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第536話 リュート王国復興計画

リュート王国という名前の由来が龍人、という事を聞いてもゼダとリズはそれほど驚かなかった。というのも王家の伝記にはそう言った文献もあったのだという。子供の頃からそのような話も聞いた事があったらしい。


「王家では言い伝えられていたと?」


「別段、他言無用というわけでもありませんでしたが、その事をわざわざ話す事もありませんでした」


「アグラニ迷宮が龍の巣だったということは?」


「それはさすがに知りませんでした。ですが龍の紋章がリューテウス家の家紋ですから、龍にまつわる何かはあるのだと思っていました」


「龍の紋章ね」


「はい」


「ゼドスウェン・フォン・リューテウスとリザベル・ヴィクトリア・リューテウスって言うのが正式な名前だよね」


「はい。私達以外のリューテウスは既にどこにもいないのかもしれませんが」


「まあ…他の国もほぼそういう状態だしね。今の所王家の血筋が確認できているのはユークリットとラシュタルかな。シュラーデンは未だ見つかっておらず、バルギウスの皇帝さんも行方不明だ。でもリュート王国には君たちが居るし、復興までは時間がかかるかもしれないが兆しは見えてきた」


「私たちも祖国の復興に向けて尽力いたします。そしてファートリアにアトム神が現れたように、我々にも龍神様がいる。まさかラウル様と一緒に旅をしていた人が、祖国の守護神だとは思いませんでした」


