第549話 潜水艦で南下せよ
俺達はレヴィアサンを追い、ストライカー装甲車でアグラニ迷宮の最下層に来た。ここまでは魔物が全くおらずスムーズに降りてくる事が出来たのだった。最下層にはバカでかいレヴィアサンの顔があった。どうやら地面にある地底湖のような場所から顔を出しているようだった。
「オージェ。ここは何だ?」
「ここはこの洞窟の最下層なんだが、海に繋がっているんだ」
「アグラニは海に繋がってるのか!」
「そのようだな」
「もしかして…この迷宮のラスボスって…」
「ラスボス?」
「いや、いいんだ。ここは人間には絶対に攻略できないのかもしれない‥」
「お前が何を言いたいのかうっすらと分かるが、俺が分体を動かせるようになったからそれは無いと思う」
「は、はは」
「とにかく急いでほしいんだが、このまま発てるか?」
「ああ、問題は無い。この迷宮の確認に来ていただけだし、むしろある程度のデータは取れた」
「わかったラウル。ならば潜水艦を召喚してくれ」
「おっけ」
俺はリヴィアサンが出ている湖に手をかざして集中する。
バッシャーン
召喚されて湖に浮かんでいるのは、自衛隊の新型潜水艦「たいげい」だった。
「じゃあ乗り込んでくれ」
「ちょっと待ってくれ!ヴァルキリーの魔力を流しっぱなしで行かないと乗船できないが、時間はどのくらいかかるんだ?」
「なるほどそうだな…じゃあラウル。魔導鎧を脱いでくれ」
「ん?わかった」
《ヴァルキリー出してくれ》
《分かりました我が主》
ガパン
俺がヴァルキリーを脱いで外に出る。すると…レヴィアサンがゆっくりと近づいてきて、パクッ。
「えっ!」
「なんと!」
「うそ」
レヴィアサンがなんとヴァルキリーを食べて飲み込んでしまった。
「食った!」
「いや、食ってないよ。この分体は虹蛇のように収納は出来ないが、飲み込めばそのまま運ぶ事は出来る。溶けることは無いから問題ないはずだ」
「本当か?」
「この分体は物を食べない」
「わかった」
「あの…」
レヴィアサンにビビりながらも違う方向を指さしているハイラがいた。
「どうしたハイラ?」
「これってあの、潜水艦じゃないでしょうか?」
「ああ、これはそう言う乗り物だ」
「恐らくこれも私たちの世界の物です」
「わかった。とりあえず乗ってもらっていいかな」
「は、はい!」
そして搭乗口までは、シャーミリアとマキーナ、アナミスと、ルピアが、マリアとカトリーヌエドハイラとモーリス先生を連れて行ってくれた。他の魔人達は潜水艦まで一気に飛び乗った。ハッチの中に順次潜り込んでいく。
「ラウルさん。不思議です…この世界に来てこんな近代的なものに乗る事になるなんて」
《そうだな。まあ…ハイラには俺達の状況を説明する必要がありそうだが、今は混乱を招きそうだから黙っておこう。神が勢ぞろいした時にでも話したら良さそうかね》
「まあ、適当な部屋を見つけて休んでもらっていいですよ」
「それではハイラさん。こちらに部屋がありそうなので私達と一緒にいきましょう」
カトリーヌとマリアがエドハイラを連れて船内の奥に入って行った。俺はそのまま操舵室に向かい、魔人達もそのままついて来る。
「ふぉ!凄いのお!おもしろいのう!」
「先生は、ぜひいろいろと見回ってもらっていいですよ」
「わかったのじゃ」
モーリス先生は珍しそうにあたりを見回していた。相当楽しそうだが、これに乗っている間は外の風景とか見れないから変化は何もない。そのうち飽きてしまいそうな気がする。
ゴオンゴオン
どうやらレヴィアサンのオージェから合図が来た。
「聞こえるか」
何故かレヴィアサンの話す声が艦内まで聞こえて来た。
「聞こえるよ。てかなんで話が出来るんだこれ」
「俺にも分からん。潜水艦を抱きかかえているが俺の声がそのまま伝わっているんだろうが、お前の声も鮮明に聞こえるぞ」
「振動伝達してんのかね?声が」
「骨伝導みたいなか?」
「それしか考えられなくね?」
「そうかもしれん」
「で、どうする?」
「ラウル。このまま連れて行く、少し揺れるかもしれんが皆に伝えてくれ」
「了解だ」
