第516話 マナウ大渓谷
アグラニ大迷宮に侵入する部隊と、アスモデウスがあらかじめ確認していた都市及び無人だった王都を調査する部隊に分かれる事とした。
アグラニ部隊 9名
俺、シャーミリア、ファントム、モーリス先生、ゴーグ、マリア、カララ、カトリーヌ、ルフラ、キリヤ、おまけにヴァルキリー。シャーミリアはそのまま俺の護衛、まあヴァルキリーは俺の装備なのでカウントしない。カトリーヌとルフラもセットなので実質9名。ゴーグはモーリス先生のお気に入りなのでセット、防衛力強化のためにファントムとカララがいる。
都市調査部隊 9名
ギレザム、ガザム、ラーズ、アナミス、ルピア、マキーナ、ティラ、タピ、泥棒髭の9名で、泥棒髭は俺とギレザム部隊の共有用だ。恐らく迷宮内では飛ぶ能力は使えないだろうと判断し、航空戦力であるアナミスとルピアとマキーナをこちらに回した。ギレザムが恐ろしく強くなったので、引き続き部隊の司令官を任せる。ガザムの隠密行動にティラとタピがついていけるという事でセット、ラーズは防衛力強化のためにモーリス先生の護衛を離れこちらに配属する。
既に部隊は動いておりギレザム隊は、リュート国内の都市の状況確認をするため96式装輪装甲車に乗って王都のある北方に向かった。
俺達の車両は東へと向かい既にマナウ渓谷に入っていた。しかし冒険者のドバから聞いたような状況にはなっていなかった。もちろんそれには理由がある。
《それで入り口は見つかったか?》
俺はアスモデウスと念話していた。
《はい、君主様!ですが…》
《なんだ?》
《結界が張られており私は近づけないようです》
《破れないか?》
《恐らくは聖魔法かと》
《了解だ。とにかくお前がこのあたりの魔獣を間引きしてくれたおかげで進みが早い》
《お褒め頂き光栄の極みでございます。ですが迷宮には入れずに申し訳ございません》
《聖魔法じゃ仕方ない、これからモーリス先生とマリアとカトリーヌが行く》
《それならば私は害を及ぼすでしょうから、離れた場所に待機しております。邪魔な魔獣は間引きしておきましょう》
《そうしてくれ。お前のいる方向は系譜をたどって分かった、そっちにアグラニ迷宮の入り口があるんだな?》
《左様でございます》
《了解だ》
アスモデウスを先行してマナウ大渓谷に飛ばしていたので、ドバが多いと言っていた魔獣を間引きさせていたのだった。いちいち討伐しながら進んでいたのでは一週間もかかってしまう、とにかく新しい配下は便利な事極まりない。
「ご主人様。デモンが迷宮の入り口をみつけたようですね」
「ああ、一応アスモデウスって名前な」
「はい」
シャーミリアは何故かアスモデウスを名前で呼ばない。嫌いなのかな?
俺達の96式装輪装甲車は魔獣に遭遇することなく驀進する。渓谷といっても一応道のような物があり、車両でも問題なく進めていたのだった。
「情報では進めてあと2時間ってところだろうな。そこからは車両は入り込めないようだ」
「かしこまりました」
しかし副産物としてもう一つ助かる能力があった。それはキリヤが運転免許を持っていると言う事だった。そのおかげで普通に96式装輪装甲車を運転してくれている。わざわざ俺が手取足取り教える必要が無かったのだ。
それから2時間はかなりのスピードで走る事が出来ていたが、とうとう車両が入り込めないところまで来た。俺達は降りて渓谷を見渡す。
「ふぉっふぉっ!わしもひさびさじゃよ」
モーリス先生も何度か来た事があったそうだ。そう言えば過去にそんなことを聞いた事があった気がするが、今のマナウ大渓谷やアグラニ迷宮の事は知らないらしい。
「この先は歩きになりそうです」
「うむ。ここまでこんな早さで来た事などなかったわい。一匹も魔獣に会う事がなかったようじゃな。まさにラウルの車様様じゃ」
「魔獣はアスモデウスに間引くように指示をしておりました。おかげで車も順調にすすめたようです」
「とんでもない配下がいたもんじゃ」
「はい」
俺達の96式装輪装甲車を追うようにヴァルキリーが走ってついて来ていたが、既に俺のそばに立っている。
「そしてこの鎧もいったいどうなっているのかわからんのう」
