第524話 災害級モンスター
90層より深い層の魔物はそれはそれは強くて大変だった。1層ごとにボスキャラのような奴が待ち構えていて、1層下るのに半日ずつ時間をとられた。90層の亀竜を倒してから5日後にようやく98層にたどり着く。俺の兵器と魔人が居なければ絶対に不可能なダンジョンだ。
「ふぉっふぉっふぉっ!ラウルよよくここまで降りて来たものじゃわい!」
「ええ先生!98層ですよ!こんなに深いなんて夢にも思いませんでした」
「まったくじゃ、古来より人間はただ入り口で遊んでおったにすぎんの」
「これ、普通の人間には絶対無理ですよね?本当に29層が限界だったんだなーって思います」
「うむ」
そして俺達は99層に降りるための準備を整えて、通路の入り口に集まっていたのだった。
「それではドローンを飛ばします」
「そうじゃのう」
俺達は専用ディスプレイを見ながら、コントローラーを使ってブラックホーネットナノを99層に送ってやる。赤外線ではっきりと映し出されていた。
「あれ?」
「ふむ」
「あれは…」
「こんなところに…」
ブラックホーネットから送られる映像は、専用ディスプレイに不思議なものを映し出していた。大きく空中で回り続ける大きな光物体。
「魔石じゃのう」
「聖都の地下にあった物と全く同じように見えます」
「じゃな」
俺達が見ているディスプレイには巨大な魔石が映し出されていたのだった。
「他には動く者がいないようですが…」
「では私奴とファントム、カララにて確認してまいりましょう」
「頼む」
あまりに危険すぎる為、90層から下の先行調査はこの3人に任せていた。お互いがお互いを補い合いここまでは上手くいっていた。3人は下に続く通路を下って行く。
「ラウル様。もしかするとまたニホンジンでしょうか?」
「まだわからないよマリア。こんなところに召喚されるなんておかしいと思うし、俺は違うと思うんだが」
「はい」
《ご主人様》
《シャーミリア、どうだ?》
《いっさいの魔物がおりません。あるのはこの巨大な魔石だけです》
《分かったすぐに行く》
俺達は96式装輪装甲車を99層に向けて進めるのだった。
「確かに魔石じゃな」
「まったく同じに見えます」
99層にたどり着くと、あたりは魔石に照らされて青く輝いていた。洞窟内に生えているクリスタルがキラキラと光り輝き、幻想的な風景となっている。
「なぜこのような場所にあるのじゃ…」
「なぜでしょう?」
魔石に近づくと聖都とは違う事に気が付いた。
「魔石粒が落ちていません」
「まことじゃな。どうやらあれは泣いておらんという事じゃな」
「ということになりますね」
俺とモーリス先生が見る魔石の下には一つも魔石粒が落ちておらず、巨大魔石はただゆっくりと回り続けているだけだった。
「ラウル様」
「どうしたカララ」
「やはり中に人が居るようです」
「これもか?」
「はい」
カララが糸でその魔石を調べてみたが聖都の魔石と同じだった。人が内包されているらしく、大きさもほぼ聖都の地下で見た魔石と変わらない。
「まさか俺と似た雰囲気とか言わないよな?」
「いえ、そうではないですが」
「なんだ?」
「数人います」
「えっ!?」
「なんじゃと?」
俺とモーリス先生が驚く。これは聖都の魔石とは大きく違う点だ、複数の人間が内包されているらしい。
「そんな事もあるんだ…」
「ラウル。どうするかのう?」
「ええ、これは我々ではどうする事もできないですね。先に進むしかなさそうですが、こんなものがあるとなると、ここが終着地点という事も考えられます」
「ふむ」
「周りにも地下に進む入り口が見当たらないようですし」
「ここが最終地点なのかのう…」
「どうなんでしょう…そして中の人間は何者なんでしょう?」
「わからぬ」
「あの」
「どうしたカティ」
「もしかしたら…あの子達のお父さんという事は考えられませんか?」
「こんなところまで、人間がたどり着けるわけがないと思うが…」
「まあ…確かにそうですね…」
俺達が魔石についてあーでもないこーでもないと、話し合っている時だった。
カタン!
どこからか石が倒れるような音がした。
「魔物か!」
ジャキン!
全員が音のする方へと銃を向ける。そちらには岩が積み上げられたような場所があった。しかしそれ以上音がすることは無かった。
「ラウル様、あの向こうは空洞です。どうやら先に進む通路があるようです」
「まだ下層があったか」
「いかがなさいますか?」
「あの岩をどけるしかないだろう」
「あの大量の岩をどけるとなるとかなりの手間じゃのう!」
「それは大丈夫です」
俺は目の前に手をかざして召喚ポーズをとる。
「よ!」
ドン ドン!