「夢を見たんだもんな」


「はい。お告げがありました」


「えっとその夢に出てきた人はもしかして、髪が長くて髭も長くて筋肉が隆々で、いかにも達人って感じじゃなかった?」


「そうです!どうしてわかるんです?」


「それ前の龍神」


「え!お会いしたことあるんですか?」


「海底神殿で」


「海底神殿…それも王家に伝説として伝わっていました」


「伝説か。海底神殿は実際にあるよ」


「そうなのですね」


二人はその事実に感銘を受けているようだった。


「そしてその達人から龍神を受け継いだのが、これまた達人のオージェというわけさ」


「わかりました。そしてエミル様やグレース様もなのですね?」


「ああ、精霊神と虹蛇を引き継いでいるな」


「ですとそれぞれに守護するものがあるのでしょうか?」


「ゼダのお告げの通りにオージェがリュートの守護神なら、恐らくエミルは二カルス大森林の守護神で虹蛇は南の地方の守護神だろうね」


「そこまではお告げを聞いていません」


「まあ仮説ってことで」


「はい」


必要な話し合いはおおよそ終わった。話し合いが終わったのを見計らってドランが手を打つ。パンパン!するとアデルフィアが入ってっ来る。


「お話が一段落ついたので、食事の用意をたのむ」


「はい」


アデルフィアが一礼をしてキッチンに向かって行った。すぐにメイドたちが食事を運んできて、本格的な食事をとる事になった。食事をとりながら普段の砕けた話をする。


「ところで、ドランが手ほどきをして槍術を習ってるんだっけ?」


「はい。私だけでなく、リズも習っています」


「上達した?」


「はい。多少の心得はついたと思います」


「リズも?」


「私はまだまだ未熟ですが、護身くらいにはなるかと思います」


「ドランは厳しくないかい?」


「いえ、優しくしていただいています」


「ならいいんだ」


ドランの見た目はどう見ても反社的な雰囲気だ。これに恫喝されたら俺でも震えあがってお金を渡してしまいそうだ。


「ラウル様。我を何だと思っているのですかな?」


何かに感づいたドランが言う。


「いや、いいやつだと思ってるよ」


「ふぉっふぉっ!ラウル、苦しいいいわけじゃのう。まあドランがいい奴なのはみんなが知っておるがのう」


「ラウル様は見た目だけで言っておられますよね?」


「ドランも鋭いな」


「本当に怖い魔人はいっぱいいるではないですか?」


「おまえもかなり大胆な事を言う」


「もちろんここだけの話です」


《確かにドランの言う通りだ。俺にとっては優しい奴らだが、人間や敵から見れば恐怖以外の何者でもない部下だらけだ》


「でも本当に魔人様達は良い人ばかりでした。私達兄妹に良くしてくれる人ばかりで、スラガさんもぶっきらぼうではありますが優しいです」


「でもアイツのもう一つの姿見た事ないよね?」


「もう一つの姿?」


「戦闘に参加すればわかると思うが、その時はきっと驚くと思う」


「ふふっ!たのしみにしております」


リズよ…絶対腰ぬかすぞ。


「ですがラウル様、本当にこの二人は筋が良いのです。かなりの才を持っているのか、龍人ということで我との相性がいいのか分かりませんが」


「案外相性がいいかもな。龍に守られた民だから竜人のドランとは合うのかも、もしかしたらオージェとも何か繋がりがあるかもしれん」


「ふぉっふぉっ!それもそうじゃの。龍のお告げがあるくらいじゃ、王子と姫に何かの力が宿っている可能性もあるかもしれん」


「私達に何かの力がですか?」


「ふむ。龍神様にお会いしていろいろ探ればわかるやもしれんぞい」


「では先生。オージェが戻り次第、二人と話す機会をもうけましょう」


「だそうだぞ」


「ありがとうございます」


楽しい食事が終わりゼダとリズと一緒に、リュート復興のための調整のための話し合いをすることとなる。まずはリュート王都の調査部隊だったメンバーを集めた。ギレザム、ガザム、アナミス、ルフラ、ラーズ、ルピア、ティラ、タピが集まった。モーリス先生と俺とカトリーヌが引き続き一緒になる。


「ギル、リュート王都の情報を伝えてくれ」


「はい。まずリュート王都に人間はおりませんでした。ただし転移罠やインフェルノなどの罠も皆無です。人間が移住してすぐに生活が出来るような状況でした。住居も手入れをしないために傷んでおりましたが、人間の手が入れば問題なく使えるものばかりです」


「なるほど。ですと私たちが王都に戻ったところで何も機能しないという事ですね」


「まあそうです。人間二人が戻ったところで何も出来ないと思います。王政を復活させるにも兵隊も貴族もおりません」


「ギレザムさん達が回った都市には民が居たのですよね?」


「市民はおりました。貴族が居たかどうかまでは確認できておりません。また商人などはいたと思いますが、流通が通常通り行われているかはわかりません」


「ありがとうございます。ではそのあたりの調査をしなければならないという事ですね」


「そうなります。まずは手足となって動く人が必要です」


「そうですか」


ギレザムと話をしゼダは自分にリュートを復興させるだけの力が無い事を、痛感しているようだった。王子と姫が二人だけ生き残ったところでどうする事も出来ない。例えばラシュタルならば民が残り、少しの兵士とその兵士を率いる事が出来るルブレスト・キスクがいた。ユークリット王都では俺がファートリアの西部に居た村人の魂核を書き換えて、貴族や市民として生きるように置いて来た。もちろん魔人達も大量にいる為かなりのスピードで復興している。シュラーデンは王族貴族不在の為、ライカンのマーグ率いる魔人部隊を置いて統治させている。唯一バルギウスだけは大量の騎士兵が残っていたので、彼らが都市を統治する事が出来るだろう。


「ゼダ王子」


俺が提案をしてみる為、襟を正す。


「はい」


「俺が騎士を派兵しましょう」


「騎士をですか?」


「私の治める都市に人間の兵士がおります。また私の魔人兵がリュート王都の後ろ盾になるように、王都の側に基地を設立する事を承諾していただければお力を貸す事もできます」


