第533話 日本人の確執
絶対結界から目覚めの一発で、アトム神に物凄く良いビンタを見舞ったエドハイラを地上に連れて来た。彼女は徹底的に倒壊してしまった都市を見て驚いているようだ。
「これはどうしたのです?」
「悪魔と余の子、大賢者が戦ったあとじゃな」
エドハイラに聞かれアトム神がどや顔で言い、モーリス先生が微妙な顔をしているが、俺はどこ吹く風だ。
「これほどの…」
エドハイラが怖い物を見るような顔でモーリス先生をみた。モーリス先生はさらに微妙な顔になったが、俺はもっと知らん顔をした。
「あんな大量の悪魔など見たことが無いわ。きっとあの、おかしな奴が大量に呼び寄せたのじゃ」
「おかしな奴ですか?」
エドハイラが聞く。
「そうじゃな。どうやらおぬしの世界と同じところから来たのかもしれん。余の子ではない」
!?
俺とモーリス先生が驚愕の新事実に驚く!
「ちょっとまってください!アトム神様!」
つい口をはさんだ。
「なんじゃ!いまはこの子と話しておるのじゃ!おぬしは無粋じゃな!だまっとれ!」
《まったく、なんでいちいちイラつかせるんだろう》
だが俺はそれをスルーしてそのまま尋ねる。
「エドハイラと一緒の世界から来たとおっしゃいました?」
「う…うむ。どうも余の子ではないようじゃった」
「誰なんです?」
「バルギウスから来た奴じゃ」
「バルギウスから?」
「よくわからんが、そうだった」
「まさか大神官あたりがそれだとか?」
「いや、あやつはこの世界に生まれた者じゃ。すっかり悪魔にとりつかれ余の加護など及ばなんだがな」
「では他に居たという事ですか?」
「そうじゃ」
「アトム神様は、その時この地に居たという事なんですか?」
「もちろん隠れておった。ハイラを絶対結界で守った隣に隠し部屋があってな、そこにずっといたのじゃな。入り口も無いので気づかんかったらしい」
《あー!あったあった!カララが糸で調べて祭壇がある秘密の部屋があるって言ってた!エドハイラの魔石の隣の部屋のその奥に!》
あの部屋の謎が解けたところで、俺は話を戻す事にした。
「それで、異界の者というのはどんなやつです」
「肌の色が特徴的なやつじゃ。茶色っぽい肌の色をしていてな、目つきの鋭い嫌なやつじゃった」
「他には?」
「それだけじゃ。あとはよくわからんが、恐らくバルギウスの皇帝と一緒におったようじゃ」
《…どこかで聞いたような気がする。だが思い出せない…確か…》
俺が思考の迷路に入っているといきなり怒られる。
「なんじゃ!おまえ!余が教えてやったのにお礼も言わんのか!」
「は?すみません!ありがとうございました」
「まったく、どんな育ちをしたらこんな風になるのかのう?親の顔が見てみたいわ」
《カッチーン!俺の事はいいがイオナの事は悪くいうなよ!だが…ここで揉めてもいい事は無い。とにかくこの場は謝って済まそう》
「申し訳ございませんでした」
「分かればよい」
とりあえず許したようだ。めんどい。するとエドハイラがまたアトム神に質問を始める。
「それで神様。あの光の柱はいったいなんなのです?」
「おお、あれは光の聖痕じゃな。余の力とおまえの異界への未練が生み出したようじゃ。しかしあれのおかげで悪魔は寄り付かんようになるじゃろう」
「私の未練?」
「あれはおぬしの涙が生み出したらしいぞ」
「私の涙が?」
「うむ。結界で眠っている間に魂石を生み出して、それを飲んだものが死に生まれたらしい」
「そうなんですか!?それはすみません」
「悪い物でもない」
「柱は無くならないのですか?」
「余を次の者が引き継げば消えるやもしれん」
「引き継ぐ?」
「そう引き継げば。あっ!そう言えばそうじゃった。龍神や精霊神や虹蛇はおらんのか!」
アトム神が気づいたように言う。どうやら今の今まで忘れていたようだった。しかも俺の話を全く聞いていないらしい。
《彼らはシン国の将軍を国に送ってんだよ!記憶力ねえのかよ!》
「ん?」
アトム神がこちらを振り向き。俺とモーリス先生が礼をする。
「それではアトム神様。あの聖痕は我々に害はないのでしょうか?」
「そうじゃな枢機卿よ。神聖国にふさわしい記じゃ、信心深い者達に害などないわ」
「もしかして、アトム神様に仇成す者には何か害が?」
「まあそうじゃろうな。じゃが何が起きるのかは触れてみんとわからん。とにかく悪魔があれに触れていい事にはならん」
「わかりました。では国を守る柱という事で守る事にいたしましょう」
「そうじゃな。しばらくは悪魔も寄り付かんじゃろうて」
《どうやら敵はあの魂石の影響を知らずにばら撒いたらしい。それが自分たちの首を絞める事になるとは知りもせずに。だがあれは俺の魔人達にも影響するんだよなあ…とにかく近寄らないように徹底しないとな》
そして俺たちは教会についた。協会は建設中だが一番最初に作られたらしく、だいぶまともな建物になっている。魔人達が作れば1日で建つだろうが、人間達にはこのくらいが限界だろう。資材は魔人達が森から切り出して来た木材をつかっているので、人間でも早く作れている方だ。
「あの、この世界に呼ばれた他の人たちは?」
エドハイラが俺に言う。
「あ、呼んできます?」
「一応顔を見て安心したいです」
「じゃあ待っててください」
俺とカトリーヌ、マリアがその場所を離れて行こうとすると、さらりとモーリス先生も後ろについて来た。しばらく歩いて教会から離れて先生が言う。
「わしゃ…あの神様苦手」
爆弾発言だった。
