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第525話 神々の洞窟

100層から石の壁をぶち破って上がってきたのは巨大な黒龍、オージェの母のメリュージュさんだった。なぜかカララ達が連れて来た女の子から先生と呼ばれているようだ。ちなみにイオナとはママ友だ。


「それでオージェのお母さんは何故こんなところにいるんですか?」


「あら、皆さんご存知ないのかしら?」


「はい」


「ここは昔むかーしの龍の都市だったのよ」


「龍の都市!」


「大陸に住んでいる時はここで龍が暮らしていたのよ」


「そうなんですね!本当に龍が住む場所だったんですね!」


「ええ」


凄い事実をさらりと言う。どうやらここが大陸に居た頃の龍の巣らしい。モーリス先生の耳が物凄く大きくなっているように見える。


「で、わざわざここに居たのは?」


「ん?裏口から入ったからよ。オージェったら私に大陸のどこかで待つようにって言うのだけど、私どこに行っても騒がれるんじゃないかと思ってここに隠れていたの」


まったくその通りだ。どこに行っても厄災が現れたと思われて、人間が避難とかし始めるかもしれない。


「裏口とかいろいろ聞きたいことはあるのですが…その人は誰ですか?」


既にカララが糸をほどいて自由にしている女の子を見る。


「あら?それもご存知ないのかしら?」


「は、はあ…初対面なもので」


その女の子は黒髪のおかっぱで…何かに似ている気がする。服装は古代ローマの市民のような布を纏っているだけだった。俺達の扱いに怒って、ほっぺを膨らましプイっとしている。何か‥見たことがあるような気がするがよくわからない。


「お仲間じゃないかと思うの」


「僕たちの?」


「ええ」


と言われても全く見当がつかない。


「アトム神様よ」


「ああそうですか…」


…………‥‥‥‥


「えっ!!!!!」

「ええっ!!!!!」

「えええっ!!!!!」

「ええええっ!!!!!」


「あらあらあら」


衝撃の事実!何という事だ!まさか目の前にいるおかっぱの女の子がアトム神だったなんて!このダンジョンのラスボス的存在だと思っていたけど、まさかの神!


《嘘だろ!!》


《あの…デモンではないとは思っておりました》

《はい》


シャーミリアとカララが念話で伝えて来る。


《じゃあ、他に捕らえ方とかなかった?》


《も、申し訳ございません!》

《その…傷をつけてはいけないと思いまして…》


二人が焦っている。それも珍しい。どうしたらいい物か…俺達はアトム神を怒らせてしまったようだ。


「あのう…すみませんでした!」


俺はアトム神に向かってジャンピング土下座をかます!


「な、なんじゃ!なんなんじゃ!」


アトム神がおもいきり後ずさる。


「アトム神様だとは存じ上げませんでした!私達もきちんと名乗ればよかったのですが、あまりにも大きな声でお叫びでしたのであのような事を!」


「ふん!なんじゃ!ぐるぐるまきにしおって!わしゃなにか?罪人か?」


「いえいえ!そんな風には全く思っておりませんでした!」


「はあ?なんであんなにグルグル巻きにされなければいけないのじゃ!」


「ごもっともです」


やはり怒り心頭のようだ。いきなりつるし上げられて連れて来られたのだ、神様の尊厳も威厳も無い。怒って当然だと思う。


「あのうアトム神様?」


メリュージュが声をかける。


「なんでしょう先生」


俺達に対する態度とは全く違う。どうやらメリュージュさんの事は尊敬しているらしい。


「私の息子は龍神だとお伝えしましたよね?」


「はい!龍神は昔から仲がいいもので、うまくやっていました!」


「そしてその友達には精霊神様もいると申しました」


「精霊神も心根の良いやつで、よく一緒に盃をかわしたものです」


「また虹蛇様も一緒なのです」


「えーっと、あ奴はいたずらが過ぎる!まあ憎めないのですがね」


「それで…魔神様なのですが」


「えっ!あ奴は好かぬ!あれは本当に悪い奴じゃし、昔から揉めてばかりです!今どこにいるのやら!顔も合わせたくないです」


「…そ、そうですか…」


メリュージュさん…フォロー失敗!


