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第510話 冒険者の行き場

東部で見つけた小さな村。俺達は車を離れて徒歩で村へと入って行く。すると早速俺達を見つけた村人達が近づいてきたようだ。


「おんや?見た事のない人がきなすった!」

「本当だ…人だべ!」

「いつぶりだ?」


田舎のため、かなり訛りがあるようだった。


「こんにちは」


「よぐおいでくださいました!」


「どうも」


村人Aが話しかけて来る。どこからどう見ても普通の農民だ。


「どこからおいでなすったんでさぁ?」


「聖都から流れてまいりました。ですが異国の者です」


「おえらい方なんでしょうなぁ?」


俺達のいでたちを見て村人Bが言う。


「それほどでもありません。この村の村長さんはいますか?」


「漁にでとりますだ」


「漁ですか?」


「この先の小川では魚がとれるんでさあ」


「なるほど、どこか食べ物を食べさせるところはありますか?」


「うーん、今は旅人が全然こなくなってしまったで、宿屋も飯屋もやっとらんです」


「そうなんですね」


「とにかく村長が帰るまでどうぞこちらでおまちくだせえ」


俺達は村人Aに連れられて村の奥へと進んでいく。


《ミリア。どうだ?》


《デモンの干渉は無いようです》


《ティラ、魔法陣だけ注意してくれ》


《いまのところ無いです》


《了解だ》


《ミリア。干渉があった場合は俺とアナミスで何とかする。それが無ければ極力ノータッチだ》


《かしこまりました》


俺達はある建物の縁側のような場所に通された。そのあたりに腰かけて村長を待てというので待つことにした。


「平和ですね」


キリヤが言う。


「今のところはな」


「何かあるのですか?」


「むしろ平和すぎるかな」


「良い事なんじゃないですか?」


「平時ならばそうだな」


今のところはシャーミリアもマキーナもティラも警戒していないようだった。そして村人Cの女の人が現れてお茶を持ってきてくれた。


《先に私奴が》


シャーミリアがお茶を飲む。


《毒などの反応はございません》


《了解だ》


ゴク


うん...可も不可もない普通のお茶だ。フラスリア産のお茶とは雲泥の差だ。


「おいしいですね」


俺はお世辞を言う。


「あまりいいお茶でねえのですまねえっす」


村人C女が言う。


「皆さんが漁に出ているのですか?」


「あとは農作業にでとりますだ」


「魔獣はでない?」


「このあたりには魔獣はでねえなあ」


「なるほど」


拍子抜けするほどの普通の生活をしている村だった。あまりにも田舎なのでここまで脅威は無かったのかもしれない。しばらくすると昼食を食べに農民たちが戻って来た。


「これはこれは!」


初老のおっさんが声をかけて来た。


「村長さんですか?」


「そうです、私が村長です」


「すみません、これからお昼ご飯だというのに」


「いやいや、せっかぐ西からお客様がおいでなすったんですから。よくぞいらっしゃいましたね」


「ところで聖都からは使者とかが来た事は無いですか?」


「うーん。ねえですな、あんまり来る人も居ないんでさぁ」


どういう事だろう?東からは敵の侵攻が無いと見て、ノーマークだった可能性も出て来たが。


「誰も?」


「へえ」


「戦争が起きたことは知っていますか?」


「もちろん存じ上げておりますが、こっちの方まではこないんでさぁ。西のお国との小競り合いはあっても兵隊はここまで来ないんで」


なるほど、今までのバルギウスとの小競り合い程度に思っているらしい。北大陸全土を巻き込んだ戦争になっているのだが、ここまで情報が届いてない?敵がギルドを解体した弊害がここにも現れているのかもしれない。


「冒険者とか来ないですもんね」


「そうなんでさ。もともとこのあたりにはさほど魔獣もでねえので滅多に来ねえんです」


「盗賊はどうです?」


「それは…」


ん?口ごもったぞ?


