第54話 死体リサイクル
次話:第55話 月の女神の通行手形
殺人ルーティンを続けて30軒めに1度作戦を止めた。
俺がオーガ二人に話をする。
「この罠をはったやつはずいぶん几帳面だな。正確に各家に5人ずつと路地裏に2人ずつ配置している。」
俺達が208人目の人間を殺害し終わったところで、そのことを3人で確認する。
「ええ、一般人はいませんでしたね。おそらく数的には崖の上から見た広場にいたのが、街の人間の全てだと思いますので、やはり兵士は全てこの暗闇の中に紛れ込ませていると考えて間違いなさそうですね。」
ガザムも一般人を確認することは無かったと言っている。
「ただ・・並の兵士ではなさそうですね。すんなり殺せてはいますが我々が背後にまわるころに気を読まれています。体が追い付かないだけで気をこちらに向けてきますね。我らの動きとラウル様の武器についてこれていないだけで、自分たちが攻撃を受けた事を知ったうえで死んでいます。」
ギレザムが普通の兵士よりも冴えていると感じているらしい。俺には気が付かないうちに迅速に殺せているように見えるのだが、迅速に動けるオーガと俺の銃だから対応できているらしい。
「ということは、かなりやるやつも含まれる可能性があるという事か。」
「そうなります。おそらくここから先に行くにつれてさらに油断は出来なくなっていくでしょう。」
ここにきて3人では手数が足りないことを痛感する。まだ800人はいるというのに街の入り口に行くにつれ強敵がいる可能性もあるということか・・
「しかしラウル様の計画は正解です。いままで倒した200名から、先に我々に気がつかれて一斉に相手にすればかなりまずかったですね。」
「そうか・・ならよかった。だがここからだな。」
俺は新たにファイティングダガーナイフ FX-592を召喚して二人に渡しながら話す。
「グラドラムには兵隊はいないのか?」
「おりますが300人程度のろくに訓練もされていない兵士ばかりです。ガルドジン様と我ら一派がこの街の護衛をしておりましたゆえ、我々に頼りきりの軍隊で・・おそらくは全滅したのではないかと思われます。」
そうか、そのガルドジンとギレザムたちの仲間もいないとなると、かなり腕の立つヤツが相手にいるとみて間違いないだろうな。とにかく・・人手が足りない、戦力差は歴然としている。
「ギレザムの仲間たちはどうしたんだろうな・・ゴーグからはまだ連絡がない。」
「わかりません。」
「とにかくこの夜間のうちに作戦を進めねばならないな。」
「「はい」」
俺もVSS特殊消音狙撃銃の装填を完了させて、次の家に忍び込む準備を整える。200人も人間を殺害したため、俺の体の魔力量がかなり高まっているようだった。行動速度が上がっているし敵兵の死体が軽く感じる。判断能力も上がっており戦闘時に瞬間的に止まって見えることもある。
次の家との間の路地にも2人の兵士が立っていた。規律の良さが逆にあだになっており、全ての意識が街の門方向に向いているため殺しやすかった。ギレザムとガザムが二人をすみやかに始末し死体を横たえた。
「よし、ここからは隣の家の並びに移行する。大通りを渡れば見つかる可能性がある。屋根を飛び移る事はできるか?」
「問題ありません。」
「では一度、今やった家の屋根から対面の家に飛ぶぞ」
「は!」
3人で屋根の上にあがり、ガザムが俺を担いで道向かいに飛んだ!大通りの向かいの家の屋根に猫系の肉食獣のようにそっと降りた。ギレザムが追って降りてくる
「よし・・ここからは今まで殺害してきた街の奥方向に向かう。」
「わかりました。」
「30軒分きっちり殺してきたから対面の家の異変を見張るやつがいない。暗くて見えないとは思うがな、路地のやつには屋根の上から急襲をかけろ。ただここからはさらに慎重に動かねばならない。侵入経路がさらに難しくなるからだ、路地裏の窓に絞って侵入を試みる。」