《困った!そう言えば魔神とアトム神って仲が悪いって聞いてたな》


《ご主人様。どうしたものでしょう?》


《どうしたもこうしたも、どうにかするしかないよな》


《はい》


《とにかく謝ろうかな》


《私奴たちも!》

《ご一緒に!》

《私も!》

《俺も!》


《みんなで土下座すれば何とかなるか…》


俺達が一斉に土下座をしようとした時だった。


「ん?そこの者?どこからきた?」


「私ですか?」


アトム神はカトリーヌを指さしていた。


「そうじゃ…おぬし美しいのう」


「いえいえ、そんな事は…」


「んー、ユークリットの女神に似ておるようじゃが」


「あ、はい。私の叔母にあたります」


「おー!そうかそうか!」


「あの…おばさまを知っているのですか?もしかしたら何か繋がりがあるとか?」


「ない」


ガクッ!なんか知り合いみたいな雰囲気だったじゃん!


「ではなぜ?」


「ユークリットの女神が来たか、その娘が来たと思うたのよ」


「?」


カトリーヌはアトム神の真意がつかめず言葉を失う。


「あらあら!アトム神様はユークリットの女神を知っているのかしら?」


「はい、先生!もちろん縁があるのです」


「ユークリットの女神なら私の友達ですわ」


「なんですって?それならそうと早く教えて下されば!」


「まさかアトム神様が何か関係があるとは思わなかったものですから」


「じゃが、ここにその姪が来たとなるとやはり絆なのです」


「そうですか」


うーん、いまいちアトム神が言っている事が読めない。しかし前の虹蛇が言っていたように何かの縁があって呼ばれている。あの重なり具合は絶対に偶然じゃない。必然的に俺はここに来ているのだ。カトリーヌを見てアトム神が反応したとあれば絶対になにかある。


「えっと…」


「おぬしはだまっとれ!」


「はい!」


俺は土下座の姿勢がくずせない。


「あの、アトム神様?そこにひれ伏している男の子は、ユークリットの女神の息子ですわ」


「なんじゃと!」


アトム神が俺をじっと見る。なんだろう!なにかいけない事をしたような気分だ!


「す、すみません」


「なぜそれを早く言わん!頭をあげておくれ!」


「はい!すみません」


俺が頭をあげると、アトム神が近寄って来て俺の手を取った。


「わざわざ会いに来てくれたのだろう!」


「そうです!」


とりあえず必然的に来ているのだから、恐らくは間違っていない。


「よく来てくれた!」


「はっ!はい!ありがとうございます!」


「それで、母か妹は連れてこなんだか?」


「今回は私と姪のカトリーヌが!」


「そう言う事か。よくぞこの龍の巣を降りて来られたものじゃな」


「それは皆で力を合わせて頑張りましたから!」


「頑張って来れるものと、そうではないものがあると思うが…とにかくいいじゃろ!」


「は、はい!」


どうやらアトム神は俺の事を信じてくれたようだった。


「恐れながら!アトム神様!」


今度はモーリス先生が頭を地面につけて言う。


「ん?なんじゃ?おまえは賢者か?」


「俗世間ではそのようにいう者もおりますが、我などまだまだひよっこですじゃ!」


「ふむ。それでなんじゃ?」


「一つお伺いしたいことが御座います」


「ふむ」


「あそこに浮かぶ魔石についてなのですが、あれはアトム神様のお御業とお見受けします」


「おお、そうじゃ」


「あれはいったいどういうものなのでございましょう?」


「ん?おぬしらの魔法使いも使うのであろう?結界とか呼んでおるのじゃないか?」


「結界?あれが?」


「ふむ。じゃが人間の張れる結界とはちがうぞ、あれならデモンでも龍でも壊せるものなどおらぬ。絶対結界とでも言えばいいのじゃろうか?魔王でもむりじゃぞ!」


ルゼミアでも?どうやらあれは絶対に壊せない結界らしい。一つの謎が解けた。


「なぜあの結界はここに?」


「おお。なぜか人間がこんな危ない地に来おったのでな、入り口を超えたらすぐにあの結界に閉じ込めて身を守ってやったのじゃ。それでも後を絶たず訪れるので、洞窟の入り口に結界を張っておったのじゃがな…あれ?おぬしらよくあの結界を破ってきおったな?」


