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第511話 リュート王国潜入

それからギレザム隊とオージェ隊に合流するまでの村々は、なんとか人々が生き残っていた。魔獣の浸食は内陸までは来ていないようで、デモンや兵士の蹂躙なども無く壊滅したりはしていなかったのだ。


「先生よく来てくださいました」


ギレザム隊でラーズやゴーグと一緒にモーリス先生も来てくれた、更に回復魔法が使えるカトリーヌとルフラもいる。北からはオージェとトライトンとガザム、セイラ、ダークエルフ部隊が合流した。デモンと魔法陣などをしらみつぶしに調べながら来たのだった。


「ふむカトリーヌとも久しぶりにたくさん話をしたのでな、わしゃ楽しかったわい」


「はい。先生とのお話はやはり楽しいです」


ユークリットの魔法使い師弟だったころの思い出話に花が咲いたそうだ。


「よかった!カトリーヌも良く来てくれたね」


「ラウル様に聖都に置いて行かれて寂しかったです」


「えっ‥と」


「ふははは、カトリーヌも言うようになったわい」


どうやらカトリーヌはモーリス先生に影響されて大胆になってしまったようだ。あんまり真面目になっていられるよりずいぶんマシかもしれない。


「で、そっちはどうだった?」


オージェが聞いて来る。


「デモンや敵兵はいなかった」


「こっちもだった、ギレザムさんのほうは?」


「我らも途中の道では見つける事はありませんでした」


「そうですか」


「魔法陣は?」


俺が聞く。


すると皆が頭を横に振った。


「ならばファートリア国内に残党、及び魔法陣罠はほとんど設置されていないと言う事になるな」


「ああ」

「そうなるかと思われます」


「それでラウルよ、リュート王国はどうするつもりじゃ?」


「はい。アスモデウスが潜入調査を行っていますが人間がいるようです」


「やはり生贄かのう?」


「それがアスモデウスは人間に近寄る事を禁じていますので、確認は取れていません」


「我らが行くしかないと言う事じゃな?」


「そうなのですが…」


「必要性というわけじゃな?」


「はい」


今までの戦果を考えれば、リュート内部はここにいる魔人軍の精鋭部隊で十分対応できるだろう。だがリュート王国に攻略対象としての価値が見えない上に、そのまま作戦行動する範囲を広げてしまっていいのかを迷っていた。


「まあ進軍する理由としては、ゼダとリズの王族兄妹といったところじゃろうがのう。その前にシン国の将軍たちを返さねばならぬと言ったところが迷うところかの?」


「はい。部隊を分ける必要性があるかと思います」


「ふむ」


「なら分ければいいんじゃないのか?」


オージェが言う。


「ファートリアが安定していない状況で、俺達が国を空けていいものか」


「ふぉっふぉっふぉっ!ファートリア事ならファートリア人の奴らに任せればよかろう!ラウルは魔人国の王子なのじゃぞ?サイナスのジジイに任せておればよい。リシェルもカーライルもおるし、ファートリアの魔導士を大量に助けたではないか?」


「ラウルよ。先生の言う通りじゃないか?」


「ああオージェ。そうなんだが気になっている事は二つあるんだ」


「なんだ?」


「地下の巨大魔石に包まれた日本人と、ファートリア地内に多数存在する光の柱だ」


「なるほどな」


「先生。あれを放っておいでも大丈夫でしょうか?」


「とはいえ、ラウル達魔人がどうする事もできんじゃろ?」


「まあそうです」


そう言われてみればそうだ。俺がいたところで光の柱も地下の魔石もどうする事も出来ない。ならばどちらかの作戦を進めた方が良いだろう。


「俺はどっちにも動くぞ」


オージェが言う。


それならば俺の考えは決まっていた。


「なら、オージェ。お前とエミルとグレースでカゲヨシ将軍たちをシン国に送り返してほしい」


「了解だ」


「部隊を二つに分ける」


一つは

オージェとトライトンとセイラ及びダークエルフ隊がここでエミルとケイナを待ち、聖都でグレースとオンジを回収したのちヘリでユークリット王国に向かう。ユークリットに置いたままのチヌークヘリを使って彼らをシン国へ送り届け、グレースが収納しているヘリで北部に帰ってくる。


もう一つは

俺、モーリス先生、マリア、カトリーヌ、ルフラ、シャーミリア、ファントム、ゴーグ、ギレザム、ガザム、カララ、アナミス、ルピア、マキーナ、ティラ、タピ、ラーズ、キリヤ、おまけに泥棒髭。ヴァルキリーも含めリュート王国に侵入し、魔法陣や状況を確認して安全ならば魔人を進軍させる。万が一の場合は残党やデモンを叩く。もちろんリュート王国に侵入する部隊も手分けしなければならない。


俺は部隊の編成を皆に告げた。


「異議はない」


「それで良いじゃろ」


満場一致で決まった。


「よし。それじゃあオージェ達とはここで別れる事になる」


「ああ、カゲヨシ将軍たちはまかせてくれ」


「くれぐれも気を付けてくれよ。まだ敵は逃げてどこに潜伏しているか分からないんだ」


「そっちもな。条件はおなじだ」


「だな」


そして俺達はファートリアとリュート王国の国境沿いで別れる事となった。エミルが来た時の為に燃料が満タンに詰まった、オスプレイを召喚して置いて行く事にした。


俺達リュート侵攻組は、96式装輪装甲車を2台召喚しそれぞれに乗り込んだのだった。


「ラウルよ。良き仲間理解者をもったものじゃな」


「はい、彼は昔から私の信頼できる相棒でした」


「いいものじゃ。迷う友に決断を促すような意見をし、自らの事など二の次で考えてくれる。生涯大事にしなければならんぞ」


「はい先生。前世から大切な友です」


「奇跡というやつじゃろ」


「はい」


俺がモーリス先生と話をしている最中


《君主様》


アスモデウスから念話が繋がる。


《アスモデウスどうだ?》


《やはりデモン及び敵兵の影はみえませんでした》


《人間は?》


《都市や村には人間はいたのですが、おそらく一番大きな都市…王都に人間はいませんでした》


やはりか。王都の人間はすべてファートリアの西に生贄として連れて行かれてしまったと推測していた。王都がもぬけの空と言う事はなんとなくわかっていたが…ゼダとリズには言いづらい。


