第555話 空母落とし
あと3日もすれば魔物の群れがここに来てしまう。あの数からすると魔人軍大隊を数個連れて来なければ、ここでくい止める事など出来ないだろう。もちろん大規模転移魔法でもない限り、北から3日以内に大部隊を連れてくる事など無理だった。またここに居る戦力をあてにしようと思っても、シン国の武将達に戦闘車両や大砲の操作や訓練をしている時間などは無い。各拠点に戦闘車両を配備したところで、あの侵攻を防ぐことは出来ないと推測された。
「使える兵器は…」
俺はファートリアでのデモンの駆除をした時に上がった、武器データベースパージョン4を展開する。
バージョン4
場所 陸上兵器LV5 航空兵器LV3 海上兵器LV4 宇宙兵器LV0
用途 攻撃兵器LV7 防衛兵器LV4
規模 大量破壊兵器LV3 通常兵器LV7
種類 核兵器LV0 生物兵器LV0 化学兵器LV3 光学兵器LV0 音響兵器LV2
対象 対人兵器LV7 対物兵器LV6
効果 非致死性兵器LV3
施設 基地設備LV4
日常 備品LV5
連結 LV3
これを見る限りではやはり砲撃で使うサーモバリック弾が大量に殺せるだろうか。大量破壊兵器である化学兵器(サリンやVXガス)が、この世界の魔物に効果があるかどうかも疑問だし、もちろんデモンやグールには効く事はないだろう。レールガンは電力を供給する事が出来ないので使う事が出来ない。サーモバリック弾とクラスター爆弾による絨毯爆撃ならば敵の数は減らせるかもしれない。
「オージェ、グレース。俺はサーモバリック弾を使った絨毯爆撃が現実的だと思うんだ。大量ナパームの投下もかなりの被害が出せると思う」
「絨毯爆撃か…まあそうなるだろうな」
「それが現実的な所じゃないでしょうか?あとは抜けて来た敵を各個撃破するしかないんじゃないですか?」
「やっぱそうなるか、だがそれだと配下にもシン国の民にも甚大な被害が及ぶな」
「だが最悪それしかないだろうよ」
オージェは仕方ないとばかりに言った。
「うーん。何かないかな」
「エミルさんが戦闘ヘリで戦ったとしても限界がありますよね」
「砂漠の魔物は、それで止まる数じゃなかったな」
「はい」
俺達は押し寄せて来たあいつらを止める方法について、かなりシビアな状況であることだけは分かっていた。しかしこれと言って手立てが見つからない。
「たしか前世で見たアニメで、森からあふれたでっかい虫が大挙して主人公が住む国まで押し寄せて来るってのがあったな。あれは…逆に砲撃でよび寄せてしまったんだっけ?」
「あ、俺も思った。あのアニメな」
「僕も思いました」
「ここに魔物と心の通じる姫がいないのが残念だよ」
「まったくだ」
「ええ」
「火を吹く巨人もいないしな」
「……」
「ラウル…膨大な敵を見て現実逃避して無いか?」
「あ、すまん。本気で考えているんだが思いつかないんだ」
「……」
「……」
オージェもグレースも方策は浮かばないようだった。だが俺は味方にもシン国の民にも死んでほしくは無かった。オージェとファントム、シャーミリア、ギレザム、が大暴れすれば敵を減らす事も出来るだろうが、かなりの数を撃ち漏らしてしまう事になる。カララの大量爆弾攻撃もかなりの戦果をあげる事が出来るだろうが、あの物量に押されて突破されてしまうだろう。
「ふう」
俺はなにげに空を見上げた。砂漠の近くという事もあって燦燦と太陽が輝き、風も吹いていない熱い空だった。雲も見当たらずにただただ俺達を太陽が照らし続けている。
「太陽か…。オージェあれって地球の太陽と一緒かね?」
「ん?」
「この異世界って惑星なのかね?」
「そうじゃないか?普通に太陽が昇って月が上がるし、北の大陸には四季があったぞ。もちろん北は極寒で人間が住めるような場所ではなかったしな」
「ああ。グレース、ここは惑星って事で良いんだと思うか?」
「ラウルさん。それはそうじゃないですか?酸素や水、天候、土や炎など前世と変わらない物質にあふれていますし。地球に限りなく近い環境だってことですよね?ちょっと距離感とか大きさ的に異常もあるようにも思いますが」
「ちょっと思いついたんだが聞いてくれ‥‥」
俺はオージェとグレースに仮説を立てて話し始める。もしかすると可能かもしれないという期待を込めて熱を入れて話した。二人も俺の説明に可能性を見出しているようで身を乗り出して聞いていた。
「‥‥って事なんだが、どうかな?」
「ありじゃねえか?」
「今まで考えた中では可能性が高いと思います」
「幸い砂漠には人が住んではいないしな」
「だな」
「ええ」
