第53話 大量暗殺ルーティン
ガザムから報告が来た。
罠がはられていると。
一か所に人を集め、俺達を誘き寄せて暗闇から出てきて囲む作戦か。まあ悪くはないが明け透けだな。
いったんガザムに指示をだす。
「ガザムはその場で待機。俺達の到着を待て。」
「は!」
俺はミーシャを見て話す。
「ミーシャ、ちょっといいか?」
「はい。」
「ミーシャには12.7mm機関銃をまかせる。」
「はい。」
「もしなにか来たら撃て。ただしここに人間が上がってくることはないらしいから、万が一だ。」
「わかりました。」
ミーシャには念のため12.7mm機関銃でスタンバイしてもらう。
「マリア」
「はい」
「マリアはこの夜間スコープで狙いを定めて、敵が見えたら上から撃て。恐らくまる見えになるだろう。」
「必ず遂行します。」
「間違っても俺たちを撃つなよ。」
「お任せください。って、えっ?ラウル様は降りるのですか?」
「そうだ。」
「ダメです!危険です!」
「大丈夫だ。市街戦は昔から得意なんだよ。」
「昔から?」
「違う…いや、なんでもない。」
まずいまずい!ついうっかり口がすべった。
「ここに誰かがきたりしたら、スナイパーライフルを捨て得意の2丁拳銃で拠点を防衛してくれ。」
「わかりました。」
「ミゼッタは暗視カメラで周囲を警戒、何かあればマリアにしらせてくれ」
「う、うんわかった!」
拠点の防衛はひとまずこれでどうにかなりそうだ。あとは…
「母さん、テントから出ずにいてね。あと念のためこれ置いていく。」
俺につながる無線機と、イオナが使った事あるA T4ロケットランチャーを3本召喚して置いておく。
「あとは・・何かが少しでも変わったらすぐにこれで連絡して。」
「わかったわ。ラウルくれぐれも気をつけてちょうだい。」
「大丈夫」
俺はギレザムとゴーグに向かって話を続ける。
「ゴーグ、鼻が利くところで頼みがある。ガルドジン・・・父さんと仲間を探してくれ」
「わかりました。」
「深追いはするな、場所がわかったら教えてくれるだけでいい。」
「発見次第伝えます。」
「たのむ。」
ゴーグには仲間を探してもらう、もしかしたら既にやられてるかもしれないが、可能性はゼロじゃない。
「じゃあギレザム、俺を連れて下に降りれるかい?」
「問題ございません。ですが?ラウル様も戦うのですか?」
「ああ。」
「危険ではないですか?」
「相手は1000人の騎士だろ?どんな手練れがいるとも限らん。戦力差が大き過ぎるし手数は多い方がいい。」
「わかりました。」
「大丈夫だ、後方にはマリアの狙撃がある。それに俺は市街戦が好…いや…やりた…いや、得意なんだよ」
ギレザムが何言ってんの?って顔してる。
「いいから連れていけ」
「わかりました。」
とりあえず、つれていってくれるみたいだ。皆が心配そうな顔で俺をみているが、とにかく状況を打破するためにも俺が動かなければならない局面だ。
「では我の背につかまってください。」
俺はギレザムにおんぶするようにぶら下がる。
「手を離さぬように願います。」
「わかった。」
「では。」
ギレザムは崖に向かって立ち、レンジャーの懸垂降下のように淵から飛び降りる。もちろん懸垂降下のようなロープはない・・一瞬血の気が引くがギレザムが安定しているのでそれほど怖さはなかった。数十メートル降りたら腕で崖の岩につかまり、また数十メートル落ちたら崖の岩につかまって降りていく。
「あ・・こんな映画みたことあるな・・」
なんか拳法の達人系の役者が、マンションのベランダの手すりを掴んでは落ち掴んでは落ちて、一気に地上まで降りていくようなスタントを見たことがある。ギレザムがやっているのはまさにそれだった。
タン!タン!タン!
