第537話 小さな王子に大きな箔をつける作戦
俺達はリュート王国へと再び潜入する事になる。直属の配下とドランを含む魔人50人を連れてリュート王都へと向かっていた。俺は王政を復活させるための第一歩として、リュート王都にルタンからの洗脳兵士を流入させる予定だった。その前段階の準備として魔人に整備させる。もちろん将来入れるのが、洗脳兵士であるという事はゼダとリズには言ってない。
「君たちはついて来てよかったのかい?」
「はい」
アデルフィアとジョーイがゼダとリズのお付きとしてついて来ていた。姉弟は親を盗賊に殺されて身寄りを無くし、彼女らは自分の居場所をここに見つけたのだった。リュートに行ってゼダとリズのお世話をするつもりらしい。
「アデルフィアさんもジョーイ君も本当にありがとう」
ゼダが頭を下げる。
「いえ!頭を上げてください!リュート王国の王子様が市民に頭などを下げてはいけません」
「すみませんアデルフィアさん。でも感謝せずにはいられない」
「私達姉弟こそ感謝しています。私たちの居場所を与えたくれたことに感謝しています」
「助かります」
「本当にありがとう」
ゼダとリズは軽く涙をためて感謝の言葉を述べた。いま俺達が話しているのは自衛隊74式特大型トラックの荷台だ。トラック数台が比較的ゆっくり進み、周りにはたくさんの魔人達が護衛として走っている。
「そしてラウル様!このように多大な尽力いただけるとは何と申していいのやら。とにかくありがとうございます!」
またゼダに感謝された。俺の腹黒い目論見など全く知る由もなく、物凄く素直にお礼を言われた。
「その分、将来的に返していただければいいのですよ」
もちろんこの言葉に裏表はない、搾取する気満々で言っている。
「ラウル様とこうしてゆっくり話が出来るのはうれしいです」
ゼダが弟のような感じに懐いてくれている。
「俺もだよ。前は王子同士だったけど、今は王子と王様になるのかな?」
「まだ正式に王に就任したわけではありません」
「実質ゼダが王だろう。あとはリュートの貴族が生きていればいいのだがな。ユークリットでも生きていてくれた貴族が俺の他にも居たんだ。ラシュタルでも王族が見つかったし、女王の懐刀が生きていたりとかな」
「北の大陸は本当に全滅だったのですね」
「そうだな。だがもう北の大陸には既に脅威となるものはない。これから総出でゆっくりと生存している貴族を探さねばならないだろうね」
「リュートにも居ればいいのですが」
「そうだな」
今はファートリア神聖国内に潜伏した残党を探すため、スラガが潜入捜査をしているが未だ連絡は無かった。スラガのように人に溶け込んで捜査ができるのなら、貴族捜索のための捜査課を作って北大陸全土にばら撒く必要がある。
「まずは王都に人を戻さないといけません」
「そのためにも通り道にある都市で声をかけて行こう。また冒険者に頼んで各地に触れ回ってもらうと良い」
「ギルドが復活できるといいのですが」
「ギルドについても、リュート王国が一番復活させやすいと思うぞ」
「そうですか?」
「リュートは冒険者が健在で、今も各地を動いている。自警団をやっているのも冒険者だし、ギルドを立ち上げ直すならリュート王国が最適だと思うぞ」
「わかりました」
これも間違いない話だ。リュート王国が一番荒らされていない。デモンの爪痕もファートリアバルギウス連合の被害も少ない。強いて言えば王都だけが被害にあったようなものだ。ギルドを復活させるならリュートが一番早い。
「ご主人様。ミノスの基地が見えてきました」
「わかった」
東に走り続けミノス達がいる基地へとたどり着いた。既にこの駐屯地にもかなり大きな建物が建ち、なんとヘリの格納庫まで出来ているようだった。統率する魔人によって基地の様相が違うのが面白い。
