第505話 洗脳兵隊
進化するのは配下の魔人だけではないようで、どうやら俺も聖都での大量デモン駆除の影響により変わってしまったらしい。見た目はほとんど変わりがないが、俺自身その内面に保有する魔力が膨大に増えたのが分かる。
「かなりスムーズに終わったな」
「はい」
「そうですね」
「お疲れ様でした」
アナミスとルピアとマリアが言う。
何が終わったのかというと…都市に居た1500人の魔導士と、3000人の混成ファートリアバルギウス騎士部隊の対処だ。以前の俺は西の村の民数百人の魂核をいじるだけで、滅茶苦茶消耗して精神がガリガリに削られた。だが今回は4500人という大人数だというのに、俺の精神はそれほど傷むことはなく魔力の消費もそこそこで済んだのだ。
「精神が削られなくなったのが大きいかもしれん」
「ラウル様!なにか雰囲気がかわったようです!」
ティラが屈託のない笑顔であっけらかんという。
「そうか?魔力がだいぶ多くなったとは思うけど」
「なんていうかぁ!カッコよくなったと思います!」
「えっ?そう?」
「はい!男らしくなった感じです」
ティラのあまりにもの真っすぐな物言いだが俺は素直に喜ぶ。照れる俺を見てルピアもマリアもニコニコしていた。俺は魂核作業を終えて、南国少女、ナイスバディメイド、天使少女、煽情的なギャルに囲まれてキャッキャしていた。
「このたび私は単なる村人と違い難しいと思っておりました」
アナミスが言う。
「どういう事?」
「魔導士となればその精神力は、村人や騎士の比ではないと思っておりましたので」
「確かにそうだな」
「はい、騎士でも村人よりは精神力が高いですから」
「ということは、洗脳状態のルタンの奴らの完全書き換えも楽に出来るかもしれないな」
「それはもちろん。しかもかなり深い洗脳状態にありますので容易いでしょうね」
「なるほどな」
《ご主人様。兵士たちの準備が整いました》
休憩をしている俺にシャーミリアから念話が入る。
《わかった》
俺はシャーミリア、カララ、マキーナ、タピに兵士たちの出兵準備を頼んでいたのだった。兵達の魂核を書き換えるにあたり、自衛隊の炊飯用車両である野外炊具1号(22改)を操作できる記憶を植え付けた。魔人とは違って人間は脆い、オージェが鍛え上げた人間とも違って、目的地にたどり着くまで休み無しでは死んでしまうかもしれない。そこで俺は兵達に約45分で200人分の食事を作れる野外炊具1号の操作を入れ込んだのだ。
「シャーミリアの準備が出来たらしい」
「わかりました」
「はい」
「まいりましょう」
「はーい」
マリアとルピア、アナミス、ティラを連れて俺は外の広場に向かうのだった。
「ご主人様。遅くなり申し訳ございません」
シャーミリアが深々と礼をする。
「いやいや、魂核の書き換えに3日も使ったのは俺だし」
「いえ。人間が思いのほか無能でございまして、車両の運転を教えるのに1日を要しました」
「そう言うなってシャーミリア。これでもこの人たちは国で選ばれた人たちなんだからさ」
「私奴やカララの指導が拙かったのもあるかと」
「まあ、お前達にあまり運転させてこなかったのもあるしな」
「しかし思いの外、タピが器用でございました」
「あーなるほどね!納得だ。運転は何人出来る?」
「50人ほど」
「えっ!そんなに適性のあるやついた?」
「強制的に仕込みましたので」
「でかした。それだけ運転出来れば問題ない」
「は!」
そして俺はシャーミリアに連れられて、兵士たちが居る場所へと向かう。広場には4500人の兵士たちがずらりと整列しており、俺が来るのを待っていたらしい。シャーミリアにがっちり仕込まれているようで、ピクリとも動かずに真っすぐに並んでいた。魂核には俺がイメージする、前世のある国の軍人像も書き込んでいるのでバリバリの精鋭に見える。
