第509話 魂核調整の難易度
子供たちを助けた都市にはクレとナタが率いて来た、魔人30人と魂核を書き換えた50人の魔導士と450人の騎士たちが到着した。既に増援を受け入れるための復興作業に取り掛かっている。部隊が到着したため、俺、マリア、シャーミリア、ファントム、カララ、アナミス、ルピア、マキーナ、ティラ、タピ、キリヤの11人が国境に向けて出発していた。
「人間達はずいぶん喜んでいましたね」
「ああルピア。きっと温泉になんて入れなかったろうからな。」
俺とキリヤの初めての共同作業で出来た温泉を人間に開放したところ、ものすごく評判が良くて作業が終わる夜には長蛇の列が出来ていたのだ。
「不思議と傷が癒えたりすると言ってました」
「まあ温泉の効能ってやつだろう」
「安全な都市でもないですけど、二カルスからの屍人が侵入してくるかもしれませんし。彼らは大丈夫でしょうか?」
「あれでも彼らはファートリア神聖国やバルギウス帝国の精鋭だから、屍人ごときに後れを取る事はないさ。二カルスからの魔獣の侵入を防ぐために増援も依頼しているから問題ない」
「役には立ちそうですね」
「ああ」
その行列を見届けたのは1日前、いま俺達は草原を進んでいた。AAV7水陸両用強襲輸送車7型に乗り込み、操縦はタピが行っている。周辺調査を魔人達が行いながら、代わる代わる休憩をとらせているのだ。今はルピアが休憩をして俺と話をしていた。
「ラウル様!見てください!」
タピから声がかかった。
「どうした?」
ガパン!
タピが言うと、すかさず天板を開けてマリアが狙撃銃をスタンバイする。
「光の柱です」
「なに?」
マリアを天井ハッチから押し上げて俺も外に出た。
「久しぶりに見たな」
「はい」
俺達が見ている先に一本だけ光の人柱が立ち上っていたのである。西側にはかなりの頻度でみられ、聖都には大量の本数が上っていた。その光の人柱が1本だけ立ち上っていたのである。
《全員!念のため光の柱に近寄らないようにしろ》
《《《《《《は!》》》》》》
さてと...
《ファントム!キリヤを連れてこい!》
一瞬で水陸両用強襲輸送車7型の前にファントムとキリヤが現れた。どうやらキリヤは失神してしまっているらしい。シャーミリアのようには手加減が出来ないファントムのダッシュで気を失ったのだろう。
パン!
タピが降りて来てキリヤを軽くビンタする。
「は、は!ラウル様!どうされました?」
「あれを見てくれ」
目覚めたキリヤは俺の指さす方を見た。
「光柱ですか...」
「そうだ」
「こんなところにもあったのですね」
「そのようだ。念のためあの光柱を調べてきてほしい」
「わかりました」
俺が言うとキリヤはさっそうと光柱に向かって走って行った。魔人と違って走る速度は普通の人間並みだった。1キロくらい先なので時間がかかりそうだが…
「ちょっとじっくり待つとするか」
「ですね」
俺達が見ている先でどうやらキリヤが光の柱にたどり着いたようだった。躊躇なく光の柱に入って行ったと思ったらすぐに出て来た。どうやら何かを見つけたらしくこっちに戻ってくる。
「ごくろうさん」
「はい!確認をしてきました!」
「何を持ってきた?」
「これです!」
キリヤ君がジャジャーンって言う感じに俺達の前にさし出したのは…
シャレコウベ
「うわ!なんで持ってきたの?」
「えっ?あっ?いや!調べたらあったので持ってきた方が良いかなと思って」
「いやいやいやいや、戻してきて!」
「わ、わかりました!」
キリヤは再びガイコツをラグビーボールのように小脇に抱えて走っていった。
「あいつなんでもってくんの!?」
「信じられません」
マリアも呆れた表情で光の柱に向かって行くキリヤを見つめている。
「おもしろーい!」
ルピアがめっちゃウケてるし。
「おもしろい?」
「だって何も考えてないんですもの」
「確かに...」
ボケってわけでもないんだけど、本物のガイコツを小脇に抱えて持ってくるなんてどうかしてる。もしかして魂核の書き換えをやりすぎてしまったのかもしれない、めっちゃサイコパスって感じになってしまった。
