第522話 罠に落ちたシャーミリア
俺達はアグラニ迷宮の90層に進もうとしている。いったいどれほどの深さがあるのか見当もつかないが、これまでは魔物の素材以外に得たものは何もなかった。
「とりあえずみんなが無事で良かったです」
「そうじゃな」
89層の電気蛇を討伐してから一呼吸置いていた。89層はシャーミリアとファントムがいたから突破出来たと言っても良い。また30層にカオスドラゴンがいて60層に地竜がいた、という事は90層にも何か大物がいるだろうと考えている。
「次で90層です」
「ふむ。これまでの経緯からすれば何かおるじゃろうな」
「はい」
「何がおるかの?」
「竜種ではないでしょうか?」
「かもしれんのう」
次の層もかなり危険な事は間違いないだろう。もっと強い竜種がいた場合にどうやって対応するかが問題だ。
「正攻法ではいけない気がします」
「じゃな」
「ですが敵の情報も知りたいですね。刺激はしたくないところですが偵察しなければなりません」
「あの小さな映像を映し出すやつじゃな」
「はい。ドローンと言います」
「またドローンが壊される場合もあるじゃろう」
「そう思います。一瞬でも映ればいいのですが」
「そうじゃな、やってみてよかろう」
「はい」
俺は小型のドローン、ブラックホーネットナノ3を召喚した。大きさは17センチ33グラムの小型のヘリコプター型監視ドローンだ。赤外線暗視機能で問題なく視界は確保でき、迷宮内は風もないので安定して飛ぶだろう。
シュー
ブラックホーネットナノは俺の手を離れて飛んでいく。コントローラを握り専用ディスプレイを見ながら、90層へと降下させていく。
「いきなり壊される事はないみたいです」
90層に到着するがどうやら魔物は気が付かないようだ。
「何も動かんのう」
「何もいないように見えますね」
「そうじゃのう」
俺と先生の後ろに魔人達が並んで専用ディスプレイを覗いているが、特に気になるものは無さそうだった。
「ラウル様。糸で探ってみますか?」
「やめておこう。さっきの二の舞は避けたい」
「はい」
とはいえ何も情報が無いのでは、先に進むことが難しい。
《こういう時にエミルがいれば精霊に探りを入れてもらえるんだがな》
《我が主》
《なんだ?ヴァルキリー》
《我がまいりましょう》
《お前が?》
《万が一、魔導鎧が破壊されたところで我の魂は消えません》
《いやあ。魔導鎧が壊れたらこの先大変になるんだが》
それはそれで困る。死なないと言われたところで魔導鎧を失うわけにはいかない。
「ご主人様。私奴が見てまいります」
「ミリア、大丈夫か?」
「もちろん単独で攻撃は仕掛けません。ですが私奴の速さであれば、敵の攻撃を受ける前に戻って来れると思われます。ご主人様が視界の共有をかけてくだされば状況も伝わるかと」
確かに。
「とにかく、何かが居ても攻撃をしかけるな。何か動く者や異物を発見したらすぐに戻ってくるんだ」
「は!」
ドシュッ
シャーミリアが消えた。神速の速さで90階層に潜って行ったようだ。俺が操っているブラックホーネットナノのディスプレイに突然シャーミリアが現れた。
「キリヤ君、これを頼む」
俺はブラックホーネットナノのコントローラーをキリヤに渡した。
《共有をかける》
《は!》
シャーミリアの視界を借りると90階層が昼間のようにはっきりと見渡せた。しかしブラックホーネットナノ同様に90階層には何もいる気配が無い。だがシャーミリアの感覚では何かを捉えているようだった。
《何かおります》
《何がいる?》
《動かずにじっとしておりますが、数匹の魔物の気配と…おそらくは竜種》
《そこまでわかったら十分だ。戻ってこい》
《は!》
ズ、ズゥゥゥゥン
シャーミリアの返事が返って来た途端に地響きがした。
《ミリア!どうした!》
《入り口に大きな岩か鉄のような塊が落ちてきました。道が塞がれて通る事が出来ません》
《シャーミリアは!自分の身を護る事だけを考えてろ!すぐ行く!》
《私奴は大丈夫です》
《敵が何か分からないんだ!とにかく回避と防衛に徹しろ!》
《も、申し訳ございません!かしこまりました!》
俺は咄嗟にヴァルキリーを装着した。
「シャーミリアが90層に閉じ込められた!これから救出に行く!ファントム!カララ!ゴーグはついてこい!マリアは96式の操縦を頼む!先生と皆はそれに乗ってここで待機をしてください!ルフラは車両全体の保護が出来るか?」
「大丈夫です!」
「その上からわしが結界を張るぞい!」
「お願いします!」
「ラウル様!お気を付けて!」
「ああ大丈夫だカティ!」
そして俺はすぐさま90階層に降りていく。すると90階層の入り口は、シャーミリアの言うとおりに何かで塞がれていた。俺は黙ってRPGロケットランチャー2門、FIM-92 スティンガーミサイルを2門召喚した。ゴーグ、カララ、ファントムがそれを受け取り壁に向かって4人で撃ちこむ。
シュウウウーーー
ドゴン!