そして俺は兵士たちの前に置いてあるテーブルの上に乗った。
「やあ諸君!少しは休めたかな?」
「「「「「「はい!!!!」」」」」」
物凄いバカでかい声で皆が返事をした。まるでオージェが仕込んだ兵士のようだが、シャーミリアの仕込んだ兵士にはさらに物凄い必死な形相が見える。まるできちんとしないと死んでしまうかのような…実際殺されると思っているのだろう。
「まあ、楽にしてくれたまえ。まずは静粛に俺の話を聞いてもらえるだろうか」
ザッ
休めの姿勢となり腰に手をやり話を聞く体制となる。屈強な騎士もいるし老人の魔導士もいるが皆同じような態勢を取っている。魔導士には女性も多く含まれているのだが、多分に漏れず休めの姿勢を取り俺を凝視していた。
《よく見ると…ちょっと可愛い女の子もいるようだが…》
《ご主人様のご自由にされてよろしいかと》
《い、いや違うんだミリア》
《ご遠慮なさらずとも命じればすぐにでございます》
《す、すぐって?すぐ…なに?》
《はい。もちろん望めばその体をー》
《わー!いい!いい!とりあえずいいから》
《もちろんカトリーヌ様より前でございますので、そうなった場合は殺処分しておきますのでごご安心を》
《いやそれを不安がっているんじゃない》
《差し出がましい真似をお許しください》
《うんうん。ありがとうね》
ちょっと横道にそれてしまった。念話なので誰に聞かれているわけでもない。魔人以外には。とにかく俺は気持ちを切り替えて人間達に話し始める。
「皆にはこれから、それぞれの目的地に行って自国の復興に努めてもらう事となる。さらに南の村々が壊滅しているためその村々を復活させ、南の森から来る魔獣たちを食い止めてもらわねばならない!既に各人の故郷も聞いており、生まれ育った場所へと向かってもらう者もいる。ファートリア神聖国は今存亡の危機に陥っている!君たちが怠惰な生を送ってきたツケをいま払う時が来たのだ。命の一生分をかけて無欲に国の為に働き続けるのだ!」
「「「「「イエス!ラウル!」」」」」
えっ?
俺はシャーミリアを見る。
《ミリア!イエスって俺の前世の言葉だけど》
《よく、オージェ様やエミル様とおっしゃっていたのを聞いて、良いお返事なのかと思い教え込みました》
うわあ…これをオージェやエミルの前でやられるわけにはいかない。彼らがすでにモーリス先生を連れて聖都に飛び立った後で良かったよ。そうじゃなきゃ絶対にからかわれていたところだ。
《とりあえず。今日限定で》
《かしこまりました》
「とにかくこれからは自分達で魔獣を狩って、魚を取って自給自足してくれたまえ。当分聖都や他国からの物資は届かないと思ってくれていい。そのための調理器具がついた車なんだ」
「「「「「「イエス!ラウル!!」」」」」」
「では、同胞たちよ!自国の平和を取り戻すために出発せよ!」
「「「「「「イエス!ラウル!!」」」」」」
あくまでも…今日限定ね。絶対に。
兵士達全員が乗れるほどの車両は必要ない。野外炊具1号数台を引っ張れるだけの台数が稼働すればよかった。すでに74式特大型トラックを25台召喚してあるが、魔人達にはゆっくり運転するように教えてもらっている。
ザザザザザザ!
一糸乱れぬ動きで74式特大型トラックに野外炊具1号を取り付け、年老いた者をトラックの荷台に乗せていく。もちろん俺がイメージする軍人像を魂核に植え付けた結果の行動だ。全員が国の為になら死ねる精神状態になっている。もちろん一番下っ端の魔人にも絶対服従の指示付きで。行き先ではゴブリンやオークが彼らを指導してくれることだろう。
ブロロロロロロロロ
ザッザッザッザッ!
