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第05話:達人にもほどがある

長距離の馬車でケツをダメにしたけど、だいぶ収穫があった。


この世界を見ることができたからだ。


まあただひたすら銃がないのが残念だが。


「本当に気持ちのいい日だわ!」


「今日出かけたいと言ったラウルのお手柄だな」


《いやなんでも褒めないでいいんですよ。お父さん・・だめな大人になっちゃいますよ。》


イオナもグラムも上機嫌だ。


とりあえず俺もニコニコしておく。


岸に座り家族で話をしていた。おだやかな陽気で爽やかな風がそよぎ、草花の香りが料理の味をさらにひきたてているようだった。ヒラヒラと蝶が舞い平和を絵に描いたような家族団欒の絵がそこにあった。とても気持ちが良かった。


《前世じゃずっとサバゲの事ばかりで殺伐としていたからな・・平和な暮らしはほのぼのとしてて落ち着くわぁ》



俺はまず家族のことが知りたくて、早速いろいろと聞いてみることにした。


「父さんはどうして騎士になったんですか?」


「ん?騎士になった理由か?俺が王宮の騎士になったのは近衛隊長の目に止まったからさ。フォレスト男爵家の次男なんかにゃ王の護衛の仕事なんて、ありえない事なんだがな」


「どうやって隊長の目についたんですか?」


俺が聞くと、グラムは少し考えて言った。


「…ラウルは騎士になりたいのかい?」


「よくわかんない。でも父さんみたいになりたい」


俺が言うと、グラムは嬉しそうな顔で教えてくれた。


「そうかそうか俺みたいになりたいのか!」


グラムはめっちゃ嬉しそうだった。


「でも大変だぞ!俺は男爵の次男だったが10代の頃は冒険者だったんだ。小さいころから剣が得意でな、そこそこ強い魔物も倒せたんだぞ。かなり目立っていたのもあってな、それから徴兵されて戦でいくつもの功績をあげて、そこで隊長の目に止まったんだよ。」


《なるほど。俺に尊敬されたがっていそうだから、父にはキラキラした眼差しを向けてあげることにしよう。若い親父にはもっと頑張ってもらわないといけないしな!》


グラムはフォレスト男爵家と言う下級貴族の次男で、戦で功績をあげたため近衛隊長の目にとまり、宮廷騎士にまで成り上がったらしい。実力者じゃないか!わが父ながら好感がもてるな。グラム・フォレスト 25歳。こいつは真面目で素晴らしい俺の自慢のお父さんだな。


次はイオナのことを聞いてみよう。


「母さんとはどうやって知り合ったの?」


するとイオナが話し出した。


「お母さんはね。王宮主催のパーティーでお父さんに一目惚れしちゃったのよ。」


「一目惚れ?」


意外に大胆な答えが返ってきたのでビックリした。


「そう。パーティーなんてまったく行く気がなかったの。でも父に連れられていった王宮のパーティーで、いやらしい顔をした貴族の息子たちばかりに声かけられて、もうそれはそれは嫌だったの。初めてのパーティーだというのにつまらなくてね。嫌気がさして会場の外をうろうろしてたのよ。」


「それでどうしたの?」


「そしたら外で険しい顔で警備をしているお父さんをみつけたのよ。私はもうビリビリってカミナリが落ちたようだったわ。いてもたってもいられなくて声をかけたのよ。」


「母さん凄いね。」


「でもね私がナスタリア伯爵家だということを知って、お父さんはねこう言ったの。「お嬢様のような美しく気高い方に私は不釣り合いでございますどうかご容赦ください」って!」


「えっ?で、どうやって結婚できたの?」


「私のお父様の権力を使ったわ。」


「・・・・」


マジか…さらりと言ったな。イオナって情熱的なのか…策略家なのか…微妙な雰囲気が流れた時、グラムが話に入ってきた。


「いや、でもなラウル。俺は母さんのことずっと好きだったんだ。母さんの学生時代は王都ではかなり有名だったんだぞ。王都の魔法学校には女神も霞む美人がいるってな。それで兵士仲間と学園までこっそり見に行ったりしてな。初めて母さんを見た時こんな美人みたことない。俺には一生話をすることもない人だと思ったんだ。でもずっと忘れることはなかった。」