バフゥーー
爆風が一気に洞窟を駆けのぼって来た。
「どうだ?」
「空きません」
カララが答える。
《シャーミリア!》
《今、虫の魔物と交戦中ですが機銃が通りません》
《無理に追うな!敵の攻撃は?》
《液を飛ばして来ますが、そのようなものにあたる事はございません》
《何があるか分からん。避け続けるんだ!》
《は!》
しかし90層への入り口は何かで塞がれているようで、ロケットランチャーではびくともしなかった。どうするか…
「ファントム!最高速度で体当たりして見ろ!」
シュン
ファントムの巨体が消えるようにいなくなり、次の瞬間その入り口にある塊にぶつかっていた。
ガイン!
ギャアアアアオ
塊は大きくたわんだがやはり動く事は無かった。だが…今、間違いなく叫び声がした。
「ファントム戻れ!」
ファントムが戻ってくると、あの頑丈な腕が若干ひしゃげていた。音をたてながら見ているそばからあっという間に超回復をしていく。
「ファントムが破損とはね」
「ラウル様。あれは岩ではありませんね」
「ああカララ、あれは間違いなく岩じゃない」
「なんかたわみましたよね。明らかに岩じゃないと思います」
「そうだなゴーグ、しかもその外殻は岩よりも硬いようだ」
「どうします?」
「やる事は決まった」
ドスン!
俺は直ぐ決断し自衛隊の10式戦車を召喚した。
《ヴァルキリー外に出してくれ》
《はい我が主》
俺はヴァルキリーを抜け出して10式に乗り込んだ。そして操縦席に座り、その入り口をふさいでいるやつの所に戦車を進めていく。
キャラキャラキャラキャラ
俺は砲身をその壁のギリギリまで近づけていった。そして次に召喚したのは徹甲榴弾だった。この弾頭には火薬が入っており、対象物に突き刺さってから爆発を起こすという物だ。
ガパン!ガシャン!
俺は徹甲榴弾を装填して至近距離から壁に狙いを定める。10式の砲身が壁に向かって垂直に向くように設定した。
「よし」
カチッ
ドゴン!
バシュッ!
ボゴォ!
ギャアアアアアアアオオオオ
入り口をふさいでいたものは、部屋の奥へと向かって動きたまらず逃げ出した。
ガパン!ガシャン!
ドゴン!
俺はもう一発徹甲榴弾を撃ちこむ。
ギャアアアアアァアァァオオ
《シャーミリア!そっちはどうだ?》
《竜が見えます。まるで甲羅をかぶったような竜ですが逃げ出しました!》
《ああ、どうやら俺がそいつの尻に榴弾砲を撃ちこんだようだ》
《プッふふ!あ、失礼しました!ありがとうございます!》
《すぐ行く!》
俺が10式を操縦して90層に入って行くと、中ではシャーミリアが何かと戦っているのが見えた。そしてその下の奥でこちらを恨めしそうに睨んでいる超巨大な亀のような竜がいた。
《ファントム!カララ!ゴーグ!来てくれ!》
《《は!》》
《……》
俺は10式の砲身を亀の竜の方に向けた。
ズドン!
