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第494話 化物の正体

俺は助けた子供達を回復させるため、水分や軽い食事をとらせてから、アナミスの力で深く眠らせるよう指示をした。今は皆がテント村で深い眠りについている。寝付かせる前に安心させるため、グレースとケイナが手遊びなどをしてくれていたが、それが功をそうして安心して眠ってくれているようだ。さらにアナミスに幸せな夢を見せるように指示をしている。今頃は家族と幸せに暮らしていた夢でも見ている事だろう。


「エリクサーとハイポーションが無かったら、ほとんど助からなかったな。」


「そうですねラウルさん。あとトラメルさんが大量にもたせてくれたお菓子が功を奏しました。」


「本当だ。」


「あれで安心したみたいですね。」


「ああ。」


フラスリア領のトラメルの指示で料理人に作らせ、提供してくれたお菓子が本当に役に立った。

既に太陽は沈み、暗黒があたりを支配しつつあった。そよ風がふいており草がカサカサと音を立ててる、夏も終わり虫の鳴き声が一層うるさく鳴り響いた。


「ファントム、シャーミリア、カララ。それじゃあ行こうかね。」


「ご主人様はここに居てくださって良いかと。」


「いや、俺も行くよ。グレースは魔導鎧を出してくれ。」


「了解です。」


ズン


俺の目の前にヴァルキリーが出て来た。俺が着ていないとその重量でヘリにも乗せられない鎧だが、グレースは軽々と収納袋から取り出してくれる。建物に入ったり屋根に乗ったりするとき俺が魔力を流し続けなければ、思いっきり陥没して地面まで落ちてしまうだろう。最初に俺はその調整も出来ずに建物にも入れなかった。


「マキーナ、アナミス。みなをよろしく頼む。」


「かしこまりました。」

「分かりました。」


「ラウル、俺の精霊であたりの警戒をしておくよ。」


「エミル助かるよ。武器が必要な時はグレースに言ってくれ。」


「わかった。気をつけてな。」


「もちろんだ。」


既に魔導鎧のヴァルキリーは、俺が何も言わなくても背中を開けて俺を待つ。


ガパン


《我が主。戦闘ですね。》


《ああ、フル装備で行こうか。》


《武器を召喚してください、取り付け部を合わせて変形させます。》


《了解だ。》


俺がM134ミニガンとバックパックを召喚すると、肩に稼働するタイプの取り付け部ができた。俺はミニガンを担いで肩に取り付けバックパックを背負う。物凄い重量の武器のはずだがまったく重さを感じる事は無かった。


《そして我が主、攻撃方向をイメージしてください。》


ヴァルキリーから珍しく注文が入る。


《ん?ああ。》


俺が攻撃しようとする方向を意識すると、ミニガンの銃口がそっちの方を向いた。


《おお!凄いな。》


《主の手が空きますので、他の武器が携帯できると思います。》


《凄いなヴァルキリー。》


《凄いですか?よくわかりませんが、ありがとうございます。》


やっぱりヴァルキリーには褒められて嬉しいとかいう感情はないらしい。しかしこれはだいぶ凄い、俺がイメージすると肩の上のミニガンが上下左右に動く。


《ヴァルキリー、これはどういう仕組みだ。》


《カララの糸を使われましたよね?あれを真似てやってみました。》


うん。ヴァルキリーの言ってる原理はさっぱり分からんが、こいつはこいつなりに応用を利かせているらしい。カララの糸の使い方からヒントを得たらしい。


「よし!全員装備はいいか?」


「はいご主人様。」

「大丈夫です。」

「‥‥‥。」


シャーミリアの手にはいつものM240中機関銃と背中にバックパック、ドレスの腰にはガンホルダーを取り付けてデザートイーグルが左右にぶら下がっている。予備のマガジンが5本とM9手榴弾が二個ぶら下がっていた。めっちゃ美しい金の巻き髪とドレスにはアンバランスな重装備だ。


カララの周りには2丁のUZIサブマシンガンが浮いている。しかし暗闇に紛れた周辺には残り98丁のサブマシンガンが浮いていた。MAX3000丁はいけるのでかなり余裕で操作できるはずだ。さらりとした服装なので一瞬軽装備のように見えるが、一番重装備かもしれない。


ファントムにはM61の20mmバルカン砲とドラム缶のような大きさの弾倉を背負わせている。その重量は数百㎏に及ぶが、ファントムはこれを担いでジャンプする。本人の見た目も相まって並の人間なら見ただけで死にそうだ。


「いこう。」


俺が促すと3人が都市に向かって走り出した。もちろん重量のある火器など物ともせず、MAXスピードで走る事が出来る。俺がヴァルキリーを着ていなければ、もちろんついていけるスピードでは無い。