操舵室の艦内無線を見つけた俺は、オージェに言われた内容を艦内の皆に伝えた。
「よし、オージェ!出発だ」
「よし!」
どうやら潜水艦が進みだしたようだった。本来はこの潜水艦にも推進力があるのだが、このメンバーでは潜水艦を動かす事が出来なかった。以前海底神殿に行った時にもレヴィアサンに連れて行ってもらったが、オージェは問題なくレヴィアサンを使って潜水艦をけん引してくれているようだ。
「それで何と戦ってんだ?」
「ああ、大量の正体不明の魔物と恐らくはデモンの類だと思う」
「シン国が攻められたのか?」
「いや、まだだ。シン国の大ババ様とかいう祈祷師のばあさんが占って、南から恐ろしいものが押し寄せて来るってうろたえてたんだよ。そしたらカゲヨシ将軍が調べに行くってんで、それなら俺達が先行していくと伝えたんだ」
「なるほど。でもオージェがいて手を焼くものなのか?」
「我々だけが生き残るのなら全く問題は無い。だが侵攻を全て止める事はかなり難しいと推測されるんだよ。このままじゃシン国が滅びてしまう」
「なんで止められない?」
「問題はその数だ」
「そんなに凄いのか?」
「ケイナの土の精霊で調べてもらったが、広大な土地をすべて埋め尽くしているらしい」
「広大な土地?そいつらはどこに居るんだ?」
「ザンド砂漠だよ」
「‥‥あそこか…」
「お前が飛ばされた場所だったな」
「ああオージェ。すっごく難儀したよ」
「わかる。そしてそのザンド砂漠の南から、魔物が押し寄せてきているのが分かったんだが、俺達が先行して撃退に向かった。砂漠のど真ん中で先行している魔物と交戦してみた」
「メンツはオージェとトライトン、エミルの精霊とグレースのゴーレムかな?」
「その通りだ。さすがの読みだな」
「てか人間じゃ無理だろあそこ。あと虹蛇本体を呼べないグレースも厳しい」
「そう言うわけだ。砂漠は難なく進んで南で魔物に遭遇したんだが、その数が問題だった。俺達が最大火力で迎え撃っても横から通り過ぎていくんだよ。ゴーレムは全て破壊されちまったしな」
「それでどうしたんだ?」
「一度エミルのヘリでシン国の首都まで戻り、カゲヨシ将軍にその旨を伝えた。今は急いで国民の避難の為に各地域を駆けまわっている頃だ。そこで俺とグレースとセイラがエミルのヘリでファートリアに向かい東に飛んだんだが、途中母さんとの念波でラウルがいる場所を掴んだ。さらに同乗していたセイラが海に向かえと助言して来たんだ」
「東の海にか?」
「そうだ。山脈を超えて海を見た時に俺は驚いたよ」
「レヴィアサンか…」
「そういうことだ。ヘリから海を見渡したら一面にとぐろを巻いた龍が見えた。そしてセイラが俺とレヴィアサンが繋がっていると言ったんだ。そこで俺が念じると、俺の思念がそのままレヴィアサンに通じて動かす事が出来るようになったってわけだ」
「で、ここに来たってことか?」
「そういうことだ」
なぜセイラはレヴィアサンを動かせることを分かったのだろう?その理由が分からない。だがおかげで俺とオージェはこうして再開する事ができた。
「シン国は今どうなっている?」
「オンジとダークエルフ隊が中心となって、シン国の武将たちに銃火器の扱いを教えている。今はザンド砂漠との境に集まって迎え撃つ準備をしている頃だ。トライトンはその指導の手伝いをしている。ダークエルフの狙撃隊を連れて行って良かったよ。前線はそいつらが整備しているところだ」
「そいつはよかった」
「だが…」
「なんだ?」
「あの数を見たら焼け石に水だ。とにかく何らかの対処をしないとかなり厳しい状況になりそうだ」
「大体のところはわかった。魔獣が到達すると推測されるのはどのくらいだ?」
「ヘリでもかなりの距離があったからな、10日はかかるだろう」
「目的は何だろうな?」
「わからん。だが魔物が意志を持つように北へ北へと進んでいた。俺達が戦っても目もくれずにだ」
「人間達が遭遇したらどうなると思う」
「残念ながら1時間も持たずに全滅するだろうな」
「わかった」