《わかった。ならばさらに東の果てへと言って調べてもらいたい場所がある》


《はい》


《リュートの東にマナウ大渓谷という場所がある、そこにアグラニ迷宮というダンジョンがあるらしいんだ。その周辺の魔獣の状況やアグラニ迷宮の内部を探ってほしい》


《かしこまりました。そこを見つけるまで少々時間を必要としそうです》


《大丈夫だ。俺達も各都市の調査に時間がかかるからな》


《では》


俺はアスモデウスをさらに東に飛ばした。


リュート王国内に入ってすぐに村が見えて来る。先行してシャーミリア達に調べさせてみるが、どこも普通に生活をしている状態のようだった。ゼタとリズの状況から考えても、もっと悲惨な事態を想定していたのだが、もしかすると今までの国で一番状態が良いかもしれなかった。


「なんじゃ?まるでリュートは戦争には巻き込まれておらぬようじゃな」


「王都だけが壊滅しているらしいです」


「であれば、もっと国内が荒れていても良いと思うのじゃが」


「そうですね…どういうことなんでしょう?」


「どういうことじゃろうな?」


確かにそうだ。王都が壊滅しているのであれば、もっと国内がボロボロになっていてもおかしくはない。ところが村々はそれほどおかしな状況になっていなかった。


「アスモデウスが見つけた巨大都市に向かいます。そこならば何か情報がつかめるかもしれません」


「ふむ」


どうやらこの国にも何らかの謎が秘められているようだ。この平和な状況は以前シュラーデンでも感じたことがある。あの時はオージェがいたために、敵兵を完全に支配下に置いて管理しているような状態になっていた。


俺達が2日ほど走ると先に都市が見えてきたようだった。2台を都市から離れた場所に隠し部隊を編成して都市に潜入する事となった。


「さてと、鬼が出るか蛇が出るかたのしみじゃのう」


モーリス先生が楽しそうに言う。


「まあ、安全の為、我々魔人の選抜隊で潜入します」


潜入するのは俺、シャーミリア、ファントム、ギレザム、カララ、キリヤそしてスライムのルフラをまとうカトリーヌの8人だった。


「うむ。くれぐれも注意するのじゃぞ」


「分かりました。ラーズ、ガザム、ゴーグ、先生とみんなを頼むぞ」


「「「は!」」」


俺達は拠点に皆を置いて潜入する。キリヤは相変わらず使える人間にするためにの勉強入隊だ。リュートの都市は想像していたより大きかった。先生が言うにはアグラニ迷宮ダンジョンを目的にした冒険者でにぎわった街なのだという。


「本当だな。想像していたより大きい」


「そのようです」


ギレザムが答える。


「普通に人間がいるのですね?」


「アスモデウスもそう言っていた」


街に近づくと普通に人間とすれ違った。今までは街道を人間とすれ違う事はまず珍しかった。商人のようなので物流が普通に動いている可能性がある。


「私達の事を見てるようです」


キリヤが言う。


商人達は確かに俺達を見ていた?そりゃそうだ‥俺、シャーミリア、ファントム、ギレザム、カララ、キリヤ、ルフラをまとうカトリーヌ。どう考えても滅茶苦茶目立つ小隊だ。見るなって方が難しい。


「キリヤ君、あんまりジロジロみるんじゃない」


「あ、すいません!」


変なトラブルが起きても仕方がない。これまでにない様子に俺も魔人達も多少戸惑っている。とにかく俺達は都市までの道を急ぐことにした。


「ん?どうやら普通に門番がいるな?」


「はいご主人様。そのようです」


「このまま普通に行っていいもんだろうか?」


「何かあればすぐに対処します」


「殺しはダメだぞ」


「心得ております」


本当に?シャーミリアのビンタでも人が即死するレベルなんだけど。


門が近づいてくると普通に門の中から、皮の鎧を着て槍を持った番兵のような者がでて来る。


「兵隊が生きてる?」


「そのようです」


北の大陸ではどこでも王族や兵士たちが殺されて残っていなかった。ところがこの都市にはお巡りさんのような役割の者がいるらしい。


「いったいどうなってんだ?」


魔人達に緊張が走る。今まではデモンがいたり敵兵が待ち構えていたりしたのだが、ここは何の変哲もない普通の街のように見える。その事が一層、魔人達にプレッシャーをかけているらしい。


「やはりデモンなどの気配は無いか?」


「ございません」


「わかった」


俺達が近づいて行くと番兵が声をかけて来る。


「ようこそ。マナウへ」


「これはどうも」


「皆様は冒険者ですか?旅行者?」


「まあ冒険者といったところです」


「それはめずらしい!何年ぶりでしょうか?」


「冒険者は来ないのですか?」


「西で戦争が起きてからはめっきり来なくなってしまいました」


どういうことだ?まるで戦争が遠くで起きているような感覚だ。もしかしたらリュートは攻められていない?だが王族は皆殺しにあったはずだ。


俺は狐につままれたような気分で都市に入るのだった。

次話:第512話 魔法陣罠探索


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