「何かあったんですか?」


「いやいや問題ねえです」


どうやら何か含みがあるようだ。


「言えない事情があるようですね?」


「そんな事はねえです。あんた様方もこんな村は早く出て行った方がいいだよ」


なるほどなるほど、この村が嫌に平和な理由がこのあたりにありそうな感じだ。村長はそんな腹を探っては欲しくないようで、追い払うような雰囲気になっている。


《どうするか》


《アナミスを呼んで吐かせては?》


《いやミリア、それはしないでおこうかと思う》


《かしこまりました》


「なるほど、それでは私たちはここを離れた方がよさそうですね」


「そうしていただけると、いいんでねえべが」


「ではそうしましょう」


「すみません、大したお構いも出来ませんで」


「いえ、旅行をしているわけでもありませんので」


「どうもどうも」


俺は何か含みのある村長にそれ以上の追及をすることなく、そのまま村を出る事にしたのだった。俺達が村長宅を出る時も、普通に見送りをしてくれているので問題はなにもなさそうだが。


「ご主人様。何かありますね」


「そうだな」


「監視しますか?」


「うーん、あの感じからすると困っている様子は無さそうだがな」


「それでは先へと進みますか」


「俺の勘だが‥一晩だけ見張ってみようかと思う」


「かしこまりました」


そして俺達は村から離れた場所にテントを張り、夜まで待つことにしたのだった。


「村には何か隠し事があると?」


「そうだ」


マリアに聞かれて答える。


「私達は夜まで待機して、再び調査に向かう事にするの」

「では私も同行したほうがよろしいのでは?」


ティラが言うとアナミスが自分も同行するという。


「いや、デモンの干渉などは無さそうなんだよ。ただ訳がありそうな感じだから」


「危険はないのですね?」


「たぶん問題ない」


「わかりました」


そしてそのまま夜が訪れるのだった。あたりは暗くなり、遠目に村に明かりが灯っている。問題なく生活しているように見えるが。


「じゃあ行くぞ」


俺は再びシャーミリア、マキーナ、ティラ、キリヤと共に村に赴く。村に近づくとシャーミリアが言う。


「ご主人様の勘は正しかったようですね」


「ああ」


「凄い!ラウル様はどうしてわかったのですか?」


「もう嫌というほどいろんなところで経験してるから。としか言いようがないよ」


「経験ですか?」


「そうだキリヤ君」


「勉強になります」


シャーミリアは村の中に、村人とは違う集団の気配を感じ取っていたのだ。どうやら普通の人種ではない雰囲気は俺にも伝わってくる。それでも俺達は昼間と同じように何事も無かったように村へと入って行くのだった。