「えっ!先生!そんなこと言っていいんですか?まあ僕もですけど」
「ラウルは見てれば分かる。じゃがあの差別的な感じが好かん」
モーリス先生がこんなことを言うのはよっぽどだ。普段はあまり人に対して好き嫌いを言う人ではない、まあ…人じゃないけど。でもモーリス先生らしからぬ発言だった。
「ラウル様!私も頭に来ました!」
「え、カティまで?」
「ラウル様とイオナ様を愚弄するような発言がありました!」
「そうです!許せません!」
「マリアも…」
どうやら、古くからの俺の仲間達はアトム神が苦手なようだ。モーリス先生なんか逆にめっちゃ好かれてるみたいだから、これからちょっと大変そうだ。俺のせいだけど。
「あ、ハルト君!」
俺は日本人の剣士ナガセハルトを見つけて声をかける。
「おお!ラウル様!お戻りでしたか!」
「うむ。エドハイラが目覚めたんだ」
「それは凄い!」
「ついて来てくれ」
「はい」
そして都市内を回り、ホウジョウマコとキチョウカナデとイショウキリヤも見つけた。彼ら4人を連れてエドハイラの下に行く事にする。
「あの子が出られたんですね!」
「本当によかった!」
「早く会いたいな!」
ホウジョウマコとキチョウカナデとイショウキリヤが明るく言う。ようやく教会についてみんなで中に入って行く事にする。
「失礼します」
俺達が入って行くとアトム神が祭壇の椅子に座り、サイナス枢機卿と聖女リシェルとケイシー神父とカーライルが跪いていた。エドハイラがアトム神の脇に立っている。
《なんじゃ?この光景は》
「おお、よう来たの!近こう寄れ!」
アトム神が上機嫌で言う。
《なんつーかドンドン増長しているような気がするが、きっとこの宗教ならではの何か大切なことがあるんだろう》
エドハイラを見つけたハルト、キリヤ、カナデ、マコが声をかける。
「ハイラ!無事でよかった!」
「本当だ!どうなるかと思った」
「本当に、元気そうでうれしい!」
「ホッとしたわ!」
4人はもちろん、俺とアナミスで書き換えを行ったので屈託もなく挨拶をした。
そしてエドハイラは…
「よく言うわ!私を見捨てたくせに!私があいつらが悪魔だって言っても信じなかった!」
《あれ?あれあれあれあれ?一気に雲行きが怪しくなったぞ》
「あの時は仕方なかった、いきなり言われても理解できなかったんだ」
「そうだよ。ハイラちゃんが急に言い出すから。でも今になってわかった!」
「二人の言う通り。私もまさかそんなこと無いって思ってた」
「だって、良い人そうだったし美味しい物を食べさせてくれたり、綺麗な服を着せてくれたりしたから…でもそれこそがダメだってわかったの」
「だから私を置いて行ったんだ?ふーん」
「どうする事もできなかった」
「謝るしかない」
「うん。罰して頂戴」
「私も」
4人はエドハイラの前に跪いて土下座した。
「私は皆を救おうとしたの!でも聞かないからアラカワさんが死んだんじゃないの?」
「事故だったんだ」
キリヤが言う。
「事故?戦って死んだんじゃないの?」
「悪魔にやられたんだ。悪魔と戦って死んだ」
ハルトがまた違った事を言う。
《ヤバいな…記憶が曖昧になっているのがバレそうだ》
「もし、ハイラちゃんが気に入らないと言うなら叩いてくれていいわ!」
パン!
キチョウカナデが言った瞬間、ハイラの伝説のビンタがカナデの頬をはった。
パン!パン!パン!
ハルト、キリヤ、マコのほっぺもビンタする。
パン!パン!パン!パン!
そして逆から往復して帰って来た。エドハイラのビンタを受けて4人が何か目覚めたような顔をした。
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
4人は全く同じリアクションを取った。
《どうやら魂核のいじり方をもっと工夫しないといけないようだ。これじゃあまるでクローンだ。個性が無くなっている。次の課題にするとしよう》
「気持ち悪い」
エドハイラが言う。まったくだ。
「がんばるから」
「認めてもらえるように」
「いくらでもぶって!」
「うれしい!」
エドハイラは4人を見て、ダメだこりゃって顔をしている。だがエドハイラの直感は素晴らしい、恐らく4人が夢を見ているか洗脳されていると思ったのかもしれない。
《エドハイラ恐るべし》
「では皆さん普通に席に座りましょう!そろそろ次の動きに向けての話をしなければなりません」
「ふん!じゃが、そうじゃな!」
《うーむ。俺、アトム神に嫌われるような事なんかしたっけかな?よくわかんないけど馬が合わん》
皆がテーブルについてこれからの聖都の事について話す事にする。アトム神が言っていた茶色の肌の男の事が気になるが、まずはファートリア国内の調整をどうするかを決めねばならない。その後に俺はリュート王国の正常化が待っているのだから、ちゃっちゃと終わらせたいものだ。
「ではアトム神様を中心に話をしてまいりましょう」
俺が仕切る。
「うむ。そうしようかの」
アトム神もそれには納得のようだ。
ファートリアは比較的主要な人間が残っていそうだから、徹底的にやられた割に復興も早いかもしれなかった。魔人が入り込めない分、土木工事系が遅れるかもしれないが人的な不足はないだろう。全員がテーブルにつき、アトム神を中心にファートリア神聖国の正常化に向けての話をするのだった。
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