第498話 ギレザム神格化
デモン出現の一報を受けた俺は、すぐさま泥棒髭を共有操作し始めた。魔人を集め作戦の指示をしようとしたところで、ギレザムからデモンの気配が消失したことを聞く。だが気配を消したと思っていたデモンが、ギレザムがいるこの部隊の目と鼻の先に転移魔法陣を利用して出て来たようだった。
「転移魔法陣を見落としていたか。」
「そのようです。」
「これだけ広い国内だ。時間も無かったし、すべての土地を確認するなんて無理だったからな。」
「はい。しかしこのような何も無い場所に転移魔法陣を作っていたとは…。」
「ああ、さすがに俺も予想することが難しかったよ。」
「はい。」
森の奥からはデモンが迫ってきており、すぐにここまで来てしまうだろう。ギレザムが連れている魔人達もざわつき、その気配を感じ取り始めたようだ。
「とにかく、急いでシャーミリアとアスモデウスを呼ぶ。」
「ラウル様が使役したというデモンを…ですか?」
「大丈夫だ、俺の系譜に属しているから万に一つも裏切りはない。」
「わかりました。」
俺は直ぐにシャーミリアとアスモデウスに念話を繋いだ。
《シャーミリア!俺のところに来い!》
《は!》
《アスモデウス聞こえているか?》
《はい。》
《すぐに来い。》
《かしこまりました。》
しかしながら、いくらシャーミリアの移動速度が早くても瞬間的に来ることは出来ない。
「あの二人でもここまで来るのは時間がかかる。とにかく一旦、西へ逃げるしかないんじゃないか?」
「ラウル様。輸送車では追いつかれてしまいます。」
「敵はそんなに速いのか?」
「はい。」
どうやら敵は大部隊を襲撃するのではなく、個別に俺達を撃破していく作戦に変えたらしい。大部隊を相手にし全滅した事で学習したのだろう。この周辺にしもべでも徘徊させていたのかもしれない。ギレザムの小隊を察知して移動して来た可能性もある。
「敵が来ました。」
ギレザムが言う方向を見ると、森の木々が倒れこちらの方に向かって来るのが分かる。確かに物凄い移動速度でこちらに向かっているようだ。
「ラウル様、その泥棒髭は貴重なのでは?」
「いや、そうでもない。」
「現状ラウル様がお使いになれる体は他には無いのです。この泥棒髭だけでも輸送車に乗せて、ガザムがいる駐屯地まで行かれてはいかがでしょう?」
「いや…こいつももう間に合わんよ。」
どうやらシャーミリアやアスモデウスが到着する前に接触してしまうだろう。あいつらが来たところで、ここにいるすべての魔人を救えるかどうかも分からない。
「全員武器を構えろ!正面から迎え撃つことはしない、散開して各自遮蔽物などを利用して戦え!」
ギレザムが魔人達に指示を出す。しかしいくらギレザムが精鋭を集めたとはいえ、10人やそこらの2次進化直後の魔人達では、森を埋め尽くすほどのデモンの大軍を相手するのは無理だろう。そもそもあの量のデモンに対して弾薬が足りなすぎる。それでも魔人達は各自の判断で敵に対応すべく散開していった。
「我も戦います。」
ギレザムが車両に行き兵器を装備しだした。M134ミニガンとバックパック背負い、バックパックの脇にはバレットM82大口径狙撃銃がぶら下がっていた。腰にはデザートイーグルが1丁とマガジンが4本装着されている。
「ギル、怒られるかもしれないが…。」
「なんです?」
「10人の部下を盾にして、お前だけガザムの所に逃げてくれないか?ここはむしろ俺が指揮をとってお前を逃がす事にする。」
「‥‥ラウル様。申し訳ございません、そのご命令を聞く事は出来ません。10人はラウル様の大切な魔人達です。我は必ず彼らを守ります。」
ギレザムが俺に反論をくれたのは初めてかもしれない。だが死んでもらっては困る。
「悪いがお前の方がずっとずっと大事なんだよ。」
「ふっ。ありがとうございます。ですが…なんというかやれる気がするのです。」
そうギレザムが言った瞬間だった。
パリパリパリパリ!
ギレザムの全身に電気が走った。
「なんだそれ?」
「分かりません。急にこんな力が使えるようになったのです。」
「あ、ツノ…。」
「はい。また生えてきまして…。」
ゴゴゴゴゴゴ
敵デモン達は目視できるところまで来た。デモンだけでも数百体いるようだった、ガイコツのカマキリみたいなしもべたちなど…何万匹いるか分からない。
「ヤバイだろ!あれ!」
「では、ラウル様はここで見ていてください。」
ギレザムには何か自信のような物が感じられた。
パラララララララララ
ドゴン!バン!