準備が出来た部隊から順次出発していくのだった。
「じゃあお達者でー!」
出発する軍人たちに手を振る。
聖都に3000人(1400人の魔導士と1600人の騎士)を送り込み、後の1500人を150人ずつ10に分け、5つの部隊を南の廃墟となった村々へ、4つの部隊を北西側の村々へ、残りの150人をオージェ達の居る東北部の拠点へと送った。各部隊の兵達は現地の魔人の指示で働いてくれることだろう。
「よし!行ったな。」
「はい。」
あっという間に都市を抜け出ていき、人間の兵達は一人を残して去ってしまった。魔獣や盗賊から国民を守る本来の仕事へと。
「時間がかかるかもしれないが、これで国は元の姿へと戻るはずだ。」
「はい。」
「じゃあとは。」
「こちらです。」
カララが迎えに来た。
「あいよ。」
そして俺達はすぐそばにあった建物に入って行く。何の変哲もない民家のような家で、中に入って行くとダイニングのような場所があった。
「よう!キリヤ君!元気かな?」
俺が部屋に入って行くと、立っているファントムの前にイショウキリヤが座っていた。
「は!はい!ラウル様!お待ちいたしておりました!」
俺が入って行くと思いっきり気をつけの姿勢で立ち上がる。きつく魂核を書き換えたはずなのに、よほど怖いのかファントムをちらちらと見ているようだ。もちろん俺の魔力だまりが大きくなったことで、ファントムの力は計り知れない状態になっているが。
「座って座って!」
俺はニコニコ顔でイショウキリヤに椅子を勧める。
「失礼します!」
俺はテーブルをはさんでイショウキリヤの前に座った。
「いやー!いい感じだね君ぃ」
「ありがとうございます!これもラウル様が私を導いでくださったおかげと思っております!」
「えっと、マコさんの事は?」
「は!私の若気の至りでございました!ただ財布代わりに利用されていたとは知っておりましたが、そこには目を瞑り自分に気があるものと自分に言い聞かせて生きてきたことを恥じております!」
「だよね。パパ活なんてダメだよね」
「はい!」
「またお付き合いしたいとか会いたいとかある?」
「まったくございません。彼女に恨みなどもございませんが、むしろ付きまとってしまった事を平に謝りたいと思います」
「うん。謝らなくても良いと思う。彼女だってキリヤ君を利用してたわけだしさ」
「わかりました!謝りません!」
「そう、それでいいよ」
「はい!」
うん。キリヤを確認したところ、より深く魂核に刻み込まれているらしい。完全に違う人間として生まれ変わったと言っていいだろう。もちろん魂核には鉄のメンタルの如き意志の固さを書き込んだので、ちょっとやそっとの事ではめげないし強い人間が作れたと思う。
「それで魔法使いってのは貴重なんだよね。これから俺の為に身を粉にして一生尽くしてもらいたいんだがいいかな?」
「なんという幸せ!私の一生の命をラウル様に使っていただけるなど、この地上に生きる人間の誰よりも誉れ高き使命を持つことができたと思います」
「ああ。ちょっといらなくなったりしたらゴメン。その時は誰かにあげようと思ってるけどいいよね?」
「もちろんです!それがラウル様の望みであれば、捨てていただいて大いに結構でございます。死ぬまで人のために尽くし働いて生きて行くだけです!」
「そうそう、その意気だ!君の気持は良く分かった。日本人は腑抜けかと思ったが君は気合が入っているね!」
「ありがとうございます。」
「じゃ、行こうか?」
「は!」
前世ならたぶんイケメンの部類に入るイイ男なんだろうけど、こんなに腰が低いとまた違う生き物のように見えて来る。きっと前世の俺ならイイ女を連れているイショウキリヤに嫉妬するくらいしかできなかっただろう。まあ前世でも彼は彼なりの悩みがあったと思うけど。
俺とシャーミリア、カララ、ファントムの後ろについてイショウキリヤがついて来る。
「あ!」
「ど!どうしたキリヤ君!」
「ラウル様の御召し物にゴミがついておりました!」
タタタっと走ってきて俺についていた糸くずをとってくれる。
うん…ウザい。
「キリヤ君。糸くずくらい気にしないから、もう俺のゴミをとらなくてもいいよ」
「は!かしこまりました。ラウル様のゴミをとるような不遜な真似をすることは金輪際ございません!」
…あれ?こいつ使えるかな?
魂核をきつくいじりすぎたイショウキリヤに対して一抹の不安がよぎる。もしかしたらほどほどに書き込んだ方が良いのかもしれない。もちろんバカになっちゃったわけでもないのだが、これでは自分で判断が出来るかちょっと心配だ。
俺はふとファントムを見る。
いや…ファントムも一つの指示をすれば10の事をやってくれるんだ、キリヤもきっとやってくれるに違いない。俺はそう思う事にした。
頑張れキリヤ君。
次話:第506話 人間の不思議と魔人の普通
いつもお読みいただきありがとうございます。
続きが気になる方はブックマークをお願いします。
評価もよろしくお願いします。