どうやらシン国がかなりピンチのようだ。俺はリュート王国の国政正常化に向けていろいろやっていたが、むしろ南の方が深刻な状況だったらしい。二カルス大森林があるのでその状況はこちらには伝わってこなかった。
「レヴィアサンが、お前達がいる場所に到着するのはどのくらいだ?」
「3日というところか」
「かなりタイトに動かないとダメって事か」
「そうなる。エミルが待っている海岸線についたら、オスプレイを出してもらった方がいいだろう。グレースもまっているから魔導鎧を運ぶ事も可能だ」
「了解だ」
「それまでは艦内で休んでいてくれ」
「そうだな。ダンジョン攻略でかなり消耗しているからな。まあ消耗しているのは人間だけだが、休息を取らせてもらう事にしよう」
「到着までは俺にまかせておけ」
「たのむ」
魔人達は今の会話を周りで聞いていたのでそのまま休息をとるように伝えた。あとは艦内放送でカトリーヌとマリアとエドハイラにも伝える。
「ご主人様もお休みになった方が良いかと」
「わかったミリア。何かあったら教えてくれ」
「かしこまりました」
そして俺達は魔人をそこに置いて、カトリーヌ達がいる休息部屋へと向かう。たいげいの艦内は最新で凄く快適な造りとなっていた。どうやら男性と女性の区画が分けられているように思う。
コンコン!
「はい」
「入るよ」
「どうぞ」
俺はカトリーヌの返事を待って中に入る。すると3人がベッドに座って話をしていたようだった。
「ゆっくり休んでくれ。3日は目的地につかないらしい」
「わかりました」
「はい」
「すみません」
「とにかく休める時には確実に休むんだ。どうやらこれから向かう先で魔物が侵攻してきているとの情報が入った。俺達は恩義のあるシン国を救うべく急いでそこに向かっている」
「あの、龍…」
ハイラがボソッという。
「ああ、レヴィアサンか」
「あれはいったい」
「ハイラさんは初めて見たんだもんな。あれはレヴィアサンと言って神様みたいなもんさ」
「あれは仲間なのですか?」
「ああ、親友だ」
「し、しんゆー?親友!友達?」
「ああ友達だ」
「ラウルさんってどんな人なんですか?」
「えっと、元貴族で今は魔王の息子で魔王軍の司令官かな」
「魔王の息子…そしてあの巨大な龍の友達なんですか?」
「前は友達じゃなかったんだけど、今は親友かな。いや昔から親友で親友がそれになったって感じか」
「は、はは…言っている意味が全く分かりません。ハハハハ…」
エドハイラがうつろな目で笑う。
「大丈夫?」
「いや。なんていうかあまりにもな話で笑うしかないです」
「まあ教えてなかったからね」
エドハイラの理解を超えてパンクしてしまったようだった。神と言えばあのアトム神しかしらないハイラにとって、本当の神様を見てしまったような感覚なのだろう。
「私は場違いな世界に来てしまったようね」
「まあ…そうかもね。でも俺達がいる限り君が死ぬことは無い、最悪は俺の配下に指示をして君だけ逃がしてもらうつもりだ」
「いいえ。私は逃げない、それで死ぬのならそれは寿命だったと諦めるわ。でもなんていうのか…私はラウルさんの行く末を見たくなってきたみたい」
「うーん。俺の行く末は世の中を平和にして、好きな人たちと幸せに暮らすってところさ」
「こんな世界をそうできるのなら、ぜひ見せてほしい」
「そうか」
俺は少し考える。
「じゃあ…カティ、マリア。彼女をうちに連れて行こうと思うんだ。イオナ母さんに会わせる。この旅が終わったらグラドラムに戻ろう」
「はい!イオナ様の下へ帰りたいです!」
マリアが目をキラキラとさせて言う。
「私も叔母さまに会いたい。あとアウロラちゃんにも」
「じゃあ決まりだね」
「ラウルさんのお母様ですね。ぜひ楽しみにしています」
ハイラを無事に母さんの下に連れて行くためにも、この不可思議な厄災を切り抜けなければならない。
《しかし、やっとファートリアのデモン軍団を滅したばかりなのに、次から次へと》
そんな俺達を乗せて最新鋭潜水艦「たいげい」は異世界の深海を南へと突き進んで行くのだった。
次話:第550話 蠢く山脈
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