第503話 新兵器試験と人間資源
俺やアナミス、ルピア、マキーナのスタングレネード攻撃や、ハンドガンでの至近距離サキュバス霧毒弾丸射撃。市壁上からのマリア隊の霧毒弾丸での援護狙撃。ヘッドショットをしなくても霧毒が一瞬で無力化してくれるため敵の損害も少ない。内部に潜入している魔人を飛べる3人にしたのは、直ぐに緊急離脱が可能だからだ。これで敵兵の損害を最小にして制圧できるかの検証できる。
《みんなすまんな、こんなまどろっこしい真似をさせて》
《いいえ、ラウル様が出来るだけ兵力を割きたくないとおっしゃってましたので、これが最善かと》
アナミスが答えてくれた。
《そして取りこぼしがもったいないから、きちんと網をはって包囲網を縮めて行くというのはとても良い作戦だと思います!》
ルピアも褒めてくれた。言うほど大した作戦でもないが2人は敵を無力化しながらも褒めてくれるのだった。
《あとは迅速に進めるだけだ》
《はい。逃げられないと悟り、自決などされたらもったいないですからね》
《そういうことだ。あと時間をかけたら敵が更に散らばってしまうと考えたんだ。精鋭だけで先に動いたのは、時間を出来るだけ短縮するためさ。じゃないとあとあと面倒なんだよ 》
《流石はラウル様です。そこまでお考えだったのですね》
ちょっとこんなことで褒められるのはさすがに恥ずかしくなってきた。
《いやアナミスそんなに大それた事じゃない。最大の理由は他にあるしさ》
俺達は日常生活でもしているかのごとく、戦闘で敵騎士や魔道士を無力化しながら念話で話をしていた。人間など既に数度の進化をした魔人達の敵ではなかったのだ。マキーナだけが寡黙に仕事をしている。
《他の理由でございますか?》
《ああ。これは言わば開発した新兵器の試験さ》
《試験ですか?》
《そう。新兵器の実験なんだ》
アナミスもルピアもよくわからないようだった。前世では大国がよく実戦で兵器の実験をしていた。やはり実戦で使えるかを試さねば、生産した方が良いのか?やめた方がいいのか?の判断がつかない。
《ラウル様の考えられたことですから、深い意味があるんでしょうね。》
ルピアが言う。
《そんなんでもない。霧毒弾丸は30日で消える俺の召喚兵器とは違うからな。グラドラム製の兵器ならば消えないから、先々販売なども視野に入るかもしれん。兵器が作戦上きちんと機能するかどうかなど実戦でなければ分からない。俺が今回の作戦を敢行したのはそういう理由だ。グレースと話し合った結果、この兵器は将来的に販売できるのか?生産を禁止にすべきか?見極めようと言う事になった。だから、とにかく深追いや無理だけはするな。それこそそんなに一生懸命にやる作戦じゃない。》
《《はい。》》
そして俺たちとマリア、ダークエルフ隊は淡々と敵兵を無力化する作業をこなして行くのだった。だが今回の最大の目的はガザムが提案した人間資源の確保だった。人間を洗脳すれば使えるのは、ルタン町で検証済みだ。しかも、貴重な魔道士が1500人とは棚ぼたみたいなものだ。
《ウハウハだ。》
《ラウル様。ウハウハとは?》
《いや、アナミスこっちの事だ。》
やべ心の声が漏れた。
あちこちで銃声やグレネードの爆発音が聞こえる。俺の耳にはお金の音がチャリンチャリーンと鳴り響くのだった。
《カララ、マリアの様子は?》
《集中して狙撃に勤しんでます。時折ダークエルフ兵に狙撃の指導をしているようです。ふふっ!まるで狙撃演習でもしているかのような気楽さですわ。》
《俺が演習のつもりでって言ったしな。》
《マリアは忠実に実践してますわ。本当に可愛い。》
《とにかくマリア達に危害が加わらないようにだけたのむ。》
《かしこまりました。…あ、マリアが何か言っおります。》
なんだろ?