「ラウル様!」
ミノス以下精鋭の魔人達が俺の前に跪いた。
「楽にしてくれ」
「こちらは?」
「リュート王国の次期王様と姫様だ」
「これはよくおいでくださいました!ここからリュート迄は近いですからな、何か困ったことがありましたら是非お知らせください!」
「でもラウル様の許可が」
「なにを?ラウル様からやれと言われておるのです」
「そうなのですか?」
「ああ。ここの魔人には全面的に支援するように言ってある」
「あ…ありがとうございます!」
「お互い様だから」
《だってギレザムが言ってたもん。クリフムートの肉が物凄く美味いって、あとあのアグラニ迷宮の蟹!あれは絶品だった!あと試してないけどアグラニには食ってない魔獣がいっぱいいるし。あそこの資源にはめっちゃ興味あるし》
「ミノス。ここの魔人も借りていくぞ」
「大型魔人ですな?」
「違う。リュートは建設関係は問題ないようだ。狩りが得意なダークエルフとハルピュイアとサキュバスを借りていく。進化後のより人間に近い奴を抜粋してくれ。そしてここは誰かに任せお前も来い」
「かしこまりました」
アグラニ迷宮の魔物たちはとびっきり強かった。それを加味して俺は直属の配下を全員連れて来たのだった。俺、シャーミリア、マキーナ、ファントム、モーリス先生、ギレザム、ガザム、ゴーグ、マリア、カトリーヌ、カララ、アナミス、ルフラ、ラーズ、ルピア、ティラ、タピ、エドハイラにドラン、ミノスが加わり20名。プラス、魔人約80名
そして俺達はミノスの駐屯地で休憩を取る事となった。ミノスと他の魔人達はリュートに向かう兵士の選別に行ってしまった。カトリーヌとマリアがゼダ一行とエドハイラを連れて駐屯地の案内をかって出てくれる。俺が一人でいるとモーリス先生が近づいて来た。
「ラウルよ。一度ここで休憩するのかの?」
「はい先生。ここの兵士を30人ほど抜擢してもらい連れて行きます」
「ふむ。それがよかろう!王子の凱旋が数名のちょろちょろとした兵士では箔が付かんからのう」
「先生の言う通り100名集めますよ。もっと連れて来るには一度エミルを呼び出さねばなりませんが、二カルス大森林の向こうには念話が繋がらないのです」
「これだけ屈強な兵を連れての凱旋じゃ、十分すぎるじゃろう」
「それならいいのですが」
「おぬしが麻痺しておるのじゃよ。普段から物凄い魔人達に囲まれているからそれが普通になってしまっておるのじゃ」
「まあ、たしかに」
「大丈夫じゃよ」
「はい」
俺とモーリス先生が話をしていると、ヴァルキリーが歩いて近寄ってきた。グレースがいないとヴァルキリーは陸路を走るしかない。だが唯一搬送できる方法はあった。俺が装着して思いっきり魔力を注ぐと重量はゼロに近くなるのだ。原理は何故か分からないが高速で移動する時はそれでもいい。だが普段から魔力を大量消費するのは避けたかった。
「不思議なものじゃな」
モーリス先生が言う。
「何がですか?」
「この鎧はラウルの御霊を分けているのじゃろ?」
「はい。他の人と話す事は出来ませんが、私とは会話できますよ」
「そして自分で動くんじゃろ?」
「はい。まるで命があるようです」
「素晴らしい。グレースのゴーレムといいこれといい、研究したい所じゃがな」
「戦が終わればゆっくりと研究できると思いますよ」
「ぜひお願いしたいのじゃ」
「よろこんで。というか私も知りたいです」
「ふむ」
「というか、僕以外着れるんでしょうかね?これ」
「ふっ。やめておいた方が良いじゃろ」
「そうですか?」
「わしの予想じゃが、ラウル以外が着たら死ぬじゃろうな」
「えっ!死ぬ」
「勘じゃがそう思う」
「わかりました。それでは誰にも着せないようにします。まあコイツの意志で私しか入れないのですけどね」
