第499話 変革する魔人
圧倒的なギレザムの力を見て、魔人も進化し続ければ力を外に放出できる事を知った。いまのところ確認が出来ているのはギレザムだけで、しかも俺の武器と融合させた特殊な使い方だ。だがそのうち他の魔人にも同じ現象が起きるかもしれない。
「その電撃は銃を介さずに飛ばすことは出来るの?」
「いえ。」
「電撃を身にまとって敵を殴ればどうなるかね?」
「今はまだラウル様の兵器を使うか、車両などに乗っていないとダメなようです。」
「俺の系譜との繋がりかね?」
「そこまでは分かりません。」
まあそうか…。
ただギレザムが変わったのではないかとカララも言っていたし、きっとこのことなんだろうと改めてわかった気がする。遠い過去から現在までに、あれだけのデモンを一気に葬り去ったことなど無いだろう。系譜で俺に近いギレザムが何重にも進化してしまったのかもしれない。
「もしかしたら何かがカンストしたのかもしれんな。」
「かんすと?でございますか?」
「えっと、お前のなんらかの器がいっぱいになった的な?」
「良くは分かりませんが、ラウル様より総大将を任命されてから、何かが変わったように思います。まあ…気持ちの面だと思っておりましたが…」
「なるほど…配下の役割か。それあるかもしれないな。」
「はい。」
俺達は輸送車の中で話していた。もちろん他の魔人達も聞いているが見当がつかないようだった。そして俺はまだ泥棒髭のままだ。
「まもなくガザムの待つ都市につきます。」
「外も明るくなってきたようだな。」
「はい。ラウル様はお戻りになられますか?」
「ガザム達の様子をみた後で話したいことがあるから、それが終わったら泥棒髭からは抜けるよ。」
「わかりました。ではドランとスラガからも報告があるかと思いますが、中央の駐屯地の兵器は入れ替えが必要かと。」
「了解だ。」
そしてガザムの居る都市へと輸送車が入っていく。門の中にはガザムと魔人兵数名が待機していた。俺達が車両から降りるとガザムと数人の魔人達が膝をつくのだった。
「ラウル様!」
「ああ、ガザム。こんな入れ物で悪いが、ちょっと状況を見させてくれ。魔法陣とかはあったか?」
「は!都市内の転移魔法陣などは全て発動済みです。また周辺の森林の魔法陣も全て確認終了してます。」
「えっと…」
俺はギレザムと顔を見合わせる。
「なにか?」
ガザムが不思議そうに聞いて来る。
「俺はこれから森の中にも魔法陣が無いか全て確認するように、伝えようと思っていたところだった。さっき念話で伝えたとおり、デモンが転移魔法陣を使って出現して来たからな。」
「そのようですね。すみません遠方までは手が回っておりませんでした。」
「謝る必要はない。そりゃ無理があるだろ?ガザム隊だけでファートリア国内の半分も調べるつもりだったか?」
「それも必要な事ではないかと思っておりました。」
やっぱガザムは優秀だ、俺達には無い鋭い洞察力を備えているらしい。そうなるとガザムにも部隊の中での地位を作ってあげないといけないな。我が国における情報をつかさどる機関…なんだろ?魔人諜報機関 デビルマンインテリジェンスエージェンシーだとDIA、魔人軍事情報部 デビルマンミリタリーインテリジェンスだとDMIかな。いや…訳さず魔人軍事情報庁かな。まあとりあえず今はいいか…そのうち念話会議で皆と話し合う事にしよう。
「とりあえずだ。ここの兵装と武器の状況を見たい。」
「は、既にまとめて報告書を作ってあります。」
「え、ほ、報告書?」
俺がキョトンとしていると…
「おい!」
ガザムが呼ぶと後ろの方から細面のダークエルフがやって来た。その手には何か書簡のような物が握られている。
「これを。」
ガザムはダークエルフから書面を受け取り、俺に渡してくるのだった。
ぱらりと開く。
「おお!凄い!もしかしたら残った燃料を移して満タンの車両を増やしたのか。」
「はい、空になった車両はグレース様に収納していただき、燃料が補充された車両については後13日ほど使用ができると思います。願わくばこれを使い捨てとさせていただき、あとの作戦に必要な車両を下賜いただけましたらと思います。また武器に関しては全て入れ替えをしていただけましたらと。」