《伝えてくれ。》
《ラウル様から向かって南西10時方向に450メートル、銃弾が効かない者がいる。とのことです。》
《マリアに伝えてくれ。よく見つけてくれた。》
《はい》
どうやら俺のいくつかの目標の一つが見つかったみたいだ。そいつさえ仕留めてしまえば後の作戦も早いだろう。
《3人とも。一旦先生達の下に戻るぞ》
《《《はい》》》
アナミス、ルピア、マキーナと共に上空に舞い上がり、急いで先生達が待機する市壁の外へと飛んだ。
「ふぉ!ラウルよ待ちくたびれたのじゃ」
「すみません先生。本丸を見つけるのに手間取りました。」
「ふむ。それでどうする?」
「市壁の外を周り、南西より侵入し本丸に急襲をかけます」
「そうかそうか。」
「マリアとダークエルフ隊及びグレースの護衛はオージェとラーズに任せ、カララを北から侵入させて兵が後退させないように仕向けます」
「では早速行くとするかの?」
「ちょっと待って下さい。」
「うむ。」
「ファントム!おまえは東門で待機。逃げてきた兵がいたら全部都市内に投げ込め。」
「……」
「では行きましょう。」
俺たちはファントムを東門に一人残して、時計回りに都市の外側を進んでいくのだった。南に回ってみるが門がなく市壁が遠く西側まで続いていた。門の無いところでいったん進行を止める。
「ここから市壁を飛び越える!マキーナはこの上の市壁でオンジさんをたのむ。」
「かしこまりました。」
「もうしわけない。自分は全く役に立たない。」
虹蛇の守護者である剣の達人がペコペコ謝っている。
「いや!オンジさんがいないとグレースが安定しませんのでいいんです!」
「本来、私が守る役だというのに。」
「問題ありません。おかげでグレースが凄い力を出せていますよ!」
「それならいいのですが。」
なんかオンジさんに申し訳ない。俺達が超異常なのであって、この人はこの世界では凄い強さを持つ剣豪なのだ。
「シャーミリアは先に侵入し内部の安全を確保。俺たちに合図をくれ。」
「少々お待ちください。」
シュン!
シャーミリアが消える。
「お待たせいたしました。内部にいた少数の騎士と魔道士を黙らせました。」
はや!やはり剣豪の出番はない。
「では、みなで潜入だ。」
俺の言葉をきいてモーリス先生を乗せたゴーグが思い切りジャンプをし、軽く市壁を飛び越えて侵入していく。俺達も追って市壁を飛び越えて都市の内部に侵入した。
皆が周りを見渡す。
「先生。方角はあちらです。」
「ふむ?」
「このまま通りを進めば予期せぬ攻撃をもらうかもしれません。」
「ならどこを?」
俺は先生に聞かれて上を指差した。
「ゴーグ!俺が先行するから先生を乗せて屋根伝いについてこい。シャーミリア、アナミスはそのまま、先生とゴーグを護衛しろ。ルピアは俺についてこい。」
「「「はい。」」」
そして俺たちは屋根の上に乗る。
「遅れるな。」
《ヴァルキリー、弱推進で進め。》
《はい我が主人。》
バシュ
ヴァルキリーに乗って進む時はヴァルキリーに指示を出す。もちろん分体ということもあって考えたままに動く事も出来るが、ヴァルキリーの自動運転の方がいろいろ助かるのだ。
《ラーズ。》
マリアの位置にいるラーズに念話を繋いだ。
《は!》
《位置の修正がないかマリアに聞いてくれ。》
《ラウル様が進む方向より3度ほど右に流れた。とのことです。》
すぐに返事が来た。
《了解。》
若干の軌道修正をしつつ進んでいく。
《あと100メートル。80、60、50》
《ルピアはここに残って逃げてきたやつを撃て》
《はい。》
50メートル付近でルピアに指示を出す。
《アナミス上空から見張れ。》
《はい。》
アナミスが上昇して離れて行く。
《ご主人様。ニホンジンの魔力を確認しました。》
《よし、シャーミリア。先行してニホンジンの潜伏先を示せ。》
《は!》
俺はシャーミリアの代わりにゴーグとモーリス先生の側を飛ぶ。
《ゴーグ!止まれ。》
ゴーグが足を止める。
「先生。日本人は通りを挟んだあの建物です。」
建物の上に黒い翼を生やしたシャーミリアが浮かんでいる。
「ふむ。どうやらニホンジンは教会に逃げ込んだようじゃな。」
「どうします?」
「どうもこうもないわい。わしとゴーグちゃんには既に結界を張っておる。わしの結界を解析できるやつなどおらんじゃろ。」
「わかりました。では私が鎧ごと突っ込んで壁をぶち抜きます。侵入したら先生は日本人の結界の解除を。」
「任せなさい。」
モーリス先生は胸をどんと叩いた。
《シャーミリアは俺と同時に屋根をぶち抜いて突入しろ。ここは多少は殺してもいい。》
《は!》
シュッ!
ドゴン!