「わかりました。そこに人間がいた場合は2階の窓より侵入を試みていきましょう。我を起点に行動を考えてくださればよいかと思います。」
確かにそうだ、ある程度迅速に動くために決めごとはするが、人間の気配を感じる能力にたけているギレザムを起点に動いた方が確実だな。
「わかった。」
そして屋根伝いに動き路地をみるとやはり二人が忍んでいた。ガザムとギレザムが屋根から急襲をかけて殺害した。そのときだった・・ポツリ・・ポツリ・・雨が降ってきた。
「よし・・好都合だ」
「そうですね。」
「雨ならば敵は来ないと踏むだろう、相手の気も緩むし視界が悪くなる分、侵入もしやすくなる。」
そう話をしているうちに雨脚が激しくなってきた。俺たちの作戦遂行を有利にするかのように・・雨はサーっと降り注いだ。俺たちは俺達は今までの殺害ルートを逆行して家に潜入して、任務を遂行していく。
雨のためさらに視界は暗くなり、雨音が侵入の音を消し殺害時の音を消してくれた。そのおかげで銃の使用が楽になったのだ、多少の鎧がすれる音は雨でかき消されている。殺害スピードがあがり作戦行動が順調になったと思っていたが、戻り返してから3軒目に侵入すると少し異変があった。
もう敵は来ないと踏んだのか2階に見張りはいなくなっていた。1階に降りると一つの部屋に5人でまとまっていたのだ。俺はギレザムとガザムに目配せをしドア越しに話を聞くことにした。
「おい、雨が降ってきたぞ!今日は作戦中止じゃねえのか?」
「そうだな・・そろそろ伝令が回ってもいいころだな。」
「だな。俺たちのほうから作戦中止を言うわけにもいかないし、待つしかねえだろうな。」
「住民ももどすだろ。」
「そうだな、一息つけるか・・」
なるほど・・兵士たちの話を聞くと、この作戦が終わるのではないかと踏んでいるのか?しかし伝令が回るとなると俺たちの殺害がばれてしまうな・・
俺はギレザムとガザムに目配せをする、上に指をさして家を出る指示をする。
・・・わかりました・・・
ギレザムがうなずく。
俺達が一度家を出て、雨と暗闇に紛れながら、最初に岩場から降りてきた作戦開始場所に戻った。
「雨は好都合だと思ったがな・・作戦中止となれば町人も戻されるだろう。」
「伝令が回るといっていましたね。」
「ああ、気がつかれるのも時間の問題だろう。」
そんな時だった・・ゴーグから連絡が入った。
「ラウル様、ガルドジン様と仲間を見つけました。」
「どこにいた?」
「魔法使いの結界で閉じ込められ、洞窟内に幽閉されています。」
そうか・・・それも罠っぽいな、2重3重に罠をかけているのか。相手はずいぶんと巧妙なやつらしい。
「おそらく・・罠の可能性がある。一度ひけ。」
「しかし・・ガルドジン様が・・」
「全滅する可能性がある。一度ひいてくれ。」
「わかりました。」
ゴーグとの通信が終わり一旦戻るように指示をだした。いまはとにかく戦力不足だ一人でも欠けるわけにはいかない。
俺達がゴーグと通信をして次の行動に移る為思考していると・・不意に、
「誰だ!」
ギレザムが俺の背後に向かって叫ぶ。
「も!もうしわけございません・・」
聞き覚えのある声に俺が振り向くと、そこには妖艶な貴族の女が跪いていた。貴族のいでたちに金髪、美しい真っ白な顔と真っ赤な唇・・そしてその隣にはこれまた美しい切れ長のクールビューティーがいた。ロングの黒髪を後ろで一本に結っている。こちらも真っ白な顔に唇だけが真っ赤だった。
「おお、シャーミリア!マキーナ!」
「なんと、私奴どもの名前を憶えておいででしたか。これ以上の褒美はございません」
「遅かったな。」
「大変申し訳ございません。全力で追ったのですがなかなか追いつかず・・」
ああ、そういえば俺たちはグリフォンに乗ってきたんだった、やっと追いついたって事か・・そりゃそうだ。
「気にするな。俺たちも飛んできたんだよ。それより、ちょうどよかったよ。」
「ちょうど・・?」
やっと糸口が見つかった。この二人にはたってのお願いがあった。あれが使えるぞ!