俺の前には2台の車両が出て来た。
「これで瓦礫を撤去する事が可能です」
その2台は自衛隊の75式ドーザだった。民間の中型ドーザに装甲を取り付けた、防御力も高いブルドーザだ。
「ほう!面白いのう!」
「ぜひ乗ってみましょう!」
「ふむふむ!」
「マリヤとキリヤ君も相談しながら、動かしてみてくれ!そう難しいもんでもないと思う」
「わかりました」
「はい!」
「ファントムは手作業で岩をどけろ!」
「……」
俺達は75式ドーザに乗り込んで、瓦礫の撤去作業を行った。少しくらい崩れて来ても装甲が守ってくれるため、安全に岩を除去する事が出来た。崩した岩をファントムがポイポイと投げていく。
「凄い物じゃのう」
モーリス先生が運転席の隣でしきりに言っている。巨人のスプリガン並みのパワーを発揮するドーザに感心しきりだった。しかし撤去作業は思いの外時間がかかり、3時間を要してようやく人が通れる通路が確保できた。
「空いたのう」
「はい」
「では私奴とファントム、カララにて内部を探ってまいります」
「頼むシャーミリア」
3人がその開いた隙間から入り込んでいく。俺はドーザを降りてヴァルキリーを再装着し地下への潜入に備えた。100層というキリの良い層なのでどんな魔物が潜んでいるか分からない、俺達は緊張しながら待ち構えていた。万が一のためモーリス先生とマリア、カトリーヌ、キリヤを96式装輪装甲車の中に待機させ、ゴーグとルフラと俺が車両を警護する形をとる。
《ご主人様》
《どうした!何かいたか?》
《はい》
《すぐに戻ってこい!》
《それが…》
《どうした?》
《100層に居た者を捕えました》
《捕えた?魔物をか?》
《いえ。魔物ではございません》
《魔物じゃない?》
《とにかく連れて行きます》
《わかった》
「先生!シャーミリア達が何かを捕まえたようです!」
「なんじゃと?」
「連れてくるようです」
「わかったのじゃ」
俺達が外に集まってシャーミリア達が上がってくるのを待つ。しばらく待っていると、瓦礫の穴からシャーミリアが現れカララが後に続く。
そして…
「はなせぇぇぇぇぇ!!こらぁぁぁぁ!!!」
誰かが宙に浮いて叫んでいる。どうやらカララが糸でスマキにしてつれてきたようだ。一番最後にファントムが黙ってついて来る。
「えっ!」
「ふぉっ?」
「なん?」
「どうして?」
「あれは?」
俺、先生、カトリーヌ、マリア、キリヤが素っ頓狂な声をあげた。俺達の目の前にぶら下げられているのは…女の子だった。女の子がギャーギャー騒いで足をバタバタさせていた。
「なに?あれ?」
「はい。100層に逃げていくところを捕らえました」
シャーミリアが言う。
「女の子がいたの?」
「はい」
「こんなところに?」
「はい」
俺達が再び女の子を見上げると、まだギャーギャー言っている。
「あたしが何をしたっていうんだ!ただ居ただけなのになんで捕まえるんだ!ばかもの!離せ!離せぇぇぇぇぇぇ!!」
「何というか地味な感じの子ですね」
「ふむ」
「地味?地味ってなんだぁぁぁぁ!これでもおしゃれに気を使っているのだぁぁぁぁ」
「えっ?うそ?」
「うそってなんだぁぁぁぁ!」
「えっと!君!落ち着いてくれ!話は出来るか?」
「はなしなどできるかああ!おろかものおぉぉ!」
「愚かって…」
「おろかものじゃぁぁぁぁ!」
「とにかく話を聞いてくれ!」
「ウルサイ!なんじゃお前は!デモンか?デモンの手先なのか?」
ん?デモンの手先?
俺とモーリス先生が顔を見合わせる。女の子は何かを恐れて騒いでいるらしい。
「違いますよ!俺達は冒険者で人探しに来ただけなんです!」
「うそこけー!こんなところまで降りて来れる冒険者など、いるわけなかろおおおお!!」
「いえいえ!マナウの街で頼まれたんです」
「どんな強い人間でも!こんな場所まで降りて来れるわけなどないわぁ!ぜっっっっっったいデモンだ!」
どうしたものか…まったく信用してくれないし落ち着かない。
「とにかく静かに!」
「うるさぁぁぁぁい!おまえに指図させる覚えはなぁぁぁぁい!先生!せんせーい!センセ―い!出番です!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
なんか地響きがしてきた。
「ご主人様!何かとてつもない物が下から上がってまいります!」
「なに!」
「防ぎきれるか分かりません!すぐに非難を!」
魔人達がピリピリしだした。その様子からただ事でない事がわかる。
「わかった!キリヤ君96式でみんなを連れて上の層に上がってくれ!」
「は、はい!」
「ラウル様!はやく!」
カララもめっちゃ焦ってる!ゴーグがうなりをあげて狼形態となり全身の毛を逆立てていた。ルフラは急いで96式を覆うようにかぶさる。魔人達の様子から見てもとんでもない物が100層から上がってくるようだ。
「はやく!」
全員が車に乗ったか乗らないかのタイミングだった。
バッッッガーーン
数十メートルも積み上げてあった岩の山が思いっきり弾き飛ばされて、洞窟の下層に向かう入り口の全容が見えた。
「くっ!」
「先生!ほら!みたか!先生が来たからにはお前たちは全員滅ぼされるのだぞ!やーい!やーい!終わりだ終わりだー!!!ばーかばーか!先生!おねがいします!」
女の子が滅茶苦茶勝ち誇ったように言う。俺達は全員が重火器を入口へと向けていた。
土煙が晴れて中から現れた者の姿がはっきりしていく。
「あら?」
その土ぼこりの中から出て来た巨大な影がいきなり声を出した。しかもなんかすっごく優しくて聞き覚えのある声を。
「ラウル君じゃないのー!」
「これはどうも!ご無沙汰しております!いろいろとお手数をおかけしているようで」
俺が答える。
「えっ!えっ!」
女の子が俺とその巨大な影を見比べながら泣きそうな声をあげた。
「うちの子は来てないのね?」
「他の作戦にあたっておりまして、凄く助かっております!彼がいるから僕はここに来れましたので」
「これは恩師様」
「息災なようですな」
「若奥様も」
「いやですわ…若奥様だなんて」
カトリーヌがめっちゃ頬を染めて恥ずかしがる。
100層から上がって来た巨大な影は、オージェのお母さんメリュージュさんだった。俺は久しぶりに会った親友のお母さんの姿を見てホッと胸をなでおろすのだった。
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