わかるわ。こんな美人、前世では1度も見たことがない。


「父さんの方が先に好きになってたんですね」


「そうだな、まさか王宮で会うとは思わず。いきなりお慕い申し上げております!と言われた時は驚いたものだよ。それで堅苦しい答えを返してしまったんだ。」


なるほど。これだけ堂々とノロケられると清々しいな。メイドのマリアがそばにいるんだけどな。


「私は本当は有名な公爵家に嫁がされるところだったのよ、でもね。」


と続けた。


「お父様が三女の私には甘くてね、グラムじゃなきゃ一生結婚しない!っていったらあっさり認めて下さったわ」


イオナは顔に似合わず、したたかな女性のようだ。


《我が母親に脱帽だわ。貴族の三女だから政略結婚に使われるところを、キレて好きな人に無理やり嫁ぐとか凄いな。前世の女性のような逞しさがある》


母親はナスタリア家という国でも有数の上級貴族の三女で、結婚するまでは箱入り娘だった。その美貌で王都に名を轟かせていたが、父親に連れられて行った王宮のパーティーで、騎士のグラムに一目惚れして、猛烈アタック結婚した情熱家。イオナ・フォレスト 22歳 情熱的で策略家らしい。


ちなみに馬車と馬もイオナの嫁入り道具だそうだ。どうやらイオナの家が大金持ちらしいな。


イオナは続けてマリアのことを話した。


「そしてマリアはねサナル商会という大きな商会から、礼儀などを学ぶ為にナスタリア家に来てたの。マリアは最初はキッチンメイドだったんだけど、よくお話ししてね仲がよかったから、お父様にワガママを言って私のお付きにしてもらったのよ。」


イオナはワガママ放題の娘じゃないか!?


その話を聞いていたマリアが話を始めた。


「イオナお嬢様の侍女になれるなんて、商会の次女である私には身に余る光栄でした。美しいと有名でしたから…実は嫁がれると聞いたときには寂しくて、メイドを辞めようと思っていたんです。でもそのまま嫁ぎ先のグラム様の元に、私も連れて行くことになったと、イオナ様から聞いた時は嬉しくて涙しました。」


イオナとマリアの仲はグラムより古いと言うことか。てか、イオナお嬢様は我が道をいくタイプなのね。巻き込んで周りを幸せにしていく人らしい。


「私も付いてきてくれて本当に嬉しいのよ。マリアありがとう。」


マリアはサナル商会の次女で、イオナ侍女として礼儀を学ぶ為に仕えていたのだが、イオナの結婚と同時にそのままナスタリア家から使わされた。マリア・サナル 17歳 ラッキーガールだ。


「僕もマリアと一緒にいれて嬉しいです。」


と、俺はマリアに声をかける。


「ただね…」


イオナが続けた。


「そろそろマリアにもいい人を見つけてあげないとね。」


「それは俺たち貴族の義務だからな。俺も方々にあたってみようと思っているんだ」


とグラムは言う。


「滅相もございません。私はグラム様イオナ様に一生お使えしたいのです!」


マリアが、懇願するように言う。


するとイオナが言う。


「そんな…貴女には貴女の幸せがあるわ。好きな人ができたら教えて頂戴。」


俺が話しに割って入る。


「マリアの結婚する人は父さん母さんが探すの?」


なぜかいろいろと身の上を聞いてくる3才の俺に、両親は怪訝そうな顔をしだしたが、


「そうだな雇い主の義務だな」


とグラムが言う。貴族の義務ね。


《まあ、怪訝そうな顔にもなるか…この前まで普通の3歳児だったからな。急に大人の過去を聞いてくるようになったら、ちょっとびびるよな。あまりにも興味津々でずいぶん話しこんでしまった。すこし自重しよう。》


ちなみに俺はラウル・フォレスト 年齢は3歳だがまもなく4歳になる。中身は高山淳弥31歳ミリオタ童貞なんだが…


料理を食べながらいっぱい話して家族で和んでいると、グラムが「ラウル、騎士ごっこでもするか?」と誘ってきた。


そのへんに落ちていた木の棒をもち、2人で向かい合う。俺は3歳で相手は王宮騎士だ、相手にはならないだろうが、俺は子供らしく打ち込んでみる。


「やあ!」


グラムはほとんど動いていないように見えるが、かすりもしない。


「それ!頑張れラウル!」


まったくかすらないのが不思議で、本気でブンブン振り回して打ち込んでみた。


グラムは自分の棒で受け流す事もなく身のこなしだけでかわしていく。しばらく続けていたが、俺は汗もかいて息を切らし疲れてきた。そんなときグラムが初めて棒を振り下ろし俺の持つ棒に当ててきた。


カン!