あっという間に都市の市壁前についた。


「門からは入らない。一気に市壁に上がるぞ。」


シュッ

シュッ

シュッ


信じられないほど軽々と3人が市壁の上に飛び乗った。俺も後を追って飛んだが3メートルあたりで上限だった、ズボっと壁に手刀を突っ込んでグイっと体を押し上げて上に昇る。


《よし、シャーミリアは屋根伝いに都市に潜入しろ、カララは左から回り込むように都市を警戒、ファントムはここに残って状況を見て戦闘に介入。俺は右から回り込む。》


《は!》

《はい!》

《‥‥》


シュッとシャーミリアとマキーナが消えていく。俺も右回りに市壁の上を走り出すのだった。


《やっぱり隣国との境の都市だけあって、結構しっかりした防壁がこさえてあるもんだな。》


《そのようですね。》


カララが答える。


《ご主人様動くものが多数あります。》


すぐにシャーミリアからも念話がある。


《来たか。》


《こちらでも感じ取れておりますが、これは…。》


《どうしたカララ?》


《ラウル様。恐らく我々は過剰戦力かと思われます。敵は恐らくブラックドッグの群れのようです。》


《ブラックドッグだと?》


二カルス大森林の代表的な魔獣である、ブラックドッグがファートリア国内まで入り込み都市を襲っているらしい。


《はい。》


《何頭くらいいるんだ?》


《その数200頭かと。》


《なんだその大量な数は。そんなのが都市に入り込んでいるってのか?》


《夜行性ですので、夜に侵入してきているのでしょうか?ファートリア国内の森にも生息し始めていると考えて間違いなさそうです。》


《前にミノスとゴーグも言ってたな、南方の都市は魔獣によって壊滅していたと。騎士も魔導師もいなくなってせき止められなくなったって事か。》


《ご主人様の言う通りかと。》

《おっしゃる通りですね。》


しかしあの13人の子供たちはそんな状況の中で生きて来たと言う事だ。昼間は都市が魔獣に襲われないから、家に戻り料理を作って、あの地下室へと運びこんで細々とやっていたんだろう。


《じゃあ始末するか。》


《ご主人様。カララなら一瞬かと。》


シャーミリアが言う。


《では私が。》


パララララララララ

パララララララララ

パララララララララ


あちこちからカララの操るUZIサブマシンガンの音が鳴り響く。5分もしないうちに都市内は静かになった。


《制圧しました。》


《よし、全員中央に集まれ。》


《は!》

《わかりました。》

《‥‥‥。》


あたりに転がるブラックドックの死体を飛び越えながら俺は都市の中央へと向かった。中央には既に全員が集まっている。


「二カルスで戦った奴と同じだな。」


「そのようです。」


「都市にこんな奴らが侵入してきているのか。ここは南東だから比較的二カルスに近いのもあるだろうが…。」


「はいご主人様。国の正常化が遅れれば遅れるほど、魔獣の浸食が奥まで進むかと愚考します。」


「その通りだ。残敵を急いで掃討しなければ、魔獣の浸食で国が消えてしまう。」


「恐らくは森伝いに侵入しているのでしょうが。」


「ああカララ。むしろ敵があちこちを回って村人や都市の人間を、その場所にくぎ付けにしてくれたおかげで、逆に吉と出ていると思う。森や街道でこいつらに遭遇したら人間などひとたまりもない。」