森から飛び出して来たデモン達に、各魔人達が銃火器で応戦し始めた。あちこちで銃から出る光が見える。
するとギレザムがデモン達に向かって走って行ってしまった。
「おい!」
しかし…次に俺が見た光景は、今までに見たことも無いものだった。
キュィィィィィィィィ
ギレザムがもつM134ミニガンが無数の弾丸を射出し始めたのだが…なんとその弾丸のひとつひとつに電撃が走ったような筋が現れたのだ。
「えっ!なにそれ?」
電撃をまとうミニガンの弾丸が、巨大な角を生やした牙がむき出しの一番先頭を走っていたデモンに向かって飛んでいく。そしてインパクトの瞬間、周囲に電撃を走らせながらデモンは溶けるように消滅した。さらにそれだけにとどまらず周囲にいたガイコツカマキリたちが電撃で消滅したのだった。
バリバリバリバリバリ!
周囲を荒れ狂う電撃の海にデモン達が怯んだ。すかさずギレザムが走りながらM134ミニガンの銃口を振り回す。
キュィィィィィィィィ
バリバリバリバリバリ!
辺りが昼間のように明るくなり電撃の海が広がっていく。まるで車のワイパーが雨をぬぐうようにデモンとそのしもべたちが居なくなっていく。
「テーブルにこぼした砂糖でもふき取っているみたいだな…。」
ギレザムの攻撃を見た魔人達が全員、俺の周りに帰って来た。
「ギレザム様より守るように言われました!」
一人のライカンが俺に伝えて来る。
「わ、わかった。というよりも全員こっちに戻って正解だと思うぞ。あのまま戦っていたらギルの攻撃に巻き込まれてお前たちが大変な事になる。」
「はい、ギレザム様の戦いやすいようにする戦術なのです。」
どうやらギレザムの直属部隊はこの力を知っていたらしい。
俺達の目の前では数万のデモンが、一人のオーガに消滅させられまくっていた。ちょっと何を見ているのか分からないほどだ。眩いほどの光の海が出来て、あっという間に大量のデモンが消滅していく。たまらずその電撃の海から逃げ出そうとしているデモンもいた。
「あっ。」
俺がアホな声をあげると、すかさずギレザムはバレットM82で逃げるデモンを狙撃をした。
バリバリバリ
バグン!
まるで電撃の龍が鎌首を持ち上げて、逃げたデモンを追いかけ食らったように見えた。散り散りに散ったデモンやガイコツカマキリを、次々とバレットM82から放たれる電撃の龍が食らいつくしていく。まるで前世の映画でみたことありそうな、例えるならデモンバスターズとでも言ったところか…
頭の中で軽快なテーマソングが流れる…
「すっご。」
時間にして10分かかっただろうか?数万匹もいたであろう、デモンとガイコツカマキリが一匹たりとも残っていなかった。ギレザムはその雷をまとう銃で、ほぼたった一人で一掃してしまったのだった。
パリパリパリ
電撃をまとうギレザムがこちらに向かって歩いて来る。真っ暗の外なのでめっちゃ綺麗に見える。俺達の近くに近寄った時にようやくその電撃が姿を消した。
「ギル!大丈夫なのか?」
「ええ、何ともございません。」
「いつからだ?」
「ラウル様が聖都のデモンを大量駆除した後から少しずつです。」
「ツノも戻ったしな。」
「いやぁ…我はあまりこれを気に入っていません。せっかくラウル様の見た目に近づいたかと思ったのですが。」
「でもその力と何か関係してるんじゃないか?」
「よくわかりませんが恐らくはそうかもしれません。」
ズドン!