「僭越ながら私が一瞬だけ解除を…」


「ほう!凄いのう!おぬしは大賢者と呼ばれる者では無いのか!?」


「そう呼ぶ者も多少おりますが、まだまだ未熟ものです」


「いやいや、人間には破れんと思ったがすさまじいのう」


「ははっ」


モーリス先生が俺とチラリと見るが、触れてくれるな!の合図で首をフルフルと振る。


「大賢者の力をみくびっとったわ!100層までおりてこれたのは大賢者の御業ということかの!やはり我の子はすばらしい成長を遂げておったのじゃな!」


どうやらアトム神はすっごくテンションが上がっている。人間は全てアトム神の子供なので、その人間がこの100層まで来た事がうれしいようだ。


「実は、マナウの街で幼い姉妹から親を救ってほしいと言われたのですじゃ。出来ましたらあの結界を解除いただけますればと思います」


「そうじゃな!せっかく迎えに来たのじゃものな!」


そしてアトム神は空中で回っている巨大な、魔石の真下に向かって行き手を上にあげた。


「きーえろっ!」


《ええっ!そんな呪文あんの?》


「何と‥‥」

「うふふ」


モーリス先生は度肝を抜かれ、メリュージュさんがほほえましく笑っている。


魔石が一瞬にして消えたら、中には6人くらいの人が浮かんでいた。その人たちがフワリフワリと床に下りて来る。そっと床に眠るように横たわる。


「起きよ!」


アトム神が言うと、6人の人間達はムクリと起きあがった。


《起きた!》


「ここは…」

「あれ?」

「生きてる…」

「なんで?」

「あ…」

「あなた方は?」


人間達が俺達を見て不思議そうな顔をしていた。そしてぐるりと見渡し…巨大な黒龍を目にしてしまう。


「うわぁぁぁっぁぁあ」

「りゅ龍だぁぁぁぁあ!」

「に、逃げなきゃ!」

「ま、待って…腰が…」

「あわわわわ」

パタっ


全員がパニックを起こして腰を抜かした者もいた。一人は気絶してしまったらしかった。


「慌てるでない!先生は人間などになにもせんわ!」


アトム神が言うと皆がシンとする。


「アグラニ迷宮に女の子?」


「えーっと!皆さん!皆さんの中にライードさんという方はいますか!」


俺が事態を収拾すべく声を出す。


「はい!俺です」


「あー!よかった!ルセナとルーチカに言われて助けに来ました!」


「助け?助かったのか?娘たちが?」


「はい!」


「ここはあの世ではないのですか?」


「違います。アグラニ迷宮の99層です」


「きゅっ…99層ですと?」


「はい」


「そんなにあったのか…」


「とにかく、マナウに連れて帰るように言われていますので、私達と一緒に帰っていただけますか?」


「も!もちろんです!」

「たすかった…」

「助かったのか!」

「やった!」

「やったぁぁぁぁ!」

「……」


一人はまだ気絶している。


「そしてこの龍は人間の味方の龍です!」


「ま、まさか!こちら様は!」


「なんです?」


「龍神様ですか?」


「いえ、龍神様の母ぎみです」


俺がそう言うと、5人が一気に跪きメリュージュさんに対して頭を深く下げる。一人は気絶しっぱなしだ。


「龍神様の母君!この国をお救いに来てくださったのですか?」


「えーっと、まあそんなところですわ」


「ありがとうございます!」


どうやらリュート王国の冒険者たちは、龍を神として敬っているようだ。どうやらこの国が信仰しているのは…龍神らしい。こんなことならオージェをこっちに回せばよかったと思うのだった。


そして思い出した。


アトム神は…座敷童に似ている。

次話:第526話 人神と黒龍の意向

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― 新着の感想 ―
[一言] アトム神から漂うウザ面倒臭い気配…… しかも、発言からして、ここまで事態が厄介なことになってる元凶の一角っぽいんだよなぁ。 これって、関わったら面倒に巻き込まれ、関わろうとしなくても強引に巻…
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