「分かった。というかこれだけ管理出来ているのなら、わざわざグレースに収納してもらう必要が無いな。空の車両は固定砲台として使えばいい。」
手元にある書面には各車両の状態や、魔人の持っている兵器の残弾数。そしてそれの使用期限まで記されていたのだった。
「なぜです?」
「ああガザム。俺は魔人達がこんな管理は出来ないと思ってた。いざという時に不備が出るのを恐れて総入れ替えをしているだけなんだよ。まさかこれほど緻密に管理しているとは思わなかった。これは全てガザムの指示なのかい?」
「私が愚考しました。」
「いやいや凄い事だよ。いずれこういう事は必要になると思う。特に戦後にはかなり役に立つはずだよ。引き続きよろしくお願いしたい。」
「そう考えておられるのではないかと推測していて良かったです。」
俺が思っていたよりもガザムはもっと先を見据えていたようだ。俺に認められて、いつもポーカーフェイスのガザムが少し笑ったようにも見えた。
都市の中にも理路整然と兵器が置いてあり管理しやすいようになっている。
「じゃあ今後の事をちょっと話したい。どこかに場所はあるか?」
「それでしたらこちらへ。」
ガザムにつれられて泥棒髭の俺とギレザムが歩いて行く。行きついた先には既に司令塔のような建物が建てられていた。中に入るとすぐに会議が出来るようになっていて、壁には黒板のような物があり、テーブルの上にはこの周辺の地形が記された地図が置いてあった。
「凄い。」
泥棒髭の俺が言う。
「今後は戦闘の準備をするためにここで話し合い、戦術を立てるのがとても効率が良いと考えたものですから。私の頭の中だけではどうしても魔人達に伝えるのに限界がありまして。」
「いや!凄いぞ!ガザム!これも作らせたのか?」
「はい。」
「これは全軍に作らせるようにしよう。作戦の立案にもいいし、これを見て話をすれば他の者からいい意見が出る事もある。ギレザムはこれを記憶して魔人達に伝えてくれ。」
「は!」
そのまま俺達はその場所でミーティングを行うのだった。
ファートリア国内に潜入している魔人の数が少ない事
デモンがいきなり出現する可能性もある事
侵攻時に確認できなかった場所に出る可能性がある事
二カルス大森林から侵入してくる魔獣の対策の事
「まあおおよそはこんなところだな。」
「はい。侵入している魔人達だけでは手が足りませんね。」
「既に前線基地に魔人を送り込ませてはいる。そして俺の手足になって動けそうなやつも各地から呼び寄せているぞ。」
「動ける奴らですか?」
「ああ、現在大陸の北は安定しているしな。」
「あいつらですか。」
ギレザムが気づいたようだ。
「そう、ゴブリン隊だ。」
「ティラ、マカ、ナタ、タピ、クレ。」
「そうだ。それと入れ替えに元の隊長格や副隊長格を各地に散らばせているからな、俺の念話も通じるようにしてある。」
「あいつらはいつこちらに?」
「既に魔人兵を束ねてこっちに向かっている頃だ。数日すればここに到着するだろう。」
「さすがはラウル様、二手三手先を見据えて行動されていたわけですね。」
「そんな大したことじゃないけどね。というかこれで俺の直属は全てファートリアにいる事になる。各国の防衛に関しては既に隊長クラスがきっちりやってくれているしな。」
ギレザムとガザムが俺を尊敬のまなざしで見ている。
《俺からすれば、お前たちの方が尊敬にあたいする奴らだと思ってるけどね。》
「ラウル様。」
「なんだガザム。」
ガザムはまだ何か考えていたことがありそうだ。
「グラドラムにてデイジーとミーシャがドワーフに作らせた兵器で、一つ使えそうなものがあるのですが、この状況かであればかなり有効かと。」
「なんだっけ?」
「サキュバスの霧毒弾丸を覚えておりますか?」
「ああ!あったあった!それをどうするんだ?」
「ラウル様は地内にまだ人間の敵兵もおられると申しておりました。」
「ああ潜伏しているはずだ。」
「御師様であればニホンジンとやらの結界も突破できると念話で聞き及びました。」
ガザムの言いたいことが分かった。
「ほうほう‥‥なるほどなるほど…ふふーん…そうかそうか。」
顎に手を当てて俺がいろいろと試行錯誤する。どうやって実行すれば効率がいいのかを考える。
「ラウル様、忘れてください。」
ガザムは俺があまり乗り気じゃないと思ったのか提案を引っ込めようとした。