再び徹甲榴弾砲を撃つ。その亀の竜は甲羅の部分で砲弾を受けた。距離があるためかどうやら貫通は出来なかったようだ。
「硬いな」
俺は10式を出てみなと合流する。シャーミリアは未だに何かと戦っているようだった。
「ファントムはこれを武器にしろ!オージェもやっていたんだお前も出来ない事はない!」
そして俺はM777榴弾砲を再び召喚する。4トンもあるそれをファントムは軽々と担ぎ上げた。オージェが聖都でやっていたようにこれをロケットランチャーのように担いだのだった。
「ゴーグとカララはシャーミリアの援護に!」
M240中機関銃とバックパック、AT4ロケットランチャーをそれぞれに渡した。
二人が行くのを確認して、俺はすぐさまヴァルキリーを装着した
「よし!ファントム!俺が弾頭を装填するから、お前はその榴弾砲をあの亀に向けるんだ!」
俺とファントムが亀に向かって疾走する。しかし黙って近づけさせてくれるわけでは無かった。ブワアアアアアと何かを俺達に向かって吐き出した。
「なんだ?」
それが到達したが俺達には何も影響が無かった。
「我が主。あれは音波ですね」
「音波?」
「我にもそれ(ファントム)にも効きません」
「そうか」
どうやら亀は音波を吐き出して俺達に攻撃をしたようだが、ヴァルキリーもファントムもそれを受け付けないらしかった。難なく至近距離にたどり着いてファントムは榴弾砲を亀に向けた。俺は既に走りながらも徹甲榴弾を装填していたので、そのまま着火のワイヤーを引いた。
ズドン!
グッギャァァァァァァア
亀はたまらず、逃げ出した。
「効いてるぞ!」
すると亀の竜はたまらず足元をドカンと踏んだ。すると地鳴りと共に地面が揺れ、巨大な石が飛び散って俺達に襲い掛かる。ファントムはその石を振り払うように、M777を振り回した。
ガギガギン!
砲身が曲がり壊れてしまったようだ。
「捨てろ!」
ファントムがM777の残骸をやり投げのように亀に投げつける。M777の残骸は思いっきり亀にぶつかりひしゃげて地面に落ちた。
「ファントム!」
俺とファントムは走りながらまた新しいM777榴弾砲を準備した。しかし竜は俺達の攻撃を読んだのか、甲羅を俺達の方に向けるように体を回した。俺達が走り回っているとシャーミリアが俺の側に来る。そしてそのシャーミリアを追うように巨大なムカデが近づいて来た。
「これを使え!」
俺はシャーミリアに徹甲弾を装填したバレット M82対物ライフルを渡す。
「ありがとうございます!」
シャーミリアはそれを受け取って、迫りくるムカデの上を飛び背中に向けてライフルを連続で撃つ。
ドン!ドン!ドン!ドン!
プッシャァァァッァア
変な音を立ててムカデが暴れまわっている。どうやら硬い殻をライフルの徹甲弾が貫いたようだった。
パシャ
暴れるその体液がそのあたりにばら撒かれる。
シュウシュウシュウ
するとそのあたりの岩が溶けだしたのだった。
「酸だ!気をつけろ!」
「は!」
《ゴーグ!カララ!吐き出す液と体液に触れないようにしろ!》
《《は!》》
そして俺は指示を出して再び亀の竜に立ち向かっていくのだった。すると亀の竜は俺達に向けて口を開けて何かをしようとしていた。
「音波は喰らっても問題はない!」
俺とファントムがかまわず亀の竜に突撃していくと、何と亀の竜は何らかの液体を吐き出した。
「ファントム避けろ!」
俺とファントムがジャンプしてその液体を避ける。
「あれなんだ?」
得体のしれない液体が俺達の脇を抜けて地面に落ちるが、ムカデの酸のように溶けることなく何の効果があるのかが分からなかった。この洞窟に入ってからこんな戦いばかりだったが、ここは飛び切り難易度が高いようだ。
亀の竜の防御力とムカデの酸。ムカデは約10匹くらいいるようだった。不用意に殺せば酸の雨が降り注いでくる、俺達は瞬時に次の戦術を考え始めた。
次話:第523話 亀竜大爆発