「はい。」


牛みたいな大きさの角と牙のクロヒョウ集団など、絶対に侵入を許してはならない。


「バルギウスがこうなっていないのは、騎士や魔法使いがいたからだ。」


「人間の力も侮れないのですね。」


「そう言う事だ。」


強騎士に冒険者、魔導師、軍隊が守っていたであろう、ファートリアの国境沿いは既に魔獣が支配しつつあると言う事だ。


「既に南方の人間は魔獣に食われてしまっていたらしいからな。本当にあの子達は良く生き残ったと思うよ。」


「はい。」

「そうですね。」


魔獣の血の臭いのする場所で俺達が話をしていたが、そろそろ魔獣たちを掃除しなければならない。でないと血の臭いに誘われて他の魔獣を呼び寄せてしまうだろう。


「この死体どうするかね?」


「ラウル様。これは意外にイケるのですよ。」


そうだった…そう言えば二カルスの森でも仕留めたブラックドッグをカララは食ってたんだ。


「じゃあカララとファントムに任せる。」


「ありがとうございます。」

「…‥‥。」


「じゃあカララ。シャーミリアと都市の入り口で待ってるよ。」


「はい。」


カララはどこをどう見ても超美人だ。しかし俺がカララの食事を見たことがあるのは食卓でだけだった。大量の魔獣をどうやって処理しているのか、一度も見たことが無い。


はずだ…


そして…


一生見るつもりはない。


もし見てしまったらトラウマになってしまいそうだからだ。まあ…泥棒髭を通じて人食いを経験した俺が言う事じゃないけど。


俺とシャーミリアが西門のあたりで待機している。


「しかし、カララってあれをどうやって始末するんだ。」


「ご主人様は見た事ございませんでした?」


「見たような見なかったような、とにかくなぜかあまり記憶が無いんだよ。きっと忘れたいのかもしれないし、あえて見てないのかもしれない。」


「さほどグロテスクなものでもございません。」


「そうなの?」


「はい。ご主人様は恐らくファントムの食事を想像しておられるのでは?」


「まあ…そうだな。」


「であれば違うかと思われます。カララのそれは、言ってみれば吸収という感じに近いかもしれません。」


「吸収ね…でも見なくていいや。」


「左様でございますか。」


「ああ。」


そんな話をしているとあっというまに事を済ませたらしい。ファントムとカララが町の暗闇の中から姿を現した。


「終わった?」


「一頭残らず消しました。」


「ごくろうさん。」


「いえ、ありがとうございました。」


「とにかく全部の門を閉じれば、容易に魔獣は入って来れないんじゃないかね?」


「それならば既に私が閉めました。」


カララが言う。いつもながら仕事が早い。


「そうか助かるよ。」


「子供では閉められなかったでしょうから、魔獣は侵入し放題でしたでしょうね。」


「だな。」


とにかく子供たちが言っていた化物の正体は分かった。とはいえあのブラックドッグだけがすべてではないだろう。ここに子供達を残せば全員死ぬのは目に見えている。


「みんなのところに帰るぞ。」


俺達は西門を抜けて門を閉める。そして再びテント村へと走り出すのだった。


テント村ではマキーナとアナミスが、M240中機関銃とバックパックを背負って見張りに立っていた。その反対側には12.7㎜を構えるエミルがいる。


「ずいぶん早かったな。」


「ああエミル。化物の正体はブラックドッグだよ。」


「なるほどな、なんとなく察しはついていたが。二カルスの森がこんなところまで浸食して来たか。」


「そのようだ。」


「それで、明日はどうする?」


「子供にハイポーションと食事を与えてみて、移動に耐えうるほどの体力回復が見込めればそのまま連れて行くさ。」


「連れて行くか…。当てはあるのか?」


「ああ、ミノスとルピアがいる拠点に村ごと人間達がいるんだ。そこで保護してもらうしかないだろう。」


「まあそれしかないだろうな。」


リーンリーンリーン


俺とエミルが話を止めれば虫の音が綺麗に鳴り響き、辺りには秋の気配が漂っている。


《よし、ヴァルキリー俺を出してくれ。》


《はい我が主。》


ガパン


ヴァルキリーの背が空いて俺が外に出る。


「外は結構涼しいんだな。」


ヴァルキリーの中だといつも一定の温度なので気が付かなかった。


「ああラウル。このままだと朝方には冷え込みそうだから、火の精霊の加護であたりを温めようと思う。」


「助かるよ。」


「子供たちの体力を戻すためにも、快適な温度を保つ事が大事だ。」


流石はドクターヘリで仕事をしていたパイロットだ。環境にも気を使って子供たちの体力の回復に努めてくれるらしい。


「さてグレースに魔導鎧と兵器をしまってもらうか。グレースはどこ?」


エミルが一つのテントを指さす。するとオンジがそのテントの前に胡坐をかいて座っていた。


「オンジさん。お疲れ様です。グレースはいますか?」


「今は子供たちの回復に努められいます。」


俺がテントの中をのぞくと、グレースとケイナが布を湿らして子供のおでこに当てたり、パタパタと仰いだりしていた。ケイナが呼び出した小人たちも、せわしなく子供たちの世話をしていた。


「熱か?」


「そうです。特にひどかった子供たちは発熱していますね。」


「カトリーヌを連れて来ればよかったかもな。」


「まあ眠ればどうにかなると思いますよ。」


「わかった。よろしく頼む。」


「はい。」


テントの入り口を閉めて俺はそこを離れる。


都市内のデモンや敵の掃討をするならば、俺が早く各拠点を飛んで兵器の補充をしなければならない。しかしここに子供を残していく訳にはいかなかった。


人間の子供は気を抜けばすぐに死んでしまうだろう。魔人達にはその面倒を見る事は出来ない。魔人と人間の体の作りが違いすぎるためだ。ケイナやグレースならばその繊細な体調管理なども出来る。都市の復興を考えた場合、魔人達だけでは最適なフォローは難しいだろう。


「人間の生存者がどのくらいいるかだな…。」


俺は復興の難しさを再確認するのだった。

次話:第495話 極限を生き抜く


お読みいただきありがとうございます。


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引き続きお楽しみ下さい。

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