「俺もシャーミリアもファートリアのデモン駆除で、かなり進化しているんだよ。恐らく以前は無理だったとしても今は可能かと思うんだ」
「危険ではあるがな」
「どっちにしてもだろ」
「まあな」
「僕はあり寄りのありだと思います。実際一度近い作戦を成功させていますからね」
「なるほどな。ラウル率いる魔人も皆かなり進化しているようだしな」
「そう言う事だ。まあとにかくダメもとでやらないと恐らくシン国は終わる」
「やるしかないって事か…」
「と思う。あとは魔導鎧がもつかどうかだ」
「僕は持つと思います。その素材は分かりませんが推進力は熱エネルギーによって得ているものではありませんし、稼働不良がおきる可能性も極めて低いかと思います」
グレースが頭の中で計算を始めたようだった。俺とオージェはそのゾーンに入ったグレースの答えを待つことにした。
「ラウルさん。崩壊を考えたとしても地表に着弾した時の威力は相当の物ですよ」
「あとは実現可能かどうかだな」
「ええ」
「ラウル。やるのか?」
「しかねえだろ、んじゃ行くわ」
「お、おいおい!先生やカトリーヌさんに言って行かないのか?」
「へ?いや、絶対戻ってくるし。そんな宇宙〇艦〇〇トのような事いうなよ」
「っておまえそんな気軽に」
「いやマジで」
「相変わらずだな」
「ホント」
二人は呆れた様子で俺を見る。こいつらは俺が思いのほか軽く考えている事に驚いているようだが、これは他愛もない実験のようなものだ。もしダメなら絨毯爆撃作戦に変えるだけだし。
《シャーミリア!来い!》
ドン
「お呼びでございましょうか」
念話で呼ぶとシャーミリアが来た。瞬間的に現れるシャーミリアにはもう慣れてしまった。高速飛翔で飛んでくるのだろうが、既に俺の目には彼女が飛ぶのは捕らえられない。
「実はお前と二人だけでやりたいことがあるんだよ」
「わ、私奴と二人だけでございますか?」
「俺とミリアにしかできないんだよ」
「かしこまりました。心してお受けいたしましょう」
シャーミリアが美しい顔をじっと俺に向けて、俺からの指示を聞こうとしていた。俺がシャーミリアに向かい、事細かく指示を出して確認を取って行く。
「かしこまりました。以前一度やったことがございますね」
「似たような事はな」
「ご主人様が、危険ではございませんか?」
「大丈夫だ。俺も魔力が尽きるような真似はしないよ。十分に余裕をもってあたるつもりだ」
「かしこまりました」
「じゃ、そう言うわけだから。オージェとグレースの口から先生達や将軍に伝えといて」
「なんかカトリーヌさんとマリアさんに怒られそうだな」
「大丈夫。彼女らも俺を信頼してるから、理解はしてくれるはずさ」
「わかったよ」
「じゃ行って来る。ミリア!行くぞ!」
「は」
俺とシャーミリアは上空高くに飛びあがった。そして砂漠の上空へと再び向かう。だが今度は平行に進むことはなかった。上に上に、さらに上にと高度を増していくのだった。雲の無い空はどこまでも青く、やはりここが地球と似た惑星だという事がわかる。そしてさらに上へ上へと上がって行く。
「このあたりが中間地点だ。この魔導鎧がどこまで上昇できるか分からないが、最大噴射で上がりきってみる。あとはシャーミリアが軌道修正をして次々に落下させてくれ」
「かしこまりました」
「じゃ」
《ヴァルキリー最大噴射でどこまで上昇できるかやってみてくれ》
《かしこまりました。我が主》
ドシュゥゥゥゥ
バーニアが最大射出をし始め、ドドドドドドとさらに高度を上げていく。まるでスペースシャトルの打ち上げのようになっていた。
「くぅ!」
魔導鎧のおかげでGを感じる事は無いが、このスピード感覚はかなり堪える。シャーミリアの高速移動のような速度で、さらに上に上にと上がって行くのだった。
《表面が凍ってまいりました》
《動かなくなるかな?》
《いえ、我が主の魔力があるうちは影響はありません》
《まったく…これは神様が作った鎧なんだろうな》
《存じ上げませんが、そうなのでしょう。酸素ボンベを召喚下さい。我が魔導鎧の可変をして連結いたします》
《わかった》
俺が腕の中に酸素ボンベを召喚すると、腹の部分が変形しボンベのバルブがそのまま直結された。ヴァルキリーが俺の酸素を心配して、安全に連結できるようにしてくれたらしい。
《もうほとんど空気がありませんが、これで大丈夫です》
《悪いなヴァルキリー。そこまで想定していなかったから下手すると死んでたな》
《そうならない為に我がいるのです》
《すげえ分体だよ、お前は》
《ありがとうございます》
《推進を弱めてくれ》
《かしこまりました》
