第52話 グラドラム潜入
今、俺達はどこにいるか?そう・・それは空だった。
俺も妊婦もメイドも幼女もオーガもみーんな空を飛んでる。初めてなので、はらはらする…
グリフォン5匹がなんと俺に懐いた、配下になったと言ってもいいだろう。グリフォンが俺たちに乗れと、ひれ伏して促すのでグリフォンの背に乗って全員で空を飛んでいるのだ。
動物の背に乗って飛ぶ。ロマンでしかない。
それはさておき…
処刑した兵士は言っていた。1000人のバルギウス兵がグラドラムの街にいるのだと。俺たちは話し合いの結果すでに逃げ場もないため、グラドラムに向かうことにした。行って状況を見極めねばならない。
「ギレザムがグラドラムを出た時、敵はいなかったって言ってたけどな。」
「ええギレザムも驚いていましたね。」
「とにかく敵の動きが動きが早いのはこれのおかげだったのか。」
俺とマリアが飛ぶグリフォンの背の上で話していた。
俺とマリア、ギレザムとイオナ、ガザムとミーシャ、ゴーグとミゼッタがそれぞれ乗って飛んでいるのだった。もう一匹は俺達の出した12.7㎜M2機関銃、マクミランTAC-50スナイパーライフル、M16自動小銃、マリアとミーシャのリュックサックと、巨大魔石をぶら下げて2本のレッドヴェノムバイパーの牙を積んで飛んでいた。一匹だけとても重そうに飛んでいる・・
「グラドラムまでもうちょっとらしいから、おまえも何とか頑張ってくれ!」
クォォォォォォ
うん。なんとか頑張れそうだ。
俺達はそれぞれ自衛隊の迷彩戦闘服に身を包んで、鉄のヘルメットをかぶりリュックを背負ったままグリフォンに乗っていた。
「確かにグリフォンは、はやいな。」
「はやいですね」
「これなら敵兵もバルギウスから数日でこれそうだ。」
「確かに。」
グリフォンの移動速度は速かった。屈み込まないとすこし息苦しくさえもある。上空は気温が低いため、皆に迷彩戦闘服を着させていてよかった。右手は地平線まで山脈が続いている。絶景とはこのことだな。
「マリア、山脈が凄いね。」
「こんなの初めてみました。」
マリアも初めてみる光景だと言う。そりゃそうだ飛行機も飛行船もないこの世界じゃ、見たことあるわけなかった。しかし俺も前世では、こんな風景見たことはない。
「少しは暗い気持ちがふっとぶな」
「ほんとうに…」
「マリア前を見ろ遠くに何かある。街?あれがグラドラムの首都か?」
なんか不思議な街のつくりだった。城壁じゃなさそうだ、あれは…崖?岩壁に囲まれている。街の周りに切り立った崖が立っているが、人の手で作られたものではなさそうだ。いや・・山を切り崩したのか?山をくりぬいてできたような窪みの中に街がある。
「街が見える」
「私にはまだ。」
マリアには見えないらしいので、俺はマリアに双眼鏡をわたす。
「岩に囲まれた街?」
「ああ不思議な地形になっているな・・あの中に入る前に、グリフォンを降りなきゃな。」
オーガ達とはグラドラムの手前にある森に降りる手筈を決めていた。
バサバサバサバサ。
グリフォンは俺の思念がわかるのか、降りたい所に降りてくれるようだ。5匹とも森の中に上手に着地して伏せをした。
・・指示もしていないのに不思議だ。俺の思念か?・・
とりあえず俺たちはグリフォンを降りて集まった。
「ギレザム。これからどうしたらいいかな?」
「はい、まずは偵察が必要かと思われますが?」
「わかった。」
「では、私が潜入してきます。」
ガザムが自分が行くと言うので、俺は作戦を練らなきゃいけないと思うが、グラドラムの現状がわからない以上具体案が浮かばない。とにかく夜になってから行動しようと伝える。
「それならば夜間になってからのほうが良いだろう。」
「わかりました。」
まてよ・・夜間の森の中で待機する事になるのか・・?