「お前たち、人間を屍人に出来るんだよな?」
「は、はい、まことにつたない技ではございますが、死体を屍人に変えて動かす事ができます。」
ゾンビを作るのがつたない技って・・すっげえ使える技なんだけど・・
「この通りにある30棟ほどの家の中に騎士の死体があるんだが、全部屍人にしてきてもらえるかな?」
「お安い御用でございます。あなた様のお役に立てるのであれば身を粉にして技をふるいましょう。」
「急ぎで頼む。」
「は!」
二人のヴァンパイアはいきなり蝙蝠の大群に変身して雨の中に飛び立った。さらに蝙蝠は各家に飛び込んでいくところだった。
「よし、これで混乱させることができる。その間に次の作戦の話をする。」
「「はい。」」
ギレザムとガザムが集中して俺を見る。俺は二人に質問する。
「敵兵は結界をどうやってはってるんだ?」
「人間の魔法使いが数名いて結界をはっていると思います。」
「どうやったら結界を破れる?」
「かなりの使い手だと思われますが、その者どもを全て殺せば結界は解けます」
「なるほど、しかし正面から囚われている場所まで突破するのは難しいだろうな。」
「おそらく罠・・でしょうね。」
罠か・・ならば先にそれを打開する必要があるな。話をしているとゴーグが帰ってきた。
「ラウル様お待たせしました。」
「洞窟内には入れたのか?」
「はい。入口に番兵はいましたが、目を盗んで忍び込むことができました。しかしガルドジン様が囚われている場所には近づけませんでした。我々の仲間の気配を確認することは出来ましたが・・20人くらいが中にいました、その中にヤバい奴が一人います。あと気になる魔法使いが・・俺一人では無理でした。」
なるほど・・やはり待ち伏せていたのか。・・しかしなんで俺たちが来ることが分かってたんだろう?国境では全て殺して焼いて埋めたのに・・
「国境では証拠は残さず跡形もなく消したのにな・・」
あ・・グリフォンも兵士も誰もいなくなって焼け跡だけあったら・・普通はなにかに襲撃されたって疑うわな・・翼竜とかで確認しに行ったのかもしれない。
「そうか、国境を襲撃した時点でばれるのは確定だったわけか。ということは奴らにも飛んで確認して帰ってくる手段はあるわけだな。」
「翼竜で兵を輸送したと言ってましたからね。」
「飛べるとなれば、崖上の拠点は明るくなったら危ないな・・夜のうちに何とかしないといけないというだな。」
急いで次の行動に移そう。しばらくすると蝙蝠の大群が帰って来て俺の前で二人の女になった。俺の命令で動いていたヴァンパイアの二人、シャーミリアとマキーナが帰ってきたのだった。
「終わりました。」
「早いな!!」
俺は思わずヴァンパイアにツッコミを入れてしまった。
「ラウル様、死体を屍人に変えてまいりました。ですが頭蓋を破壊されており屍人に出来ない死体もございました。」
「ああ、それは俺が殺した奴だよ。いいんだ。」
「左様でしたか、お見事でございます。」
しかしヴァンパイアの仕事は早いな250もの死体をゾンビ加工してきたのか。蝙蝠だから飛んでいてもおかしくないし家に入り込むのも簡単なんだな・・いやぁ困った時のヴァンパイアだな〜助かるわぁ〜
「それで屍人に変わるまでどのくらいかかる?」
「もう動き始めております。」
「勝手に動くものなのか?」
「いえ私が命ぜねば何もしません。」
「わかった。」
死体!便利すぎる!よっしゃ!こっちの戦力不足はこれで補えるだろう。いったん戻って戦力を整えよう。
「じゃあ急ぎで崖の上の拠点に戻る。ギレザムとガザム、ゴーグも上がってこれるか?」
「すぐにまいります。」
「じゃあシャーミリア俺を抱いて飛べ」
「な・・なんという幸せ。かしこまりました心して抱かせていただきます。」
吸血鬼なのに頬を赤らめて目を伏せた。
妖艶なオーラがさらに増すのであった・・
次話:第55話 月の女神の通行手形
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