「村長宅に真っすぐ行くか」


「は!」


全員が特に武装するわけでもなく、ぶらりと昼間に行った家まで歩いて行く。家の前につくと数人のいかにもな風体の男たちが居た。まともに働いてはいないそうな集団だ。


「お、おい!お前達なにもんだぁ?」


俺達に気が付いた一人が恫喝するように声をかけて来た。


「いや、昼間に村長宅に来た者でね。もう一度話が聞きたくて来たんだよ」


「はあ?こんな夜にか?」


「そうだ」


5人くらいのゴロツキのような奴らがこちらに歩いて来た。荒事には慣れて居そうなやつらだが…


「キリヤ君」


「は、はい!」


キリヤが無詠唱で石のつぶてで5人を失神させた。


「殺してないな?」


「はい。ラウル様のご意思はそれで間違いないと思いました」


「そうだ。少しは分かってくれているようでありがたいよ」


「ありがとうございます」


気を失った5人はそのままに、俺達は村長の家に入って行く。


「こんばんわ」


「!誰だ?」


敷地の中にも数名のゴロツキがいた。


「キリヤ君」


瞬間的にゴロツキは意識を駆られたようだ。キリヤもなかなかにやるようだ。本来の彼の力ならば造作もない事なのだろう。


俺は扉の前に立ってノックをするのだった。


「こんばんわ」


すると中から村長の奥さんぽい人が顔を出す。


「あんれ?昼間の御方達でねえべが?」


あれ?なんか怖がっているようでも困った様子もない。すると俺達の後ろに倒れているゴロツキに気がついたようだ。


「あんれれれれれ!?なんだ!人が倒れてるでねえべが!」


「どした?」


建物の中から村長と、ガラの悪そうな大男が出て来た。


「あ!なんだ?なんで皆倒れてんだ?」


ガラの悪そうなやつが、村長を押しのけて外に出て来る。


「どうも。もしかしたら村長さんに何か困りごとがあるんじゃないかと思ってきたんです」


「あららら、まあ‥こうなったらしかたねえべ」


「お前ら!よくもかわいがってくれたな!」


村長はあきらめたようだが、ガラの悪そうな大男がズイっと前に出て来た。


「いてててててて!」


次の瞬間声をあげる。ティラが男の腕をグイっと背中に押し上げ、折れる直前で止めていたからだ。


「あの!やめてやってくんねえべが?」


村長が言うと、ティラが腕を話してやる。どうやら村長は何か酷い目にあわされていたわけではなさそうだった。


それから…30分後


倒した男達10人と村長、俺達5人が同じ部屋で話し込んでいた。


「実はわしらは、もちつもたれつでやっておりました」


村長が言う。


「なるほど。では詳しく聞かせてもらいたいと思います」


「元はこの方たちは確かに盗賊だったんです。ですが命をとったりするわけでもなく、時折このあたりを通るお金のありそうな方から食料などをかすめ取っていたそうです」


「そうなのか?」


「ああ、そうだ」


「昔から盗賊だった?」


「まあ…そりゃ違うかな。元は冒険者だったんだ」


やっぱりね。


「ギルドが解体されて仕事がなくなって、仕方なくやっていた?で当ってるかな?」


「まあそんなところだ」


「で、この村で何を?村人を脅しているとか?」


「そんなことはしていない。こんな貧乏村を苦しめてどうすんだ!」


「じゃあなにを?」


「森で狩ってきた魔獣の肉や薬草と野菜のブツブツ交換だ。そしてたまに風呂を借りたり飯を食わしてもらったりしていた」


なるほど、そりゃ盗賊じゃねえな。ギルドにやとわれてないフリーランスの冒険者ってところか。一度悪事に手を染めても、自制心で踏みとどまったって感じらしい。


「なら村長は何故、昼間に正直に言わなかったんです?」


「あんたがたが、この人たちを捕まえに来たお役人かと思ったんでさあ…」


「なるほど、彼らを連れて行ってしまうと」


「はい。一度は盗賊のような事をやっていたのですから、罪は償わなければならないのでしょ?」


「そういうことでしたか?ならば我々はお役人でも衛兵でもないです」


「そうなので?」


「はい」


腕をさすりながら、盗賊のいや‥冒険者のボスが言う。


「じゃああんたらはいったいなんだ?」


「国を元に戻したいと活動している者です」


「元に戻す?」


「もちろんギルドも復活させ、国の正常化をしたいと考えています」


「ほ、本当か!?」


「はい、ですから。持ちつ持たれつのあなた方の関係性を壊すような真似はしません」


「それは助かります!」


ほかならぬ村長が言う。


「それはよかった」


「彼らは魔獣の肉や薬草をとってきてくれるんでなあ、連れて行かれたら困っちまうんでさあ」


「むしろ彼らは村に必要なんでしょう?」


「はい」


「私達は冒険者を狩る仕事をしているわけではありません。冒険者が冒険者の仕事をしているというのなら、何も言う事はありませんよ」


「ほっ」


村長が胸をなでおろす。


「それじゃあ俺達を見逃してくれるのか?」


「お金持ちを襲った盗賊団だったという証拠も既にありません。恐らく誰もそんな事実を知っている人はいないでしょう。むしろ村人の命を救っているじゃありませんか?引き続き頑張ってください。私たちは何も聞いてませんし見てません」


「恩に着るぜ」


「私の父も遠い昔、冒険者だったんです。ギルドという組織は冒険者によって成り立っていると聞いた事があります。ギルドを復活させた際はあなた方のような人が必要でしょう?」


「でもあんた、戦争の事は知ってんだろ?」


もちろん!その中心にいるからね!


「まあ多少は」


「ギルドの解体だけじゃなく、王族貴族も皆殺しにあったっていうぜ?あんたらも殺されねえようにせいぜい頑張れよ」


「ええ、無理をしない程度に頑張りますよ」


「そうしてくれ!」


「じゃあ私たちは行きます」


「おや!せっかく事情もわかったことですし、この村で一晩お過ごしいただいてもよろしいのでは?」


「村長のお心遣いは嬉しいのですがそれはまたの機会に」


「わかりました。それでは次にお越しの際はぜひお休みくだされ」


俺達は今度こそ自然な形で送り返されるのだった。やはりギルドで働いていた冒険者たちがあぶれてしまっている。血気盛んな者達の仕事が無いと、どうしても悪事に手を染めるような者も出るだろう。冒険者の成れの果てが盗賊とか、そんな悲しい世界にしてはならない。元冒険者の息子として改めてギルドの復活を心に誓うのだった。

次話:第511話 リュート王国潜入


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