「ギレザム、俺たちはどこで待機するべきかな?」
「このまま夜までここにいるのは、皆さんにはかなり危険です。夜間に動くのであれば、あの岩の上部に待機できるところがありますのでそこに移動しましょう。」
ギレザムがグラドラムの街を囲む絶壁の上に、人が居れる場所があるという。さすが地元民!地の利が分かっているようだった。
「わかった。」
「陽が落ちたらグリフォンに乗って上がるといいと思います。」
「ならば陽が落ちるまでここで待機しよう。」
「はい。」
早速、その場に軍用テントを召喚してみんなで組み立てる。このテントは置いて行く予定だ、すでにテントは使い捨て状態になりつつある。30日ルールがあるので環境破壊にはなるまい。
「まずはここで待機だ」
オーガと俺は背負っているリュックをいったん降ろし、全員でテントに入るよう話した。しかしギレザムとゴーグは番兵として立つようだ。
「じゃあ我々が護衛にたちます。時間までゆっくりとされてください。」
「この森はちょっと危ないので俺たちがみてます。」
ふたりで護衛に立つという。やはりこのあたりの森は危険な魔獣などがいるのだろう。
「じゃあガザムちょっと話がある入れ。」
「はい、わかりました。」
イオナとマリア、ミーシャ、ミゼッタがテントにはいる。後ろについて、ガザムも一緒にテントの中に入る。俺は潜入するガザムに話し始める。
「ガザム、潜入するにあたって持っていってほしいものがあるんだが。」
「は!」
「これをつけて行ってくれ」
データベースがバージョンアップしたことで、呼び出せる武器が格段にアップした。俺が知っている以上のデータが流れ込んでいたからだ。俺はENVG-B(エンハンスドナイトビジョンゴーグルベノキュラー)暗視スコープとAN/PRC-77軍用トランシーバーを召喚した。このENVG-B(エンハンスドナイトビジョンゴーグルベノキュラー)は画期的な武器だった。俺はこれらの使い方をガザムに説明していく。
「これは夜でも敵が見える。気配を察知することができるとは思うが、夜間戦闘はがぜん楽になるはずだ。」
俺はENVG-Bのアウトラインモードを説明した。アウトラインモードとは暗闇でも人や対象物の輪郭が光源で浮かび上がりまるでゲームの画面のように映るのだ。
「はい。」
そして次にスコープが邪魔になった時の説明をする。
「邪魔な時はこうやって上にあげれるんだ。」
ENVG-Bのスコープを上にあげて見せる。そして次にAN/PRC-77軍用トランシーバーの使い方を説明した。
「どうだ?使えそうか?」
「はい、覚えました。」
「やってみせろ。」
するとガザムは間違いなく操作をして見せた。
「よし。これは遠くに離れた俺達と話ができる。あとはお前の隠密の能力で闇にひそめば問題ないだろう。」
「おまかせください。」
陸自の迷彩服に暗視スコープをつけポケットに軍用トランシーバーを突っ込んだ、見た目がサバゲーマーになったオーガがそこにいた。俺は・・・・だんだん楽しくなっちゃって・・
「ガザム!ギレザムと代わってくれ」
「はい」
ガザムの代わりにギレザムが入ってきた。
ガザムの時と同じようにENVG-BとAN/PRC-77軍用トランシーバーを召喚し使い方を説明した。
「ギレザム!ゴーグと代わってくれ」
ギレザムの代わりにゴーグが入ってきた。
ゴーグにも同じような装備をつける。さらに自分にも同じ装備を召喚し、マリアにも同じものをつけさせた。俺とマリアとギレザム、ガザムとゴーグ・・5人のサバゲ―チームができあがりそうだ・・言っておくが悪ふざけではない!断じてない。これからの作戦できっと役に立つと思ったのだ。
だってかっこいいし。
自動小銃も持たせたかったが、使い慣れないのでやめておく。自衛官オーガの腰には剣や短剣がぶら下がっている…
日が暮れて夜になった。ひとまず全員でグリフォンに乗り込み夜の空に舞い上がった。
「マリア、おあつらえ向きに曇り空で真っ暗だな。敵は暗くて俺達を確認する事は出来ないだろうな。」
「そうですね。しかしこのスコープというのは面白いですね。暗いのに他のグリフォンと乗っている人が光ではっきり見えます。」
「オーガの3人もENVG-Bをつけているからよく見えているはずだよ。まあ彼らには必要ないのかもしれないけど、黙って使ってくれているみたいだし」
「そうですね」
他のメンバーやグリフォンが光で縁取りされてはっきりみえる。俺も初めて使ったのだが、これはかなりの優れものだ。
俺達は岩壁の上まで一気に飛んだ、街を囲んでいる岩壁の上にグリフォンを降ろす。ギレザムの言った通り岩壁の上に平らな踊り場のようになっている部分があり、グリフォンが5匹降りても余裕があった。そこはまるで展望台のようだった。
「ギレザム、この場所を他に知っている者は?」
「いいえ、我だけです。」
「そうですね私も知りませんでした。」
「俺も初めてです」
ガザムとゴーグも知らないようだった。ギレザムの秘密の場所って感じだったのね。
「ここに拠点をつくる。」
その平坦な部分に俺は一時的な拠点を作ることにした。小型のテントを召喚する。真っ暗闇で作業が出来ないため、暗視スコープをつけた俺とマリア、オーガ3人衆でテントを組み立てる。4人くらいが入れる迷彩柄のテントだ。
「母さんはテントに入っていてもらえるかい?」
「ええわかったわ。」
イオナをテントの中に押し込んで一旦崖のほうに集まる。
「街はどうなっているか。」
俺とマリア、オーガ3人が崖の淵に近づいて腹ばいになる。街中が一望できるのだが・・街の様子が変だった。灯りが街の奥の1ヵ所に集中している・・あとは真っ暗だった。
「よく見えないな・・」
俺はをFWS-I(ファミリーオブウエポンサイトインディビジュアル)を召喚する。これは暗視用の望遠鏡だ、これで暗がりが見える。
「ん?これは・・なんだ?ギレザム見てくれ。」
ギレザムにFWS-Iを渡す。
「これは・・街の人間が最奥の東側の広場に集められていますね・・兵士がそのまわりに・・50人程度・・1000人もいません。」
「どういうことだ?あの兵士は1000人いると言っていたが・・」
「あの灯りの部分に集まった住人を兵士が包囲しているようですが、ガルドジン様や仲間たちもいませんね・・」
うーん・・なんか臭うな。どういうことだ?