脇をみるともっと衝撃的な光景が。ゴーグが崖を駆け下りている・・岩と岩を飛び移りながら下に降りていく。そういえば彼は狼だもんな・・
「つきました。」
底まで降りてきたらしい。あっという間だった・・気づけばガザムがいつの間にか隣に立っていた。
うわ!思わず・・声を出しそうになったが・・こらえた。
「じゃ、ゴーグ!仲間を探してきてくれ。」
「わかりました。」
ゴーグは闇の中に消えていった。
俺はガザムから今の街の状態を聞き出す。どうやらそこらじゅうの家の中や路地に敵が潜んでいるらしい、正面から入らなくてよかった。
「まだ敵は俺達に気が付いていないようだ、900人近くが街の暗がりの中に潜んでいるということだな。」
「おそらくはそうです。このスコープで見る限りかなり確認できました。」
「我もかなりの人間の気配を感じます。」
なるほど、オーガをかなり警戒しているんだな。そりゃ・・あんなに強いんだもんな、警戒してもし足りないか・・
上からでは分からなかったが、下に降りて周りの状況を確認し作戦が決まった。
「これからしらみつぶしに敵兵を葬っていく。音を立てずにチームで端から慎重に正確にだ。なるべく迅速に隠密行動していく、躊躇いはないと思うが音もなく背後から忍び寄り心臓をひと突きしろ。」
俺はある武器を召喚する。フェアバーンサイクス ファイティングダガーナイフ FX-592だ。長い刃の両刃のアルミニウムダガーだ 。
「ギレザムの刀は大きすぎて建物内では不利だ。ガザムの両手の小刀も少し大きい、切れ味はいいと思うが突くならこれが最適だ。音を極力出さずに殺す事ができるだろう。お前たちの力なら鎧など意味をなさないし、頭蓋にも刺さるかもしれん。折れたりしたらまた俺が出す気兼ねなく突きまくってくれ」
「わかりました。」
「これは・・不思議な刀ですね。刃が黒い・・」
「あくまでも突くのに優れた武器だ、もしもの時は自分の刀で応戦してくれ。」
「「は!」」
そして、俺は夜戦の奇襲用に自分用の武器を召喚した。
ソ連製のVSS 愛称ヴィントレス 高い隠密性を発揮する特殊消音狙撃銃だ。サプレッサー一体型のライフルでサプレッサーはバレルより長い。バレルには銃口から放出するガスを減らすため穴が開いており、通常のサプレッサーをつけた銃より高い消音性となっている。専用の9×39mm弾を使用し銃弾の初速を落としてさらに消音性を高めている。スコープを入れても3.4㎏と軽くて扱いやすい。
さらに手を滑らせないように、軍用ハーフグローブを召喚し正確な射撃ができるようにした。
「よし、街の入り口から見て最奥の、おとりの人達がいる方。その灯りが届かなくなる岸壁側からやる。ガザム先行しろ、俺を置いて行くなよ。」
「は!」
ガザムに続いて俺、ギレザムが暗がりを縫って走り出す。装備を持っていても格段に速く走れるようになった。ガザムはスピードを落としてくれているようだが、人間のフルスピードよりはるかに速い速度で走り抜ける。ゴーグには遠く及ばないが時速50キロはキープしているように思える。
到着した。
暗がりに立つ最奥の建物。おそらく敵は入り口から入ってくる事を想定しているはずだ、逆側から状況を把握しつつ1件1件しらみつぶしにしていく。裏口から入ることにする。
・・・開けろ・・・
俺はガザムにドアを開けるように、しぐさで指示をした。
・・・はい・・・
ガザムは無言でうなずいて取っ手に手をかける。どうやら・・鍵がかけられているようだった。
・・・どうする?・・・
俺は二人にゼスチャーで示した。するとギレザムがスッと刀を抜く。
《どうするんだろう。》
ギレザムが上段に構えると、スッ!と刀が振り下ろされる。ギレザムはなんとドアと壁の隙間に寸分たがわず刀を振り下ろしたのだった。微妙に「チ」という音がかすかにしたが、ほかには音はしなかった。
・・・では・・・
ガザムがこちらを向いてうなずく。スッとドアが素早く開かれるが軋み一つない。さすが・・隠密にたけているだけあって簡単に忍び込んだ。建物の中は真っ暗だったがENVG-Bナイトビジョンのおかげで俺でも見渡す事が出来た。さらにオーガは人間の魂を察知するため、軍の突入部隊のように1つ1つ部屋を確認する事はなかった。真っ暗な部屋の中をまっすぐに奥に進んでいく。
奥に2人いた。ENVG-Bナイトビジョンでゲームのように浮き上がっている。
窓の外をじっと眺めている。おそらく敵が入ってくるのを心待ちにしているのだろう・・
次の瞬間、2人は息絶えていた。
ギレザムとガザムが背後に立って2人の死体が倒れないように、首をもってぶら下げている状態だった。
・・・そっと・・・
俺が伏せるような指示をだすと、ふたりはそっと死体を床に横たえた。ガザムが振り返って上を指さし、3本の指を上げた。
・・・2階に3人か・・・
俺はうなずいて、3人でそっと階段をあがる。2階に上がっても家の中は真っ暗だった。ENVG-Bをつけているので全く不安げな動きをしないで済む。オーガの2人には人間のいる場所が分かっているようだが・・
・・・ここに3人・・・
ガザムが部屋を指さし無言で3の指を立てる。俺が合図をだす。
3、2、1!