《今後はアナミスと要相談だ。魂核の調整は本当に繊細な作業だと思い知らされるな》
《はい。次からは調整に際し項目を設けた方がよろしいでしょうね》
《あ、すまんアナミス。作業中に声をかけちゃったか?》
《いえ、ラウル様の思うように仕上がっていないのであれば、次の作業はさらに精度を上げた方がよろしいかと思いました》
《ああそうしよう。大多数の魔導士や騎士たちの時のように、軽い変化で良いのかもしれないな。とにかく次の機会までに話し合っておこう》
《はい》
俺とアナミスが話していると、ガイコツを戻して来たキリヤが走って戻って来た。イケメンが髪を振り乱して汗をダラダラとかいていた。
「キリヤ君はガイコツとかどう思う?」
「人間の骨だと思います」
「それ以外には?」
「ありません!」
《よし、アナミス!こいつの行動をいろいろ掌握した後で再調整だ》
《そのようですね》
俺達は魂の調整がいかに難しいのかを思い知った。逆に言えば、この技術は命知らずの軍隊を作り上げる事すらも可能だと改めて思う。
「キリヤ君!光の柱に入ってみてどう思った?」
「寂しそうでした。なんというか孤独な気持ちを感じました」
「ん?孤独な気持ち?」
「はい。とにかく孤独な悲しみを感じました」
「そうか」
一緒に前世から転移して来た人間が生み出した魔石粒だからか?サイナス枢機卿もオージェも何も言っていなかったようだが、彼には何か感じるものがあったらしい。もしくは俺が魂核を真っ新にしてしまったゆえに感度が上がったとも考えられるが...
《ギレザム!ガザム!》
《は!》
《は!》
北と中央を進んでいるだろう二人に念話を繋いだ。
《どうやら東にも光の柱がある。数は少ないが接触しないよう部下に気を付けさせろ》
《了解です》
《は!》
別働部隊にも情報を共有して危険を回避するように伝える。俺達魔人が光の柱に触れた事は無いが、デモンは触れられないと言っていた事からも十分気を付けなければなるまい。俺達は光りの柱を割けるようにして、さらに東へと向かって走り出す。息を切らすキリヤをファントムと共に水陸両用強襲輸送車7型に乗せた。
《君主様》
次にアスモデウスから念話が入った。
《よう、なんかつかんだか?》
《人間の生存を確認しました。私が近づけば死んでしまう可能性もありましたので、遠くからの確認となりますが間違いなく人間はいます》
《都市か?》
《はい。私はリュート王国の都市の事など知りませんので、ここがどこなのか分かりません。普通の暮らしを送っているようにも見えます》
《普通の暮らし...デモンや魔獣は?》
《おりません》
《いないか》
《いかがなさいましょう》
《そこは触らなくていい。その都市以外にも人間がいないかを探れ》
《は!》
アスモデウスからの連絡ではリュート王国には人間がいるようだ。デモンがいないだけで干渉を受けているかどうかわからないが、可能性があるのはデモン召喚魔法陣。ファートリア西部ラインの村々のように召喚魔法陣が設置されている可能性は否定できなかった。
「どうされました?」
「ああ、マリア。どうやらリュートに生存者だ」
「それはよかったです!ゼダとリズの兄妹も喜ぶのではないでしょうか?」
「ああ、彼らを喜ばせるためにも慎重に事を運ばねばならない」
「そうですね...」
俺達の乗った水陸両用強襲輸送車7型は、草原の悪路をものともせずに突き進んで行く。まる1日走っているが全く風景が変わらない。
「あの光柱の人物は旅人だったのかね?」
「かもしれません。なぜ魔石粒を飲まされて送り出されたのでしょう」
「もしかしたらリュート人だったのかも」
「その可能性は高いかもしれませんね」
ここまでは転移魔法陣もインフェルノも仕掛けていなかった。想定されるのは敵が東側からの侵入が無いと確信していた事だ。敵はリュートに侵入し生贄として民を西に送ってきていたが、それをやったデモンは聖都に居たデモンのどれかだったのだろうか?