「それがいい」
しばらく休憩をして準備が整った。狩りの得意な魔人達30名を追加してミノスも合流し、更に東に向かって進んでいくのだった。リュート王国には既にデモンの傷跡は無い。あとは都市を回って王子の凱旋を伝えて回るだけだ。ファートリア東の村を素通りし、リュート国境を越えた。
《アスモデウス》
俺は直ぐにリュートに潜伏させているアスモデウスに念話を繋いだ。
《は!君主様》
《待たせたな》
《いえ。我らデモンにはほんのわずかな時間となります》
《ちゃんとやってたか?》
《はい。アグラニ迷宮の魔物が増えないように、適度に間引いておりました》
《おっけ。とにかく引き続きそうしていてくれ。適度な魔物の量にしてもらえると嬉しい、浅層から深層に至るまでに徐々に強くなっていく。そんな感じが理想だ》
《もちろんそのように作り込んでおります》
《頼むぞ。リュートの国営になったら冒険者がある程度遊べるような場所にするんだからな》
《はい。確か…あみゅーずめんとぱあくとやらですね》
《そうそう!冒険者のアミューズメントパークにするの》
《そのような楽しそうな業務をいただけて幸せにございます》
《最終的な監修は俺がするから、それまでお前の感覚でやっていてくれよ》
《は!》
アスモデウスは俺の指示の下、アグラニ迷宮を人間でもある程度下層に潜れるように改装してもらっている。改装オープンの前に俺達が行って難易度の最終調整をしなければならない。簡単すぎても不可能過ぎてもダメだ。ある程度は難しさを残すが、魔物の出現などの調整をアスモデウスにしてもらう。
「ご主人様」
「ラウル様」
シャーミリアとギレザムが同時に声をかけてきた。
「なんだ?」
「ご主人様は、あのデモンを信用しておられるようですが」
「うーん。信用というわけではないけどな」
「我らと違う系譜に居るような気がします」
「違う系譜?それはどういうことだシャーミリア、ギレザム」
「はいご主人様。魔人の系譜にはいないのです。どうやら他の経路に繋がっているような気がします」
「我も同感です。なぜか我々と同じ系譜にはいないように思われます」
「俺の系譜に入ってないと?」
「それは違います。言い表せないのですが、ご主人様であってご主人様でないような」
「シャーミリアの言う通りです」
「そうか…なら十分気を付ける事にしよう。だが今は間違いなく使役している感覚はある、使えるうちは使わせてもらうがそれについてはどうだ?」
「もちろんよろしいかと。ご主人様に何かあれば私奴が必ずお救い申し上げます」
「もちろん我も全力を尽くしましょう」
「頼もしいな。よろしく頼む」
「「は!」」
シャーミリアとギレザムが心配そうな顔をするので、俺は安心するように笑ってみせた。
「ラウルさんはすっごく慕われてるんですね」
エドハイラだった。
「まあ…なんというか、複雑な事情があって繋がりが深いというかなんというか」
「うらやましい。希薄な人間関係ばかりの私達の世界からすれば、その強い絆は本当にうらやましいわ」
「ありがとう」
「私も前の世界に帰れないんだったら、絆見つけなきゃ!」
「前向きですね」
「先生に言われたから!中途半端でいいって、いろいろ見てみろって」
「ああ。ハイラさんも先生の影響か」
「ラウルさんはいい先生に巡り会えたのですね」
「亡き父のおかげかな。私への一番の手向けだったと思う」
「いいお父さんだったのですね」
「はい」
エドハイラも何か思うところがあるようだ。同じ日本から来た奴らに信じてもらえず裏切られたのは相当ショックだったろう。だが俺達の絆を見てなにか気持ちが変わってきたようだった。少しでもいい影響が与えられたのだったらいいが。
俺は何故かエドハイラを一度イオナに会わせてみたいと思うのだった。




