。
ガイン!ガン!ゴン!
こら!傷がついたじゃないか!?新しく召喚したばかりの新車なんだぞ!
「おい!硬ってえな!でも何もしてこねえぞ!」
「いや、傷がついてるぞ!みてみろ」
「よし!おめえらガンガン叩きつけろ!」
言ったとたんにぞろぞろと人が斧や剣をもって近づいて来た。それこそ群がるゾンビのように。ガンガンガンガン叩きつけてくる。
「ら・・ラウル・・大丈夫なの?」
「ああ、母さん斧ではその車は壊れないよ」
OK!やっとだ・・やっと食らいついた。相手の作戦起案者は相当慎重だ、しかし粗暴で力のある兵士を完全に計画通りに動かすのも難しいだろう。こっちだって作戦どおりに動くってやっぱ難しいなあって思うもん。おっといけねえ車に登り始めたやつも出てきた・・
「張り付いた虫たちを殺せ。シャーミリア、マキーナ、教えた通りかまえて指をひいてみてくれ。」
「あの・・乗り物にあたってしまいますが。」
「大丈夫だM1126 ストライカーなら14.5mm機銃弾にも耐える、7.62x51mmなら多少は問題ない。ただ・・あまり車体にあたらないように撃ってくれた方が傷がつかなくてすむがな。」
「なるべく気をつけます。」
「がんばれ。」
車体に群がる兵士たちに向かって、2人のヴァンパイアはM240機関銃の銃口をむけて撃った。
ガガガガガ、ガガガガガガ、ガガガガ、ガガガガガ
車に這い上がった兵士はその場で死んだ。群がっていた兵士やそれに近づこうとしていた兵士たちが、ドミノのようにパタパタと倒れていく。
「やはり前世と違ってこの世界の人間は、銃の音に恐怖感がないのか…逃げないぞ。」
シャーミリアとマキーナは見えている範囲の兵士に、列に沿って丁寧に弾丸を打ち込んで行った。やっぱヴァンパイアといえど女性は繊細だなあ・・丁寧に列に沿って片づけるんだな。
「うわああぁあなんだ!」
「急に倒れたぞ」
「殺られた!」
「に、逃げろ!」
ぱたぱたとドミノのように倒れていく兵士たちに、一瞬何が起こってるのか分からなかった周りの兵士たちだったが、攻撃されたことに気が付いて蜘蛛の子をちらすように広場から引いていく。
「やっと異変に気づいたのか…」
銃の存在などないこの世界の兵士たちは、騒然となってパニック状態になった。隊列が崩れたのでシャーミリアとマキーナも適当に撃ちこむようになっていた。
「ひけええ、ひけぇ!ガフッ」
「乗り物から離れろ!」
「建物の陰に入るんだ!グアッ!」
「何をされたんだ?」
路地裏に兵士が逃げていなくなった後には、パチパチと燃える松明に照らされて、100数名がドミノのような列で倒れているのが浮かび上がっていた。その周りにも雑多に人が倒れている。
M1126 ストライカーは兵士が大量に倒れた広場にポツンと残されてしまった。
「ここできちんと兵がひくのか・・相当訓練されているやつらだな・・」
俺はギレザムが手練れがかなりいる可能性がある。と言っていたのを思い出す。
即死せずに、腕で這いずりながら逃げようとするやつや、動けなくなり「ううう・・」「足が、足がぁあぁ」「いてぇ、いてえよぉ」「くそ!くそ!」「腹に穴があいてる!」とわめいているやつらもいた。血の泡をふいてるやつはもうすぐ死ぬだろう。銃を知らない騎士たちは自分達が何をされたのか分かっていなかった。
「生きているものがおります。とどめを刺しますか?」
シャーミリアが聞いて来たので、俺は答える。
「這いずって逃げそうなヤツは逃がすな、とどめを刺していい。あとは放っておけ」
「かしこまりました。」
ガガガ ガガガ ガガガガ
M240中機関銃で逃げそうなやつを撃っている。
あとは助けに来たかったらくればいいし、来なかったら出血多量で死ぬだけだ。
「よしシャーミリア、屍人をスピードアップさせて南側の広場に逃げた兵士を押し出せ。」
「かしこまりました。」
北側から向かってきたゾンビたちは、後ろから一気に兵士たちに襲い掛かるのであった。
次話:第57話 逃げ場ない殺戮場