「この先にデモンはいるのでしょうか?」
「どうだろうな、ルピアはどう思う?」
「国内にはいないのかもしれません。いるとすればリュート王国側ではないかと」
「だな、もしくはまたリュートの民を生贄にしてデモンを召喚する可能性だ」
「はい」
「その場合は何とか救出しなくてはならない」
「はい」
俺は直ぐにギレザムとガザムに念話でその件を伝える。
《...というわけだ。》
《では、慎重に事を運びませんと》
ギレザムが言う。
《そうだ、もしかするとリュート王国奪還も視野に入れて作戦の延長をする必要がある》
《オージェ様には私より伝えましょう》
《ああガザム》
《それでは数日後の合流を心待ちにしております》
《私たちも遅れぬようにまいります》
《わかった》
念話を切った。
「ふう...」
「大丈夫ですか?」
ブルーになっている俺をマリアが慰める。
「かなり消耗するんだよな。鏡面薬で反応しなければいいが、反応してしまえばやる事は西のラインと同じだ。民を一人一人連れ出し召喚魔法陣を発動させないようにする。デモンの干渉を受けているのであれば魂核の書き換えを行う」
「ラウル様に負担がかかりますね」
「それはいいんだ。この前戦った兵士達のような者ならあきらめもつく、軍関係者と言う事で覚悟もあったろうからな。だが一般の市民の魂核を触るのは凄く気を使うんだよ。出来る事ならデモンの干渉を受けていない事を祈る」
「はい。ゼダとリズの二人にはそのままの市民を返してあげたいです」
「ああ」
俺の予想では召喚魔法陣の可能性は有る。しかしデモンの干渉を受けてはいないと思うのだった。バルギウスやユークリット、北の諸国ではデモンの干渉の確認は出来なかった。隣国迄手が回っているとは思えない。
《ご主人様。村が見えてきました》
シャーミリアがファートリア東部の小さな村を見つけたようだ。
《人間は?》
《おります。デモンはいないようです》
《オッケー!シャーミリア。そちらに向かう》
《は!》
「タピ!どうやらシャーミリアが村を見つけたようだ。そっちに向けて走ってくれ」
「はい」
タピは水陸両用強襲輸送車7型の方角を微調整して進んでいく。
《全員!シャーミリアが村を見つけたらしい!そちらに向かえ!》
《《《《《《は!》》》》》》
村から1キロほど離れた雑木林でシャーミリアが待っていた。
「ミリア。人間はどのくらいいる?」
「200くらいかと、農作業などをしている者もおります。どうやら北の村よりも普通の暮らしをしているように感じますが」
「よし!俺とシャーミリア、マキーナ、ティラと‥‥キリヤ君で潜入するとしよう」
「え?この人間も?」
「すまんがシャーミリア、キリヤ君はいろいろと体験をさせてアナミスと研究しなければならないんだ。お前は嫌だろうが連れて行ってくれ...くれぐれも殺すなよ」
「かしこまりました」
そして俺とシャーミリア、マキーナ、ティラ、キリヤの5人が車の前に集まった。
「よし!全員ここで待機だ。危険を察知したらすぐに念話を入れる」
「ラウル様、お気をつけてください」
「大丈夫だマリア。とにかくここで待っていてくれ」
「わかりました」
俺達5人は皆に見送られるように徒歩で村へと向かうのだった。
次話:第510話 冒険者の行き場
貴重な時間を割いていただきありがとうございます。
ぜひブックマークをお願いします。
★★★★★評価がいただけたら励みになります。