「すみません。びっくり部下ばっかりで」
「そう驚かんようになったよ。わしゃゴーグちゃんと一緒ならなんでもええ」
「それはよかったです」
《先生は俺がまもります!》
《たのむぞ》
これからは徒歩で進むため、既にゴーグは狼形態になっていた。
「では先生とマリアはゴーグに乗ってください。ファントムはキリヤを運べ!」
「うむ」
「はい」
「う、うわぁぁぁ」
キリヤがファントムにかつがれて顔を真っ青にしていた。やっぱりファントムには慣れないらしい。
《ヴァルキリー装着だ》
《は、我が主》
ガパン
俺はバルキリーの後ろから入り込んだ。
「ではいくぞ!」
風切り音をあげながら俺達は渓谷を下に降り始めるのだった。どうやらアグラニ迷宮は谷底の奥にあるらしく、ここからは川に沿って登らなければならないのだ。車で進むために谷の上を走って来たが、一旦谷を降りなければならないのだった。
「凄い流れですね」
「ふむ」
谷底の川はゴウゴウと音を立てて流れており、この中に巻き込まれたら一気に下流に押し流されてしまいそうだ。先生が言うにはここにも魔獣がいるので、川には絶対に落ちないようにとの事だ。
「では」
そのまま俺達は上流に向かって川沿いを上り始める。足場はかなり悪く人間が進むのはかなり厄介だろうと思う。だが俺達魔人にかかれば何と言う事はない。シャーミリアやファントムやカララはもちろん、ルフラを纏ったカトリーヌも物ともせずに走ってついて来る。
「川幅が細くなってきました」
「うむ。まもなく岸壁にバカでかい穴がみえてくるじゃろ。そこがアグラニ迷宮の入り口じゃ」
「はい」
それから30分程度走ったところにそれはあった。バカでかい鍾乳洞の入り口のような場所が。
「ふぉっ!本当にマナウ都市から1日でついてしまいおった!」
モーリス先生が感動している。
「で…でっか」
「ほんとうですね」
「神秘的です」
先生の感動をよそに、俺、マリア、カトリーヌの順に別の感動が襲っていた。
「あ、あの…降ろして…くだ…」
キリヤが何か言ってる。
「ファントム、降ろしてやれ」
キリヤが降りたとたんに小川の方に走って行った。
「お、おえええええ」
《あら?どうやら車酔いはしなかったが、ファントム酔いしちゃったみたいだな。ごつごつと硬いし、ものすごく揺れるから慣れないとキツイだろうな》
「カティ。癒しの魔法をかけてやれ」
「はい」
カトリーヌがキリヤに近づいて回復魔法をかけてやった。
「ふう…たすかりました」
「いえ、ラウル様のご指示ですので」
あれ?意外にカトリーヌもキリヤには冷たいのね。
「さて、ラウルよ。バカでかい結界がかけてあるのう。昔はこんなもの、この入り口にはなかったのじゃが」
「入れますかね?」
「これは聖結界じゃ。シャーミリア嬢やファントムはまずいじゃろう」
「外せますか?」
「ラウルのバカでかい魔力を借りねばならん。じゃがこれはあのファートリア魔導士1500人の結界と桁が違うようじゃ。わしの杖はもたんじゃろうな」
「触媒の魔石があればどうにかできませんか?」
「もちろん可能じゃ、後はそこのニホンジンのあんちゃんの協力をもらうしかないじゃろ」
「私ですか?」
「ああ、よろしくたのむのじゃ」
「は、はい!」
キリヤが役に立てることが嬉しいようでめっちゃよろこんでいる。
「ファントム!レッドベアーの魔石を出せ」
ゴロン
ファントムの腹からレッドベアーの魔石が出て来た。
「先生これでどうでしょう?」
「一つではどうにもならん可能性がある」
「じゃあファントム!10個だせ!」
再び目の前にレッドベアーの魔石が10個並んだ。
「よしええじゃろ!それではキリヤ君!ここにこんな形の祭壇を作っておくれ」
モーリス先生は杖の先で地面に何やら書き始めた。それはどうやら祭壇の絵のようだった。
「だいたい分かりました」
キリヤが聖結界の前に行って、地面に手を付けると土が盛り上がってきて祭壇のような物が作られていく。どうやらその祭壇のような物には、魔石をはめ込むであろう穴が円形に10カ所に空いていた。
「これをはめ込んでおくれ」