俺が教会の側面から、そしてシャーミリアが屋根の上からぶち抜いて侵入した。俺が開けた穴からゴーグと先生も入ってくる。
「な、なんだ?」
「うわあ!」
「こっ攻撃だ!」
いきなり降って沸いた俺たちに騎士や魔道士が右往左往しながら、一気に祭壇の方に逃げて固まった。
《いた》
《はい》
「先生。」
「ふむ。」
モーリス先生はすぐさま日本人の張った結界を解除した。そして突如現れた鉄人形のような俺、鉄の棒を持った貴族風の美女、馬鹿でかい狼にまたがる大賢者を見て呆然としている兵士達。
その奥に。
「これはこれはイショウキリヤ君。ごきげんよう。」
あの密林で泥棒髭と戦い、河童を葬ったイショウキリヤの姿があった。
「な、なんだ!ゴーレムがなぜ俺の名前を知っている?」
キリヤは慌てて叫んだ。
「マコちゃんから聞いてるからね」
「眞子?眞子は無事なのか?」
「ああ、今は俺たちの仲間になって聖都に戻り一生懸命働いているよ。」
「何?と言う事はお前はデモンか?」
「貴様!ご主人様に向かってお前とは不敬だぞ。」
不意にシャーミリアがキレる。
「まずいい。」
俺がなだめる。
「失礼いたしました。」
「とにかくマコとハルトとカナデは既に平和に働いているよ。お前もそうしたくはないか?」
「あいつらがそうしていると言う証拠がないじゃないか!」
どうやら疑っているらしい。
「俺は交渉をしているんじゃない。生きてついてくるかここで死ぬかを聞いてるんだ。」
「なっ!」
「キリヤ様!騙されてはなりませんぞ!こやつらは恐らく大神官の言っていた悪魔ですぞ!」
脇にいた高位な感じの格好をしたやつが言う。するとキリヤの瞳に怪しい光が宿る。
「俺は騙されないぞ!」
《ご主人様。あの隣にいるものはデモンです。》
俺はすかさず右手にデザートイーグルを召喚し、神官らしきやつの眉間を早撃ちした。
「ぎょぉえええええ!」
神官は溶け出すように燃えるようにして散っていった。
「なっ!」
騎士や魔道士がそれを見て俺達に向かって構える。
「まて!今のを見てなんとも思わないのか?どう見ても人間の死に方じゃないだろ?」
「何を言う!神官様を殺しておいてお前達に正義はない!」
神父らしき格好をした爺さんが言う。
《ご主人様。ニホンジン以外全員が魂核にデモンの干渉を受けております。》
《じゃあいいや。キリヤ以外はいらない。》
《アナミスと魂核を解かなくてもよろしいのですか?》
《うん。先生がいるからあぶないし。》
《は!》
「「やれ!」」
神父らしき爺さんと俺の声が被った。
先にシャーミリアのM240中機関銃が火をふき、人間達が紙切れのように吹き飛んでいく。掃射が終わってそこに立っていたのは、イショウキリヤただ一人だった。
「う、あわ。やめて殺さないで。」
キリヤがヘナヘナとその場に崩れ落ちた。俺はそのまま近寄ってイーグルをヴァルキリーの腰にとめ、新たにワルサーのコンパクトを召喚する。弾倉にはサキュバスの霧毒弾丸が装填されていた。
パン!
キリヤの太ももを撃つとキリヤは意識をなくした。
《やっぱすげえ効き目だ。とにかく日本人ゲット!》
《おめでとうございますご主人様。》
パチパチパチパチ
シャーミリアが満面の笑みで拍手をしてくれた。
「ラウルよ。」
「はい。」
「慈悲もないのう。」
「申し訳ございません。先生に矛を向けた敵は一人たりとも許す事は出来ません。」
「まあ、あんな事があってグラムと領兵、領民を失っておるのじゃから気持ちもわかるがのう。」
「ご心配いりません。教会の外の者達はみな生きて連れ出すつもりです。」
「そうじゃな。デモンに操られておるかもしれんとは言え、元はファートリアの民じゃ。幸いにも聖都の復興に足るだけの人数もおるし、大事にしておくれ。」
先生の言うとおりだ。聖都を復興させるには聖職者の助けがいる。
「わかりました。」
俺と先生が話しているとギレザムから念話が入る。
《ラウル様。我らも到着いたしました。》
《ギル、この都市内にいる人間達を全員無傷で捕まえたいんだが、殺さないようにしてくれるか?」
《それでしたら我にお任せください。皆には都市を出るように伝えてくださいますか?》
《分かった。》
俺は念話でアナミス、マキーナ、ルピアに伝えると、全員が都市から出ていくのが分かった。
「ギレザムが到着しました。天井から抜けて街を離脱しましょう。」
「ふむ、わかったのじゃ。じゃあゴーグちゃん行こうかの。」
「ワン!」
えっ?今ワンって言った?
ゴーグはしっぽを振りながらも壁を駆け上り、シャーミリアが開けた天井の穴から抜けて行った。俺もその後を追って飛び、シャーミリアがキリヤをぶら下げて飛んで行くのだった。そして俺たちは東の市壁の上に立って都市の内部を見渡した。
「おそらくギレザムは西門から入ってくるようです。」
「ふむ。」
俺たちが市壁の上から都市の西側を見ていると不思議な事がおきた。西側の一点から光が立ち上がる。
パリパリパリパリ
雷のような音がし始めたと思ったら、家々の間を縫うように雷の龍が走り出したのだ。その放出点が少しずつこっちに移動してきた。
《ギル。殺してないよな?》
俺は気になって念話する。
《もちろんです。弱雷に打たれて痺れているだけです。時折心臓が止まる者には、配下がハイポーションをかけて蘇生しています。》
ギレザムはいつの間にそんな器用な事ができるようになったのだろう。いずれにせよ霧毒弾丸で撃つよりギレザムの方が無傷で無力化できる。俺はグラドラムに帰ったらミーシャとバルムスに頼んで、高性能のスタン弾丸を作ってもらおうと思う。さらに強い電気を発する砲が作れたらと想像するのだった。
次話:第504話 部隊再編と戦争責任
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