空には満面の星空が輝いていた。地表を見ると広大な土地が広がっているが、どうやら先は丸いようだった。間違いなくこの世界は惑星だという事が確認できた。
《すげえ綺麗だ…》
《我が主、推進力及び酸素の残量を気にしてください》
《わかった》
ヴァルキリーには、俺がこの世界を見渡して感動している事など知る由も無かった。
《ミリア!行くぞ!》
《は!》
俺は異世界の惑星の上空でなんと、
米軍 CVN-78 ジェラルド・R・フォード巨大航空母艦
を召喚したのだった。結構な量の魔力を持って行かれたが、まだ十分に魔導鎧を稼働する事が出来る。角度を計算して、そのまま巨大航空母艦は地表に向けて落下していった。
《ミリア!行ったぞ》
《素晴らしい。落ちて来るのが見えてきました、射角の調整を行います》
ズズズズズズ
シャーミリアの頭上にジェラルド・R・フォード巨大航空母艦が降りて来た。大気の摩擦熱で少し燃えかかっているが、シャーミリアには影響が無かった。射角を変えて地表のある場所に狙いをつけて飛ぶ。ある程度の射角が決まったところでそのまま巨大空母から離れた。
《じゃ、もう一発いくぞ》
《かしこまりました》
俺は惑星の上空で再び巨大ロケット替わりのもう一隻を召喚する。
エンタープライズ
また角度をつけて地表に向けて下りていく。
ズズズズズズ
大気の摩擦熱で燃えながら、再びシャーミリアの頭上へとエンタープライズ巨大航空母艦が降りて来た。
《シャーミリア。微調整してさらに奥へとたのむ》
《仰せのままに》
シャーミリアはエンタープライズの射角を調整し、狙った地表へと向かって角度をつけて手を離した。
《よし。このままシャーミリアの所まで行くから待っていろ》
《はい》
そして俺は推進剤の残りを使ってシャーミリアのもとまで飛んできた。
《ご主人様。大丈夫でございますか?》
《だいぶ魔力が持って行かれた。てかシャーミリアは焦げてるけど大丈夫なのか?》
《もうしわけございません。ご主人様の事でいっぱいで自己修復を忘れておりました》
《治せ》
シュウシュウシュウ。焦げていたシャーミリアの体が修復されていく。
《着弾を確認するぞ》
《低空まで飛びます》
《ああ》
俺とシャーミリアは砂漠の方に向かって飛び、魔物の群れの中心で落下した空母が巨大爆発を起こすのを見た。
ズゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォ
物凄い爆発が砂漠の中心から広がって行くのが分かる。そして数秒後には飛んでいる俺達を凄い爆風が襲い掛かった。もちろん俺もシャーミリアもびくともしない。大気圏外から落ちて来た巨大空母2隻は、物凄い破壊力で魔物と砂漠を吹き飛ばしていった。
《ヤバイ!すぐに拠点に戻れ!》
《かしこまりました》
《配下全員に告ぐ!これから十数秒で恐ろしい爆風が襲い掛かる。武将と民を物陰に避難させ、間に合わないものは伏せさせろ!》
《《《《《《《は!》》》》》》》
そして俺達は拠点に向かって飛ぶが、拠点に到達する前に爆風が到達してしまった。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォォ
暴風の中を拠点に向かって飛んでいると不思議な事がおきた。砂漠とシン国の境を超えると暴風は全く吹き荒れておらず、まるで見えない壁があるかのように砂漠側だけが吹き荒れていたのだった。
「これ…砂嵐を防ぐ結界か?」
「虹蛇様の宝玉のお力…」
「かも…な…」
「は…はい…」
ボト
ボト
俺とシャーミリアは雑木林の中に落下してしまった。…巨大空母の落下攻撃によって多数のデモンやグール、魔物たちを消滅させたことで強烈な進化が訪れたようだった。
《とにかくあの爆風がこちらに被害を与えなくてよかった…》
「申し訳ございません…ご主人様」
「しかたない、オージェ達に任せるしかない…」
そして俺達は意識を失いそうになる。恐らくマキーナ、ギレザム、ガザム、ゴーグ、カララ、アナミス、ルフラ、セイラ、ラーズ、ミノス、ドラン、ルピア、ティラ、タピ、は全員寝てしまったかもしれない。
この現象はオージェだけではなくグレースも、モーリス先生も、カトリーヌも、マリアも知っている。カゲヨシ将軍もこの現象に遭遇したことがあるから対処方法は分かっているはずだ。
《守りに来たはずなのに、守られるなんてしまりが悪いな…》
雑木林の中で俺とシャーミリアは寝てしまうのだった。
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