スッとドアをあけた瞬時にオーガ2人は、兵士2人の心臓にファイティングダガーFX-592を差し入れていた。一番前で窓を見ていたやつが不意に振り返るところに、俺はVSS ヴィントレス特殊消音狙撃銃を撃ちこんだ。「ッス」という音とともに一番前のヤツが崩れ落ちてくる、俺は瞬時に走り込み倒れるのを抑え込んだ。ゆっくりと床に横たわらせる。
「この家にはもういません。」
ガザムは口を開いた。
やはり人間の魂は特別なんだろうか・・俺の内部で血が巡るように魔力が騒ぐ。二人がそれに気が付いたようで俺の様子をうかがっている。心なしか体がさらに軽い。
「わかった。作戦に微調整を加える。」
「「なんでしょうか?」」
「4人以上が一塊になっていたらお前たちが1人1人を殺る。音を立てずに次に移れるようならもう1人殺れ、倒れたり叫び声が出そうなときは俺が残りすべての頭を撃つ。この家にいた兵隊のように叫び声を一切あげさせないようにしろ。俺が撃ったヤツは床に倒れる鎧の音を消すため俺が受け止めるが、まにあわなければギレザムが支えてくれ。」
「わかりました。」
「では路地に警戒しながら、隣の家に移り1軒1軒つぶしていく。おそらくは西側の街の入り口のほうが兵は多いだろう。そこはまた別の方法を考えている。」
「どうしてそういう方法をとるのですか?」
ギレザムが俺に聞いて来た。
「ああ理由は二つある。まずひとつ、一般の人間が集められている広場近くは大量破壊兵器が使えないからだ。そしてもう一つの理由は奥から入り口付近まで、建物内に一般の街人がいるかどうかを確認していくためだ。大量破壊兵器を使って一般人を殺すのを防ぐ。人が捕らえられている広場に近い所から順番に兵を片付けていく。」
「なるほど。」
「入り口付近で爆発や破壊音がしても、内部の兵を殺しておけば、加勢にも来れず一般人を捕らえている兵のほうにも下がられることは無い。とにかく安全にできるだけ多くの敵兵を殺害しておくぞ。」
「「そういう事でしたか、さすがラウル様です」」
二人は俺の作戦を理解したようだ。
「それじゃあ、裏通り伝いに1軒ずつ家の中を確認し兵を殺害していくぞ。」
「「は!」」
俺達はすぐに1階におりて次の家に移る。すると家と家の間に2人潜んでいた・・瞬間的にギレザムとガザムが後ろから心臓を突き刺している。ついた穴が小さいので血が吹き出ない。音をたてないように寝かせてすぐに戻ってくる。
「ラウル様の読み通りですね。みな通りのほうを警戒しています。」
「きっと俺たちが来ると思って愚直に見張ってるんだろうな。きっとおっかない隊長なんだろ。そりゃ国境付近にも派遣されれば気も抜けるわな・・」
次の建物の裏口につくが、ギレザムが口に指をあてて止まる。
・・・上に・・・
上を指さしている。
・・・上か・・・
俺がうなずくと後ろからガザムに抱かれジャンプした。そっと・・屋根の上に降りる。となりにギレザムが着地した。猫のようにしなやかな動作だった。
2階の窓が開いたのでそこから侵入する。すぐに部屋のドアに移動し、そっとドアを開けた。ギレザムとガザムは一直線に奥の部屋の前のドアにたち俺が後ろからついて行く。ガザムが指を3本立てた。
・・・3人か・・・
俺がうなずくとドアを音もなくあける。瞬間的にギレザムとガザムに2人が心臓を貫かれてぶら下がっていた。俺もすでに一人の後頭部に一発撃ちこんでいた。倒れる前に急ぎ近寄って体を支え横たえさせる。ギレザムが下を指さし2本の指を出す。
・・・下に2人か・・・
どうやら1戸には5人一組で潜入させているようだった。俺たちが一階に降りるとガザムが2つの方向を指さした。俺とギレザムが一つの部屋にむかう、ドアを開け次の瞬間ギレザムが心臓を突いていた。ガザムは裏口近くの便所の前の陰に潜む、すると便所から兵士が出てきた。スッと口に手を当てると同時に心臓を貫いていた。
「この家にはあと人はいません。」
ガザムが言う。どうやら裏口から入らなかったのは、裏口近くのトイレに人がいたかららしい。気配察知の能力があると安全に暗殺行動ができる。
「人員配置の構成がわかったな。おそらく1戸に5人と路地裏に2人配備しているようだ。」
「次もそうでしょうか?」
「おそらくな。行ってみればわかるがわざわざ複雑な人員配置にすまい。この辺の家は街の入り口から離れているからしばらくはこの構成だろう・・ずいぶん用意周到だと思うが、お前たちの脅威を考えるとこれくらいの罠は必要だと思う。」
面白い作戦だなと思う。どこかで戦闘の音が聞こえればあっというまに、兵士に囲まれているという状況になるだろう。戦闘が始まり合図して総攻撃すれば、さすがにオーガと言えど1000人の騎士を相手にしては勝ち目がない。どこに逃げても兵士がいるという緻密な作戦だった。
それから・・
「あの・・ラウル様・・顔の痣が光っています。」
「なに?それはまずいな」
どうやら俺の武器で人間を殺害しているため魂が集まってきているようだ。光を隠すために軍用タクティカルマスク(目だし帽)を召喚してかぶった。
「隠れましたね。」
「じゃ、次行こう。」
俺達3人の暗闇暗殺ルーティーンが始まった。
次話:第54話 死体リサイクル