モーリス先生が指示を出すとキリヤが、祭壇に魔石をはめ込んで土魔法で固定していく。計算されたようにぴったりとはまって行くので、キリヤの魔法の精度の高さがうかがえる。
「ふむ。よくやってくれた」
「ありがとうございます!」
そしてモーリス先生が、カトリーヌに杖を預けた。
「それではラウルよ」
「はい」
先生が祭壇の前に立ち、1個余った魔石を握りしめて祭壇の上に置く。俺がそのモーリス先生の手を握りしめた。
「ゆーっくりといこうかのう」
「はい」
モーリス先生が何やら唱えていると、ぱあっと手のひらの中の魔石が光り輝いて行く。すると近くの魔石から順番に光り出すのだった。
「よし、ラウルよ魔力の供給をたのむぞ」
「はい」
俺が魔力を注ぎ始めるとさらにはめこんだ魔石が強く光りはじめた。
「ゆーっくりとな」
しかし凄い、先生は聖魔法の知識まで持っているらしい。俺は先生を信じてそのまま先生が握った魔石へと魔力を注いでいく。
きっとあの時1500人の魔導士の結界を破ったようになるのだろう。
っと思っていた。
しかし光はドンドン増していき、俺の魔力もドンドンと抜かれて行った。もちろん総量的には全く問題ないが、かなりの量が注がれていることが分かる。
「出力を上げておくれ」
「はい」
魔力を強く注ぎ込むと、祭壇にはめ込んだ魔石を回るように魔力が光り輝いて増幅していく。その量は俺が注いだ魔力をはるかにしのいでいた。かなりの量の魔力が増幅している事が分かる。これはどうやら魔力の増幅器のようだ。
「いまだ。おもいっきり注げ!」
「はい!」
俺が思いっきり注ぐとその祭壇の前の方に魔力の光が集まって行く。すると10本の魔力が一か所に集中しだしたのだ、10角形の錐が出来た頂点からいきなりビームのように光が発せられる。
まるでビーッっと効果音がつけたくなるようなビームだ。それが結界に穴をうがち始めたのだった。
《想像してたんと違う!》
穴が1メートルくらいに広がった時だった。一気にその穴が広がっていき、あっという間に巨大洞窟の入り口全体に張り巡らせていた聖結界が消えた。
「ほっ!」
先生が魔力を注ぐのをやめたので俺も止める。
「休んでる暇はないぞ!皆で早く洞窟に入るのじゃ!」
「は、はい!皆急げ!」
俺達が一気に走り込んで結界の内部に入って行く。やはり洞窟内はものすごく大きくて天井までは70メートルくらいありそうだ。全員が入り込んで後ろを振り向いた。
「えっ?」
「ふむ」
先生は予想していたようだが、洞窟の入り口の端っこからジワリと聖結界が戻っているのが見えた。
「10分もすれば戻ってしまうじゃろな」
「こんな強力な結界を張り続ける魔法使いがいるのでしょうか?」
「まさかのう…こんな結界を張り続ける魔導士など会った事もない。そんな魔力があるとすればラウルと同等かそれ以上じゃぞ」
「…もしかしたら危険って言う事でしょうか?」
「なんじゃろな?元は人間でも簡単にはいり込めたと思うのじゃがのう、こんな結界があると言う事は何があるんじゃろうな?原因もわからんがの」
「えっと…ちょっと心当たりが…」
「なんじゃ?」
「もしかしたらアスモデウスをここによこしたのが原因ではないでしょうか?」
「ふむ。デモンには覿面の結界じゃからのう…ないとは言えんのう」
「でも一体誰が?」
「なんじゃろな」
モーリス先生に分からないのでは俺に分かるわけが無かった。だが確実に気が付いた事がある、俺達は既に膨大な小さな魔獣たちに囲まれているようだった。
「みんな!どうやらお出迎えの様だぞ」
「「「「「「は!」」」」」」」
俺はザラリと舌なめずりをして、目の前に大量の重火器を召喚するのだった。魔人達が各自の得意な武器を取り始める。俺もすでに召喚したM134ミニガンをヴァルキリーの肩に装備、手にはバレットM82大口径のセミオート式狙撃銃を握りしめていた。
「モーリス先生とカトリーヌはここでこの兵器をお願いします」
2丁の12.7㎜重機関銃を三脚に立てて召喚した。
「ゴーグ!カララ!ルフラ!モーリス先生とカトリーヌに傷ひとつつけるなよ」
「「「は!」」」
「行くぞ!」
俺達は目の前に迫った大量の魔獣に向かって行くのだった。
次話:第517話 アグラニ迷宮