俺とギレザムが話をしているそばに、いきなり大きな爆発が起きたかのようにクレーターが出来た。するとそのクレーターの土煙の中心にはシャーミリアが立っている。
「ご主人様!デモンはいずこへ?」
シャーミリアはきょろきょろと見回している。
「えっと、やっつけた。」
「ここの10人で、でございますか??」
「いや、ギレザムが一人で。」
「ギレザムが?」
「ああ。」
シャーミリアがギレザムを見る。
「あなたツノが生えて来てるじゃない。もとに戻った訳ではなさそうだけど。」
「ああ、なぜか分からないがまた生えてきたんだ。」
「まあ…ご主人様のお役に立てるようになったみたいだし、いい事なんじゃないかしら?」
「そうだな。」
どうやらシャーミリアは…ギレザムに嫉妬しているように見える。俺にイイカッコして見せたのが羨ましいのだろう。
「ご主人様。それに破損などはございませんか?」
「ああ大丈夫だ。せっかく来てもらったのにごめんな。」
「いえ!ご主人様が呼ぶのであればどこへでもまいります!」
「じゃあ来て早々で悪いんだが、すぐに戻って俺の本体の護衛についてくれ。ここで分かった事だが、どこにデモンが現れるのか分からない状態なんだ。俺はもう少し泥棒髭に入ってギルといろいろ検証したいことがある。」
「か、かしこまりました。ではギレザムもせいぜい頑張りなさい。」
「ああ。」
ドシュッ
シャーミリアが消えるように飛んで行った。
っと思ったら。
スタッ
入れ替わりでアスモデウスが静かに降りて来た。
「どうやら終わったようですね。」
「悪いなお前にも来てもらったって言うのに、もう大丈夫だ。だがお前はこのまま俺達と同行しろ。」
「かしこまりました…して…そこにおられる方はどちら様ですかな?」
アスモデウスがギレザムを指して言う。
「ああ、俺の配下で総指揮を任せているギレザムだ。」
「なるほどなるほど。相応しい御方をその地位に置いているのですね。」
「そうだ。」
「君主様。この方は…。」
「どうした?」
「種族は何なのです?」
アスモデウスが何かを感じ取って俺に聞いて来る。
「オーガだ。」
ギレザムが変わりに言う。
「オーガ…ですか?うーん、君主様とお並びになるようなお力があるようにお見受けしますが。」
「我がラウル様とか?恐れ多いぞ。」
「まあいいでしょう。とにかく凄いお力をお持ちのようだ。」
「多少力をつけただけだ。」
ギレザムが言う。
いやいやいや、あれが多少力をつけたって言う物には思えないんだが。
あんなん…だって…
まるでデモン掃除機とでもいう代物だったぞ。ギレザム電気クリーナーって感じだ。
「とにかく良かったよ。ギルのおかげで俺の兵士たちが一人も死ななかった。」
「いえ、たまたま敵が弱かっただけだと思われます。」
いやいやいや
どう考えてもデモンの数がハンパなかったぞ。しかもしもべがガイコツカマキリだったし、あれは初めて見たけどどう考えても強そうだった。まあ戦っていないからよくわからんけど。
「とにかくその力、混戦の時はセーブしたほうが良いかもよ。」
「はい。そのため部下たちを散開させたのです。我の力がデモンに通じたのを確認したら、泥棒髭を守るように戻れと伝えておりました。」
「のようだね。」
「それではガザムが待つ駐屯地へ急ぎましょう。話は車の中ででも。」
「わかった。じゃあアスモデウスは周辺の警戒のために哨戒行動をとってくれ。」
「かしこまりました。」
そのまま全員が輸送車に乗り込んで西に向かって走り出すのだった。アスモデウスはすぐさま飛び立っていき、上空から周辺を警戒しているのが系譜を伝って確認できた。
俺は車に乗りながらギレザムが使用した武器をくまなく調べ始める。
「傷んでないぞ。」
「銃火器には直接流しません。射出された後で電撃を付与しております。」
「そんなこと出来んの?」
「感覚的なものでございますが。」
「だからロケットランチャーとか手榴弾とか持って行かなかったのか?」
「万が一、爆発してしまったら大変だと思いまして。」
「正解かもな。」
どうやらギレザムは兵器の特性も考えて装備していたらしい。
「ところでギルって魔法使えたっけ?」
「いいえ。身体強化のみでしたが、なぜかこんな力が使えるように。」
「そうなんだ?」
「我にもさっぱりです。」
本人が分からないって言うのであれば、これ以上は分からなそうだ。しかし進化し続けると魔人は魔法が使えるようになるのか?銃撃に魔法を使うのはマリアだけだと思っていたが、まさかギレザムが使えるようになるとは思わなかった。
そしてアスモデウスが言っていた、ギレザムはオーガじゃないんじゃないかって。ならいったい何なんだ?まじまじと見るギレザムのおでこには立派な角が生えていた。
この時、ラウルもギレザム本人もアスモデウスさえも知らなかったのである。
ギレザムが進化の果てにたどり着いたもの。
ギレザムは神格化しつつあるのだった。
次話:第499話 変革する魔人
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