棒は簡単に弾き飛ばされて飛んでいった。


「ま。まいりました」


俺が言うと、グラムが言った。


「凄いぞラウル、よく諦めずに打ち込み続けたな!」


いやいや偉くはないでしょ。親バカすぎるでしょ。まったくかすりもしなかったじゃないか!あ、褒めて伸ばそうとしてる?俺・・剣士にむいてるんだろうか・・?



するとイオナがそばから声をかけてきた。


「あなた、ラウルに武技を見せてあげることは出来ますか?」


「お安い御用だ」


グラムは少し離れ真剣の刀をとった。軽々と持ち上げたが、刀は両刃の西洋剣でロングソードなので重そうだ。


スッと目を閉じた。


それだけなのだが、いきなりグラムの雰囲気が変わった。もの凄い威圧感が俺の頬をなでた。思わずビビッてしまいイオナに抱きついた。


グラムの周りだけゆらゆらと空気が違う。漫画ならゆらめくような効果線やオーラみたいなものがでているかもしれないが、そんなものは当然みえない。


正眼の構えになり、カッと目を見開いた。


熱気のようなものが叩きつけられてきた。


ブォン


剣先が消えるようにぶれた。何段かの突きをしたらしいがよく見えない。


タッ!


次の瞬間グラムは上空にいた。


えっ?ほぼノーモーションで自分の背丈くらい飛んだんだけど!


助走なしで5メートルくらい先に降りて、着地と同時に上段から剣を振り下ろすが剣がほぼ見えない。


ブワン と遅れて音がする。


グラムは残心をして息を吐いた。


「フーッ」


「ラウル!もっと面白いものを見せてやろう!」


また、しんと張りつめた雰囲気で気を溜めているようだ。今度は10メートルほど先にある大人2人くらいでも抱え込めないような太い木に、体の正面をむけた。剣を鞘に収め体の重心を低く低くたわませるように沈み込んだ。


「シュ」


と息を吐いた次の瞬間、グラムはまた消えた。


カカカカカン


居合い斬り?突き?一瞬で木の前に移動しキツツキのような音を立てた。木の下に一瞬で移動し大木を突いたようだった。


グラムはこちらを振り向きニコリと笑って剣を鞘に仕舞った。


「ラウルこっちへおいで!」


俺はグラムのもとに走って近づいた。するとグラムは俺を抱き木の方に向けた。突きを放った木を見てみると…穴が空いていた。


「父さん!木に穴が!あちら側が見えますよ!」


素直に感想を述べた。しかも5箇所も大木に穴が空いているのだ。これがあの一瞬で行われたと思えば驚愕だ。こんなぶっとい木に穴をあけるには、レーザーとかウォーターカッターじゃないと無理だろう。しかも一瞬で5箇所なんてありえない。


《てか、さっき垂直方向に予備動作なしで2メートル以上飛んでなかった?垂直跳びってそんなに飛べたっけ?前世なら間違いなく世界記録だと思う。あとあのダッシュ力。前世の世界大会の100メートルでも走り幅跳びでもスタートダッシュは目で追えたぜ。消えたように見えるってことは秒速何キロだ?》


グラムがダッシュした地点に行ってみると地面がくぼんでいた。あれで足はなんともないのか?


驚きすぎて息をのんでいだが、やっと目の前で行われた現実ばなれした事実に興奮してきた。


「凄い!父さま凄いです!シュパパパっとダダダ!ババッってどうやって…」


グラムは近づいてきて俺の頭を撫でながら言った。


「これはな、修練を積み重ねることで成せるのさ」


いやいやいや、修練を積み重ねたからって人間に出来るものじゃないでしょ。こんなこと!


「僕でも出来ますか?」


グラムは少し顔を顰めて言った。


「うーむ。ここまでくるには並大抵の修練では届かないだろうな。今日持ってきたのはごく普通の剣だしな。人を捨てねばならんほどの修練が必要だな」


人を捨てねばならないほど…だろうね…言葉を失う。こりゃ旅行で護衛を雇う必要もないわけだ。


「…」


「俺はラウルにそんな苦しい道を歩ませたくはないが、お前はお前のやりたいことをやれば良い。」


グラムは優しい口調で言った。


《はい、そうします素直に聞きます。無理はしません。》


「ありがとうございます。僕は父さんの子で幸せです。」


グラムは優しく微笑むだけだった。そこで俺はひとつの疑問を聞いてみた。


「その…父さんより強い人はいますか?」


「ああいるぞ」


うそ!


いるんだ!!!こんな特撮ヒーローみたいなのがほかにも!


俺はなにかとんでもない世界に来たのだと悟ったのだった。

次話:第06話 無限弾丸だと思った

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