「ガザム!それいいよ!やろう!是非やろう!ギル!聞いたよね?ギルの力も借りたいし拠点の巡回は終わりだ。ドランとスラガの居る拠点で待ち合わせな。」
「は、はい!かしこまりました。」
「そしてゴブリン隊と一緒に元スプリガン隊長のニスラがくる。ガザムはここをニスラに任せて、ゴブリン隊と300の兵を率いファートリア国の中心に向かえ。ゴブリン隊は光の柱の事を知らんからくれぐれも注意するようにな。」
「かしこまりました。」
「あともう一つお願いがあってな、ガザムはこの泥棒髭を連れて来てくれるか?いつでも俺が入れるのでいろいろと確認するのに便利なんだよ。」
「かしこまりました。」
「じゃあ俺もういくから。あとよろしく。」
「「は!」」
俺はギレザムとガザムをそこに残して、泥棒髭から抜け出し元に駐屯地へと戻る。
「ふう。」
《やはり泥棒髭から抜け出る時は酔っぱらったようになるな。いまいち感覚がつかめなくてイカン。》
俺のそばにはシャーミリアがいた。言いつけどおりに俺の警護をしていてくれたらしい。
「ミリア。ちょっとすぐにやりたい作戦があるんだ。皆を集めてきてくれるか?」
「はいご主人様。」
しばらくすると俺の下に、シャーミリア、マキーナ、カララ、アナミス、ルピア、ミノスが集まって来た。
「よし!みんな聞いてくれ。」
そして俺はサキュバスの霧毒弾丸を使った作戦について話し出すのだった。
「素晴らしい。さすがはご主人様。」
「本当です。」
「とても効率がよいですわ。」
シャーミリアとルピア、カララが言う。
「いや、これガザムが俺に発想をくれたんだよ。」
「ガザムが…。」
「そうなのですね…。」
「なるほどでございます…。」
あれ、さっきは凄く褒めてくれたのに、明らかにテンションが落ちたように見える。
「ふはは!おぬしら!そんな露骨に態度を変えおったら、ラウル様も面食らってしまうではないか!」
ミノスが豪快に言う。
「い、いえ。私奴は特に態度は変えてないわ。」
「私も!」
「もちろん私もです。」
「ラウル様。こやつらはガザムに嫉妬しておるのですな。」
「えっ?嫉妬?」
「ミノス!あなたは何を!」
「いつ私が嫉妬したの?」
「そうですわ。そんな事はないですわ。」
「おぬしら何か変わったな。わっはっはっはっはっ!」
ミノスが豪快に笑うと、3人に微妙な空気が流れるのだった。確かに今まではこんなことは無かった気がする。雷を放つギレザムの大きな変化にも驚いたが、彼女らも何か変化してきたのかもしれなかった。
となりで黙っていたアナミスが口を開く。
「あの、私たちはラウル様に認められたいのです。」
アナミスも少しもじもじしているように感じる。
なんだ…そう言う事か。どうやら何か人間に近いような感情にも感じるな。
「シャーミリア、マキーナ、カララ、アナミス、ルピア、ミノス!まずお前たちは俺の目標である、平和な世界を作る事に大きく貢献している。だが皆の能力はそれぞれ違うものだ、だから適材適所という物があるんだよ。こんど配下全員が集まった時に会議をしようと考えていたところだ。今はそれぞれの持ち場でそれぞれの仕事をこなしてくれ。」
「も…申し訳ございません!ご主人様!私奴とした事が!」
「私もすみませんでした!」
「私も長く生きていながら恥ずかしい事を…。」
「大丈夫。俺はお前たちの全てが大切なんだ。むしろどんどん俺に意見してくれていい!これからも俺の手足としてではなく仲間として支えてくれ。」
「「「「「「は!」」」」」
もとより魔人達には自我があった。しかし魔人国にいたころはそれはそれは素直で、俺の言う事成す事に絶対の服従をしていた。
この新たに生まれた感情は、俺達魔人に何らかの変革が訪れたサインなのかもしれない。そうやって皆の顔ぶれを見てみると、今までとは違う顔つきである事に気が付いた。系譜の繋がりはより深く感じ取る事が出来、既に皆が俺の体の一部と言っても良いくらいだ。
そんな彼女たちに新たな意思が現れ始めた。
本当の意味で魔人達が目覚めたのかもしれない。期待を抱きつつ俺は再び冷静に作戦の指示を出し始めるのだった。
次話:第500話 日本人部隊の包囲網
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