「守護神である龍神様の信託も仰ぎたいのですが?」


「それならすぐです。同行している魔人を通じて連絡をしましょう」


「それは助かります。ですがそれでラウル様のお国に何か利益があるのでしょうか?」


「まずはないでしょう。ですが困っている王子を見放す事など出来ません。さらに近隣の都市から希望者を募り王都に移住させましょう。リュートには冒険者も残っているようですので、王都に住みたがる人間は多いと思います。とにかく復興しなければ私達の国にも利益をもたらすのは難しい。復興してから後に貿易の事などを考えればよいかと」


「借金、ということですね?」


「まあ有り体に言えばそうです。あとは我が国との関係性を天秤にかけていただき、その先の事はその時に答えをもらえればよろしい」


「魔人国との関係性…」


「はい」


「わが国にはそれほどの国力がありませんよ」


「そこで相談があるのです」


「なんでしょう」


「アグラニ迷宮の共同経営権を魔人国に与えてくださいませんか?」


「共同経営権?」


「ええ。あそこは魔物の宝庫です。かなり貴重な魔物がたくさん生息する事がわかりました。そこを魔人達が管理して、冒険者が安全に魔物の狩りが出来るようにするというのはいかがでしょう?」


「むしろ管理をしていただけると?」


「あそこは冒険者達だけでは、その利益の10分の1も獲れていなかったと思います。いずれギルドが復活すれば多くの冒険者が訪れると思います。外貨もそこで回収できると思いますので、悪い案じゃないと思いますよ」


「もとよりギルドが管轄していたアグラニ迷宮を、国営にしてしまうという事ですか?」


「さすが理解が早い」


「まったく…ラウル様は面白い事を考えます」


「で、どうです?」


「いいでしょうその案を呑みます。ですがそれくらいしか魔人国に利を与えられるようなものはありません」


すると今度がギレザムが話にはいる。


「東の山岳地帯に住む魔獣を知っていますか?」


「どんな?」


「ふわふわの毛が生えており、巻いた角が生えている崖を走る魔獣です」


「ああ、あんなに険しい場所に人間は近寄れませんが、おそらくクリフムートだと思います」


「実は…」


ギレザムが袋を持ってきて中身を取り出す。するとその中から綿が出てきた。


「これは?」


「クリフムートの毛です。恐らく衣服や防寒に使えると思います」


「ですがこれを常時採取し続ける事など不可能です。とても貿易になど使えません」


《なるほど。あくまでも国内で何とかしようと思っているのね。それでは国の資源が有効に使えないよ》


「ゼダ王子。それも魔人国から捕獲する為の人員を貸します」


「そんな、なにからなにまで」


「いえ。ただそのクリフムートの肉と毛皮の利権が欲しいのです。もちろん危険な場所に取りに行くという危険料金も含めてですが、元より資源として成り立たないものを私たちも利用させていただこうという物です。私たちが実働しますので利の6割を魔人国で、そして4割をリュートに税として納めるという事でどうでしょう」


「4割も?」


「資源を遊ばせておくのはもったいないですよ」


「わかりました。それこそ至れり尽くせりのような話ですが良いのですか?」


《いやいや、もともとお前さんの国の資源なんだけど。俺達が労働力を貸し出さないと成り立たないとはいえ、もう少し自分の国の利を主張してもいいんだが》


「こちらはいいよな。なあギレザム!」


「よろしいかと」


「では。それでお願いします!」


ゼダ王子は了承した。あとはきちんとした書面を作成してかわせば完了だ。俺がずいぶんアコギなようにも感じるが、崩壊寸前の国を救う後ろ盾としては申し分ないはず。あとからオージェが自分が守護する国の利権を主張してくる前に、契約を交わしてしまいたいところだな。


腹黒い俺の顔を見て、モーリス先生がやれやれ…。カトリーヌが尊敬のまなざしで見つめるのだった。魔人達はみんな納得したような顔をしているので疑問にも思っていないようだ。


というわけで明日からすぐに実行に移す事としよう。

次話:第537話 小さな王子に大きな箔をつける作戦


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