「ガルドジンはこの街では偉い人なの?」
「いえ、ここを統治しているのは人間です。グラドラムの王はポール・ディッキンソンといいます。」
「ガルドジンは?」
「我々は魔族からはじき飛ばされて、まあ・・いわば人間の街の用心棒でしょうかね?祭りごとの警備とかそういった事です。いま・・ガルドジン様はどこにいるのか・・」
え・・・そうなのか?俺はてっきり父さんはグラドラムの偉い人なのかと思ってた。期待していたのになんか違ったらしい・・
「そうか・・わかった。とにかく街を探らないとな・・まずはここの拠点を武装化する。」
武器を積んだグリフォンから荷物を全部降ろす。12.7㎜M2機関銃を設置し、マクミラン TAC-50スナイパーライフルを2丁置く。スナイパーライフル用ナイトショット(暗視照準器)を取り付けて夜間攻撃用に変更しておく。マリアにはそろそろ期限切れの拳銃に変わりP320サイレンサー付きとベレッタ92サイレンサー付き、フルのマガジンを新たに召喚して3本ずつ渡す。古いものは捨てる予定だどうせ30日で消えるので環境破壊にはならない。
「マリア、専用ベルトも渡しておくから装着しておいてくれ。」
イオナとミーシャには護身用に、サイレンサー付きVP9を1丁ずつ召喚して渡した。
「おそらくここまで敵があがってくる事はないと思うが、念のため装備をかためておく。万が一攻められる時の為に12.7㎜機関銃はミーシャが扱うようにしてくれ。ミゼッタはこの暗視スコープで周りをよく見ていてほしい。」
12.7㎜M2機関銃にはFWSナイトビジョンを取り付けた。ミーシャにもENVG-Bをかぶせて夜間射撃ができるようにする。FWSとENVG-Bは無線で視界を繋ぐことができるため、もし敵が来ても先に確認することができるだろう。ミゼッタにもFWS-Iを渡しておく。
「わかりました。」
「わかった。」
「母さんはテントから出ないように。」
「ええ。そうします。」
イオナのお腹はもうだいぶ大きく目立つようになっていて動きは鈍い。とにかくテントの中でじっとしてもらうしかない。
「マリアには拳銃の他に、これを持っていてほしい。」
俺はAKM-47自動小銃を渡す。世界で一番使われている戦闘用の銃としてギネス記録されている銃だ。7.62x39mm弾は破壊力もあり殺傷能力も高い。これにマリアの射撃能力が加われば鬼に金棒だ。
拠点の強化を終え、俺はオーガ達と話をする。
「ギレザム、ここには人はあがってこれるか?」
「人間ならばかなり難しいと思います。夜であればブラッディバットという血を吸う魔獣が飛びます。」
ギレザムが普通に魔獣が飛ぶとか言う・・
「ん?ならここは危険なんじゃないのか?」
「グリフォンがいますので大丈夫です。グリフォンはブラッディバットも食べます。ブラッディバットから近寄る事はありません。」
グリフォンって肉食だったのね。俺食べられなくてよかったわ・・あたまガシガシ噛まれてたもんね。
「で、オーガの3人には必要ないのかもしれないんだけど、これを渡しておく。」
サイレンサー付きVP9を3丁とベルトとホルスターを召喚して着けさせる。
「銃の打ち方は簡単だ安全装置ははずしてあるから、相手に向けて引き金をひくだけ。だけどお前たちの剣や短剣のほうが使い慣れているだろうから、そちらメインで戦ってくれていい。」
3人は俺に言われるがままにベルトをつけて銃を装着した。
「じゃあ・・ガザム頼む。」
「では私が潜入してきます。これで連絡すればよろしいですね。」
ガザムは俺が渡した通信装置を胸に入れ手を当てて言う。
「ああ頼む。」
次の瞬間、ガザムは何のためらいもなくいきなり崖から飛び降りた。
「えっ!!」
崖から下を見下ろしたがガザムはもういなかった。こんなところから飛び降りて・・大丈夫・・・なんだろうねたぶん。
「しかし、オーガ・・すごいな・・」
俺は改めてオーガの凄さを感じた。
ガザムから連絡が来たのはすぐだった。
「ラウル様、聞こえますか?」
「どうした?」
「兵が街のあちこちに武器をもって潜伏しています。おそらくは我々に対しての罠をはっているようです。ラウル様の出したスコープやらでハッキリとみえます。」
やはり・・罠だったようだ。
次話:第53話 大量暗殺ルーティン